ククイ博士の家、今日はそこには博士とイワンコの姿はなかった。学者同士での会合があるためそれに向かったのだった。というわけで家にいるのは、
「今日はどうしようかな~。バトルの特訓もいいし、ポケモンをゲットしに行くのもいいし・・・」
「ピカ~」
「とりあえず後でわたくしが博士の代わりにショッピングモールを案内しますね」
サトシとリーリエだけだった。
「う~ん。そうだ!いつもは博士にばっかり洗濯とかしてもらってばかりだし、今日はいろいろと手伝えることをしてみようかな。リーリエ、いろいろと教えてくれないか?」
「いいですよ。それじゃあまずは洗濯から始めてみましょうか」
自分の服や博士の来ていた白衣を洗濯機に詰めるサトシ。最初から満タンに突っ込むみ、そのまま洗剤を測りもせずに入れようとする。
「待ってください、サトシ。そんなにいっぱいに入れてしまったら、洗濯機が壊れてしまいますよ。それに、洗剤もちゃんと決まった量があるんです。ちょっと見ていてください」
そういって白衣をいくつか取り出し、洗剤をしっかりと測ってから入れるリーリエ。電源を入れて、洗濯機を起動する。
「こんな感じです」
「へぇ~。とりあえず入れればいいわけじゃないんだな。やっぱり、機械もちゃんとした方法を知らないとだめだな~」
続いて自分で料理を作ってみようとするサトシ。ロトムがレシピを出してくれたため、作り方の手順はわかった。しかしよくよく考えてみると、今までの旅の中でも自分から手料理をつくる機会がほとんど全くと言っていいほどなかったのだ。切り方も、味付けの方法もまるで何も知らないのだ。
「う~ん、難しいな」
「皮をむくときは包丁のほうは動かさなくてもいいんですよ。野菜のほうを回すようにしながら、慎重にやればいいんです」
「あれれっ、なんだかうまくきれないや」
「切るときにはちゃんと抑えなくては。それに、その抑え方では指を切ってしまいますよ。手はこんな形です」
「こ、こうか?」
「塩コショウを適量。適量って、適当に入れればいいってことか?」
「いえいえ、これも慎重にやるものですよ。入れすぎると辛すぎたり、しょっぱすぎたりとおいしく作れなくなってしまいますから。こんな風に、小さじで少しずつ足していくといいですよ」
途中何度も失敗をしそうになりながら、そして実際に失敗もしながらではあったが、リーリエの助けもあり、何とか形にはなった。
「それでは、いただきましょう」
「いっただっきま~す」
「うん、なかなかおいしく作れていますよ、サトシ・・・サトシ?」
普段ならうまいうまい言いながらバクバク食べるサトシ。しかし今回は静かに、一口一口かみしめるかのように、黙々と食べていた。その表情は何か考え込んでいるかのようで、リーリエの視線にも気づいていなかった。
「サトシ、どうかしましたか?」
「あ、あぁ、うん・・・なんか、すごく大変なんだな、って思ったんだ」
「え?」
「俺、家にいるとき、いつもママが俺の身の回りのことをしてくれたんだ。それに今までにいろんな場所を旅してきていたんだけど、その旅にはいつも仲間がいてくれた。それでさ、俺ってこういう料理とか洗濯とか、そういうことが苦手でさ。いっつも誰かが俺の分までやってくれていたんだ」
「旅のお仲間ですか。どんな方々だったのか気になりますね」
「いつかその話もするよ。とにかくさ、こうやって家事みたいなのをちゃんとやったことがなかったんだよ。今日やってみて、それがどれだけ大変なことだったのか、なんとなくわかった気がする」
今まで自分が無事に旅をすることができたのは、仲間たちが、いろんな方法で支えていてくれていたから。それをこうして、自分で自分の身の回りのことをしてみて、改めて実感する。この先、自分一人で旅をしなければならない時が来るかもしれない。その時に、自分はちゃんとやれるのだろうか。いつも自分のために料理を作って、服も作ってくれるママ。そのママは自分が一人で旅をするとしたら、安心できるだろうか。今のままではダメな気がする。旅をしている時とは違うこの生活は、サトシにいい影響を与えているようだ。また一つ、大人になったサトシだった。
「そうですか。じゃあまた今度、お母様の待っている家に帰ったときに、ちゃんとお手伝いをしてあげたら、喜んでもらえるんじゃないでしょうか」
「そうだな。そうしてみるよ。だからさ、リーリエ。これからも時間のある時でいいから、俺に料理とか教えてくれないか?」
「わたくしでよろしければいつでもいいですよ。さて、そろそろ洗濯物も洗い終わりますし、ちゃんと干してからショッピングモールへ出かけましょうか」
「ああ!」
リーリエの指導の下、洗濯物を干していくサトシ。それが終わった二人は、商店街へ向けて出かけて行った。余談だが、これ以降、サトシが頻繁にリーリエにマオ、スイレンたちに料理を教わるようになり、それから発展してお料理対決が定期的に行われるようになったのだった。なぜそうなったのかは・・・ご想像にお任せする。
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「へ~、ここがショッピングモールかぁ。大きいなぁ」
「では、まずは何を買いに行きましょうか」
「ん~、そうだなぁ・・・あれ?」
あたりの店を見渡していたサトシの目に入ったのは、見知った一人の少年だった。そのわきには相棒のトゲデマルが抱えられている。
「マーマネ!」
「ドキッ!?えっ、サトシとリーリエ?」
「アローラ!」
「アローラです。マーマネはお買い物ですか?」
「ま、まぁね。そうゆう二人は何?あっ!ふふ~ん、もしかしてデートとか?」
「えっ、デート?」
「ちち、違います!わたくしはただ、サトシにこのショッピングモールを案内しようとしているだけで」
三人が会話しているのをよそに、トゲデマルはピカチュウに抱き着いていた。どうやらピカチュウのことをとても気に入っているようで、離れる気配はなかった。
『トゲデマル、まるまりポケモン。でんき・はがねタイプ。自分で電気を発生する力は弱いが、長い尻尾を立てて、それを避雷針にして電気を誘導、帯電することができる』
「あぁ、あの風船早割り対決の時の」
「ちなみにトゲデマルは、うれしいときには丸くなってあたりを転がる習性があります。ただ、一度転がりだすと、自分でもコントロールができなくなってしまうのです・・・っひゃあ!」
解説をしてくれていたリーリエのすぐ近くをボール状になったトゲデマルが転がる。それにびっくりしたリーリエはサトシの背中に隠れてしまった。が、
「クロ?」
「あっ、わっ、ひゃう!」
サトシの背負っているリュックの中には、相変わらずモクローが潜り込んでいたため、再び驚くリーリエ。後ろに下がり、転びそうになったところをなんとかサトシが手をつかんで止める。
「あ、ありがとうございます」
「気にするなよ。焦らず、少しずつ慣れていけばいいんだからさ。それで、マーマネは何を買いに来たんだ?」
「ぼ、ぼくはその・・・アイスとか」
「えっ、アイス?俺も食べたいな。リーリエは?」
「そうですね。わたくしもぜひ!」
「そ、そんな食べたいの?」
「あぁ!」
マーマネに連れられてサトシたちはアイスクリーム屋へやってきた。いろんな種類のアイスに、甘いものが好きなサトシは目を輝かせていた。家で見えた大人っぽさは完全になりを潜めてしまったようだ。
「うまいなこれ!今まで食べた中でも、サイコーにおいしいぜ!」
「わたくしもここのアイスクリームは機会があれば食べたいと思っていました。とてもおいしいです」
買ったアイスクリームをほおばりながら笑顔で感想を漏らすサトシとリーリエ。マーマネのおすすめのアイスクリーム屋さんで買ったそれは、一口食べるだけで濃厚な味が口の中に広がり、二人は満足げに食べていた。
「でっしょ~!このアイスがアローラ地方で一番だと思うんだ!濃厚なミルクと最高級のバニラビーンズを惜しげもなく使って、しかも手作り限定品なんだ!」
「手作りなのですか。すごいです」
「流石マーマネ。もしかして、アイスとか甘いもの好きなのか?」
「ち、違うよ!僕はいろんな情報を集めるのが好きなんだ。他にもいろんなプログラムを考えてみるとか」
「確か、トゲデマルのための育成プログラムを考えていましたよね?」
「へ~すっげぇな、マーマネ」
その後、三人とポケモンたちはショッピングモーの紹介をしながら、いろいろな店を見て回った。しかし平穏な時間は突然終わることとなった。
皆さんは料理しますか?
作者はたまにしかしませんがやると案外楽しいですよね
その後の片付けの方がめんどくさい