やっぱりあのリザードンはベテランでしたなぁ
翌日、ポケモンスクールの朝。リーリエは丁寧にクッションを敷いた椅子の上に卵を置いた。陽が当たりやすく、なおかつみんなからもちゃんと見える位置に置きながら、リーリエは卵を優しく撫でた。
「すっかり慣れたね、リーリエ」
「そうでもありませんよ。サトシに色々と教えてもらってばかりです」
「どんなこと教えてもらったの?」
「知識というよりも、アドバイスという感じですね。例えば、朝起きた時と夜寝る前にちゃんと卵に声をかけてあげるとか、寝る時には卵にとっても寝心地がいい状態にしてあげるとか。それから、外の世界について語ってあげることもしてます」
「外の世界?」
「なんで?」
「卵の中にいても、ポケモンには外の様子が少しはわかるらしいんです。外の世界に生まれることに対して、中のポケモンも楽しみにして欲しい。安心させてあげたい。サトシはそう言ってました。サトシも旅のことを語ってあげてるみたいです」
「本当にサトシってポケモンの世話が上手だよね〜」
「でも・・・」
ここで女子3人は言葉を区切りサトシの机へ目を向ける。いつもならピカチュウと遊ぶか、モクローを撫でるか、卵の世話をしているサトシだったが、今朝は何やら真剣な表情で考え込んでいるようだった。
「どうしたの、サトシ?」
『昨日ハラさんと会った時からずっとこんな調子ロト』
「夕食の時もずっと上の空でした」
「そんなに長い間悩んでるの?」
考え込んでいるサトシの前の席に、カキが座り込んだ。Zリングを持ち、試練を突破したことのあるカキ。彼もまた似たような経験があったため、少し手助けしようかと考えた。
「ハラさんになんて言われたんだ?」
「わたくしたちも力になりますよ?」
「あ、カキ、リーリエ。実は、」
「なるほどな。バトル以外の方法で、か」
「それ以外だと、ラッタたちと話して見るくらいしか思いつかなくてさ」
「ラッタたちの生態が詳しくわかれば、そこにヒントがあるのでは?」
さらりとサトシが何やら一般のトレーナーからすればおかしなことを言った気がしたが、最近サトシに慣れすぎたのか、誰も気にもとめてなかった。
『僕にお任せロト!コラッタにラッタ、ねずみポケモン。あく・ノーマルタイプ。グループを作り、時に民家からも餌を盗む。大昔、貨物船に紛れ込んで来て、アローラの姿に変化した』
「ラッタたちもリージョンフォームがあるのか」
「そうだ!わたくし本で読んだことがあります。確か、別の地方からヤングースやデカグースを連れて来て、ラッタたちを追い払ったことがあったはずです」
「さっすがリーリエ、物知りだね」
『僕だってそれくらい知ってるロト!』
「二人とも、サンキューな。よーし、デカグースたちに頼んでラッタたちを追い払ってもらおう」
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「大正解ですよ、サトシくん。よく考えつきましたな。実はこの質問、君が試験を受ける資格があるかどうかを見極めるためのものでしたが、なかなかやりますなぁ」
「いえ、俺一人じゃだめでした。でも友達が一緒に考えてくれたんです」
「はは、君は正直者ですなぁ。真っ直ぐで澄んだ魂の持ち主のようだ。君は試練を受けるに値します」
ハラさんに案内され、サトシはとある洞窟の前まで来た。
「ここのヤングースとデカグースはかなり強いですよ。中でも1匹のデカグースはぬしポケモンと呼ばれています」
「ぬしポケモン、ですか?」
「アローラの守り神に仕えるポケモンたちです。その守り神の意を組み、島巡りに協力してくれているのです」
「そんなすごいポケモンが、ここに」
「今回の試練はポケモンバトルでぬしポケモンに勝利し、その力を借りてラッタたちを町から追い払うことです」
「力を借りる、でもどうやってですか?」
「ぬしポケモンはバトルした相手の力を認めた場合、自ら力を貸してくれます。あとは君が彼を納得させることができるかどうかです」
話しながらも、サトシたちは洞窟の奥へ進んで行った。木々が影を作り、光はわずかにしか入ってこない。やがて広い空間に彼らは到達した。
「試練の審判は私が務めますぞ。ぬしポケモンのデカグースよ!島巡りの挑戦者が来たぞ!試練の腕試しをしてやってくれ!」
「俺、マサラタウンのサトシ!ぬしポケモン、俺とバトルしてください!」
ピクリ、とピカチュウの耳が何かが近づいてくる音を聞いた。突然現れたのは2匹のポケモンだった。
「あれが、ぬしポケモン?」
「いいえ、あれはぬしポケモンの仲間です。ですがバトルする必要はあります」
「ロトム!」
『お任せロト!ヤングースにデカグース、共にノーマルタイプ。ヤングースは鋭い牙を持ち、デカグースに進化するとさらに我慢強さが高まる』
「ならこっちは、ピカチュウとモクロー、君達に決めた!」
「ピィカァ!」
勢いよく飛び出すピカチュウと、ボールから出ても眠っていたモクロー。慌てて起こすサトシたち。
「これより、試練のバトルを始める!」
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「ピカチュウ、10万ボルト!モクロー、たいあたり!」
先生攻撃を仕掛けるピカチュウたち。しかしデカグースの巻き上げた砂によって両方とも防がれてしまった。砂埃で視界の悪い中、デカグースたちは何の問題もなくピカチュウたちに接近し、吹き飛ばした。流石にぬしポケモンの仲間、そんじょそこらのヤングースたちとは違う。
両者同時に飛びかかり、鋭い牙で噛み付こうとしだが、サトシの指示でピカチュウたちもそれを躱す。
「モクロー、このは」
「ホロ、ホロー!」
回転しながら木の葉をまくモクロー。その量にデカグースたちはピカチュウたちの姿を見失った。
「ほぅ」
「今だ!ピカチュウ、アイアンテール!モクロー、たいあたり!」
木の葉に紛れ近づいたピカチュウのアイアンテールがデカグースに決まった。一方、一切の羽音をたてずにモクローはヤングースの背後に回り、強烈な蹴りによるたいあたりを決めた。その強力な一撃を喰らい、ヤングースとデカグースは目を回してしまった。
サトシたちが勝利に喜んだ時、何か巨大な生き物の唸り声が聞こえた。洞窟の奥からその声のぬしは飛び出した。現れたのは、
「出ましたぞ!あれこそまさしくぬしポケモンのデカグース」
「なっ、でかい」
『信じられないロト!通常のデカグースの3倍はあるロト!』
ぬしポケモンのデカグースが再び吠えると、その身体を謎の光、オーラが包んだ。そのままデカグースは一瞬で距離を詰め、ピカチュウたちに襲いかかった。10万ボルトを浴びても意にも介さず、攻撃が止まる様子はなかった。不意をついたと思ったモクローのたいあたりもそのスピードで躱し、強力な一撃でモクローは戦闘不能にされてしまった。渾身のエレキボールも弾かれ、ついにはピカチュウも倒れてしまった。
「お疲れ様。二人とも、ゆっくり休んでくれ」
両者を労うサトシ。ピカチュウをハラさんにお願いし、最後のポケモンを繰り出す。
「ゲッコウガ、君に決めた!」
飛び出したゲッコウガは目の前の敵を見据え、戦闘態勢をとる。相手が強い、それだけわかれば十分だった。
「さて、サトシ君たちはこの試練、乗り越えられますかな?」
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ピカチュウやモクローを圧倒したスピードで攻撃を仕掛けてくるデカグースだったが、ゲッコウガはその攻撃をいとも簡単に躱す。確かにデカグースは驚くべきスピードを持っている。が、そんなことはゲッコウガには関係なかった。彼の方が、
「つばめがえし!」
「ゲッコォウ!」
速い!
両足の蹴りを受けたデカグースは大きく後退した。前足で砂を巻き上げるデカグース。目を眩ませて、見えないところから攻撃しようと考えたのだろう。
「飛び上がってかげぶんしん!」
「コゥガ!」
砂埃の届かないところまで一回のジャンプで飛び上がりながら、ゲッコウガの姿が増える。突然のことにデカグースは大きく戸惑った。そしてバトルにおいてそれは致命的な隙となる。
「いあいぎり!」
「コウ、ガッ!」
本体は一つしかない。しかしそのどれもが素早い動きで接近してくるゲッコウガのかげぶんしんの中から本体を探し出すのはデカグースには無理だった。光の刃が下から振り上げられ、アッパーカットのようにデカグースの顎を上向きに切り上げた。大きく仰け反ったデカグースは数歩下がり、大きく吠え、バタリと倒れた。
「それまで!このバトル、挑戦者サトシの勝利!」
「いよっしゃあ!」
今度こそ大きく声をあげて喜ぶサトシ。ゲッコウガとそれぞれ右の拳を合わせて勝利を噛み締めた。ふらつきながらもデカグースは立ち上がろうとする。
「大丈夫か!?」
その様子を見て、サトシはロトムの忠告も聞かずにデカグースへ駆け寄り助け起こした。先程まで襲いかかって来た相手にも関わらず、即座に助けに向かうその姿を見て、ハラは大いに胸を打たれた。今までにも試練を突破したものは何人もいたが、彼のようにすぐに敵だったポケモンのために行動できたものを見たことがなかったのだ。この少年は本当に深い他者への愛で満ちていると、ハラは確信した。
と、ハラは立ち上がったデカグースがサトシに何かを渡しているのを見た。サトシの手に握り締められたものに、ハラは驚愕した。
「なんと、あれは!?」
「Zクリスタル、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
キラリと輝くそれは紛れもなく、ノーマルZだった。ぬしポケモンがZクリスタルを渡すことなど、本来ないことだ。通常は島キングが試練後に渡すこととしている。しかしどうだろう。彼はぬしポケモンを倒しただけではなく、何かがあると思わせたようだ。ぬしポケモンに、認められたのだ。
「本当に、不思議な子ですなぁ」
その様子を一つの黄色い影が伺っているのには、誰も気づくことができなかった。
その後、サトシに力を貸したぬしポケモンと仲間のおかげでラッタたちは無事に追い払うことができ、サトシはハラとのバトルの約束をし、別れた。次に挑むは大試練。島キングの実力や果たして。
リザードンを見ていて、ケンジのストライク思い出したのは私だけでしょうか?