GOD EATER 防衛班の終極   作:アマゾナイト

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Fight to abstain

「おお……、やっぱ凄い数だな……」

 

螺旋の樹から2キロほど離れた廃ビル群。

いずれの建物も廃れ具合は甚だしく、窓ガラスは悉くが割れ、ひび割れた骨格は砂に埋まって傾いていた。

その中でも、比較的綺麗に形を保ったビルの屋上。

眼下で蠢く新型神機兵を、第一部隊隊長であるコウタが眺めていた。

イヤホン越しに、オペレーターのテルオミが話す。

 

『レーダーでも捉えました。数は24……。すでに敵の八割方の戦力が集結していますね』

 

コウタとテルオミが敵戦力の分析をしている中、エミールとエリナが話している。

 

「ハハ! 闇の眷属共め! こんな大群で攻めてくるとは、そこまで我々に恐れをなしたか! ……ん? エリナ君、緊張しているのかね? 少々手が震えているようだが」

「ハア!? 震えてなんかいないし。アンタだってさっきから膝がくがくじゃない」

「フ……、これは武者震いというやつだ。我が鍛錬の成果を見せる機会に騎士の血が……」

「隊長、そろそろ仕掛けますか?」

 

エリナはエミールのことは無視してコウタに言う。

 

「そうだな。よし、行くか」

 

コウタは神機を取り、二人に向き直る。

 

「最終ブリーフィングするぞ。今回の任務は陽動だ。ホントは別々に攪乱したいけど、敵は一心同体となって連携するらしいから、こちらも三人で行動する。絶対孤立するなよ。それと、少しでも危なくなったら即離脱」

「了解」

「心得た」

「いつも通り、二人が前衛で、俺がバックアップする。さあ――」

 

コウタは神機を体の横に、良く馴染んだ構えを取る。

神機を肩に乗せたエリナは、短く息を吐く。

エミールは神機を正中に構え、目を閉じ集中する。

 

「――ミッションスタートだ」

 

エリナとエミールがビルから飛び下り、コウタもそれに続く。

地面に着地すると、落下の衝撃で足がめり込む。

それをゴッドイーターの強靭な肉体で耐え、顔を上げ、敵を見据える。

怒涛のような神機兵の群れ。余りの迫力に少しだけ足が竦む。

だが、ここに立つは極東の猛者達。

逡巡は一瞬。迷いは切り捨て、開戦の狼煙をここに上げる。

 

 

 

 

「――第一部隊の陽動が上手くいったようです。新型神機兵24機のうち12機の足止めに成功しました。残りは極東支部とエイジスにそれぞれ6機ずつ向かっています。そちらのフィールドへの到着は、およそ300秒後と予想されます」

「おーし。ありがとうヒバリちゃん、ナイスボイスに今日も癒されるわ」

「……もう、大変な任務なんですから、ふざけないで下さい」

 

極東支部外部居住区のアラガミ防壁。人類最後の砦。

その外側には「創傷の防壁」と呼ばれるフィールドがあり、多くの防衛任務がここで展開される。

このフィールドは、いくつか小部屋のような空間があり、迷路のように通路が入り組んでいる。そのあちこちに、廃棄された自動車や戦車のガソリンから上がった炎が、消えることなく燃え続ける。

タツミ、ブレンダン、カノンの戦場はここだった。

タツミは離れた場所にいる二人に、そのまま待機するよう通信する。

そして目を閉じ、今回の作戦をもう一度思い返す。

昨日はサカキ博士との会議に続けて、具体的な作戦を話し合った。

敵は、ラケル博士が生み出した新型神機兵。

その目的は、極東支部を破壊し、誰に邪魔されることもなく終末捕食を完遂すること。

対してこちらの勝利条件は、別働隊が、螺旋の樹内部の新型神機兵の制御装置を掌握するまで時間を稼ぐこと。

この大規模防衛作戦のメンバーは、第一部隊と防衛班、そして第四部隊の合計10名。

相対するのは、新型神機兵30機。

敵は3倍。圧倒的な戦力差。

クレイドルやブラッドなどの突出した力をもった神機使いなら、この状況を如何に覆し、如何に打破するかについて考えるであろう。

だが、彼らは行方不明となったブラッドの捜索で手が離せない。

そこで、防衛班が取った戦略は、敵の戦力を分散。ゲリラ戦に持ち込み、時間を稼ぐこと。

その間に別働隊が新型神機兵の制御装置を掌握する。

彼らは自分たちが取れる、最良の選択はそれしかないと考えた。

決して悲観しているわけではなく、ロジカルに下した結論。

「勝つことよりも負けない戦い」。口には出さないが、最早これは防衛班全員が共有する思いであった。

 

(唯一俺たちが勝っているとすれば『地の利』くらいか)

 

今回の防衛任務の具体的な戦略は、まずコウタ率いる第一部隊が神機兵を陽動。極東支部やエイジスに到着する神機兵を遅らせる。

次に、極東支部はタツミ率いる第二部隊が、エイジスは第三部隊が迎え撃つ。

それぞれ戦い慣れた戦場で、全員の個性を生かした作戦を展開する。

 

「タツミさん。およそ60秒後に神機兵が到着します」

「ん。了解」

 

タツミは目を開く。

最初の自分の役割は、ここに来る神機兵全機を相手取ることだ。

集中は済ませたつもりだったが、それを考えるとなんだか緊張してくる。

正直怖い。

もっとヒバリちゃんの声を聞いて癒されたい。

 

「あのさ、この戦いが終わったら一緒に――」

「もう! いつ見つかってもおかしくないんですから! 集中して下さい!」

 

怒られた。

ったく、フラグすら立たせてくれない。

生き死にも、恋愛も。

まあ、だからこそ、生きて帰って、もう一度話さなければ気が済まない。そう思える。

視線を上げる。いつもの見慣れた曇り空の下に、灰と黒に蠢く異物を見つける。

 

(……来たな)

 

遂に、捉えた。

前衛の三機が剣を、後衛の三機が銃を構えている。

見た目はこれまでの神機兵と変わりない。

だが、きっちりとした隊列と、それを崩さず行進する様は、捕食本能に任せて荒ぶるだけのアラガミとはやはり異なる。

ラケル博士が開発した新型神機兵は、互いに繋がることで高度な連携を見せると予想されている。

今までにない敵。今までにない物量。

守り切れるだろうか。

だが――

 

「――ま、やれるだけのことはやってみるさ」

 

タツミは駆け出す。

神機兵が気付き、叫び声を上げる。

銃が三発撃たれる。

タツミはそれを難なく躱しながら、前衛の神機兵に近づく。

 

「――斬ッ!」

 

先ずは一手。剣の切先を後ろに下げ、身体の横から真一文字に振り払う。

しかし、その一撃は大剣型の神機兵に弾かれる。

そこへ、隣の長刀型神機兵がタツミに切りかかるも、ステップで回避。

回避した先にさらに銃弾。今度はギリギリで躱す。

 

「うお! やるな」

 

やはり、とてつもない連携力。

まるでこちらの動きが読まれているような気さえする。

実際には「神機兵が仲間の次の動き」を完全に把握しているから、そう感じるのだ。

 

(身体が別れているだけの、一集合体と戦っていると見て間違いないな)

 

すると、長刀型の神機兵が瞬時に距離を詰めタックルをかます。

タツミは避けきれないと判断。とっさに盾を展開し、後方に飛ぶようにして衝撃を流す。

神機兵はそのまま剣を振り下ろすが、跳躍したタツミに空振る。

頭がガラ空き。絶好のチャンスにタツミは神機を強く握る。

だが、視界の隅に銃を構える神機兵を捉える。

装甲を展開しながら着地し、ステップで退避。

 

(……隙が見当たらない)

 

ショートブレードの身軽さで翻弄しつつ、攻撃の間隙を果敢に攻め立てるも、即座に他の神機兵に援護される。

徐々に後退するタツミ。

切りかかり、防御され、攻められ、そして後退する。

それを何度も繰り返す。

決定的な打撃を与えることができない。

しかし、それは神機兵も同じだった。

決して戦闘能力が高いわけではないタツミに、しぶとく粘られ、苛立ちのような叫びを上げ始める。

やがて後衛の銃形態の神機兵もすべて剣形態に移行し、攻撃してくる。

 

(そろそろか……)

 

行き止まりに突き当たる。

左右と後方を壁に囲まれ、タツミに逃げ場はない。

神機兵達は彼を逃すまいと半円状に囲む。

一歩、また一歩と詰め寄る。

その瞬間。

 

「今だ! ブレンダン!」

「おおおおおお!!」

 

凄まじい衝撃。

壁の裏に潜んでいたブレンダンが溜めに溜めたチャージクラッシュを放ち、壁を貫く。

防御無視のブラッドアーツ「チャージブレイカー」は、その軌跡の悉くを灰塵と化し、敵を撃砕する。

身軽なタツミが神機兵を誘い、一撃に強いブレンダンが隙を突く。作戦が見事に極まった瞬間だった。

しかし、まだ終わらない。防衛班には極東一とも言える「大砲」がある。

ブレンダンはすぐさまタワーシールドを展開し、タツミがその影に隠れて叫ぶ。

 

「カノン!」

「あは!」

 

悪魔。正しく悪魔。いつの間にか神機兵の背後に、邪悪な笑みを浮かべたカノンが立っていた。

 

「かち割ってあげる!」

 

オラクルををめいいっぱい溜め込んだバレッドが炸裂する。

圧倒的な破壊力。容赦のない殲滅。

吹きすさぶオラクルの嵐は止まることを知らず、およそ10秒にわたって神機兵を滅する。

抗重力弾と充填弾を組み合わせた最凶のブラッドバレッド「メテオ」。

盾の中でも一番堅牢なタワーシールドを構えるブレンダンでさえ、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな威力だった。

嵐が落ち着き始め、敵影をかすかに捉える。

タツミとブレンダンは即座にプレデタースタイルに移行し、止めの一撃を放つ。

 

「もらった!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

それと同時刻。場所はエイジス。

到着した6機神機兵はそれぞれバラバラに行動し始めたため、第三部隊は各個撃破を目標とした。

ジーナが神機兵4機を止め、残りの2機をカレルとシュンが先に仕留める。

今のところ作戦は順調で、コンテナが大量に積まれた、薄暗い倉庫の中で、カレルとシュンは神機兵を追い込んでいた。

疲弊した神機兵がふらつく。

カレルは容赦なく弾丸を撃ち込む。

 

「貫け!」

 

カレルは攻退を見極めるのが上手い。

アサルト神機で中距離から弾丸をばらまき、危なくなったら迷わず下がる。

バレッドはヴェノムを中心に、「連鎖複製弾」を使用していた。このブラッドバレッドはアラガミに当たると弾丸自身が複製され近くの敵にさらに攻撃する。少ないコストで最大の利益をもたらす、まさにビジネスが得意なカレルらしいバレッドであった。

 

「そらよっと」

 

シュンが、ロングブレードの特性を活かし、移動しながら神機兵の脚を斬る。

続けて近くに放置されていたコンテナの上に飛び乗り、背後からブラッドアーツ『飛天車』を発動。

神機兵の弱点部位である背中を的確に斬り裂く。

すると、神機兵がついに倒れる。

 

「いくぜ!」

 

プレデタースタイルに移行したシュンが、止めを刺そうと走りだす。

その瞬間、身体のいたるところが裂け、本来ならば神機を持てないほど弱り切ったはずの神機兵が、ゆっくりと腕を伸ばす。

カレルは叫ぶ。

 

「待て! シュン! 何かする気だ」

 

時すでに遅く、シュンは捕食口を開いたまま突っ込んでいく。

しかし、神機兵は何もすることなくコアを抜かれ、2機とも活動を停止する。

 

「へっへー。案外楽勝だな」

 

コアを抜き取ったことで輝く神機を掲げ、シュンはお気楽に言う。

先ずは二機撃破。

完全勝利。

だが、カレルには違和感が残った。

 

(何だったんだ? 最後の動きは。あれはまるで――)

 

カレルは考える。

――今際の際に、神機兵同士が互いに手を伸ばしたような。

最後の命の灯をかけて、抵抗するのではなく、互いの存在を求めたような。

もしそうであるなら、神機兵が何らかの「感情」を持っていることになる。

命が消える恐怖よりも、仲間を思い合う。

――、あり得ない。神機兵が人と同等の「感情」を持つはずがない。

人に造られたとはいえ、奴らも「アラガミ」だ。

「極東支部を破壊しろ」「エイジスから攻める」といった単純な命令がラケルに組み込まれているだろうが、捕食本能が消されたわけではないはずだ。

だが……

 

「ん? どうしたんだ」

 

シュンが、自分の顎に手を当てて動かなくなったカレルに言う。

 

「さっさとジーナのところに行くぞ。あいつ1人で4機も相手にしてて大丈夫か?」

 

イヤホン越しに、オペレーターのウララが言う。

 

「ジーナさんも順調ですよ。傷一つなく神機兵を引きつけています」

 

案外、一番活躍しているのはジーナじゃないか。

こうして考え込んでいても、あいつに手柄を持ってかれるだけだ。

カレルは頭を切り替え、任務に集中し直す。

 

「わかった。ウララはそのままジーナのサポートを続けてくれ。俺たちもすぐ向かう」

 

カレルとシュンはジーナが戦っている方向へと走り出した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「もらった!」

 

時は遡り、カノンの一撃で神機兵を一網打尽にし、タツミとブレンダンが最後の止めを刺そうとしたその瞬間。

 

「……ん!?」

 

煙の向こうで、まだ立ったままの神機兵を捉え、二人はプレデタースタイルを解除する。

 

「クソッ。なんてタフなんだ……!」

 

タツミが吐き捨てた言葉に、ブレンダンが応える。

 

「いや。決して耐え切ったわけではない。だが、あれは……」

 

煙が晴れ、やっとタツミも状況を理解する。

そこに立っていたのは1機の神機兵だった。

そしてその周りに、その神機兵を支えにするかのように、二機の神機兵が倒れこんでいる。

生き残った神機兵が、狂ったように頭を振り回しながら叫ぶ。

 

「オオオォォォーオオオオアア!」

 

それは聞く者を揺さぶる叫びだった。苦しく、どうしようもなく悲しく、絶望に打ちひしがれる声。

 

「……っ」

 

タツミは息を呑む。

何が起こったのかは明らかだった。

もたれかかって倒れている二機の神機兵は、仲間をかばったのだ。

 

(マジかよ……)

 

アラガミに仲間意識はほとんどないはず。

コンゴウ系統は集団行動をとる種だが、それは偏食傾向が共通していることから生まれていると言われている。

種によっては、共食いを前提とした発生過程を持つものもいる。

ならば、とタツミは考え直す。

目の前で起こった出来事も、ただ、降りかかる火の粉から顔を手で守るように、1機の神機兵を残すため、2機の神機兵が反射的に選んだ反射的な「戦略」ではないのか。

 

「ウ、ウ、ウオォアアアア!」

 

違う。

それなら、こんなに叫ぶ必要はない。

仲間の死を嘆く必要もない。

そして、その死を与えた存在に憎しみを抱くことも……。

 

「……カノン!」

 

考えるのは後にするべきだった。

タツミが叫んだ時にはもう、神機兵は既に動き出し、カノンに剣を叩きつけていた。

 

「きゃあ!」

 

カノンは間一髪で避けるも、神機兵の一撃は地面に剣がめり込むほど強烈なもので、弾かれた土砂がカノンを襲う。

土砂を払いながら、なんとか態勢を整えて目を上げると、そこには既に剣を振りかぶった神機兵がいて……

 

(あ……)

 

だめだ、やられる。そうカノンが考えた瞬間。神機兵の後ろから影が飛び出す。

 

「させるか!」

 

逆上した神機兵は周りが見えておらず、背後から迫ったタツミに気づかなかった。

飛び上がりつつ斬り上げるブラッドアーツ「フェイタルライザー」が神機兵の腕に命中し、強制的に攻撃を停止させる。

 

「ハアアア!」

 

続けてブレンダンのチャージクラッシュが放たれ、ようやく神機兵が倒れる。

ブレンダンは神機の先に確実な手ごたえを感じながら、ゆっくり吐気して残心する。

 

「ふぅー……。大丈夫かカノン」

「あ、ありがとうございます。助かりました」

 

カノンは目前に迫った死に震える身体を抑えながら、なんとか返事をする。

すると、イヤホンからヒバリの声が聞こえる。

 

「神機兵、活動の停止を確認しました。なにか異常事態が起こったようですが、皆さん無事ですか!」

 

ヒバリの慌てる声に、タツミが返事をする。

 

「おう。とりあえずみんな無事だぜ」

 

神機兵6機を迅速に撃破。

結果だけ見れば上等すぎる戦果だが、どうにも違和感が残る。

みんなそれぞれ頑張ったのだが、予想以上にあっさり片付いた。

そして最後の神機兵の想定外の行動。

……作戦はこれで良かったのだろうか。まだまだ神機兵はやって来るのだから、もっと様子を見て、新型神機兵の情報を集めても良かったのではないか。

嫌な予感が胸を疼く。

立ち止まると、どうしても自責と後悔が溢れる。

だから、タツミは動く。

今できる精一杯の事をするために。

 

「ヒバリちゃん、サカキ博士を呼んできて欲しい。報告したいことがある」

 

こうして、新型神機兵とゴッドイーターの緒戦は防衛班の優位で始まる。

だが、この時はまだ知らなかった。

神機兵の真の恐ろしさを。

 




お疲れ様です。

戦闘シーンは初めて書きましたが、楽しかったです。

次回もよろしくお願いします。
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