というか、ポケモン全シリーズ通して稀に見るシリアス回でしたね
これは逆にアローラサトシの作画で良かったとか思ってしまった私がいますね
XYサトシだと、なんかシリアス過ぎてマジ泣きしそうなんで……
ポケモンスクールから帰る途中のサトシとリーリエ。ククイ博士から買い出しを頼まれていたため、市場によって帰るところだった。
『サトシ、荷物がいっぱいロト』
「あの、わたくしもお手伝いしますよ」
「ありがとうロトム、リーリエ。でも、これ結構重いし」
「ですが、」
「大丈夫、っておっと」
手に持っていた紙袋からドーナッツが一つ転がり落ちる。少し転がったドーナッツは、誰かの足に当たり止まった。屈んでそれを拾い上げてくれたのは、ニャビーによくきのみを分け与えていたおばあさんだった。
「あらあら、久しぶりね」
「こんにちは」
「二人はおつかい?」
「ええ。博士は今日、スクールで少し忙しいらしいので」
「そうかい。あ、これ」
「ありがとうございます、ひゃっ!?」
差し出されたドーナッツをリーリエが受け取ろうとすると、その前を一つの影が横切り、ドーナッツを取って行った。黒と赤の体に、黄色の瞳。
「ニャビー!」
「ピィカチュ!」
フンス、と鼻を鳴らしサトシを見ていたのは、ニャビーだった。初めて会った時は尻尾をサトシが踏んでしまい、ひのこを浴びせられたこのニャビー。ムーランドと一緒に生活し、前回会った時にはモクローとアシマリを助けてくれたこともある。
「久しぶりだな、ニャビー。元気にしてたか?って、ちょっと!」
サトシの質問に答える様子もなく、ドーナッツを咥えたニャビーは一目散に走っていく。慌てて追いかけるサトシたち。市場を抜け、住宅を通り過ぎ、大きな川と橋のある場所で、サトシたちはニャビーを見失った。
「あれ?どこ行ったんだ?」
「サトシ、あちらの橋に!」
「えっ?」
自分たちがいたのとは隣の橋、その下にニャビーはいた。駆け込んで来たニャビーを向かえるように、大きなポケモンが顔を覗かせる。
『ムーランドもいるロト!』
「ここに引っ越していたのか……」
ドーナッツを食べ終えたムーランドの前で、ニャビーが体に力を込めている。それを見ていたムーランドが一声鳴き、自身もまた力をためた。ムーランドの体が赤く光りだす。
「あの技は……」
『ほのおのキバロト!』
丸太めがけて繰り出された技が決まり、大きな爆発で丸太が割れる。やってみろ、と言わんばかりにニャビーの方を見るムーランド。同じ様にニャビーが力を溜める。固いきのみに向けて技を繰り出すが、まだ不完全なのか、逆にニャビーが痛そうにしている。
折角だからと思ったサトシ。ムーランドに挨拶すべく、階段を駆け下り、近づいた。
「こんにちは、ムーランド。久しぶりだな」
「ワウッ」
ムーランドの方もサトシのことをよく覚えていてくれた様で、特に警戒する様子もない。ニャビーによってひのこをまた浴びることとなったサトシだったが、久しぶりの再会を楽しんだ。ただ、気がかりなことが一つ。ムーランドが以前会った時と比べ、咳を多くするようになっていたことだ。少しばかりの不安が、サトシの頭をよぎった。
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翌日、ポケモンスクールからの帰り道。サトシとリーリエはニャビーとムーランドのためにきのみを買って帰ろうとしていた。
突然飛んできた攻撃をなんとかかわすピカチュウ。前口上も省略し、高らかに笑い声を上げているのは、毎度お馴染みの悪者チーム。
「「「ロケット団、参上!」」だニャ!」
ビシッとポーズを決めるロケット団。その真上から、炎の塊が降ってきて、全員まとめて黒焦げにされてしまう。あんまりな出オチ感にサトシたちがあっけにとられていると、サトシの足元に何かがしがみついた。
「ニャビー?」
「ニャ!ニャニャ!ニャブ!」
いつもの飄々とした感じはどこにもなく、とても焦っているようなニャビー。あのニャビーがこんなに取り乱すなんて……
「まさか、ムーランドに何かあったのか!?」
「サトシ、早く行きましょう!」
「あぁ!行こう、ニャビー!」
大急ぎで駆け出したニャビーを追って、サトシたちは昨日知ったニャビー達の住処へ向かった。辿り着いた先でサトシ達が見たのは、倒れてしまっているムーランドだった。
「ムーランド!大丈夫か?しっかりしろ」
駆け寄り様子を確かめるサトシ。意識はなく、呼吸もなんだか苦しそうだ。
『具合が悪そうロト!』
「サトシ、確か近くにポケモンセンターがあるはずです。そこへムーランドを連れて行きましょう!」
「わかった。ニャビーも来るか?」
「ニャブ!」
「よしっ。リーリエは俺のカバンを、って、まずはモクローをボールに戻してっと。リーリエ、カバンを頼む」
「はい!」
屈み込み、ムーランドを背に乗せるサトシ。立ち上がった時に彼は驚いた。軽かったのだ。その立派な体格にしてはあまりにも、あまりにも。なんとかムーランドを背負うことが出来たサトシは、リーリエに案内され、ポケモンセンターへと向かった。
その後ろで、近くにあった木の葉の一つが、ひらり、ひらりと落ちていき、川の流れに乗って、彼らと反対の方向へと流れて行った。
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規則的な音で、ムーランドの心音が表示される。ポケモンセンターの治療室では、ジョーイさん達がムーランドの様子を診ている。その様子をじっと見つめるサトシ。腕の中ではニャビーが、ムーランドの元へ行こうとしながら、声をあげる。
「サトシ……ムーランドは、大丈夫でしょうか?」
「……」
リーリエの疑問に、サトシははっきりと答えることが出来なかった。病気とか、怪我とかなら問題ない。ジョーイさん達にかかれば、まず間違いなく治ると信じている。ただ……
治療中のランプが消え、中からジョーイさんが出て来る。ニャビーはドアが開いたその瞬間に、ムーランドの元へと駆け寄った。意識を取り戻したムーランドが前足を伸ばす。ニャビーはその足を舐め、安心させようとしている。
「あの、ジョーイさん。ムーランドは……」
「……」
「サトシ君は、もう気づいているみたいね。ムーランドは、怪我をしているとか、重い病気を患っているとかじゃないの。ムーランドはね……」
続く言葉にピカチュウとロトムは驚き、リーリエは口元に手を添え、サトシは静かに俯くだけだった。しかしその手は、強く握りしめられている。
声こそ聞こえなかったものの、その様子を見て、ニャビーもまた、何かに気づいたようだった。
「ニャビーは、このことを知っているのでしょうか?」
「感じ取ってはいると思うわ」
「大丈夫でしょうか……」
「俺、博士に連絡して来る。今は、ニャビー達の側にいてやりたい」
「わたくしも残ります」
「そうね。野生であるはずのニャビーが頼ってきたということは、信頼されている証拠だもの。私からも、お願いするわ」
「「はい!」」
博士への連絡を終えた二人は、きのみを買って来ることにした。ムーランドとニャビーが少しでも元気になることを願いながら。ところが、彼らが戻って来ると、二体の姿は、既にどこにもなかった。
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病院から姿を消したニャビーとムーランドを探すために、サトシとリーリエは飛び出した。
「今のムーランドでは、そう遠くまではいけないはずです。でも、どこに?」
「きっと、あの場所に帰ったんだ。急ごう!」
走り出した彼らの前に、一つの影が現れた。月の光を受けて、額の小判がキラリと光る。
「お前、ニャース!?」
「こんな時にまで邪魔を?」
身構えるピカチュウ。あたりを警戒するサトシとリーリエ。しかし攻撃が来る様子はない。
「おミャーらに話しておきたい事があるニャ」
真剣そうな表情で話しかけて来るニャース。ロケット団は基本的には敵だが、こういう真剣な時には必ず何か意味がある。伊達に旅の始まりから顔をつき合わせていない。敵対もし、協力もした。不思議なことに、サトシとロケット団の間には、彼らなりの信頼関係もできているのだ。
今までの付き合いからそう判断したサトシとピカチュウは警戒を解き、ニャースと向かい合った。
「ニャビーは、とっても頑張ってる奴ニャ。前にも、強くなって大切な奴を守りたいと言ってたニャ。ニャーはそんなニャビーの姿に、感動したニャ。だから、おミャーらには、あいつのことを見守ってて欲しいのニャ!」
「ニャース……」
「それだけ言いたかったニャ!」
そう言って走っていくニャース。同じネコ型ポケモン同士、思うところがあったのかもしれない。ニャースの言葉を受け止め、サトシはポツリと呟いた。
「ありがとう、ニャース」
「サトシ?今何か言いました?」
「いや、なんでもないよ。行こう!」
橋を目指して走り続けたサトシ達。案の定、そこにはニャビーとムーランドがいた。どうやら、ニャビーのほのおのキバを完成させるために、特訓を続けるつもりらしい。
「サトシ、どうします?」
「……病気や怪我はしていないなら、ポケモンセンターにいなくちゃいけない理由はないのかもな。きっと、ここの方がニャビー達は落ち着くんだろう」
「そうですね……ムーランドにとっては家みたいなものですものね」
「今は、そっとしておいてあげた方が、いいのかもしれないな……」
二体の様子を見ながら、サトシは悩んでいた。きっと時間はあまり残っていない。明日にでもその時が来るかもしれない。自分が側にいてやるべきなのだろうか。それとも、こうして一緒の時間を過ごせるように、そっとしておくのが正解なのだろうか。
パチリと、ムーランドとサトシの目があった。ムーランドはただじっとサトシを見つめ、小さく頷いた。その意図をなんとなく理解したサトシも頷き返した。
「行こう、リーリエ」
「サトシ?」
「今は、ムーランドの番だから」
「ムーランドの、番ですか?」
「ああ。だから、今日は帰ろう」
疑問符を頭に浮かべたものの、サトシの落ち着いた雰囲気やしゃべり方から、深い理由があることだけはわかる。ロトムもリーリエも特に反対することなく、サトシの後に続いた。
残る木の葉は後二つ。うち一つがその日の真夜中に散り、翌朝ニャビーが目を覚ますと、ムーランドの姿はどこにもなかった。
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その日、天気は雨だった。傘を差し、サトシ達6人とククイ博士はスクールが終わった後すぐに、ニャビー達のいる場所へと向かった。サトシ達の話を聞き、マオ達も何かしてあげたい、そう思ったからだった。
「……っ!」
「サトシ?」
「どうしたの?」
「聞こえたんだ……ニャビーの声が」
「えっ?」
慌てて耳を澄ますリーリエ達。降りしきる雨の音以外に、確かにニャビーの鳴き声が聞こえる。いや、違う。これは泣き声だ。甘えてるわけでも、特訓しているわけでも、焦っているわけでもない。この声は間違いなく、泣いていた。
川の近くにたどり着き、階段を降りたサトシ達。その目に入ったのは、崩れてしまったソファに、葉が全て落ちた木。ムーランドの姿はなく、ニャビーは雨に打たれるがままに、天に向けて声をあげていた。
『ムーランドはどこロト?』
「……聞くな」
「そんな……」
泣きそうな顔のマオとマーマネ。腕の中にいるアシマリをぎゅっと抱きしめるスイレン。口元を両手で抑えるリーリエ。黙って目を伏せるカキと博士。ニャビーの悲しそうな姿に、彼らも胸が締め付けられる。
一人だけ視線をそらさずに、ニャビーを見つめ続けているサトシ。帽子でその表情は読みにくいが、傘を握るその手は、痛々しいほどにまで強く握りしめられていた。
その日、一晩中、ニャビーの慟哭は続いた。あまりにも遅くなりだし、サトシ達が帰ってなお、泣き続けた。その心を写すかのように、それから降る雨も、止む気配がなかった。
次の日も、その次の日も、雨が降り続いた。泣き疲れたのか、ニャビーは唯一飛ばされなかった葉のそばで丸くなり、ずっとそこから動かずにいた。サトシが声をかけようと、ニャースが声をかけようと決して動こうとしなかった。
あれからもう数日、雨は一度も止むことなく降り続き、ニャビーもまた、動こうとしなかった。サトシが持って来たきのみも、全然食べようとしない。最低限の栄養はとっているようだが、目に見えて調子が悪そうだ。
それを見たサトシは、大量のきのみを持って、ニャビーのもとを訪れこう言った。
「お前がしっかり食べるまで、ここから動かないぜ」
ポケモンのこととなると有言実行なサトシ。自分だってお腹が空いているだろうに、ニャビーが食べるまで食べないと言い切り、ニャビーのそばに腰掛け、語りかけた。
「俺さ、前にも一度だけ、あるポケモンとの別れを経験したんだ……そいつは兄妹のお兄さんだった。最後まで、自分の役目を果たして、妹に後を託した。ほんの短い間の付き合いだったけど、あいつは凄くカッコよかった……」
静かに聞いているニャビー。目を閉じ、眠っているようにも見えるが、その耳はしっかりとサトシの言葉を聞いている。既に眠っているモクローとロコン以外の彼の手持ちも、しっかりと聞き耳を立てている。
サトシが語るのはとある水の都での物語。彼にとって、忘れることのできないだろう、たった一度の永遠の別れ。
「今、妹の方はそのお兄さんが守った場所にいる。そこで、生きている。ある日突然お兄さんとずっと離れ離れにならないといけなくなって……それでも、あいつは生きてるよ。お兄さんが残してくれた、あの水の都で。いつかまた、会いに行きたいと思ってるんだ。あの二体に……」
懐かしむように目を細めるサトシ。視線は雲で覆われた空に向けられているものの、その瞳が見つめているのはその先、ずっとずっと遠くにある、あの美しい街。
自分も見てみたい……
なんて気持ちが、ニャビーの中に芽生えた。
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朝、久しぶりに光が差し込んだ。爽やかな風が吹き、ニャビーの側にあった葉が空へと舞い上がった。急いで追いかけたニャビーは、空を見上げ、立ち止まる。
暖かいは光が差し込む中、空には綺麗な虹がかかっている。そのすぐ側には大きな雲。その雲の形は、まるでムーランドのようだった。
また風が吹き、葉がより高く舞い上がる。ムーランドの雲と重なったように見えた瞬間、雲が形を変えた。小さく頷き、顔を背けるムーランドが、まるで虹の向こうへ駆けていくかのように見えるその光景は、ロトムが思わず写真を撮り忘れるほどに、起きて来たサトシが思わず涙を流しかけるほどに、神秘的なものに見えた。
「じゃあな……ムーランド」
「ニャー」
雲の形が変わり、ムーランドは消えた。それを見届けたニャビーは、何日振りかの笑顔を見せていた。
「なぁニャビー、俺たちとこないか?」
「ニャ?」
「俺の仲間になって、一緒にほのおのキバ、完成させようぜ!」
「ピッカァ!」
「クロ」
「アンアン!」
「コォン!」
「コウッ」
サトシの仲間たちも歓迎するように声を上げる。それに対しニャビーは……
「あっち!」
サトシの顔めがけてひのこをぶつけることで答えた。同情で誘っているのであれば、迷惑千万。バトルして、自分が認められる相手であることを示してみろ。その意思が感じ取れた。
「よーし、行こうぜ、ピカチュウ!」
「ピィカ!」
「ニャー、ッブ!」
「10まんボルト!」
放たれたひのこを10まんボルトで相殺するピカチュウ。爆発が生じる中、でんこうせっかで距離を詰める。もう少しで当たる、そう思ったところで、ニャビーは身体を捻り、攻撃をかわした。
「何っ!?」
追撃のひのこをなんとかかわしたピカチュウ。空中へと跳び上がり、逃げ場をなくしたピカチュウに迫る鋭い爪。ニャビーはひっかく攻撃で攻めようとした。
「ピカチュウ、こっちもかわせ!」
サトシの指示に、空中という不安定な体制から、身体を回るようにし、ピカチュウは攻撃をかわした。さっき自分がしたことをそっくりそのまま、いやそれ以上の精度で返されたことに、ニャビーは驚いた。
「アイアンテール!」
「ピカ!チュー、ピッカァ!」
「フー!ニャッブ!」
尻尾の一撃に対し、ニャビーは身体に力を溜め込み、ほのおのキバで対抗した。かつてないほど力強く繰り出されたその技はピカチュウのアイアンテールとぶつかり合い、両者を大きく後退させた。
「今のほのおのキバ、成功だったな、ニャビー。お前、いきなり本番で出すなんて、すごい奴だな」
「ピカチュ」
「ニャブ」
対峙したまま笑顔を浮かべる両者。サトシがからのボールを一つ取り出す。
「行こうぜ、俺たちと!」
「ニャブ!」
「行っけぇ、モンスターボール!」
高く投げあげられたそのボールへと、ニャビーは自ら跳び上がり、スイッチを押して中に入った。三度揺れて、音がなる。ボールを手に取り、嬉しそうな笑顔になるサトシ。
「ニャビー、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュ!」
その様子をずっと見ていた影が一つ。ニャースだ。涙をぬぐい笑顔になるニャース。
「これで良かったニャ。やっぱり、ジャリボーイに任せて正解だったニャ。でも、これからは敵同士、ニャーとおミャーはライバルニャ!負けないのニャ!」
そう言って、さっさと帰って行くニャース。しかしその足取りは軽く、スキップでもしそうなほどだった。
こうして、ニャビーをゲットしたサトシ。ムーランドとの別れを乗り越え、ニャビーはサトシ達と生きていくと決めた。新しい仲間、家族とともに。
その後技の完成に向けて特訓している時に、後にシロデスナ事件と呼ばれる出来事に巻き込まれたサトシとニャビー。二人が絆で結ばれ、ほのおのキバが完全なものになるのだが、それはまた別の話。
次回は取り敢えず、授業参観エピソードにしようかと思います
いや、なんだか、話数たまり過ぎたので全部は無理だな〜ってなってるので
あと、グラジオ早く書きたい!
↑これが本音(●´ω`●)