ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
餅搗き後、俺達は穂むらからまず海未ちゃんの家に移動、胴着と袴、弓を持った。
ジャージは道場に海未ちゃん個人の物が置いてあるが、餅搗きが終わっても時間はまだ午後2時程度だったので、袴を着ける事にしたのだ。
ちなみに俺の道具と胴着は道場に置きっぱなしだった・・・冬休み中高校の部室には行かないから、と変な言い訳でごまかしたが、今日はちゃんと洗っているアピールの為に持って帰ろうと思った。
俺達は冬休みだが世間一般は平日なので、練習で道場に来ている人は居なかった。
俺達を見ると指導員の老師が笑顔でやって来た。
指導員「おお、桜野くん、良い所に。園田さんと二人揃って練習かい?大会はまだ先なのに精が出るね。あのね、桜野くんにお願いがあるんだけども、良いかな?」
指導員の話を聞くと今週の日曜日、神田明神の新年の行事があり、御弓始めという儀式で祝弓を射って欲しいというのである。
指導員「毎年いい人居ないかって言われて困ってたんだけど、キミなら背も高いし落ち着いてるし、良いよ。やってみない?」
実質、入部してからここまで弓道の技術を俺に教えてくれたのはこの人である。
日曜はバイトも無いし、指導員からお願いされて断る理由はない。
紫音「判りました、俺で良ければ参加します。しかし、俺で良いんですか?園田さんの方が見映えも良いし弓道の腕も良いし・・・」
指導員「いや、福男と言ってね、射る人は男性の行事なんだよ。弓と矢が儀礼用の古い木製だけど、的は競技より近くて大きいから腕前はあまり必要ないよ」
そう言ってから指導員は「桜野くんの腕前はなかなかだよ」と言ってくれた。
紫音「判りました、お引き受け致します。先生、園田さんには何か役割は無いのですか?」
海未「なっ、そ、そんな事、聞かないで良いです」
海未ちゃんは慌てて手を振ったが、指導員は少し考え、海未ちゃんを見て言った。
指導員「園田さん、何年か前に梓巫女やった事あったよね?今年もやる?まあ今年は他にもかわいい女の子のあてはあるんだけど」
海未ちゃんは30秒ほど、俺と指導員の顔を見比べていたが、最終的には同意した。
企図していないイベントに海未ちゃんと二人で参加とは、嬉しい。
指導員の先生は打ち合わせと言い残し出かけていった。
俺達は着替えて練習を開始し、30分ほど二人並んで精力的に射込むと、海未ちゃんが話しかけてきた。
海未「紫音さん、私と勝負しませんか?この前の雪辱戦です」
俺の脳裏に誕生日デートに初めて俺が勝って告白した、あの日の事が浮かんだ。
あれからもう、約二ヶ月経っている。
もしかして、ずっと気にしていたのかな・・・しかし海未ちゃんは12月、忙しくて弓道の練習が出来ていたとは思えない・・・まあいいだろう。
俺はそう考え、受ける事にした。
海未「受けて下さるのですね?それでは私が勝ったら、私のお願いを何でも一つ、聞いて下さい。もちろんあなたが勝ったら、私があなたの言う事を聞きます。あ、破廉恥なのは無しです」
面白えじゃねえか・・・やってやるぜ!
その時は単純にそう思った俺が馬鹿であった。
ルールは前回と同じ5本の矢×3セット勝負である。
真剣に狙っているうち、俺は今更ながらに自分の不調に気が付いた。
上腕から大胸筋、背筋にかけ明らかに消耗している筋肉があり、狙いが定まらないのだ・・・1時間以上も餅搗きしたせいであろう。
まさか、俺の疲労を計算に入れていたのだろうか・・・。
1セット目は善戦したが負け、2セット目は呆気なく負け、ストレートに2セット連取されてゲームオーバーである。
海未「やったぁ!勝ちました!」
負けた・・・俺は道場にorzのポーズをしたくなった。
対照的に海未ちゃんはガッツポーズや右手を突き上げるポーズで小さく跳ね回り、勝利を味わっている。
綺麗な髪がリズミカルに跳ねている・・・ちくしょう小躍りしやがって、なんてかわいいんだ。
紫音「あのさ、今日は俺、あれだけ餅を搗いたんだよ?ちょっと調子が・・・」
海未「あら、紫音さんともあろうお方が言い訳ですか?殿方とも思えないですね!」
ぐうの音も出ない俺は早々に負けを認める事にした。
紫音「・・・判ったよ、俺の負けだよ。ちくしょう、次は絶対負けないぞ!」
海未「あら、師匠に向かって何という口のききかたでしょう?酷い弟子があったものです、うふふふ」
完全に希先輩が悪戯を仕掛けてくる時と同じ顔で笑っている。
俺は嫌味を込めて言った。
紫音「さては師匠、俺の体が疲労している事を読んでましたね?さすがは師匠です!まったくもう・・・で、何をすれば良いんです?」
そう言うと、師匠は目をきらきらさせながらこう言った。
海未「あの、お願いを二個にするのはダメですか?」
紫音「ダメですよ!それが出来たら無限に言うことを聞かないといけないじゃないですかっ」
意外と普通の女の子の発想なんだなあと思いつつ待つ。
海未ちゃんは「ダメですか~」と言いつつ考えながらうろうろ歩いていたが、またもや目をきらきらさせ、手を祈りの形に組んで迫ってきた。
海未「判りましたっ!あの、一つは駅の近くのスィーツをご馳走して欲しいです!もう一つは・・・ではなく、コホン、今日はお餅をたくさん搗いてくれたお礼に・・・あなたの肩を揉んであげます」
紫音「ええ?師匠が俺の肩を、揉んでくれるんです?」
海未「そ、そうです!これはあくまでもお礼です!さあ、胴着を脱いで下さい!あ、その、Tシャツはそのままで。私には刺激が強すぎますから」
紫音「はあ」
俺は胴着と袴を脱ぎ「ほ」の字Tシャツとジャージの姿になって更衣室から出て、トレーニング室の椅子に座った。
海未ちゃんの小さな手が俺の肩を優しく揉んでくれる。
紫音「あ、効く~・・・やっぱり餅搗き、疲労してたんだなあ、師匠、ありがとうございます」
海未「いえ、その、私こそ・・・」
その歯切れが悪い物言いに、俺は気になって聞いてみた。
紫音「海未ちゃん、筋肉が好きなの?」
海未「は、は、は、はい?い、一体何の事ですかっ?誰がそんな!」
海未ちゃんは明らかに動揺した・・・判り易い。
紫音「いや、穂乃果ちゃんが良く言ってるよ?」
海未「そ、その、お恥ずかしいのですが、以前から男の方の筋肉が目に入ると、例えばプロレスのTV中継などで、こう、魂から別の人格のような何かが勝手に沸き上がってくるのです」
良く判らない説明をしながら海未ちゃんはその後も10分程度、俺の肩や上腕を揉んでくれた。
終わった後、何故かお礼を言われた。
■□■
服を着替え秋葉原駅近くのビルにあるスイーツカフェまで二人で歩いた。
よほど美味しいと友達に言われたらしく、海未ちゃんはすごく楽しみにしているようだった。
弓道で俺に勝った事も機嫌が良い理由だろう。
そんな風に思いながら目的のスイーツカフェに入ったのだが、注文の時に真相が判明した。
そのカフェは男女のカップル限定でケーキセットを注文すると、プリンがサービスされるのであった。
海未「やりましたっ!ずっとここのプリンが食べたかったんです!紅茶シフォンケーキも美味しいですっ!」
紫音「・・・そんなに来たかったのならいつでも言ってくれれば、一緒に来たのに」
俺がそう言うと、海未ちゃんはまた、慌てたように言うのだった。
海未「か、カップルになって欲しい、なんてプリン程度でそうそう言えるわけありません!勝利のご褒美で、良いのですっ」
俺は勝負に負けた腹いせに、ちょっとばかりからかってみる事にした。
紫音「じゃあもう俺は負けるつもりないから来れないね!カップルになって欲しいとは言ってくれないんだし!ここ美味しいから俺は次回、穂乃果ちゃんかことりちゃんとでも来ようかな~」
そのセリフの効果は抜群だった。
海未「ず、ズルいですっ!どうしてそんな意地悪を言うのですかっ!穂乃果とことりはダメですっ!私を誘って下さい!」
紫音「いやだってプリン程度でカップルになって~って頼むのは師匠には恥ずかしい事らしいですからね!あの二人はそうは思わないでしょうし!」
海未ちゃんは顔を真っ赤にして俺の事を睨んでいたが、突然俺が食べていた残り少ないベイクドチーズケーキを自分のフォークで突き刺し、そのまま全部食べてしまった。
紫音「ああっ!俺のチーズケーキ!」
海未「い、意地悪を言うからですっ!あ、これも美味しい」
左手を口の前にかざし、上の方を見ながらもぐもぐしている海未ちゃんは、すっかり間接キスの概念をどこかにやってしまったようだった。
■□■
翌日の午後、第二回ラブライブ東京地区代表μ'sのキャッチコピーが「みんなで叶える物語」に決まった。
昨日悩んでいたのはこれか・・・と思うと同時に、穂乃果ちゃんらしい、μ'sらしい良い言葉だとも思った。
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その週の日曜、俺は神田明神の神事「御弓始め」に福男として参加した。
儀礼用の紋様の入った袴を着け、頭には烏帽子のような妙ちきりんなモノを被らされた。
背後には儀式で使う矢を持った海未ちゃんが付き従う。
きちんと神事を務める神職に見えれば良いのだが、と俺は少し心配になる。
だがこの衣装を着ていると、なんだか海未ちゃんとタイムスリップした世界でパートナーになった気がするのだった。
ちなみに海未ちゃんの服装は元旦に絵里先輩達が着ていた巫女服とほぼ同じだ・・・大変かわいい。
儀式が始まる前、俺は嫌がる海未ちゃんを拝み倒して写真を撮らせて貰った。
着替えや準備を入れて二時間ほどの拘束だが、この写真だけで間違いなく時給2500円の価値はある・・・いや、金額には換えられない。
プライスレスという奴だ。
人が多く判別出来なかったが群集のどこかに海未ちゃんのお母様も居るとの事で、大変緊張したが役割自体は簡単ですぐに終わった。
行事中の明神様は人が多いため、二人で弓道場に戻ってから今度はいつもの弓胴着に着替えた。
緊張と儀礼衣装から解放され少し待つと、同じく着替え終わった海未ちゃんが更衣室から出て来た。
せっかくなので俺は少し練習してから帰ると告げた所、海未ちゃんも練習すると言ってくれたのだ。
二人して練習を始める直前、道場に和装の美人女性がやって来た。
その女性の顔を見た途端、珍しく海未ちゃんは大きな声を上げた。
海未「お、お母様!」
優しげな目元、小柄だがピンと伸びた背筋と結い上げた黒髪がすらっとした印象を抱かせる年齢不詳の女性だった。
海未母「あなたが桜野さんですね。初めまして。海未の母です。娘がお世話になっております」
丁寧に頭を下げられてしまい、俺は慌てて挨拶する。
紫音「は、初めまして。桜野紫音と申します。園田さんには弓道や勉強を教えてもらい、こちらこそお世話になってます」
俺がそう言うと海未ちゃんのお母様は柔らかな微笑みを浮かべて言った。
海未母「噂はかねてより伺っています。アイドル部の活動も手伝って頂いているとか。娘は男の子の友達が初めてなもので気難しい所もあろうかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します」
紫音「こちらこそお友達にして頂いて光栄です・・・よろしくお願いします」
二人の挨拶を不安そうに聞いていた海未ちゃんは、そこまで聞いてついに我慢ができなくなったようだった。
海未「お、お母様、その、もうよろしいでしょう?あまり妙な事を言わないで下さい。私は少々弓道の練習をしてから帰宅致します」
海未母「あら、母はもう少し桜野さんとお話がしたいです。先ほどの神事も見事でしたし。背も高くて立ち姿も素敵でした」
海未「や、やめて下さいお母様!紫音さんも戸惑っておいでです!」
海未ちゃんがそう言うと、お母様は俺をチラっと見やり、言った。
海未母「いえ、桜野さんは堂々と落ち着いていますよ?海未、あなたこそ取り乱して・・・そんな事では桜野さんに愛想を尽かされてしまいませんか?」
海未「お母様っ!」
海未ちゃんは焦りまくった感じで、お母様の背中を無理矢理押して道場から出ていった。
追い払ったという方が正しいかも知れない。
俺はお母様の背中に慌てて「失礼します!」と挨拶したが、間に合っただろうか・・・俺としてはもう少し親交を温めたかったが、海未ちゃんがあれでは仕方ない。
まあ袴を着けていて良かったと思う事にしよう・・・変な格好してたら印象も悪かったはずである。
道場に戻ってきた海未ちゃんは顔を朱くして俺と目を合わせてくれなくなっていた。
そのまま二人で空が暗くなるまで練習し、俺はよろしくお願いされた手前、海未ちゃんを自宅まで送り届ける事にした。
親公認でないと、もし海未ちゃんと恋人になった場合はキツイと思うので、俺としてはお母様に挨拶できた事は一歩前進と信じたい。