ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第59話 空港にて

翌朝、約束通り俺は朝7時に園田邸に着き、海未のお母さんと弟に挨拶し、海未の大きいトランクを引き受けて出発した。

ちなみに海未のお父さんは日舞の家元なので、日曜も忙しく既に出かけているようであった。

秋葉原駅ではことりちゃんが待っていた。

ことり「海未ちゃん、紫音くん、おはよう!」

海未「おはようございます!」

紫音「ことりちゃん、おはよう!えーと、ここに集まる人は、あと誰?」

ことり「今日は原則、成田空港に各自で集合になってるの」

海未「真姫はお父様にクルマで送ってもらうそうです。花陽と凛は東京駅から高速バス、絵里と希、亜里沙さんと雪穂は日暮里から京成線です」

紫音「にこ先輩と穂乃果ちゃんは?」

ことり「にこちゃんはやっぱり家族と行くって。小さい子いるから東京駅から凛ちゃん達と同じ高速バスだと思う」

海未「穂乃果は・・・一昨日は私達と一緒に行くと言っていたのですが・・・来ていませんね・・・まったく穂乃果は」

ことり「・・・あのね海未ちゃん、穂乃果ちゃんは先に行くって、さっき連絡があったの」

海未「ええっ?何故です?」

ことり「うーん、判らないんだけど、ことりが思うのは多分だけど・・・海未ちゃんと紫音くんが一緒にいるのを見たくないんだと思うの」

俺の心に暗雲が立ち込める。

ことり「あのね、昨日、ことりと穂乃果ちゃんは一緒に旅行の準備をしたの。ことり達、海未ちゃんの誕生日に3人で居ないのって今年が初めてだから・・・」

紫音「ごめん」

俺は思わず謝ってしまった。

ことり「ううん、良いの。紫音くんにはこれまですっごくお世話になったし。普段はことり達がずっと海未ちゃんと一緒に生徒会や練習してるから、なかなか二人きりになれないもんね」

俺はことりちゃんのトランクも持ち、秋葉原駅の長いエスカレーターに乗って、3人で総武線のホームに向かった。

ことり「穂乃果ちゃんもそれは判ってて、二人きりにしてあげたいって言ってたの。旅行で何日か会えないし、スマフォも置いて行くし。淋しいだろうからって」

俺達はちょうど来た津田沼行きの総武線に乗り込んだ。

日曜の下りなので席は空いていて、俺達は海未を中央に横並びで座った。

ことり「でもね、旅行の準備をしてるうちに穂乃果ちゃん、だんだん羨ましくなっちゃったみたいで『楽しんでるかな』とか『良いな』『ずるいな』って言い始めて」

なんだか手に取るように状況が見える。

ことり「ことりがね、『海未ちゃん、優しくして貰ってるかな』って言ったら、穂乃果ちゃん黙っちゃって」

ああ~なんかやばい。

ことり「なんか考えてるみたいだったけど、穂乃果ちゃん、その後海未ちゃんが泣いてるかもって言うの。『しょーくんは優し過ぎて女の子を傷付ける』って」

海未「その、意地悪はたくさんされていますが、特に泣かされるような事は、されていません」

海未はちらっと俺を睨む。

紫音「すみません・・・あの」

ことりちゃんが、言い淀む俺より先に声を出した。

ことり「穂乃果ちゃんは、海未ちゃんと紫音くんがことり達に遠慮するから見てられない、とも言ってたんだ」

海未「それで、穂乃果は先に行ったのですか・・・まったく、気を回し過ぎですっ。それで一体あの子は、どのルートで行ったのですか?」

ことり「うんと、雪穂ちゃんとは別行動だし穂乃果ちゃんは複雑な乗り換えは判らないと思うから、東京駅から成田空港行きの快速に乗ったと思うんだけど」

海未「そうですか・・・ちゃんと到着すれば良いのですが」

会話が切れた所で、俺は切り出す。

紫音「海未、ごめん、俺、謝らないといけない事がある」

海未「はい?突然、一体どうしたのですか?謝らないといけない事、ですか?」

紫音「・・・まずこんな時期まで、一ヶ月も黙っててごめんなさい。でも決して言わないで誤魔化そうと思ってたわけじゃなくて・・・海未といると楽しくて、チャンスが無くて」

ことりちゃんも不安そうな顔でこちらを見ている。

紫音「その、ことりちゃんがいる時に言って許して貰おうとかも思ってないから。二人の時に言おうと思ってたけど、今の話に関係するかもだから」

そう言うと海未も不安な顔になった。

海未「それは判りました。それで一体、どうしたのです?」

俺はバレンタインデーに学校の前で穂乃果ちゃんに待ち伏せされ、公園でチョコを差し出され付き合って欲しいと言われた事を言った。

海未「はい、そこまでは知っています。あなたがそれを断った事も」

紫音「うん、断ったんだよ。そしたら穂乃果ちゃん、公園ですっごく泣きはじめて・・・」

ことり「うん・・・それもだいたい聞いてる」

俺は唾を飲み込む。

紫音「それで俺、あの公園って道路から丸見えだし・・・泣き止まそうと思って、穂乃果ちゃんを抱きしめたんだよ」

海未「・・・μ's解散危機の時も、あなたが穂乃果を抱きしめているのを、この目で見た事がありますが?それで?」

海未の声が刺を帯びる。

紫音「それで、その・・・穂乃果ちゃんが、もう付き合うって言わないから・・・キスしてくれって」

ことり「!!まさか・・・紫音くん、まさかそれって」

紫音「うん、その、本当にごめんなさい。別に同情とかではないんだけど、俺もいっぱいいっぱいで、大切な友達の穂乃果ちゃんの頼みだし・・・全部断る事が、出来なくて」

電車は揺れながらやかましい音を立てて、走っている。

海未の沈黙は電車の騒音よりも遥かに、俺の心に不協和音を響かせるのだった。

ことり「海未ちゃん・・・」

ことりちゃんが促すと、海未は短い沈黙を破った。

海未「紫音、それで、穂乃果には、キスしか、していないのですね?」

紫音「・・・も、もちろんだよ!それしか頼まれてないし、穂乃果ちゃんは俺の彼女じゃないんだから!しかも公園だよ?それだけ!」

それを聞くとようやく、海未はこちらを向いてくれた。

海未「・・・あなたの言動を見ていると、子供の頃からキスが当たり前で、アメリカに住んでいた頃から女の子ともキスしていたと判ります」

海未の声は少し強張っていたが、予想よりは大幅に穏やかだった。

海未「むしろ少しでも私に後ろめたさを感じ、きちんと正直に話してくれた上で謝罪して下さったのですから、今回一度っきりという事で、特別に許します」

海未の顔はどちらかというと、悲しみや苦しみの表情を張り付かせていた。

海未「・・・本当は、あなたのせいばかりではないのです。穂乃果はその日クラスの子が『チョコとキスを両方あげて夢中にさせる』みたいな話をして、ずいぶん共感しているようでした。私が、私は・・・」

海未ちゃんも辛そうだった。

海未「私は穂乃果が紫音にチョコをあげに行くと判っていたのに、私達が正式な交際をしている事を、言えなかったのです・・・皆が楽しそうにバレンタインの話をしていて・・・私は自分のチョコと、ことりの言動が気になって」

紫音「誰にも俺達が付き合ってる事は言ってなかったんだよな・・・うーんと、でも凛ちゃんは、知ってたっぽい言い方だったけど?」

海未「そうですね、スノハレの歌詞の事もありますが、それ以上に凛は勘の良い子ですし、あなたの事を本当に良く見ています。だから見抜いていた、というのが正しいと思います」

俺達の乗る総武線の車両は船橋駅に着いた。

俺達はそこで京成線に乗り換えた。

残念ながら3年生が乗った電車よりも一本遅かったようである。

京成線も混雑しておらず、今度は俺を中央に、横並びで座った。

ことりちゃんが冗談っぽく笑いながら言う。

ことり「あーあ。3人とも紫音くんが好きなのに、ことりだけ一番欲しい想い出を貰えなかったなあ」

海未「ことり?何を言い出すのです?」

ことり「えー?別に海未ちゃんには関係ないよ~。紫音くん、ニューヨークから帰ったら、ことりお土産買って来るからね、二人でどこか行こっ」

海未「ことり!何を言っているのですか!紫音は私の恋人です。約束は私を通して下さい」

ことり「ことりだって紫音くんとはお友達なんだから~。別に友達にお土産を渡すのに、二人で会っちゃいけないなんて事、ないもん!」

海未「ダメです!彼女がいるのに他の女の子とデートなんて、そんな事は有り得ません!私もご一緒します」

ことり「そんな事言ったら何にも出来ないよね!紫音くんが可哀相だよ~。縛り付ける恋人ってどうなのかなあ?男の子はそういうの、すっごく嫌がるよね?紫音くん?」

海未「そんな!し、縛り付けてなどいません!ただ、デートなんて有り得ない、と言ったのです!紫音!どうなんですか!」

またこの娘達は俺を挟んでキャッチボールし、炎上どころか爆裂レベルのファイヤーボールに成長させてから俺に投げて来るのだった。

紫音「いやあ、事前に予定が全部判ってれば良いんだけどね・・・偶然デートになっちゃう事は有り得なくはないかな・・・」

ことり「判った~!じゃあ偶然、お土産を渡しに行ったらデートになっちゃうんだね!ことりにお任せ下さいっ!」

海未「紫音、許しませんからね・・・絶対に許しません!」

ことり「ふふふ~でもばれなかったら怒りようもないもん!帰って来るの、楽しみになっちゃった!」

紫音「はは、俺は皆元気で仲良く帰って来てくれれば・・・」

ことり「そうだ!そしたら紫音くんとデートして良い権利をかけて、向こうでトランプでババ抜きしよう!ね、海未ちゃん?3回勝負で3回ともことりが勝ったら、権利くれるよね!」

海未「の、望む所です。何故かババ抜きは勝率が良くないですが、所詮はくじ運のゲーム、3回連続で負けるなど、私だってそこまで弱くありません」

ことり「じゃあその条件で。ふふっ、頑張るぞー!」

紫音「あれ、なんかことりちゃんが不利な条件じゃない?」

俺がそう言うと、ことりちゃんは笑いをこらえるような変な表情をした。

ことり「・・・えっとね、紫音くんは海未ちゃんの彼氏だから、やっぱりことりは少し厳しい条件じゃないと、いけないと思うんだ~」

なんかことりちゃんの笑顔が気になるが、二人は親友なのだから任せよう。

 

やがて電車は成田空港に到着し、俺は見送りが出来る限界の出発ロビーのゲートまで、二人のトランクを運んだ。

亜里沙ちゃん、雪穂ちゃんとも出会え、窓の辺りにμ'sメンバーが集まっているのも確認出来た。

海未とことりちゃんがμ'sメンバーに合流するのを見届けて安心した俺は、騒がしい子供の声の方を振り返った。

そこに居たのは、超絶美人ママである。

放たれるオーラは月の戦士のように凛々しく、ガンザムが配備される戦艦の艦長も出来そうな、自衛隊の一尉で間違いない。

紫音「に、にこ先輩!あ、皆さんおはようございます。にこ先輩、あの人、先輩のお母様ですよね?しょ、紹介して下さい!」

にこ先輩は俺をジト目で見ながら言う。

にこ「あら紫音、おはよう。見送りご苦労様。でもあんたにはママは紹介出来ないわね。今すぐ海未と別れてにこの、にこだけの下僕になるなら、紹介しても良いわ」

紫音「判りました。にこ先輩の下僕にして下さい。海未、悪い、俺と別れ・・・あ痛っててててて!う、嘘だよ冗談です冗談なんですごめんなさいごめんなさい僕は海未さんのものです許して下さい!」

海未「紫音、冗談にしてはいささか躊躇がなさ過ぎだと思いますが?にこも紫音をからかうのはやめて下さい」

海未は俺の頬を思い切りつねりながら言う。

そういう海未も俺の返事を最後まで聞かないで攻撃するのだから、このギャグ漫才は完全に見切られているのだろう。

凛「しょ~くん、冗談にしても最低だにゃ。凛だったら判っていても泣いちゃうにゃ」

紫音「判りました僕が最低でしたそういう冗談はもう言いません!師匠と付き合っていたいですう!」

そこまで言ってようやく頬を解除して貰えた。

海未「凛の言う通りです。言って良い冗談と悪い冗談があります。にこの悪ふざけに乗るのは構いませんが、内容を良く考えて、行動して下さい」

紫音「・・・はい、反省します」

希「お二人さん、いつの間にかえらく仲良うなって・・・妬けてまうやん」

にこ「・・・にこは海未の下僕であるあんたは、要らないわ。今の所、下僕は真姫で十分ね」

真姫「・・・誰が下僕ですって?そういう態度ならもうにこちゃんとは口を利かないから」

にこ「じょ、冗談よ。ねえ花陽?」

真姫「花陽、先輩だって酷い事言う人には『酷いです』って返して良いのよ?」

花陽「こ、ここで私!?だ、誰か助けて~!」

うう、花陽ちゃん・・・さっきまでの俺を見るようだ。

紫音「花陽ちゃん!俺と逃げよう!」

花陽「はいっ!紫音さん!」

俺が花陽ちゃんの手を握ったところで、ことりちゃんが冷たく言い放つ。

ことり「はいそこー。集合時間だから、ふざけてあちこち行っちゃダメですよ?」

絵里「それで・・・あと集合していないのは穂乃果だけ?海未、穂乃果は?」

海未「もう、来ているはずです」

 

穂乃果ちゃんを捜すにしてもこの広い成田空港、何か手がかりは欲しい。

雪穂ちゃんに聞くと答えはとてもシンプルだった。

雪穂「お姉ちゃんは~こんな広い所判らなくなるから、行く所少ないですよ。ショッピングか屋上かどっちかだけど、おこづかい決まってるし飛行機見たいから屋上かな」

さすが雪穂ちゃん・・・判り安い。

かくして穂乃果ちゃんは展望デッキに居た。

照れ笑いで謝りながら皆に加わる穂乃果ちゃんに一言うべく、俺は声をかけた。

紫音「穂乃果ちゃん、おはよう!あのさ、ちょっとだけ良いかな?」

すると穂乃果ちゃんは、俺を振り向きウィンクした。

穂乃果「しょーくんおはよっ!お土産買って来るから、浮気しないで待ってるんだぞ!話は帰ってからね!」

そのまま穂乃果ちゃんはμ'sメンバーと笑いさざめきながら、出発ロビーに戻って行った。

後には俺と海未が残った。

紫音「穂乃果ちゃんとの話は帰ってからか。さあ海未、遅れるよ?行こう?」

俺がそう言うと海未は不安と淋しさの入り混じった目で、俺を見上げた。

海未「その、絶対に帰りますから・・・浮気しないで・・・待っていて下さい。必ず、あなたの横に帰ってきます。絶対に」

海未は俺の耳を軽く引っ張り、耳元で囁いた。

海未「・・・出発前に、もう一度、キスしたいです」

俺は少し驚いて海未の顔を見る。

紫音「え、昨日は空港じゃチャンスないって・・・」

海未「したいです!」

海未の必死の顔を見て俺は思う・・・まあ空港と言えばキスだと言っても、過言ではないだろう・・・アメリカでは。

紫音「・・・ちゃんとペンダント着けてる?気をつけて行けよ」

ここはまだ日本なんだけどな~思いつつ、俺は展望デッキの大きな柱の陰に海未を連れ込み、皆が振り返っても見えない位置で、海未の唇に自分の唇を押し当てた。

 

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