クラフィ/Aliceの夢の物語り 作:クラフィ好きのサイヤ人
セトの事件から数日たち、壊れた街は元通りの形に修復された。
俺は助手らしく、小説に力を入れる式部の手伝いをして平和に暮らしていた。
助手の仕事を具体的に言うと、スケジュールの管理や雑用などだ。
最初は嫌々していたが、給料も良くてやり甲斐があったので続けてる。
最近は慣れてきて、式部との会話もいつしか自然に丁寧語で話すようになった。
「先生、連載中の小説の第26話の締め切り明後日ですよー」
自分の部屋で、無我夢中で別の小説を書き進めている式部に俺は声をかける。
「あ、忘れてた! 原稿用紙3枚取ってー」
「すぐ後ろにあるんだから自分で取ってくださいよ……あ、原稿用紙もう少ないな……」
テーブルに分厚く積んであった原稿用紙も、残り7、8枚ほどに減っていた。
あんな式部も、仕事にはとても熱心なんだなと、俺は薄々感心した。
「残りの原稿用紙が少ないので買ってきますねー」
「はーい。あ、ついでに飲み物買ってきてー」
「はいはい……」
俺は式部に原稿用紙を渡し、15万ビットをポケットに入れて近くの店まで買いに行く。
この世界の通貨は「ビット」というお金で、1ビットは元の世界で言うと50円ほどだ。
「ありがとうございましたー」
「あとは飲み物だけだな。先生はコーヒーが好きなんだったんだよな……」
原稿用紙を買い終わり、店のガラスのドアを開け外に出る。
街を行き交う人々は相変わらずおしゃれで街の雰囲気も良く、文句一つなしだ。
だが、そんな街にまた災いが襲来する。
「カフェはたしか……あっちか」
「恐れよォ! 私がオズだァッ!!」
「な、なんだ!?」
俺がカフェへと向おうと歩き出した時、突然威厳のある男性のような大きな声が街にこだまする。
人々は立ち止まり、ざわめきながら見渡して声の主を探すが見当たらない。
どうやら別の場所から送られてきているようだ。
「今から貴様らは我が『オズの国』の住人となるッ!」
「オ、オズの国……!?」
「ようこそ……我が国へッ!!」
人々が混乱に陥った瞬間、次々と街の人達が光に包まれ消えていき、活気が溢れていた街は途端に寂しげになる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(あれ、ここは……?)
気がついた俺の視界が覚醒すると、真っ白なはずの空が薄暗い空に変わっていて、周りには不気味な木々が生えているのが見えた。
「そういや俺、オズとかいうやつに飛ばされたんだっけ……? じゃあここがオズの国か……あいつ趣味悪いな」
森の獣道に仰向けに寝そべっていた俺は起き上がり、身体についた枯葉や土を払う。
吐く息は白くなっていて、思わず身体が震えた俺は、ふと式部とシヴァの戦いを思い出す。
氷の塊がたくさん飛び交い、床や壁が凍りついていて……その事を思い出したせいで更に寒気が増してしまった。
「……とりあえず先生を探して合流するか」
行く宛もなく、キョロキョロと彼女を探しながら道なりに歩き出す。
その途中で、人や動物を見かけたりもしたが、どの人も怯えたり怖がっていた。
「先生いないなー……どこいるんだ?」
「誰かー! そいつを止めてー!!」
「え!?」
真っ暗な林の中から女の子らしき叫び声が聞こえた。
パッと振り向くと、右手の茂みが大きく揺れ、こちらに近づいてきている。
「……はぁッ!!」
俺は右手右足を後ろにして一瞬構え、右手を右足と一緒に大きく前に突き出す。
すると激しい波動が茂みを走る何かに、小さい木や葉っぱを吹き飛ばしながら向かっていく。
その何かは、波動が直撃し気絶していた。
「お、狼!?」
そう、その何かの正体は深碧色の毛皮に身を包んだ狼だった。
「あなた凄いわね……こんな狼を一撃で倒すなんて」
狼の後方からセーターのうえに赤いパーカーを着て、フードを被った金髪の少女が歩いてくる。
一見すると優しそうな彼女だが、その右手は機関銃に改造されており、とてもおっかない。
「お前は……?」
「私は赤ずきん。この先の森の中にある家におばあちゃんと住んでいるのよ。そのおばあちゃんも、この狼に食べられてしまったけど」
「そうなのか……」
「あなたも狼に食べられない様に気をつけることね。ま、その実力なら大丈夫だろうけど」
「あ、あぁ……」
赤ずきんはクルリと、来た道に振り返り帰ろうとする。
その時、気絶していたはずの狼がギロりと目を開き、ヨダレを垂らしながら口を大きく開けて赤ずきんの背後に襲いかかる。
「言っただろう? お前を食べるってなぁ!!」
「!?」
「ぶっ飛べえぇぇッ!!!」
俺は瞬発的に狼の前へ回り込み、渾身の力でそいつの腹にパンチを打ち込む。
すると周りに小さな竜巻が発生して、狼は空に大きく吹き飛んでいった。
「ふぅ……久しぶりに身体を動かしたな」
「あ、あなたは何者なの……!?」
「俺は風間 遥人。ある小説家の助手だ」
と、俺は少し自慢げに自己紹介する。
「助手? 助手がなんでここに……」
「オズっていうやつに飛ばされたんだよ。この世界に」
「オズに!? ……とりあえず、立ち話もなんだから私の家に行きましょ」
俺達は林の奥へ進み、赤い屋根の小さな家の椅子に腰をかけ、詳しく経緯を話した。
家の中は銃乱戦をしたような……というより本当にしたのだろう。
その形跡がたくさんあり、あちこちがボロボロになっていた。
「なるほどねー……オズはなにか企んでいるようね」
「企んでいる?」
とその時、半開きになっていたドアがギギギと軋んだ音をたてながら開く。
狼と思ったのか、素早く赤ずきんが右手の機関銃をドアの方へ向ける。
「だ、誰!?」
「えっと、いろいろあってこの家を見つけたんですけど……って助手クンじゃない! どこにいたのよー! 森の中歩き回って探したのよ!」
「せ、先生!」
赤ずきんに銃を向けられ、両手をあげて立っていたのは式部だった。
やはり彼女もこの世界に飛ばされていたようだ。
「あれ? その人はまさか赤ずきん!?」
「ええ、そうよ」
「ゲームの登場人物がどうして……?」
「それを今から説明するのよ。
まず、この世界はAliceの絵本というゲームの世界。だけど突然オズがこの世界を支配したの」
「なぁ、Aliceの絵本ってなんだ?」
「登場するアバター達になりきって物語を体験できる、ALICE内で子どもたちに人気のVRアトラクションよ」
「へー……」
「そういえば、最近それをしてる子供達が行方不明になってるとかいう噂を聞いたことがあるわ」
「オズはいったい何を企んでいるのかしら……」
「よし! 助手クン、オズさんの所に行くわよ!」
「相変わらずですね先生は……いっそ小説家やめて探偵になればいいのに」
「何言ってんのよ! 私は小説をかくことが生き甲斐なのよ?」
と、前から思っていた愚痴をポロッとこぼした俺に、式部は人差し指を向けて指摘する。
数日前のセトの件も、彼女の探偵気取りの行動のせいでこちらまで巻き込まれたのだ。
「はぁ…そんな事より、オズのいる場所なんて知ってるんですか? 先生」
「え? あ…あはは…」
「オズはあの城に住んでいるわ。そう遠くないから、歩いても数十分で着くと思うわよ」
赤ずきんは割れた窓から見える、北の方にある大きな城を指でさす。
「よし、じゃあ行くわよ!」
「はいはい……」