というわけで、ロトム探偵回はスキップです
ここはアイナ食堂。今日は珍しく、サトシたち一同が全員集合していた。
「みんな、今日はマオちゃん特製メニューの試食会に来てくれて、ありがとね」
「完成したのか?」
「ううん、もうちょっとだけ待っててね」
「お昼抜きで来たからもうおなかペコペコだよ~」
「マーマネもか?実は俺も」
どうやら今日の招集をかけたのはマオのようだ。自身の作る新しいメニューの試食をクラスメートたちに頼んだらしい。アイナ食堂の看板メニューをつくることが夢であるマオ、その夢のために様々な料理に挑戦しているらしいのだ。
「ピカチュウ、ちょっとお手伝いしてくれる?」
「ピィカ?」
「うん、ちょこっとだけでいいから、ね」
なぜかピカチュウを連れて厨房へ向かったマオ。果たしてどんな料理が出てくるのか。
「お待たせ~。幻のアローラシチュー、完成だよ!」
「幻の、」
「アローラシチュー?」
「えっ、みんなも知らないの?」
「初めて聞いたかも」
「私もです」
5人の前に差し出されたのはおいしそうなにおいが漂うシチューだった。見た目はそこまで特別変わったところはなそうだが、幻と銘打ってあるほどのシチュー、さぞ絶品なのだろう。声をそろえていただきますをした後、5人はシチューを口に運んだ。瞬間、固まってしまう5人。そして、
「「「あばばばばば!?」」」
激しいしびれを感じたのちに、ばたりと倒れるカキたち。
「ちょっ、大丈夫?」
「マオ、これは一体どういう料理なんだ?」
「えっ?あぁ、幻のアローラシチューね。後味に軽くしびれる感じがこの料理の特徴なんだけど」
「軽く・・・ですか?」
「なんだか、ピリッというか・・・ビリビリ」
「この感じってもしかして、ピカチュウの電撃か?」
「あ、サトシはやっぱりわかる?本当は『山吹の蜜』っていう材料でしびれを出すんだけど、今は手に入らないからピカチュウに協力してもらったんだ」
先ほど厨房から聞こえてきた電撃の音はどうやらピカチュウが料理を手伝っていたことによるらしい。ポケモンの力を借りるという発想はなかなか面白いものだとは思ったが、
「流石にピカチュウの電撃では刺激が強すぎたと思いますよ」
「あはは、そうだね。今回は失敗かなぁ」
「俺は好きだったぜ」
「僕も!」
「流石二人とも電気タイプが相棒なだけあるな」
その後、帰ってきたマオの父の料理をいただき、カキたちは帰っていった。サトシはというとマオのアマカジの甘い香りを追いかけ続けるモクローを苦笑しながら眺めていた。
「ごめんね、サトシ。ピカチュウも、せっかく協力してくれたのにね」
「いいって。それより、どうしてその幻のアローラシチューを作りたいんだ?」
「あたしね、自分の作った料理で、このアイナ食堂をもっとたくさんの人に好きになってもらいたいんだ。それでね、みんながあたしの作った特製メニューで笑顔になって欲しいんだ。だから、もっともっと頑張らないと」
「スッゲー夢だな」
「まぁなかなかうまくいかないんだけどね〜」
そう言って頬をかくマオの方にアマカジが飛び乗る。
「けどさっきの山吹の蜜ってそんなに手に入りにくいものなのか?」
「うーん、正確には季節はずれなんだよね。だから全然見つからなくて」
「でも、その蜜があれば完成するんだろ?」
「うん」
「ならさ、明日探しに行ってみようぜ!」
「えっ?」
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雲もほとんど見えないくらいに広がる青空の下、サトシとマオは山吹の蜜を探すために森に来ていた。とはいえ季節外れの花から取るため、そう簡単には見つからなさそうだ。
「何か目印みたいなのないかなぁ、蜜の場所がわかりやすいものとか」
「うーん、私もそこまで詳しくないしなぁ」
『フッフッフッ。ここは、僕にお任せロト!』
胸を張るロトム図鑑。こういう時に彼の持っている大量の知識が大いに役に立つ。ポケモンの生態だけでなく、ポケモンたちに関わりのあるものについての情報も持っている。その中からロトムは山吹の蜜についての情報を検索した。
『山吹の蜜を探すなら、まずはオドリドリを探してみるといいロト』
「オドリドリを?」
『オドリドリにとって、山吹の蜜は好物でもあるロト。だからオドリドリのいるところなら、』
「そっか!もしかしたらその近くに山吹の蜜があるかも!」
「なるほど!ロトム、この辺りにオドリドリはいるのか?」
『うーん、見つかる確率は8%ロト』
「8%もあるってことだろ?よーし、マオ。頑張ってオドリドリを探そうぜ!」
「うん!」
それからサトシたちは草むらをかき分け、木に登り、モクローの仲間のドデカバシたちにも話を聞いてみたが、オドリドリは見つからなかった。流石に発見確率8%のことはある。
「全然ダメだな。何かいい方法はないのかなぁ」
「疲れた〜。あたしちょっと休みたい」
「マ〜ジィ〜」
疲労しているサトシとマオをねぎらうように、アマカジが甘い香りを出す。その匂いで少し元気が出た気分になる二人。
「ありがと、アマカジ」
「甘い匂いはこんなこともできるんだな。ん?」
ふとサトシが何か思いついたようにアマカジを見つめる。
「サトシ?」
「なぁ、アマカジの甘い匂いなら、オドリドリを呼ぶこともできるんじゃないか?」
「えっ?」
「ほら、モクローってよくこの匂いに引き寄せられるじゃん?もしかして他の鳥ポケモンもそうなのかなって」
『その可能性は大いにあり得るロト!』
「アマカジ、頑張れる?」
「マジジ〜!」
胸を張るアマカジ。やる気満々のその様子を見て、マオたちは早速試してみることにした。
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少し高めの岩の上から、甘い匂いを広範囲に渡って広げるアマカジ。普段と違い、その表情からもその必死さが伝わってくる。ぞろぞろとポケモンたちが集まってくる。
「ツツケラ、ケララッパにバタフリー」
「レディバもいるね!」
『うーん、肝心のオドリドリが見つからないロト…ってあーっ!二人とも、上ロト!』
「「へっ?」」
二人がアマカジの方を見ると、黄色い体にボンボンのような羽先。一体のオドリドリがいつの間にか現れていたのだ。
「「いたぁ〜!」」「ピィカァ〜!」
大きな声に驚いてしまったのか、オドリドリは飛び立ってしまった。慌てて追いかけるサトシたち。途中何度か見失いそうになりながらも、なんとかついて行った。すると森の中にある、小さな広場のような場所に出た。周りを見ると、黄色い花がいくつも咲いていた。その花こそ、山吹の蜜を採取することができる花なのだ。
「スッゲー、こんなところがあったんだ。ん?あれは?」
サトシたちが追いかけて来たオドリドリの前に、別のポケモンが現れた。赤い身体にドレスのように広がる羽を持つそのポケモンは、どこかオドリドリに似ているとサトシは思った。
『あれはオドリドリ、めらめらスタイルロト』
「えっ、あれもオドリドリなのか?」
『オドリドリは姿やタイプが変わるポケモンロト。その変わるために必要なのが、あっ!ほら、見るロト!』
「へ?」
ロトムの示す方向を見ると、めらめらスタイルのオドリドリが黄色い花から山吹の蜜を飲んだところだった。途端にその姿は光り始め、ぱちぱちスタイルのオドリドリに変わっていた。
「そっか、だからオドリドリが蜜の場所を知ってるんだ」
「ほらマオ。蜜を採るんだろ?」
「あっ、そうだった」
一歩前に踏み出すマオ。その足元から突然網が上がって来て、サトシ、マオ、ピカチュウにモクローを吊り上げた。
「な、なんだ?」
「な、なんだと聞かれたら、」
「聞かせてあげよう、我らの名を」
「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」
「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」
「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」
「「ロケット団、参上!」」
「なのニャ!」
「ソーナンス!」
現れたのはやはりというか、ロケット団だった。どうやら山吹の蜜を独り占めしようとしているらしく、ニャースが発明を使い、あたりの花を吸引し始めた。唯一動くことができるアマカジがなんとかしようとするも、小さな体では網を破ることも、ニャースを止めることもできなかった。
マオの役に立ちたい、一緒に幻のアローラシチューを完成させたい、もっと力になりたい。そんなアマカジの思いが高まったその時、アマカジの体がまぶしく光り始めた。
「これって」
「アマカジが、」
『あれは間違いなく、進化の光ロト!』
小さかった体は少し成長し、やや人型に近いものへ。頭のヘタは長く伸び、まるで髪のようだ。妖精のような可愛らしさを持つ姿へと変わったアマカジ、改め名前は、
『アママイコロト!』
「アマカジが、進化したんだ!」
突然のことに驚いていたロケット団に、アママイコが向かって行った。大きなヘタから繰り出されたおうふくビンタによって、ニャースたちは弾き飛ばされ、その衝撃でサトシたちも解放された。
「サンキュー、アママイコ」
「サトシ、一気に決めちゃおう!」
「オッケー。モクロー、このは」
「アママイコ、マジカルリーフ!」
二体の同時攻撃によって、ニャースの持っていた機械は破壊された。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
続けて放たれた電撃がロケット団に直撃・・・
するかと思いきや、突如現れたキテルグマがその身に攻撃を受け、まるで何事もなかったかのように、ロケット団を抱えて行ってしまったのだった。
「なんなんだ、あいつは?」
「さぁ?」
何はともあれ、危険は去り、マオはようやく念願の山吹の蜜を手に入れることができたのだった。
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後日、再び集められたクラスメイツ。材料を全て揃えることができたマオの作ろうとしている料理、幻のアローラシチューの完成を待ちわびていた。
「出来たー!お待たせみんな、今度こそ完成だよ。正真正銘、アローラシチュー!」
綺麗なミルク色をしたそのシチューからは、食欲をそそる香りがあふれていて、サトシたちは早速食べ始めた。濃厚なシチューの中にあるほのかな痺れが、スパイスのようにちょうどいい刺激を与えてくれる。そして同時に、わずかではあるが残っている蜜の甘味。幻のアローラシチュー、その名に違わぬ美味しさだった。
「やったねマオ」
「とても美味しかったです!」
「あぁ。大したものだ」
「これって看板メニューになるの?」
食し終わった仲間たちが口々に感想を並べる中、嬉しさや照れが出たマオは頬をかいた。
「そうしたかったんだけどねー。蜜がいつでも手に入るわけじゃないから、期間限定メニューとして売り出すことになったんだ。また新しいメニューを考えなくちゃ!」
「頑張れよ、マオ」
「うん!」
「アマ!」
マオの背中に抱きつくアママイコ。進化して肩に乗ることはできなくなってしまったが、二人の中の良さは変わらなさそうだ。
「サトシ、ありがとね。一緒に蜜を探してくれて。サトシたちと、アママイコのおかげだよ。だから、ありがとう」
「いや、マオとアママイコが頑張ったからさ。本当に美味しいシチューだぜ!」
「いっぱいあるから、みんなもたくさん食べてね」
「「「は〜い」」」「あぁ」
幻のアローラシチューを完成させたマオ。アイナ食堂を大きくするという夢に向けて、大きな一歩を踏み出した。進化した友達の、アママイコとともに。次にどんな料理が作られるのか、それはまだ誰も知らない。
いよいよカプ・コケコとの再戦ですね
どんなバトルになるのやら