本編よりもっと絡みます笑
しばらく練習をした後、サトシたちはスイレンの家に向かった。海のすぐ近くにあるその家の外、普通の家で言えば庭っぽいあたりに、ラプラスがいた。サトシとスイレンが初めて会った時にもいたそのポケモンに、サトシは声をかけてみた。
「アローラ、ラプラス!明日よろしくな」
「フゥーン」
手を伸ばしそっとラプラスを撫でる。懐かしいその感触に少し昔を思い出しながらやさしくなでる。
「サトシ、ラプラスにも慣れてるの?」
「あぁ、昔一緒に旅をしたことがあったんだ。今は群れに帰っちゃったんだけど、一緒に旅したのは、本当にいい思い出だよ」
「そうなんだ・・・また今度、詳しく話聞かせてね」
「あぁ、そうだな」
一通りラプラスを撫でたサトシは、もう一度ラプラスに明日よろしくといい、スイレンの後を追って家の中に入った。
「ただいま」
「お邪魔します」
どたどたと響く足音。廊下から二人の人物が顔を出した。
「「おかえり~!ぎょぎょぎょ!?」」
「ぎょぎょぎょ?」
スイレンをそのまま幼くしたような姿をしている二人の少女。一目で家族とわかる。というか姉妹揃ってそっくりすぎるのではないだろうか。ちなみに見分け方は髪のはねの数だ。スイレンはサトシに二人のことを紹介することにした。
「紹介するね、ホウとスイ」
紹介されている本人たちはというと、驚いた表情でピカチュウをずっと見ていた・・・かと思ったらピカチュウを二人で抱っこして、そのまま奥の部屋へ入って行ってしまった。あまりにも予想外の出来事に、サトシもスイレンもポカーンとしてしまう。
「えぇと、双子の妹たち・・・」
「あ、あぁ。スイレンにもよく似てたな・・・」
「よく言われる」
「「あはは、あははは・・・はぁ」」
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驚きから立ち直ったスイレンはサトシをリビングへ案内した。そこには先ほどの双子がピカチュウを挟んでほほを触ったり、引っ張ったりと、一緒に・・・一緒に?遊んでいた。
「やわらかい、やばかわ!」
「あったかい、すごかわ!」
「ホウ、スイ!ピカチュウ困ってる」
「やっぱこれ、ピカチュウ?」
「本で見たよ、本物すごかわ!」
スイレンの妹なのだから、二人がポケモンを大好きなのは驚くようなことではない。が、サトシはピカチュウに対してこんなにまで興味津々な子供も随分珍しいな、と思っていた。
『ピカチュウは、アローラ地方では人気ポケモンロト』
「へぇ~そうなのか。よかったな、ピカチュウ」
「ピ、ピ~カ~チュ~ウ」
あんまりよろしくはなさそうである。ここでピカチュウに夢中になっていた双子の注目は、今しがた声をかけたサトシのほうへ向いた。もっとも、両の手はピカチュウをなでたり引っ張ったりしたままではあったが。じーっとサトシを見つめる二人。
「え、え~と、どうしたのかな?」
「「お姉ちゃんのボーイフレンド?」」
「「えっ?」」
いきなり落とされる爆弾発言に一瞬空気が凍った。純粋に驚いているだけのサトシ。家族ではない男の子を、女の子が家に連れてくることが、この年頃ではそう思われるものだということさえよくわかっていない。が、一応ボーイフレンド、ガールフレンドがどういうものをさすかは理解している。その辺りはセレナと別れてから色々と考えたことでもあるし、ママにも説明してもらったのだ。残念ながら鈍感はどうにもならなかったが、進歩とは言えよう。とりあえず事情を説明しようとサトシが口を開く前に、
「ち、ち、違う!全然違うぅ!」
と顔を真っ赤にしたスイレンが、ぶんぶん首を横に振りながら否定の言葉を発した。その様子は一般人からしたら、実は少し意識しているんじゃないか、と思っていなくても勘違いするレベルの反応だった。が、残念ながらそこはサトシ君、そのまま額面通りに受け取ってしまっていた。というよりも本人はそっちを気にするよりも、「そういえばユリーカ元気にしてるかな?」と前の旅に同行していた自身の妹分のことを思い出していた。
「「ほんとのほんとのほんとにぃ?」」
「ほんとのほんとの、ほんとにぃ!」
と、大声を上げて少し疲れたのか息をつくスイレン。ちょうどいいと思ったサトシは双子のほうまで歩いて行った。再びサトシに注目する二人にサトシは二人に目線を合わせるようにしゃがみ込み、かつてユリーカにしていたように笑いかけた。
「アローラ。俺、サトシっていうんだ。スイレンはポケモンスクールのクラスメートで、友達なんだ。よろしくな」
「「よろしく!」」
「それから、そろそろピカチュウを放してあげてくれないか?俺の大事な相棒なんだ」
「相棒?」
「お姉ちゃんのアシマリみたいな?」
「そうだよ。一緒にポケモンマスターになるって夢があるんだ。そのためにも今は修行中だ」
「ポケモンマスター?」
「すっごい夢!」
「そうだな。二人も夢はあるのかな?」
もともと子供に好かれやすいのだろうか、まだ会って数分だがホウもスイもサトシと楽しく会話していた。サトシの許可を得て再びピカチュウと遊ぶ二人。今度はちゃんと一緒に遊んでいた。そんな双子の妹たちの様子を見ながら、スイレンはサトシに対して正直見直していた。ポケモンの心を開くのがうまいとは思っていたが、まさか自分の妹たちもこんなに早くなつくとは。今ではもうサトシに肩車をねだってまでいる。
「二人とも、サトシは用事があってきたんだから」
「え~、もっと遊びたい」
「サトシ、ピカチュウ。遊んで~」
サトシの両手を一つずつ掴みながら、二人はサトシにもっと遊んでほしいとねだる。マオやリーリエが家に来た時には、ちゃんということを聞いてくれる妹たちのそんな様子にスイレンはさらに驚く。そんな双子の手をそっと離し、サトシは二人に目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「ごめんな。今日はスイレンに釣竿を借りに来たんだ。用事だけ済ませてもいいか?」
「そのあと遊んでくれる?」
「一緒に遊べる?」
「わかった。ちょっとだけ待っててくれよな。ピカチュウ、二人と遊んでてくれるか?」
「ピッカチュ!」
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「おぉ!こんなにたくさん釣竿が」
「どれでも好きなのを借りていいよ」
「ありがとな、スイレン。おっ、ピカチュウのルアーだ」
どれにしようかと悩むサトシ。そのサトシを後ろから見つめながらスイレンはふと話しかけてみた。
「サトシ、今日はありがとう」
「え?どうしたんだ、急に?むしろ俺のほうこそ、釣竿を貸してくれるの、すっげぇ助かる」
「あ、うん。その、妹たちと遊んでくれて、ありがとう。それから夢を応援してくれたことも」
「いやぁ、俺も一緒に遊べて楽しかったよ。それにさっきも言ったと思うけど、俺もバルーンで海に潜ってみたいとは思ったし。本当に、二人はいい出会いをしたんだな」
スイレンはサトシの二面性に少し戸惑っていた。さっきまで妹たちと遊んでいた子供のような純粋さ、そして今こうして自分と話しているときに現れる大人のような落ち着き。一体どちらが本当のサトシなのだろうとも考えた。でも、根本的なところはどちらも同じ。ポケモンや友達に向けられている深い愛情が彼を突き動かしているだけなのだ。ただ、スイレンはそれにはまだ気づいていない。
「俺、これにするよ。貸してくれてありがとうな、スイレン」
「うぅん。大丈夫」
「じゃあ、ピカチュウたちのとこへ戻るか」
暗くなりつつある空はきれいなグラデーションになっていて、赤い光がほのかにサトシの顔を照らす。子供のように楽しそうな笑顔がどこか大人びた雰囲気をまとい、スイレンは少し見とれた。
「ピカピ」
「戻ってきた!」
「ほら、もっと遊ぼう!」
ドアをくぐったサトシをピカチュウと双子が迎える。再び両手を取られ引っ張られるサトシだったが、そこへスイレンからストップがかけられる。
「ホウ、スイ。もう暗くなってきたし、サトシも帰らないと」
「「え~」」
「それにもうすぐ夕ご飯でしょ。サトシだって帰って夕ご飯を食べなくちゃいけないし、明日は課外授業があるんだから」
「ごめんな~。でも絶対にまた来るからさ、その時にまたいっぱい遊ぼうな」
「「ほんとのほんとのほんとに?」」
「ほんとのほんとのほんとだ。約束するよ」
「約束だね?」
「絶対だよ?」
「あぁ。約束だ」
そう言ってサトシは双子と指切りをかわし、それぞれの頭を少し撫でてから
「じゃあな、スイレン。本当にありがとう。明日もよろしくな!」
と言って帰っていった。
ボーイフレンドの意味、実際のサトシはわかってるのですかな?
ノーリアクションだったから気になる