第十一話です。
今回はオリジナルな部分が多い話になりました。
咲夜はラインハルトと別れ路地裏を抜けると、スバルの姿を探した。
しかし、辺りを見回してもスバルの姿を見つけることはできなかった。
どうやらラインハルトに呼び止められている間に、スバルは遠くに離れてしまっていたようだった。
(まあ、いいわ。どうせ目的地は盗品蔵だろうし、そちらに直接行けばいいか)
スバルの姿を完全に見失ってしまった咲夜だが、スバルの目的地が盗品蔵で、スバルと道に迷いながらではあるが、一度盗品蔵には行ったことがあるので、だいたいの位置も分かるため、咲夜が焦ることはなかった。
そして、念のため、もう一度辺りを見回しスバルが近くにいないことを確かめると、咲夜は盗品蔵へと足を進めることにした。
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咲夜は辺りに視線を巡らし、人気がないことを確認する。
そこは高い建物に囲まれた細い路地だった。
咲夜の足は地面から離れ、そのまま垂直に浮かび上がっていく。
そのまま浮かび続け、建物の高さを超えると、建物の屋上に着地する。
「進む方向はあっちね」
――盗品蔵へと向かう咲夜は、道を思い出しては進み、時折、人が辺りにいないことを確認すると、こうして空を飛んで建物の屋上から現在地と進んでいる方向が合っているか、確認していた。
この方法により、王都の入り組んだ道を、比較的迷うことなく、無事咲夜は盗品蔵前に着くことができたのだった。
空を飛んでそのまま直接盗品蔵に向かえばもっと早くに着けただろうが、まだこの異世界の知識をあまり持たない咲夜にとって、うかつに目立つことは避けるべきと考え、空を飛ぶのは、付近に人がいないことが確認できたときと決め、道が合っているかの確認だけに留めた。
「着いたわね。辺りにはスバルの姿は見えないけど、まだ着いていないのか、それとも既に中に入ったのか……。いづれにしても中を確認する方が良さそうね。スバルが居れば良し。居なければ、中で待つか」
以前の時と同様、古ぼけた建物である盗品蔵の前に着き、咲夜はスバルが近くに居ないことを確認すると、建物の中に入ることにした。
盗品蔵に入るためには、合図や暗号が必要であったが、咲夜は前回フェルトが建物に入った時のことを覚えていたため、フェルトの動作を真似ることで盗品蔵に入れるのではないかと思い、試すことにした。
咲夜が盗品蔵の扉前に行くと、フェルトが行っていたように独特の符丁でノックをする。見様見真似で試してみたが、中から返事が返ってくる。どうやら上手くいったようだ。
「大ネズミに」
「毒」
「スケルトンに」
「落とし穴」
「我らが貴きドラゴン様に」
「クソったれ」
その後、合言葉のやり取りを終わらせると、扉が開き、中から大柄の老人が顔を出す。
咲夜は老人の顔を見て、すぐには誰だか分からなかったが、前にエルザに殺されたであろう老人と同じ人物であることに気付く。
(まだこの老人が生きているってことは、まだことは起こっていないようね)
老人は合言葉を返してくる声から相手がフェルトではないことに気付いていたため、咲夜を訝し気な眼差しで見てくる。
「盗品蔵の合言葉を知っておるということは、客だろうが、お主、何用でこの盗品蔵に来た?」
「フェルトって子が盗んだものについて、用があるの」
「フェルトの……。なるほどのう、今晩フェルトが持ち込む品物があると聞いとったが、その依頼主がお主だな?」
「厳密には違うわね。わたしの知り合いがソレに用があるだけで、わたしはその付き添い。先に盗品蔵に来ただけよ」
「ううむ……分かった。なら中に入っとれ。そのうちフェルトとお前さんの知り合いとやらも訪れよう」
老人は、フェルトに前もって言い含まれていたのか、盗品蔵で依頼主との交渉も行うことを知っていた。
ここまで来ると咲夜にも経緯が読めてきた。
おそらくエルザがフェルトにエミリアの徽章を盗むように依頼したのだろう。
咲夜は老人がその依頼主との関係者と勘違いしているようだが、中に入るには都合が良かったのでそのまま訂正せず、老人に続いて盗品蔵に入る。
「中は酒場のようになっているのね」
「表向きは、じゃがな。裏では今回のように盗品蔵の取引を行う場所としても使用することがある」
咲夜は前回は余裕がなかったので、落ち着いて建物内を見回し、観察する。
(少し狭いけど、いざとなれば相手から距離をとって、ナイフを投げながら戦うこともなんとか可能そうね)
咲夜はカウンターにある一つの席に座り、フェルトとスバルを待つことにした。
理想としては、エルザが来る前にスバルが徽章を手に入れ、スバルとともに盗品蔵を立ち去ることだ。
「それにしても、合言葉のクソッタレって、もう少しいい言葉はなかったのかしら?女性に言わせる言葉ではないわよ?」
「そんなもん、こっちの勝手じゃろうが。それにこんな場所に来る奴なんて、どうせ碌な奴しかおらん」
老人の言いようはひどいものだったが、一理あると咲夜は納得し、それ以上の文句は言わなかった。
貧民街の盗品蔵に来るような人は大抵、後ろ暗い人物しかいないだろう。
「一応聞いておくが、お前さん、メイド服を着て綺麗な身なりをしているが、お前さんの知り合いとやらは金はあるんじゃろうな?」
「知らないわ。でも、あまりお金を持ってそうには見えないわね。持ってないんじゃない?」
「……それじゃ、話にならんじゃろうが」
咲夜はニッコリと笑みを浮かべながら堂々と言い、思わず老人はその綺麗な笑顔に見とれ、呆然する。
しかし、その後、咲夜の発言の意味を理解したのか、呆れてため息を付く。
「実際にお金を用意してくるかは、知り合いに直接聞かないと分からないわね。暫く待っていれば来ると思うのだけれども……」
「お前さんの知り合いとやらはどんなやつじゃ?」
「わたしくらいの年齢の男で、目つきの悪い幸薄そうな顔をしてる奴ね」
「幸が薄いって……。まだその男には会っていないが、なんじゃか同情しちゃいそうじゃの。まあ、せいぜいフェルトにふんだくられないよう気を付けることじゃな」
「忠告ありがとう」
咲夜に幸が薄いと言われた男に一瞬同情してしまった老人だが、咲夜に最後に忠告すると、酒瓶を取り出しラッパ飲みしはじめた。
「そういえば、これを拾ったのだけれど、値段にすればいくらくらいになるかしら?」
「ん?なんじゃ?何か鑑定してほしいのか?」
「鑑定ってほどでもないけど、一応どれくらいの価値があるかぐらいは知っておこうかと思ってね。ああ、後これは私物なのだけどこちらも鑑定してくれるとありがたいわ」
咲夜は先ほどチンピラから回収したククリナイフと自身の愛用の銀のナイフを1本取り出し、老人に見せる。
老人は咲夜の言葉を聞き、ナイフとククリナイフを手に取り、眺め始めた。
老人は暇だったこともあり、文句も言わずに鑑定をしてくれるよう。
老人は暫く眺め鑑定が終わったのか、ククリナイフと銀のナイフをカウンターに置き言った。
「お前さんなかなかに物騒なもん持ってるの。……こちらの銀のナイフはよく手入れがされておる。それに銀製でしっかり作られていて、なかなかの価値がありそうじゃわい。しかし、ものはただのナイフ。質が良いから好事家相手なら銀貨40枚くらいってところじゃろう。反対にこっちのククリナイフは手入れがされていない上に、安物じゃな。少し錆もあるし、ククリナイフは銅貨15枚ってところじゃな」
「その銅貨15枚ではリンガって果物はいくつくらい買えそうかしら?」
「なんじゃ、お前さんリンガが好きなのか?……そうじゃな、大通りのリンガ売りなら銅貨2枚で1個ってところじゃな。つまり……」
「8個ね」
「いや、銅貨1枚足りないから、7個じゃ」
「いえ、8個よ。大通りにいた、いかついリンガ売りは美人には弱そうだもの」
その咲夜の言外に自分は美人である、という当たり前の事実を述べるかのような発言に、老人は破顔する。
「がははは。お前さんは将来大物になりそうじゃの!」
(ひとまず、当面のお金はこのククリナイフを売れば、問題なさそうね。宿は最悪野宿も検討して……。私物のナイフの方はあまり売りたくはないけど、いよいよお金に困ったときには、最終手段として考えておく必要があるわね)
そうして鑑定が終わり、ナイフをしまった後も、咲夜と老人がその後も暫く楽しそうに会話を続けていると、扉の方からノックの音が鳴る。
どうやら新たな訪問者が来たようだ。
やっぱり、オリジナルな話の展開を書く方が楽しい。
さて、あらたに盗品蔵に訪れた人物は誰か・・・。原作を知っている人は分かっちゃいますけどね(笑)
リンガのお値段はWEB版の第三章5『約束の果たされるとき』を参考にしました。
銅貨2枚で1個の買い物をしていたので・・・
ちなみにいかつう顔のリンガ売りのガドモンさんが言うには銀貨は銅貨9枚分の価値だそうです。
ものの価値が分からなかった咲夜は、大通りを散策していたときに見かけたリンガを基準に自分の持ち物の価値を図ろうとしました。
ちなみにナイフの方は作者の適当です。だいたいこんなもんだろ、って感じで決めちゃいました。文句は受け付けますので、どうぞ感想に(笑)