ある日気がつくと生まれ変わっていた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが中略。微妙に黒歴史認定されそうな数々の羞恥体験を乗り越えると、そこは前世の大きなお友達向けアニメ、リリカルなのはの世界だった。な、何を言っているのか以下略。
どうやら私、八神はやてに生まれ変わったようです。な、なんだってー!
つまり魔法少女である。空とか飛んだり変身したりするのである。
ヤバい。超たのしみになってきた。
ヒャッハー! 今の私は止められへんでー!
――よい子の諸君! 羞恥プレイを素面で受け入れられるのは目覚めた人だけだぞ!
母乳では酔えないんや……ちくしょう……
……まずは泣いて寝よう。赤ちゃんの仕事は泣くことと食事と睡眠ですので。
◇1996年12月
ウチの娘かわいい。
最初は普通の育児記録を付けようと思っていたけど、ウチの娘が普通の子と違うのは疑いようがない。悪い意味ではなく。なので、日々の記録とは別にかわいい行動メモを取ろうと思う。だってかわいすぎるし。
まず泣き方がかわいい。泣くのを我慢しようとしているみたいに小さく泣き始めて、一瞬で悲しみが振り切れて「ぁ~ん!」みたいに泣く。でもその後また我慢する。何この娘ちょーかわいいんですけど。
あと動くものが大好きらしい。ベビーベッドの上にくるくる回る飾りを付けておいたら、ずっと目で追い続けて目を回して吐いた。で、バレバレなのに恥ずかしそうに手の平で隠そうとして失敗して「ぁ~ん!」って泣きだす。超かわいい。
ママ友にそれを自慢すると恐るべき情報を得た。我が娘の前世は猫らしい。なるほど、言われて見れば猫の行動そっくりである。数年前まで実家で飼っていたニシキの生まれ変わりであったとは盲点であった。それを聞いたはやてが泣き出したが、「ぁ~ん!」という泣き声はまさしくニシキそのものであったことを記しておく。自慢が増えた。
◇
おかーちゃんのおもちゃ扱いだった〇歳児は終わり私八神はやては一歳児となった!
おかーちゃん優しくしてはくれるけど、こっちを見ながらクスクス笑うのはやめてもらえませんかねぇ……。美人にそういうことされると心が折れちゃうんですよねぇ。
そしてたぶん、おかーちゃんの方のおじーちゃんおばーちゃん。何で私を呼ぶときに他の名前を呼ぶんですかねぇ……。猫ちゃうわ阿呆! ということで無視してやった。そしたら何故かおとーちゃんとおかーちゃんまで猫の名前で呼び出した件。泣くで? と思った時には既に実行しているのが乳児クオリティ! 反省せぇ!
……めっちゃ笑われたんですが……。何が「ほらニシキやろ!」やねん。こいつら許せん。こうなったら、好き嫌いいっぱいしたるから覚悟せぇよ、ど阿呆!
と思ったけど、離乳食のクッキーが美味しすぎて好き嫌いできひん……。
もぅャダ……ひどぃょ……。というかこのクッキーはホントに美味しいからメーカー覚えとこ。視力がアレだけど色くらいは分かるやろ!
…………なんやねんこの色。あお? みどり? 何て言うのかわからん……。
◇1997年9月
離乳食後期の愛娘がママ友に聞いた喫茶店のソフトクッキーにドハマリして箱ごと食べようとするなんて……。
出された分を全部食べちゃうせいで好き嫌いがわからないのは……たぶん良いことなのだろう。良いことだと思うことにする。ちなみに食べ過ぎると吐く。そして隠そうとして失敗して泣く。年不相応に賢いかと思いきや学習能力がないところも超かわいい。
旦那との間で精神年齢が高いだけの赤ちゃんかそれとも猫かという議論が絶えないが、その日の観察結果によってお互い立ち位置が変わるので終わりはなさそうだ。
ただ最近、精神年齢が高いということを確信させる出来事があった。
ビデオ教育と言うのか、乳幼児向けのビデオを見せたところ、だいたい対象年齢の高いものほどリアクションが良かったのである。幻術か?
驚いたのは、ウチらが見ようと思って借りてきた紅の豚を見ているとき、初めてポルコが現れるシーンで「豚や!」と言って立ち上がったことだ。「豚や!」の発音が良すぎて旦那共々タオルと雑巾の世話になった。それに、ハイハイが苦手だったことから立ち上がるのはもうしばらく先だと思っていたが、ジブリは偉大であった。それともまた幻術なのか?
なお、クライマックスの空中戦は立ったまま観戦し、あまつさえ体全体で画面を追っていたせいで何度か倒れそうになっていた。はやてのことが気になりすぎて映画に集中できなかったので明日もう一回見ようと思う。今度はカメラを用意しておくつもりだが他意はない。
◇
そろそろ幼児の演技は終わりにさせてもらおうか! ということで色々観察してみたんやけど、おとーちゃんの読んでる新聞を盗み見てて気付いたことがあります。
なに書いてあるのか全くわからんです。
もう一度言おう。漢字はおろか、ひらがなカタカナも読めないことに気がついた。
そういえば色の名前もよくわかりませんでしたね……今さら気付くとは……私に忍の才能はないのか……なんでや! ちゃんと聞き取れるし知識はあるやろ!
というわけで知識のすり合わせを兼ねて絵本をねだる作戦に出ることにしました。
はやてちゃんやでー! と、ハートを振りまかんばかりの笑顔でお願いすると一発で成功。やはり天才か……というか普通に本棚に絵本置いてあったわ。いま気付いたけど。背表紙にタイトルも書いてあったわ。読めないけど。
ほう。これは『かわいそうなゾウ』って読むんか。
…………なんでや! 子供に聞かせる話ちゃうやろ!!
◇1997年12月
はやてが旦那の読んでいた新聞を見てショックを受けていた。日本メーカーがF1から撤退したことがそんなにショックだったのか。いや、真実は旦那のオーバーリアクションを真似ただけなのだろうが。カメラが間に合わなかったのが残念だ。
その後はやてがねだるので絵本を読み聞かせることに。まだ修行には早いと思うが、精神年齢は高いのでテレビで見た子供を真似たいのかもしれない。はやてが『かわいそうなゾウ』をチョイスしたので読むことにしたが、一歳半にしては渋すぎる趣味ではなかろうか。
と思ってたらはやては天才だった。絵本を二回読んだだけでゾウというカタカナを読めるようになった。一週間で新聞の見出しからひらがなとカタカナの部分を読み上げてみせて旦那を驚かすに留まらず、テレビでCMを見て数字を覚えたらしく、CMソングを歌いながら数字をお絵かきして義父母まで驚かせていた。大したやつだ……。
でもおむつを変えて欲しいときは、まだ恥ずかしそうに「ぁ~ん!」と泣く。あと、時々お菓子食べ過ぎて吐いてる。全く学ばない。大変だけどかわいい。
いよいよ天才説が現実味を帯びてきたので、子供向けのテレビ番組の中から比較的に対象年齢の高いものを選んで見せてみることにした。
幼稚園児くらいを対象にした歌と踊りの番組は「興味ありません」という様な目で見ていたが、年長組から小学校低学年くらいまでを対象にした動物や植物を紹介する番組には興味津々だった。なので、これからは両方見せていこうと思う。歌や踊りを見ている際に身体がリズムを取っていたことなどウチにはバレバレなのである。本当に猫みたいでかわいい。
◇
おかーちゃんが紅の豚を好き過ぎる件について。きゃー、豚さん抱いてー! と、そういうことなのだろうか。おとーちゃんとの仲は悪くないはずなのだが。
まぁ私も面白いと思うから毎月借りてくるのは別にええんやけど? そのたびに感想を求められても困るんですよねぇ……。
というか自分の知識がかなり表面的なものに限定されているということに気付きました。だからおかーちゃんの見せてくれる教育番組はいちいち知らない現象ばかりで驚くわけでして。私が無知なわけでは決して……いや、これは私が無知なんか?
そして、もしかして私はリリカルなのはについてもよく分かってないんじゃないかという疑念も生まれたわけです。思い出せる範囲では海鳴市と、リンカーコアと、魔法少女と大きいお友達と、なのはちゃんとはやてちゃんやでーと、ジェノヴァ式変身術と、猫と狐とハリネズミだったかと、海老天の書みたいな本と、ベルカ式国防術(ここは南ベルカだ)と、ミッドなんとかーって街からライフストリームと宇宙戦艦が飛び出すのと、公安九課と、セフィロスがメテオ打ってエアリスがホーリーを使うことと、青い宝石になんか模様が浮かんでる姿くらいである。飛行石、ソウルジェいやマテリア? 娘? やったっけ?
MPきゅうしゅうマスターコマンドまほうみだれうちベルカ式アルテマWまほう少女ロードはやてぃーちぇちゃん、か…………め、めちゃ強そうや。
これも勉強して行けばわかるのだろうか? 飛行石が出るということは前に見たラピュタの続編だったりするのか? 海老天ということはレシピ本が魔法のアイテム? 公安……シータの子孫を追う展開で? ミッド……外国が舞台になるということ?
つまり引っ越すんか? なのはちゃんと一緒に? 蒸気と炭鉱の町へ? そして公安に就職して料理中に偶然魔法少女に? この家のローンまだ終わってないやろうに……おとーちゃん、どないすんのやろ……心配や。離婚とかせぇへんよな?
◇1998年6月
娘が父を見る視線が妙に悲しげです。また何か変なことを考えてるのだろう。この前は電話中の旦那が、見えてもいない相手にオーバーなリアクションをとっている姿を見て同じような目をしていた。あれは娘が見ている前だからボケていただけなのだが、流石にそこまではわからなかったのだろうか。というか電話の概念は理解できているのか。まだ数度しか使わせていないのだが。天才か。先日など通販番組を見て「欲しいけど難しいわー」などとぼやいてたらはやてが電話を掛けてくれた。……違うのだ。欲しいけど手が出せないという意味であって、自分で電話が掛けられないという意味ではないのだ。床置きのダイエット器具はスペースを取るのだ……。
近所に住んでいるウチの両親よりも遠く関西に住んでいるはずの義父母の方が頻繁に遊びに来てくれるのだが、ウチの両親は娘と孫娘が可愛くないのか。いや、これは義父母の方が元気すぎるのか? 片道四時間近い運転を苦にしないのは我が家の定番おやつ
義父母が帰宅したあとに気付いたのだが、はやてが黒い大きなハードカバーの本を抱きかかえて寝ていた。鎖が十字に巻かれている上にゴールドな十字架つき。めっちゃ高そうなんですけど……義父母ははやてに何を望んでいるのだろうか。とりあえず十字架が尖っていて危ないのではやての手が届かない場所にしまうことにする。はやてには代わりに大きさが近い紅の豚ジグソーパズルを抱かせておいたら起きたときに大興奮していた。チョロかわいい。
そしてその日のうちに一五〇ピースのジグソーパズルを完成させていた件について。思わず幻術の可能性を疑った。やはり天才か……。
◇
夢の中で黒い本が目の前に現れて心臓を思い切りつねられたような気がしたんだけど、目が覚めたら豚ちゃんのジグソーパズルを抱いていた……何を言っているのかわからねーと思うが、これはおかーちゃんの仕業やな……。こいつのせいで変な夢を見たんやろ! オラッ、観念せぇ! と、その日のうちにパズルを完成させて次を要求してやりました。ざまーみろや! え? いや、別にほめて欲しかったわけやなくてですね……。
喫茶翠屋の持ち帰りケースに書かれた翠屋という文字を書けるようになったのでおかーちゃんに自慢したら、こっちはこっちでクッキーを催促してると思われた件。
ちゃうねん……。いや、イチゴ味も美味しいんですけど、ちゃうんです。こんなん食べ過ぎたら紅の豚になってまうやろ! や、上手いこと言いたかったわけやのぉて、太るって言うとんねん。気付やアホぉ! や、芸人になりたいわけやのぉて、私は魔法少女になるからツッコミとか上手い言われても嬉しぅないわ!
とか言ってたら魔法少女のアニメDVDを見せてくれることになりました本当にありがとうございます。というわけで勉強や! マスコット! 杖! 呪文! 変身!! そう! こういうのを求めてたんです。豚ちゃんになりたかったわけやないんです。あっ、待って。おしまいの歌を歌い終わるまでDVD止めんといてください。ちゃんと見てるんで。振り付けも完璧やでー! これでいつ魔法少女になっても大丈夫やな!
あ、ちなみに箱に書かれた翠屋のロゴの色はエメラルドグリーンでした。その節はお騒がせいたしました。あれ……もしかして
◇1998年11月
いくら精神年齢が高そうだとはいえ、わずか二歳で小学生女子向けアニメのエンディングの振り付けを覚えてしまうとは……この五十鈴の目を持ってしても見抜けなかった!
誕生日に義父母からプレゼントして貰った紅の豚のポルコ人形を妖精さんの代わりに、押し入れから旦那のスキーストックを引っ張り出して来てホウキの代わりにしていたのは感心した。ちょー賢い上にちょーかわいかったので、ちゃんとビデオに収めてママ友に自慢した。
ところで、はやてはまだ頭が重いのかよく転ぶ。元気は良いのだがこれではあまり外に連れ出せない。七五三の相談ついでにママ友に話してみると、海鳴臨海公園をオススメされた。舗装された平坦な道を始めとして、芝生の広場や土で覆われた緩やかな斜面まで揃っている歩行トレーニング向きの公園で、駐車場もついて景色も良いので平日はママ友と子供で、休日は家族連れで賑わっているのだとか。お昼前後には移動式店舗で軽食も売られているそうだ。しばらく近所の公園で慣らしてから、いずれ旦那を誘うとかして出かけることにしよう。
最近常連となっている喫茶翠屋だが、パティシエが産休から完全復帰したそうで焼き菓子以外のメニューが充実していた。ランチメニューも拡充していたので、ものは試しとシェフ月ノ輪のオススメ日替わりランチを頼んだら世界が変わった。何だこれは、神の食べ物か! これからは三日に一回は来店しよう。もちろんお持ち帰りでシュークリームとソフトクッキーも購入した。はやてがシュークリームのおいしさにビックリして停止していたのでビデオで撮影しておいた。義父母にも見せてあげよう。
◇
七五三を終えてからここまで、おかーちゃんが週三ペースで翠屋に通い詰めている件。そんなにハマったんか。私も一緒に来とりますけれども。
や、それ自体はええんよ? でも大人が押したり引いたりするための、プッシュハンドル付きの三輪車って言うん? アレでお出かけとか、正直恥ずいんですけど……。や、歩くのはちょぉ遠いから堪忍して欲しいんやけど、だからと言って抱っこして欲しいわけやないんです。や、猫ちゃん柄が嫌や言うわけやなくてですね。や、そら赤いのがええっちぅか、紅の豚とか関係なしに比較的マシと言いますか、ねぇ。ほら、わかるでしょう?
そんなこんなだが、足繁く通っているうちに理解したこともあるわけでして。
この店は美男美女の巣窟である!
まずはカウンターの中でコーヒーを入れたりレジを担当している男性――ちょっぴりワイルドな印象のイケメン。そして、休日だけウェイターとして働いているバイトくんらしいちょっと無口な高校生くらいのイケメン少年、キョウちゃん。極めつけはランチで「シェフ月ノ輪のオススメ」を注文したときだけ現れる爽やか系の超イケメンシェフ月ノ輪さま! 女の子の方は省略するけど、そっちも軒並みレベル高めやったし。
おかーちゃんは翠屋に来る度に二〇〇〇円のシェフオススメランチを注文してるんやけど、それお店の策略にまんまとハマってませんかね? ちなみにこれはおかーちゃんに限った話ではなく、お店に通っているらしきお姉様方に共通する
まぁランチそのものが美味しくて糖質脂質カロリー控えめなのに腹持ちが良く、パンとメインを月ノ輪シェフが、デザートとコーヒーをカウンターのイケメンが運んできてくれるという、どうぞ溺れて下さいさあ早くと言わんばかりの罠なので仕方ない。ついでに私のランチが毎度五〇〇円のお子様ランチになっているのも仕方ないんや……。
クッキーとシュークリーム買ってくれるから私は毎日来てもオッケーやけどな?
◇1999年3月
翠屋に通い詰めていることが旦那にバレた。はい。毎月一〇回以上もランチに出かけてたら気付きますよね。そのたびにお土産のクッキー買ってきてますもんね。違うんです。これはウチの意思ではなくてイザナミなんです。
お子様ランチが超美味しいというはやての援護射撃と愛娘の歩行訓練のためという免罪符で難を逃れたが、二〇〇〇円の豪華ランチはバレたら最後の晩餐なのでレシートは隠しておこうと思う。ポイントカードが毎回六ポイントずつ貯まっているのもマズいか。だがもうすぐ五〇〇ポイントの特典、シェフ月ノ輪の魅惑のディナー最上級コース予約券が手に入るのでその時には旦那を誘って食事に行こう。いやー、自分で言うのもなんだけどいい嫁だわー。ウチが男だったらこんな美人で献身的な女は放っておかないだろう。
だが、予約券は一枚で一人まで。大人一人とお子様コース一人を追加した場合、プラス四万五千円である。……四万五千円……普通に通えば一五回行けるな…………。
毎月一〇回を超える頻度で片道二㎞の散歩を続けたおかげか、はやての運動能力が旦那を上回りかけている気がする。まだ時々は転ぶのだが、手袋と厚着が許された冬の間に転び慣れたおかげで怪我もほとんどなくなったのは幸いである。お気に入りの紅の豚手袋に穴を開けてしまったときは食事も喉を通らないほどショックを受けていたようだったが、代わりに春用の飛行帽を用意したら喜びすぎてむせていた。その後手袋を神棚にお供えしていたので写真に納めた。
三輪車に乗って出発するときに必ず飛行帽を被ってサムズアップするようになったので、正月に遊びに来た義父母とウチの両親へ紅の豚を見せた上ではやてを三輪車に乗せてみた。
もちろんその様子はビデオで保存しておいた。ウチの娘超かわいい。
◇
なんか最近ビデオとか写真とか撮られるの平気になってきたっちぅか、気にならんようになって来た言うんか、だんだん快感に変わって来たっていうか。……今わかりました。宇宙の心ははやてちゃんやったんですね。
私の勉強したいという意欲とダンスが認められたのか、なんとこのたび齢三歳にして動物図鑑を与えられてしまった。自分の才能が怖いわー。しかもかなり本格的なの。裏見たら九〇〇〇円とか書いてあったから、驚いて失神するフリしたらおとーちゃんにバカウケやった。あ、吉本入りたいワケやないんでスカウトはお断りしますー。あと、おかーちゃんが翠屋のポイントカードを未だに隠しとる件については黙っといたるで安心せえ。
まー、動物図鑑なぞDVDで予習しとる私には余裕やろとか思って読んどったら、車よりデカいヘラジカとかいう生き物が実在した件について。こんなん……アカンやろ。奈良におったら世紀末やん……。勝てる気がせん。
ヘラジカはともかく。未来の魔法少女はやてちゃんとしてはパートナーである妖精さんの予習は欠かせないでしょう。というわけでマスコットっぽい生物をピックアップ。
一つ目は猫。かわいい。二つ目は子狐。かわいい。三つ目はハリネズミ。かわいい。ふくろうもかわいい。蛇とかカエルはちょっと嫌やな。豚は、…………豚はどっちやろ?
◇1999年8月
はやてが動物図鑑を開いて「世紀末や……」とかつぶやいているのを目撃してしまった。まるで動物博士だ。確かに今は世紀末ですけれども三歳児なんやから未来のこと考えような。一九九九年七の月も無事に過ぎたんやで? 来年から二十一世紀やろ?
満を持して家族で海鳴臨海公園へ遊びに行ったら初回で月ノ輪シェフに遭遇するとかミラクルが発生して本日の運勢がジャックポット。一時行方不明となっていたはやてを抱き上げて大声で保護者を探し回ってくれたらしい。はやてはお姫様抱っこまでされてご満悦の様子であるが、これには母として遺憾の意を示さざるを得ない。そこを替われ。しかし、月ノ輪さんが連れていたご近所のお子さんともども翠屋のランチへ誘われたのでひとまず許す。ランチ? イザナミだ。
翠屋に向かう道で月ノ輪さんから聞くところによると、近所の道場で護身術の教室を開催しているらしく、ご近所さんたちには先生と呼ばれているそうだ。用心棒か。学生さんらしい生徒さんによると、月ノ輪さんは去年誘拐事件に遭遇した際、迷わず犯人たちの前に飛び出して自動車一台を素手で破壊し、銃火器で武装した犯人グループ数人を一人残らず叩きのめして人質を救出したのだとか。流石に盛りすぎやろーと思いながら相槌打ってたら、すれ違った婦警さんから本当に表彰を受けて警察署で指導するくらいの忍術の達人であると聞かされ本日何度目かの胸キュン。婦警さんたちの目にハートマークが浮かぶのも納得である。忍者なら仕方ない。さすが忍者。
ウチにも指導して欲しいですーと媚びてみると、ウチと旦那の地元商店街を思い出すノリで月謝一千万円を提示される。高いわ、阿呆! しかも回覧で回ってくる地域広報誌にも広告を出してるとか。え? 一千万円って書いてあんの? 気になる!
などと油断していたらランチのコースをご馳走になった上、あの伝説の「お代は既にいただいております」をやられてしまった。ま、まさか、こんなことが現実に起こりうるのか! と、旦那と揃っておののいていると、追い討ちにお好きな持ち帰りデザートをご注文下さいとか告げられる。思わず魅惑のディナー最上級コースの予約までしてきてしまったが、後悔はない。何しろランチにいくら使っているのか旦那にバレずに済みましたので。
ところで護身術教室の月謝一千万円は旦那に頑張って支払わせようと考えていたが、帰ってから地域広報誌を調べてみるとなんと実際の月謝は千円で、しかも同性の家族はひとまとめ一括千円で良いとか。こんなん安すぎやろ。と思った時には既に申し込みが済んだ後であった……。はやての運動服用意せな。
◇
はーい。公園で両親に捨てられかけた挙句、いろいろあって月ノ輪センセーのパーフェクト運動教室に通うことになったはやてちゃん三歳やでー。
そして、通い始めてから確信したんやけど、高町さん家のなのはちゃんって、魔法少女のなのはちゃんじゃないですかね? この道場、月ノ輪センセの家じゃなくて高町家の道場らしくて、毎度高町家の女性陣全員が教室に参加しとるんよね。自宅に道場があるとか……リリカルな魔法少女の道は厳しいと言わざるを得んわ。
とりあえずおかーちゃんとトレーニングウェアを買いに行ったんやけど、何がなんでも豚ちゃんおすすめしてくるのはやめてくれませんかねぇ? おかーちゃんのとお揃いのを選んでやったわ。いや、おかーちゃんとポルコのどっちが好きかとかそういうのええんで。そんなんおかーちゃんに決まっとるやろ! 言わせんな恥ずかしい!
泣き真似とかええから は よ 買 え。いや、感動した! とか、誰の真似や。
気合十分なのはちゃんには負けてられへん、と意気込んではみたものの。何あの怪童。二歳半のくせに宙返りとか一八〇度開脚とか直立からのブリッジからの倒立とか! 私はいまだ前転レベルなんですがそれは。正直言うと新体操を観客席から見とる気分でした。なのはちゃんがんばれー、みたいな。やはり魔法少女か……。
私はいま股割と前屈の練習中やで? あと、バランスを取る練習だとかで、片足相撲だとかバランス崩しだとか膝タッチだとかジャンプジャンケンだとか、色々遊びを教えて貰ってなのはちゃんと熱戦を繰り広げたり惨敗したり。なのはちゃんは怪童やけど素直やから勝率は半々くらいです。まぁスタミナはボロ負けなんですけどね。ハハッ
せやからですね、ちょぉ待とうや、なのはちゃん……。いや別に、勝ち逃げするつもりやのぉてですね。や、年寄り臭いと言われて奮い立ってた頃の私はもうおらんのですわ。年で死んだんで。あっ、ちょ、無理矢理はやめてって……な? やめよな? あ、これ無理なヤツや、アカンやめてください死んでしまいますセンセーたすけてー!
◇2000年1月
どうやらウチの娘は負けず嫌いであったらしい。高町家の天才幼女なのはちゃんと迷勝負を繰り広げるうちにみるみる運動が得意になっていく。もちろん月ノ輪先生の指導あってこそなのだろうが、それにしても二人とも天才かと。
さらにウチも指導の効果か、体重は低空飛行、体脂肪は着陸態勢、上半身がストレッチで大地に着陸できるという魅惑のボディを手に入れつつある。アカンやろ……月ノ輪先生がウチに惚れたらどないすんねん。ということを、高町家の桃子お母さんやはやてと共に話していたところ、肉食系なのはちゃん(三歳前)が「話は聞かせてもらった。先生はなのはと結婚する!」と乱入。月ノ輪パパも交えた四人で結婚生活ごっこへ突入する。
と、そこまでなら微笑ましい話で片付けられたのだが、護身術教室に来ていた他の女性陣も我先にと参加し始め、夫一人に妻一五人(内人妻四人)という、ただれた結婚生活に変貌した。ウチも最初は冗談半分だったのだが、月ノ輪パパに「ただいま五十鈴。お夕飯ありがとう」と微笑まれたときにはキュンとしすぎて……体が勝手に……再婚を考えてしまった。なお、最後まで冗談で済ませられたのは高町家の桃子お母さんとウチのはやてのみである。先生いつか刺されんで?
と、そんな風に油断していたらはやてがちゃっかり月ノ輪先生の携帯番号をゲットしていた件について。え? いつの間に? と、素で聞いてしまった。そのことに気がついたのがはやてが電話中の話であり、架空の話し相手かと思いながら電話を替わったら受話器の向こうから急に月ノ輪先生が来たのでよそ行きの人格と内向きの人格が空中衝突の後、空中卍解した。
バレてませんように、と祈りつつ翠屋に向かったが案の定あっさりバレており、しかし、月ノ輪先生に「五十鈴お母さんは家庭的でステキだね」と微笑まれて嬉しいやら恥ずかしいやらで思わず悶えてしまったのだが、それを見ていたはやてにドラマでしか見たことないくらい冷めた目を向けられて、心の折れる音がした……。
すんませんはやてさん、謝りますんでそんな目で見んといてください……。あと旦那には黙っておいてください……。こないだのクリスマスに魅惑のディナーへ行ったとき月ノ輪先生差し置いて煽てて最高の嫁さんやって台詞言わせたばっかなんです……。でも実は二枚目のポイントカードもそろそろ五〇〇ポイント溜まってしまうんです……。
故に翌朝、先生との二度目の電話中に「はやてちゃんは賢くてかわいいね〜」と言われて悶えているはやてを見て冷たく当たってしまったことについて謝る気はない。もちろん、聞き耳を立てていたことについても母として当然の権利であると主張する。
◇
おかーちゃんが先生にデレ始め……いや、最初からデレとったか? とにかく、おとーちゃんと離婚からの引っ越し、ミッドなんとかで公安魔法少女に変身フラグが立ったような気がするようなしなくもないような昨今皆様いかがお過ごしでしょうか。はやては大丈夫です。
最近影の薄いおとーちゃんだけど、なんと昇進からのボーナスとローンの組み換えで、ローンが残り六年から二年になるというウルトラCを決めて存在感をアピールしとるみたいです。金メダル級やでおとーちゃん! と褒めたら自分で点数をつけ始めた。太陽万歳のポーズや!
が、ここに来て驚愕の事実が発覚。この大昇進劇の裏側ではおとーちゃんの会社が吸収合併されとったんやけど、この合併して親会社になったんが日本屈指の複合企業に成長中の、いま最も熱い企業『ルル(Lulu)』で……そこのオーナーが月ノ輪先生なんやと……。
もっと詳しく言うと、ルルは元々ファッションブランドで、社長のエリーゼさん、モデルの夏姫さま、出資者の月ノ輪先生で起こした企業やったらしくて、現CEOのエリーゼさんと常任役員の夏姫さまがそれぞれ株式の三割ずつ、月ノ輪先生が権利の四割を持ってて、配当もそれに準じてるとかなんとか。夏姫さまとか超有名人じゃないですか。
純粋を装って、それっていくらくらいなん? と聞いたところ、ルルの純利益二〇〇億円のうち四割を好きに配分できる権利があって、去年の配当金は一〇億円だったそうです。流石の先生も、私が純利益とか配当金なんて言葉を理解しとるとは思わんかったんやろうなー。
配当すらおとーちゃんの年収の五〇倍なんですけど、それは。株式価値はその五〇倍はありそうなんですけど、それは。そして受話器の反対側で聞き耳を立ててたおかーちゃんのリアクションがめっちゃ恐ろしいんですけど、それは。
ちなみに遠目に見てもデカい月ノ輪先生の豪邸(推定一〇億円クラス)はローンなしで建てたんやって。格差社会か!
あ、そうそう。私もいろんな服着てみないか言うて誘われました(モデル話)
◇2000年6月
未来のスーパーモデルはやてちゃんの就職と四歳の誕生日をダブルで祝ってもらえるということで、イケメン大金持ちの月ノ輪先生の豪邸にお邪魔したのだがそこで格差社会を実感した。いや、あのスーパーイケメンの周りに女っ気がないはずがないと覚悟はしていたのだが、そんな生ぬるい想像ではとても現実には追いつけていなかった。
まずメイド。しかも超美少女。同性なのに抱きしめたくなるレベルの可愛らしさ。実在したのかメイド……とか思ってたら庭師やら何やらわんさかおるとか。よもや庭師までも実在していたとは大した屋敷だ……この五十鈴の目を持ってしてもわからなかった!
次に現れたのも超絶美人。一人は旦那の上司で、世界屈指の女性経営者とか言われてるエリーゼ最高経営責任者閣下。もう一人が世界最高峰のスーパーモデルで現代のかぐや姫こと夏姫様。なんと先生と同居してるとか羨まけしからん状態であることが判明して頭どうにかなりそう。こっちの二人組みは直視するのも恐れ多いと感じるレベルの美人さんである。視界内でこの人らの周りだけ光が溢れて宝石が散りばめられとるような格差社会現象を感じる。
そして次から次へと現れる美人アーンド美少女。すべて、今日ルル本社に居た現役のモデルさんたちだそうで、これだけでも心がポッキリ行きそうだったのだけど、誕生日ケーキを作ってくれた美人パティシエこと高町さん家の桃子お母さん、そのお手伝いをしてくれた美幼女なのはちゃんがドレス姿で登場してくれちゃった後が凄かった。
なんと、ハッピーバースデーの声と共に始まる生演奏。人気バンド『ベイリービーズ』の演奏に合わせて、天使のソプラノ『SEENA』様の歌声が響くのである。ありえんやろ! それどこの大統領夫人のバースデーパーティー? え、本社にいた? で、コンサートに?
はやてははしゃぐだけで済んだが、ウチは気絶する寸前で月ノ輪先生に抱き留められて勢いそのまま瀕死のフリをしながら結婚しようと誘ったが「いいえ。私は遠慮しておきます」とか返されて失敗した。ガードが堅い!
ちなみにここまで全員ドレス着用である。パーティーやん。いや、確かにパーティーて聞かされてたけれども。ドレスとか。ドレスとか! ドレスとか!!
と思ってたらさらにサプライズ。なんとエリーゼ最高中略閣下がはやてとウチのためにドレスを用意してくれているとか。どんだけやねん。あ、でもAラインか。
流石にウェディングドレスよりはなんぼか安そうかなー、大丈夫かなー。という程度のドレスを纏って真打ち登場! とばかりに会場に戻るとウチのウェディングドレスばりに飾り立てられた娘を発見する。ヤバい、羽とかフリルとかもりもりやん。いくら掛かってるんだろうかと思ったが、それも今さらなのでカメラの操作に集中。
そして現役モデル、現役歌手らと共に囲む食卓。緊張しすぎてナイフとフォークが滑りまくったけど、心の清涼剤ことなのはちゃんと愛しのはやてが隣でずっと笑ってくれていたおかげで何とか食事会を乗り切るのに成功。この緊張していてもわかるくらい美味しい食事は案の定月ノ輪先生の手作りだと確認して追加で悶絶。
その後、ウチが勢いからもう一度月ノ輪先生に結婚を申し込んだことを皮切りに何故かその場の女子全員が先生に結婚を申し込む流れに。五人くらいキスしてたけど月ノ輪先生は「女の子が自分を安売りしちゃ駄目だよ」と困り顔で説教。あれだけの美人に迫られて自制するとかコイツ本当に男か? と思ってたら「代わりに好きって言って」とおねだりされて顔を真っ赤にしていた先生をウチは……なんだか……食べちゃいたい……と思いました、まる。
食事会が終わったらみんなでゲーム大会やらカラオケやら。
格闘ゲーム、ロボット格闘、レースゲーム、パズルゲーム、シューティングゲーム、ゾンビアクション、釣りゲームなんかのテレビゲーム。ポーカー、ブラックジャック、バカラ、七並べ、ばば抜きなどのトランプゲーム。他にもカードゲームやら射撃やら。
全てのゲームで参加者が一〇人から一五人くらい居たのに、すべてトップと二着を月ノ輪先生とエリーゼ閣下が競い合うというワケのわからない展開に。なんやこの人ら強すぎやろ。おかしい。しかも二人とも子供相手にはちゃんと手加減して戦いつつそれである。子供たちからも大人げなく勝利を奪っていった大人は月ノ輪先生に接待プレイなしでコテンパンにされるか、エリーゼ閣下に接待プレイしていただいたあとに最後の最後で「楽しかったぜェ、お前との友情ごっこォ~!」と高笑いされながらボコられるかしていた。それでも会場が嫌な空気にならなかったのは二人が次元違いに強かったせいだろう。もう笑うしかない。
そのうえ各ゲームの上位者には翠屋のコース予約券やらルルの商品券やらが配られたが、月ノ輪先生はほとんどの景品をはやてにプレゼントするというイケメンホストに。なのはちゃんが拗ねてしまうかと危惧していたら、クリスタルカットのガラスの靴をゲットしてすかさずプレゼント。しかもサイズもピッタリ。計算通りか……! 今度は逆にはやてが拗ねるかと思いきや「誕生日の子には景品じゃなくてちゃんとプレゼントで用意したよ」と、同じ型で色違いの靴を取り出してプレゼント。なんやねんそれ、惚れてまうやろが! なお、お値段は秘密だそうだ。
が、高町家の頼れるお母さん桃子さんに聞いたところ、前になのはちゃんが貰ったプレゼントは同じシンデレラシリーズから本物のティアラだったらしく、たぶんそういうことだろうとのこと。ど……どういうことや!? い、胃が……。
胃を押さえていたら何故か旦那が馬車に乗ってやってくる。馬子にも衣装……だったら良かったのだがアレは……。シンデレラショックを全く誤魔化せていない。馬の目にすら哀れみが浮かんでいた気がする。聞いてみたら上司命令でやってたらしい。
靴については後で調べたところ、類似品がオーダーメードで25万円ほどすると判明。ただし、色付きガラスのは非売品だそうです。やだ、これすごく高い……?
というわけで桃子さんと相談の上で揃って返却に行ったが「シンデレラにかけた魔法が解けない限り受け取れないよ」などと言われてすごすごと引き下がってしまった。子どもたちのためにあのセリフを笑顔で言い切っちゃうとか格好良すぎやろ……。忘れてたけど、ウチの靴も要求しとかなあかんかったわ。
なお、桃子さんもドレスまでもらい受けてしまった模様。わかるわー。自分たちもシンデレラになってみたいという話題で少女のように盛り上がる。
旦那ポイントのレースでは高町パパが高機能ということで八五点評価。ウチの旦那のが高収入ということで八〇点評価。ただしパーティーの際に取り乱しとった分の減点で現在七〇点である。高性能で高収入の月ノ輪先生? 番外に決まっとるやろ。
◇
なんかなのはちゃんが誕生日お祝いしてくれるって言うてパーティーに誘われたんやけど、色々あってドレス着せられてガラスの靴はいて最終的に馬車に乗せられた件。シンデレラちゃうんですかね? ラストが馬車でええの?
SEENA様とか出てきた時点で色々振っ切れたけど。他にもいっぱいおるけどみんなテレビで見たことあるわー、という感想しか抱けなかった……ってか、
テ レ ビ で し か 見 た こ と な い わ !!
ちなみに、なのはちゃんは普通に顔見知りの模様。月ノ輪先生に肩車された世界屈指のスーパーモデル夏姫さまに肩車されてトーテムポールの真似してた。これまでもなのはちゃん凄いすごいと何度も思ってたけど今日改めて思った。なのはちゃん凄いわ……。
おかーちゃんが着替えに行っとる間になのはちゃんが邸内の温泉とか図書室とかレコーディングスタジオとか温室とか食堂とか展示室とか案内してくれた。センセーも凄いわ……。
そして月ノ輪先生に貢いで貰ったおかげで翠屋の食事券とかルルの商品券が合わせて一五万円分貯まった。おかーちゃんは値段に気付いてなかったけど、私はさりげなく書かれた値段に気付いてしまったんや……。これでも最上級ディナーコースに二回行けるだけってどういうことやねん、ていうか普通(出資者が景品取ったら)いかんでしょ。
で、色々あってパーティーがお開きになって帰ろうと思ったら、白い馬に引かれたツヤツヤの馬車が来るんですね。メープルカラー言うの? あんなん。
馬車の御者は何故かおとーちゃんやった。そのおとーちゃんはまさに衣装に着られてる乗馬服みたいなやつで、台詞は最初から最後まで「なにこれ」だけだったりと、あまりにアレやったせいでおかーちゃんに減点受けとった。馬が義務感だけで動いてるのがわかるくらいダメでした。はい、私も同じ気持ちです。
あれ? 私は魔法少女なんでどっちかというと魔女の役じゃないんですかね? なんでお姫様になっとんの? と、気付いたのは次の日にケーキ食べてる時でした。まー、プリンセス属性が付与されるのも望むところなんですけれども。
で、帰ってすぐ馬車に山積みされてたプレゼントを開けてたら目録が出て来た件。おとーちゃんとおかーちゃんが夫婦揃って「目録つきかぁ」とか言って天を仰いでたけど、私も半分同じ気持ちです、はい。
ガラスの靴は最初から私らにプレゼントするつもりやったらしくて、ちっちゃく名前入り。つま先の部分に、なのはちゃんのは白と青の、私のは黒と金のアクセント入り。ケースと台座付きで、目録にも写真付きで載っとった。私の貰ったやつのがちょいクールかな?
箱のプレゼントはリボンの色ごとに種類が分かれてて、生ものは黄色のリボンらしい。生ものはアカンっちぅことで順番に開けてみると、宝石ベリーのムース、イチゴの王冠パイ、グースベリーのエメラルドゼリーなどショーケースに入れておきたくなるようなスイーツの数々と『朝ごはんにどうぞ』ってメモが添えられた野菜たっぷりキッシュ。取り出して箱から冷蔵庫に移していくんやけど、おかーちゃんが我慢できずに「スイーツの宝石箱やー!」とか叫んで取り乱したり、つまみ食いしてた私が美味すぎて取り乱したり、朝ごはんに温めたキッシュを食べたら美味しすぎて家族みんなして白目向いたり。
青いリボンは小物。なのはちゃん手作りの押し花や、先生からは知恵の輪のマッスル版みたいな立体パズル、SEENA様からやたらおしゃれなお絵かきセットなどなど。
緑のリボンが服とかぬいぐるみとかで、帽子とか髪飾りとかペンダントとか靴とかまでは分かるけど、伊達メガネとか子供用マニキュアとか口紅までセットになっとるおしゃれすぎのアイテムが多いんですよ。ルルのモデルさんらはみんなこれみたいです。言うてみたらこれも職業柄ってヤツなんかなー。
赤いのは…………いや、紅の豚グッズて……おかーちゃん笑わんといてや。タオルと枕と布団と時計はすぐ使いますけど。いや、なんでって……はかどるやろ!!
◇2000年8月
紅の豚グッズに取り囲まれてご満悦の娘が超かわいい。
もちろん写真にも納めてあるが、数日間取り組んでいた一〇〇〇ピースの立体パズルがようやく組み終わったからか、今日のはやてはいつもの倍くらいニコニコしてるので、ママ友に自慢したいくらいかわいいのである。
ところで。実家では「食べてすぐ寝たら豚になる」と脅されたものだが、はやてにそれを言うと目を輝かせてしまうのでウチでは「食べてすぐ寝ると牛になっちゃう」と脅すことにしてみた、のだが。ウトウトしたはやてに「それってDNAが?」と返された。DNAが……牛に? そこまで変わるのか? そういえばどういう原理なんだ? 先生に聞いて……わかるか? というかウチの娘は四歳にして遺伝子というものをおおよそ理解していないか? テレビで知ったのか? やはり天才か……? それともまた幻術なのか?
お釈迦様の神通力で畜生道に堕とされるので遺伝子レベルから牛になる、という見解でひとまず解決した。先生ありがとう。お礼に……食べちゃうぞ!!
今年は旦那の夏休みに合わせて、ウチの両親と義父母を誘って上高地に遊びに行くので二週間も前の今からその準備に追われている。我が家で合流後に富士山麓で一泊、長野の木崎湖で一泊、上高地で二泊、奥飛騨温泉郷でも一泊して、ウチの両親を送り届けてから帰宅するという贅沢三昧の予定だ。
ちなみにこれは二十世紀最後の旅行である。繰り返す。今年はまだ二十世紀である。おかしい。既に二十一世紀感があるのだが。
そしてハイキング三回などというハードスケジュールであるため、運動靴と動きやすい服と帽子くらいは用意しておかなくては。本格的な登山でないのは幼い娘が居るからであって旦那の体力が不足しているからではない。一応本当である。
ところで、持って行ける紅の豚グッズは数を絞らなければならないということを娘に伝え忘れていたことに気付いた。何故このタイミングで気付いたのかというと、スポーツバッグがパンパンにふくらんでいたからである。なんでぬいぐるみ五つも突っ込んであんねんな……。ちゃんと全部に名前が書いてあるのは偉いのだけれど。抱っこして行けるサイズのだけにしような。
でもなんか名前が気にくわないらしい。書いてて気が付いたのか。なんでや? ひらがな三つではやてって、わかりやすいし可愛いやろ。と言っているのになかなか納得しない。なのはちゃんとお揃いやで? 漢字で書くと堅っ苦しいって理由もなー。
◇
本日より月ノ輪先生の家の娘になりました、八神はやて四歳ですー。
いやーはっは。危うく高町はやてになりかけたけど、先生のお陰で八神さん家の名前だけは守り通せましたわ。そしてアレか。リリカルなのはって、なのはちゃんが主人公で、私がライバルとか悪役やったんか。私の役どころはおとーちゃんとおかーちゃんを蘇らせようと悪魔と取引しちゃうブラック魔法少女とかその辺? 引き替えに世界を滅ぼしてまうーとかそういう理由もあるのかもしれん。
なのはちゃんは私のことを必死に止めようとして、まぁ最後には私が改心してハッピーエンドとか王道かなー。魔法少女ダークネスはやてちゃんやでー。
……。
…………ふーむ。
ありえる。
今の私の精神状態だと、自分の命と引き替えにおとーちゃんおかーちゃんを蘇らせて貰えるなら一も二もなく頷くでしょうね、はい。知らない人の命とだったら、悩んで、それでも実行しそう。先生たちの命と引き替えでも……まぁ多分泣きながらでも、最終的には取引に応じそうです。そう考えたら、世界と引き替えでも最後は頷くやろうな。
やっばい……足下が崩壊するような心境っちぅのを甘く見とった。親しい人の命と引き替えとか普通は頷けんやろ……。こんなん、なのはちゃんじゃなくても止めるわ。
ああ、こんなん味わうくらいやったら、魔法少女になんてならんでも良かった。おとーちゃんとおかーちゃんがおれば別にそれで良かった。目が覚めたら見知らぬ部屋で、生き残ったのが奇跡だなんて褒められるとか、話を聞いて耐えられずに気を失うとか、ぜんぶ……ぜんぶ物語の中だけの話やと思っとった。
なんで……なんで、こんなことに…………
…………ああ、私か。私が望んだからこうなったのか。
ああ、どないしよう……おとーちゃんとおかーちゃんおらんくなってしもぉた。じーちゃんも、ばーちゃんも、誰もおらん……
……おとーちゃん……おかーちゃん……
先生の家の娘? なんやそれ……それがなんや……!
……誰も……代わりになんかならんやろ…………
…………たすけて……誰か…………
…………………………
……誰か……
…………
……
誰か
「――じゃあさ、はやて。取引しようぜ? エリーゼさんが本物の魔法使いを紹介してやるよ」
◇
一体いつから――――なのはちゃんの方が先に魔法少女になると錯覚していた?
魔法少女ダークネスはやてちゃん、始まるみたいです。
なん…だと…?
はやてが前世持ちでかーちゃんが美人。ありきたり。
関西弁と子育て描写が投げやりで不正確。ありきたり。
ジブリが登場。ありきたり。
イケメンが翠屋に加入。そしてイケメンで料理上手でシタン先生。ありきたり。
はやての父親が太陽の戦士でカタリナ騎士。ネタバレするとこの人死にます。
はやてとなのはが幼なじみに。ありきたり。
徐々にウェルス化していくリハク系忍者・五十鈴。ありき・き・きょんにちょわ……
はやてが原作より早く魔法に触れる。ありきたり――と思ったか?(ドン
母・八神五十鈴。東京生まれ大阪(北の外れ)育ち。おとーちゃんとは中学時代からの馴染みでコンビ時代が長かったため、披露宴に呼ぶ共通の友人が多すぎて同窓会状態に。旧姓・石川。親は比較的近所に住んでおり、母方の旧姓は島。1994年夏頃から横浜ファン。
父・八神喜一郎。大阪生まれ大阪育ち。恋愛感情よりもコンビ感覚で結婚に踏み切った上、プロポーズの言葉は(1994年7月30日、巨人軍3タテを含む阪神6連勝で迎えた甲子園8連戦の5日目にライトスタンドにて発した)「これで阪神が負けたら結婚したるわ」だった。2000年8月に死んだおかげで2005年の日本シリーズを見ずに済んだ阪神ファン。
娘・八神はやて。前世は女で関西圏育ち。今生では静岡生まれの静岡育ち。静岡にあるのに富士山が見えないという何故存在してるのかわからない海鳴市(イメージは焼津)在住。
闇の書。普通に忘れ去られて子供の手の届かない押入れの高い場所にしまわれていた。エリーゼさんと契約して魔法少女になるときに颯爽と再登場(2年ぶり2度目)した。
護身術・武術・体の動かし方総合教室。耳が忍者になってた五十鈴に忍術教室(忍者学校)だと思われた。誘拐犯撃退事件前から少人数で実施していたが、事件後は生徒が3倍に増えた。