朝、 目を覚ますと泣いている...そんなことが私には時々ある。なぜ泣いているのかは分からない。だが、その始まりは、心にぽっかりと空いた穴を埋めるかのように虚空や手を見つめる癖が着いたのと同じ頃------糸守にあの恐ろしい彗星が落ちてすぐだったような気がする。
こんなことをいつものように考えていると、ドアの外から、
「お姉ちゃん、はよ起きない!」と威勢の良い声が響いてきた。四葉だ。すっかり訛りも抜けて東京に馴染んではいるが、寝起きの良さは相変わらずで、朝は今でも小学校の頃と同じように私を起こしに来てくれる。まだまだ眠たいが、遅刻する訳にもいかないので仕方ない。「やれやれ」と目を覚まし、朝食、歯磨きを済ませて妹を見送ると、私は大学へと向かった。
あの事件の後、糸守高校は、まだ校舎が残ってはいたものの、安全面に問題がある可能性があるとして在校生全員が転校という形になった。もともと成績が良かったこともあり、私は東京のそこそこの進学校に転入できた。その機会に乗じてふるさとを失った祖母と妹と共に東京に引っ越したのだ。皮肉なことにあの彗星が結果的には宮水神社という足かせを壊し、夢の東京生活を実現させるきっかけとなったのだ。だが、当時の私はひどく不安定で東京を楽しむ余裕はなかったようだ。突然に何度も泣いたり、遠いものを見るような目で手を見ていたり---まあこれは今もそうだが---、と見ている方が辛くなるほどであったそうだ。私たち三人組が起こした事件は父がうまく揉み消してくれたようだ。というのもあんなに大事件であったはずなのに事件前後の記憶がはっきりしないので確信が持てないのである。
そうこうしているうちに大学に到着した。私の大学は、都内にある私立大学だ。高校時代に必死に頑張ったおかげなのか、自分にはとうてい無理だと思っていた大学に合格できた。今は授業も楽しいが、それよりもさまざまな友人達と交流が深められるのを嬉しく感じている。
「おはよう、三葉!」
後ろから声をかけられ振り向き、私も挨拶を返す。
「おはよう、ミキちゃん。」
彼女はこの大学でもっとも親しい友人だ。そして何より私が出会った人のなかでも郡を抜いて美しい。それゆえの苦労もあるようだが。今はイタリアンレストランでアルバイトをしているという。バイトをしたことのない私みたいなひよっこよりもずっと大人だ。彼女と他愛もない話を済ませると、私は一時限目の講義へと向かった。
結局、神社との縁は切っても切れないものなのか、わたしは文学部民俗学科に在籍し、日本の宗教について学んでいる。知っていたようで知らなかったことを知っていく感覚は新鮮で、いくら忌み嫌っていたとはいえ、神事をもう少し大切にすべきだったかなーなどと思っている。
お昼時になり、ミキと学校近くの飲食店で昼食をとりながら話をした。
「三葉、彼氏本当に作らないの?」
「ミキちゃんこそ。」
私たちは今日は彼氏の話題で持ちきりだ。別に自分が特段容姿が優れているとは思わないが、確かに華のJD2ともなれば彼氏の一人や二人がいても不思議ではない。ミキとなればいないはずもないと思う。
「でも、告白されても付き合いたいと思えないし、なんか付き合うのも間違ってる気がするの。何とも誰とも分からないけど、裏切るような気がしちゃってさ。」と私は言う。これはいわば定型文のような答えであって何一つ目新しいものではない。しかしミキは、
「そうだよねー。ごめん。」と、しっかり受け止めてくれる。私は彼女のこういうところが大好きだ。そのあと色々な話をした。その中でも印象的だったのはバイト先の男の子の話だった。喧嘩早くて、でも女子以上に可愛いこともあり、裁縫もうまかったりするその男の子の話になぜか、とても心がひかれてしまった。何か遠い昔を思い出すような気がしたのだ。そういえば、なに君っていうんだろ?名前を聞き忘れてしまったようだ。
その後も盛り上がったミキとの昼食も終わり、気づけば帰宅する時刻になってしまった。今日は家族三人で外食することになっているので早く帰ろうと急いだが、いつもより一本遅い列車になってしまった。仕方ない、近道するか。と私は帰路を急ぎつつ須賀神社の階段を下りる方向に向きを変えた。この道は暗い日は危ないが、今は夏。夕方とはいえどまだまだ明るく、だいぶ時間を短縮できたからだ。万が一にも滑り落ちないようにとゆっくりゆっくり降りていくと、下から男子高校生っぽい男の子が上ってきた。気づいたらその男の子にのみ意識が注がれていた。なぜかはわからない。ただ何か、そう例えるのならば糸に引き寄せられるかのように私は男の子に釘付けだった。それは相手も同じだったのかすれ違ったあと振り返り、一瞬目があった。しかし、気恥ずかしさからか私から目を反らしてしまった。こんなのは間違っているという心の声は痛いほどにわかってはいたのだが...。
一週間もすれば、記憶がはっきりしなくなり、その高校生っぽい男の子のことはほとんど忘れてしまった。だが、その日を境に私のこころに空いた穴はますます大きくなってしまったのもまた事実だった。
ふっさーです。読んでくださりありがとうございます❗なんとかなんとか書き上げました。最後の男の子とのすれ違いはスパークルのあれが一応モチーフです。更新は不定期になりそうです。すみません。 ⤵⤵
みなさま何とぞよろしくお願い申し上げます。