ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
μ'sが出発して3日目の朝、真姫ちゃんのLinerの書き込みに寄ると、穂乃果ちゃんが乗る地下鉄を間違い、行方不明になっているとあった。
電車なら次の駅で降りて折り返せば良いと考え、まさか穂乃果ちゃんが泊まっているホテルの名前を知らないとは思わない俺は、普通に学校へ行った。
結局大事には至らなかったようで、翌日の午前中にはニューヨークのTV局がμ'sのニューヨークライブをネットに公開した。
俺がその動画を見たのはバイトが終わって帰宅した後で、再生しようとしてまず、その再生数に驚いた。
まだ公開して1日も経っていないのにも関わらず、第二回ラブライブと同程度の再生数に到っており、しかも増え続けていた。
ニューヨークのタイムズスクエアの夜景をバックに歌い舞い踊っている曲は、予定通り「Angelic Angel」である。
(スクフェス「Angelic Angel」プレイをおすすめ!)
ミニワンピになっているのだろうか・・・前を合わせる着物アレンジの衣装はアメリカ人が喜びそうな和のイメージで、しかも華やかである。
ことりちゃんのイラストからは判らなかったが、ラメの入った生地で作成されたのだろう、衣装は周囲のイルミネーションを反射してきらきらと光っている。
そして9人が手に持っている扇子は(海未が文句を言いそうな)過剰に華美な金色で、ダンスと共にひらひらと舞い、その軌跡には美しい残光が尾を引いている。
これは・・・スクールアイドルというイメージを遥かに超えた、スーパーアイドルのステージに見えた。
再生数が伸びるのも道理である。
俺はそこでハタと気がついた。
明日の成田空港、これを見た高校生がいたら・・・数人なら問題ないだろうが、現在は卒業旅行シーズンである。
スクールアイドルを知っている人が大量に集まっている可能性がある。
何事も無ければ明日の午後2時にはμ'sは帰国し、俺が迎えに行く予定だ。
花粉のシーズンなのでマスクはいくらでも売っているだろうが、100円ショップのサングラスと帽子を2~3個買って行く事にしよう。
■□■
紫音「遅かったか・・・」
春休み前なので午前中で学校が終わった俺は急いで着替え、成田空港行きの電車に乗ったのだが・・・俺が到着ロビーに着いた時には、既にμ'sにサインをせがむファンが行列を作っていた。
しかも4人がロビーの中央で背中合わせに立ってサインしているため、十字型に待機列が出来ている・・・海未が居ながらなんて事だ・・・通行人に迷惑過ぎる。
俺は全員とアイコンタクトを取り(にこ先輩は優越感から俺を見下す目線)、μ'sメンバーを窓際まで下がらせ、横に並ばせた。
その上で現在の列の最後尾にはもう人が並べないよう、スタッフのように振る舞い始めた。
紫音「すみません、μ'sはこの後移動があるので、もう並べません」
それでもスマフォで撮影をしている人も居て、空港職員に怒られそうな騒ぎと化している。
サインの列が早く途切れたにこ先輩、凛ちゃん、希先輩にマスクとサングラスを渡し、窓の方を向いた少し離れたベンチで待つよう指示する。
その次に穂乃果ちゃん、花陽ちゃん、海未の列が切れた。
同じようにマスクとサングラスと帽子で変装してもらう。
最後まで列があるのは絵里先輩、ことりちゃん、真姫ちゃんで・・・結構な数の女の子が並んでいた。
ただ普通にはファンといえども旅行の為に空港に来ているわけで、列が増えない状態でメインの女子高生軍団が居なくなると、行列は掃けた。
全員がサングラスとマスクを装着した事を確認し、俺達は高速バスの乗り場へ向かった。
バスに乗ってようやく、リラックスする事が出来た。
凛「ぷっは~!まさかこんなに騒ぎになってるなんて、凛はびっくりしたにゃ」
花陽「空港のスクリーンでライブ映像が流れてるなんて・・・確かにびっくりだけど、ラブライブ事務局が流してるのなら、秋葉原はもっと大変な事になってるかもです!」
ことり「紫音くん!ことり、海未ちゃんにババ抜き勝ったの!今度ことりとデートしよっ」
海未「すみません、私、頑張ったのですが・・・負けてしまいました。あなたを守れませんでした。ですが絶対に浮気は許しません!」
道中わいわいと、ニューヨークでの出来事やライブの様子、お土産や動画の反響についてなどを夢中で話しているうち、バスは東京駅に着いた。
皆お土産と大きなトランクを抱えているため一旦解散して帰宅、荷物を置いて秋葉原駅に再集合する事になった。
俺は貰ったお土産と海未のトランクを持ち、海未と山手線に乗った。
絵里先輩と希先輩、花陽ちゃんと凛ちゃんはそれぞれ地下鉄に乗り、ことりちゃんと穂乃果ちゃんは迎えに来た穂むら号に乗った。
真姫ちゃんはお土産もトランクも空港から宅急便で自宅に送付しスマフォも持っているので、にこ先輩のお土産を運ぶ手伝いをする事となり、俺達と秋葉原まで同行である。
秋葉原駅でにこ先輩と真姫ちゃんの二人と別れ、俺と海未は園田邸まで歩いた。
海未「まったく穂乃果ったら!私達が日本料理店を出たのも遅かったのですが、電車を乗り間違い、帰って来たのは夜10時を回っていて・・・どんなに心配した事か!あなたも居なくて・・・」
二人きりになった途端、海未は初めての海外旅行がどれだけ波瀾に富み、精神的に消耗したかをこんこんと語った。
俺は海未の変わらない元気な様子に安心する。
海未「やっぱり本物の自由の女神は凄く大きかったです!夜景もセントラルパークも綺麗で・・・皆が『ニューヨークが秋葉原に似ている』と話した時はちょっと違うと思いましたけど」
俺がトランクを引いている事もあり、いつも俺の半歩後ろを歩く海未を、今日は半歩前を歩かせている。
いつものように綺麗な長い黒髪がさらさらと揺れる様は、俺の傍に彼女が戻ってきてくれた事を実感させてくれる。
海未「ニューヨークは秋葉原じゃなくて、東京に似ていました。とても大きな東京です!・・・あら、なんですか紫音?顔がにやけています」
紫音「それはそうだよ。海未と4日ぶりに会えたんだから。嬉しくて」
俺がそう言うと振り返りながら歩いていた海未は、俺の横に並んだ。
海未「・・・私もあなたが居なくて、淋しかったです。心細かったです。あなたの元に帰れて、良かった」
俺の両手は荷物で塞がっていたので、海未は空いている手で俺の服をちょこんと摘んで歩いた。
やがて園田邸に帰り着いた。
俺は門の前に荷物を置き、海未を見つめた。
紫音「無事に帰ってきてくれてありがとう、海未。お帰りなさい」
海未「待っていて下さりありがとうございます。海未はただいま、あなたの元に戻りました」
そう言って、俺達はキスをした。
今日はバイトは無かったが、来年度の高校総体の開始まで1ヶ月前の俺は、弓道の練習に行くことにしていた。
海未「練習ですか・・・熱が入りますね。頑張って下さい」
紫音「海未もラブライブ事務局が秋葉原で宣伝広告を打ってるかもって花陽ちゃんも言ってたから、マスクとサングラス、持って遊びに行けよ。早く帰って体も休めて。じゃあね」
俺達は手を振り、俺は練習に向かった。
■□■
結論的には花陽ちゃんの予想は大当りで、再集合したμ'sメンバーは秋葉原でもファンに追いかけられ逃げる羽目になった。
神田川沿いに超巨大ポスターが貼られていたのを報告され、練習帰りに見に行って俺もびっくりしたが、事務局はラブライブをメジャーイベントにする為に、ここぞとばかりに大量の露出を敢行しているようだった。
Linerによると翌日以降も、解散を決意しているμ'sに対し活動継続を希望する声が恐ろしいほどに集まり、穂乃果ちゃんは猛烈に悩んでいるようだった。
μ'sの活動や歌を熱望する友人等周囲の声に加え、アキバドームでの第三回ラブライブ開催を狙う事務局は、現在A-RISEを凌ぐ人気のμ'sに実績を挙げて欲しいのだ。
しかし先輩達が高校生でいられる時間は2週間を切っており「先輩達の居ないμ'sはμ'sではない」という結論は変わらないのだから、続けられる理由が無い。
またA-RISEのように芸能事務所に所属し、マネージャーやプロデューサーに付いて貰い、プロのアイドルとして活動する手もある。
この場合先輩達が高校生ではない、というネックが消え9人はμ'sとして活動できるのだから、9人が一緒に居たいのであれば選択肢としては「あり」だ。
だがそれでは「スクールアイドルではなくなってしまう」というのが穂乃果ちゃんのこだわりのようだった。
少なくともラブライブ主催者側は、A-RISE、μ's共にプロになれば「ラブライブ優勝はプロアイドル決定」という既成事実が成立し宣伝効果抜群なので、両手を挙げて賛成だろう。
一緒に居たい、かけがえのない一生の親友達とまだまだ活動するなら、その為の手段も言い訳も、多数用意されているのが今のμ'sなのだった。
穂乃果ちゃんが悩んでいる間、海未は後輩の練習を見てから弓道神田道場に顔を出し、俺と一緒に的を射た。
海未はどうなっても穂乃果に任せる、といった雰囲気で、集中して練習出来ていた。
俺としては、さすがに自分の彼女がプロアイドルというのは避けたかった・・・というのはやっぱり俺だけの海未でいて欲しいからだ。
二人だけの帰り道、海未にμ'sの行く末について聞いてみた。
海未「μ'sのメンバーは大好きです。ずっと一緒に居たい気持ちはあります・・・ですが永遠に居られる場所は無いのです。いつか必ず離れる日が来ます」
海未はそう言って俺を見つめた。
海未「私の気持ちは穂乃果に伝わっていると思いますが、もし穂乃果があと1年やりたいと言っても、私は参加しないと決めています。絵里達が居ませんし、何より私には、あなたが居ますから」
もちろん俺は、キスのタイミングを逃がす男ではない。
数日悩み、穂乃果ちゃんが出した結論は以下だった。
・3月30日の日曜、周囲のライブ開催の声に応えるためμ'sのラストライブを行う。
・このライブは第三回ラブライブがアキバドームで開催出来るほどの集客力、注目度がある事を証明する為、近県のスクールアイドルを巻き込み、できる限り盛大にする。
μ'sメンバーの賛成を取り、穂乃果ちゃんはまた走り出す。
まずメンバーはこのライブへの協力を、実地交渉と電話を織り交ぜA-RISEと第二回ラブライブ参加チームに伝えた。
すると春休みに入っていた多数のチームは、過去優勝校であるA-RISEとμ'sが参加するライブであるのなら、と瞬く間に参加の名乗りを挙げた。
今度はそれをラブライブ主催者に伝えると、更に下記が決まった。
・開催場所は秋葉原の歩行者天国で、経費の拠出や使用許可等の事務手続き及び音響設備の設置はラブライブ事務局で行う。ただし業者確保の時間が無いため、飾り付けは参加者が行う。
・歩行者天国では決まった時間を大量に取れない為、参加チームは全員で1曲を歌い(これはツバサさんの提案らしい)、1曲終わったら1公演終了とし、それを数回繰り返す。
・参加スクールアイドルの着替えやトイレはUTX高校のものを借りる(A-RISEと事務局からUTX高校へ依頼する)。
・経費を出すので撮影はラブライブ事務局が独占、記録された映像は後の宣伝に使用しても良い。
・翌日の3月31日、ラブライブとアキバドームを繋げるイメージ作りの為、μ'sはラブライブ主催者の用意した環境でPVを撮影する。
たった一週間でどうするのかまったく判らなかったが、曲はA-RISEのツバサさんが手伝い、真姫ちゃんが旅行前から考えていたものもあって、何とかなりそうだった。
歌詞は英玲奈さん、衣装はあんじゅちゃんが手伝い、ラストライブの準備が始まってからは海未も弓道の練習を止め、夜遅くまで準備しているようだった。
俺は、というと「μ'sの園田海未に彼氏」はとんでもなくマズイというので、飾り付けや大道具といった現場での協力には参加せず、遠県から前泊するチームの為に空いているホテルを探す役を仰せつかった。
もう公認スタッフではないのでボランティアといった所か。
翠音は「1日だけなら」と母さんに許可を貰い、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんと共に水色の生地で自分の衣装を作っていた。
紅音は各チームが使った経費の集約と管理のボランティアだ。
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30日は運よく晴天に恵まれ、広い歩行者天国を埋め尽くす色とりどりの衣装を着たスクールアイドル達が、揃って一つの曲を歌った。
(スクフェス「SUNNY DAY SONG」プレイをおすすめ!)
まさに壮観の一言だった。
この曲ばかりを数回、時間を変えて行ったのだが、さすがに慣れている娘ばかりのようで、最初からかなりの完成度だった。
兄としては翠音の勇姿(それに加え亜里沙ちゃんと雪穂ちゃん)をじっくり見たかったのだが、多数の女の子に紛れちらっとかしか見れず、そうなるとやはり先頭を行くμ'sに見惚れてしまうのであった。
A-RISEとμ'sを中心にこれだけの映像が撮れたのだから、ラブライブ主催者も経費を割いた価値はあるはずだ。
ライブが終わる頃にはμ'sにも新たな友達が多数出来て、最後にはスクールアイドル大集合写真を撮っていた。
海未にそれを見せて貰った俺は、わざと声に出して「海未よりかわいい娘は・・・」と探した。
当然海未は拗ねるので「海未よりかわいい娘なんて居ないか」と言うのだ。
俺はキスのタイミングを逃がさないだけでなく、そのタイミングを作る事も、サボらない男なのだった。
それはともかく晴れて良かった。
まあ穂乃果ちゃんは雨雲を追い払う程度の魔力は余裕で持っている娘なので、心配はしなかったのだが。
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もうすぐ初めて彼女達を見かけてから1年になる。
彼女達が問題に直面しながらも、一つ一つそれを乗り越えて行く過程を間近で見ていた俺としては、やはり穂乃果ちゃんのような娘を待っていてはいけないという事を強く思う。
彼女達は見事に音ノ木坂学院を廃校から救い、スクールアイドルとしても大成し、有終の美を飾った。
俺は自分の高校の弓道部を存続させたが、後輩を作らない事には俺が辞めたら廃部という状況に変わりなく、救った事になっていない。
1週間後には新入部員を勧誘し、せっかくなのでどれかの大会で優勝してから引退したいものである。
そんな理想を叶えてくれる穂乃果ちゃんのような人が、そうそう都合良く俺の弓道部に現れるわけはないので、自分が穂乃果ちゃんにならねばならないと思うのだ。
とても苦手な事ではあるが、思い立ったら臆さず飛び込み最後まで諦めない、それがμ'sから教わったアドバイスだ。
だが心配はいらない。
穂乃果ちゃんを支え続けた彼女が、今度は俺の傍に居るのだから。
俺が穂乃果ちゃんのように走り出しても、ついて来てくれる娘が居るのだから。
俺の恋人はそんな頼りになる美少女ではあるが、少なくとも男子高の弓道部新入部員の勧誘には使えないだろう・・・早速自分で頑張るとしよう。
これからの人生を生きる為の確かな勇気をくれたμ'sに、心中で感謝を捧げた。
ありがとう。