まぁそこまでたどり着くのにもまだ時間がかかりそうだなぁ
その日の朝、目覚めたサトシはベッドの上に横になったまま、自分が見た夢について考え込んでいた。
ライチさんとの大試練バトル。それがまさに始まろうとしていたその時に、サトシの目が覚めたのだった。
「大試練かぁ……あ、そういえば、まだ試練受けてない!」
ガバッと起き上がるサトシ。あまりの勢いに、二段ベッドの上に頭が激突する。
「どぉうわぁっ!?」
「な、何だ!?」
突然の衝撃にマーマネが驚きの声を上げる。その声に驚き、カキも目を覚ます。何かあったのかと辺りを見渡すが、目に入るのは下を覗き込んでいるマーマネと、頭を抑えているサトシだけ。
「何だ?というか、サトシどうした?」
「いや、ごめん。勢いつけて飛び起きたら、頭ぶつけた」
やや呆れ顔のカキ。本当、バトルの時とかは実年齢以上の落ち着きや風格を漂わせるというのに、こういうところはむしろより幼い年齢の人の行動では無いだろうか。時々本当のサトシがどんななのかが分からなくなる。
「それで、何で急に飛び起きたんだ?」
「いやぁ、大試練受ける夢を見て思い出したんだけどさ、アーカラ島の試練を受けてなかったなぁって」
「ああ。そういえばそうだったね」
「カキはどんな試練だったんだ?」
「俺か?……そうだな。詳しいことはルール違反ぽいから話せないが、ポケモンと力を合わせて課題を攻略する、って感じのものだったぞ」
「ポケモンと力を合わせて……課題を攻略……」
ポケモンと挑む競技か何かだろうか。サトシも色々と考えてみたが、いかんせん、彼は旅の中で色々な競技やスポーツに参加しすぎていた。バトルはもちろん、レースやコンテストなどと、考え始めたらきりがない。もうどれなのか絞り込むどころか、あれかもしれない、これかもしれないと、余計に混乱するばかり。
「……考えるのやめるか」
「ピカチュ?」
「今日試練受けさせて欲しいって言ってみようかなぁ」
そろそろいい時間なので、サトシたちは着替え、朝食を摂るためにポケモンセンターの食堂へと向かうのだった。
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朝食を済ませ、サトシたち6人はポケモンセンターのロビーに集合していた。今日もライチは祈りを捧げに行っているようで、彼らは彼女が戻るのを待っている。と、ドアが開き、明るい笑顔でライチが入ってきた。
「アローラ!今日もいい天気ね」
「「「「「「アローラ」」」」」」
「うん。今日も元気があってよろしい!」
「あの、ライチさん」
「ん?サトシ、どうかした?」
「俺、島巡りの大試練に挑戦したいんです。だから、アーカラ島の試練を、受けさせてください!」
みんなの前に一歩出たサトシ。真剣な表情でライチを見上げている。ライチはその真剣な表情を真正面から受け、
「ごめんね、今日はダメ。でも、その時が来たら、ちゃんと伝えるわ」
「……分かりました。じゃあ、また今度ですね」
と、少し大人の余裕がある笑顔で制する。サトシとしてはすぐにでも挑戦したい思いなのだろうが、流石に自分の勝手で他のみんなに迷惑をかけたくは無い。今回は仕方がない、そう考え引き下がった。その様子を見たライチが、パンパンと手を叩く。
「さぁ、今日の課外授業の内容を伝えるわ。みんな、ちょっと付いて来て」
そう言って隣の部屋へ移動しようとするライチ……だったが、何と元の位置に戻ろうとするドアに弾かれ、尻餅をついてしまった。
……………(−_−;)
相変わらずドジっ子ここに極まれり、なライチの様子に、サトシたちは苦笑を浮かべるしかなかった。
「アーカラカレー?」
「そう。アーカラ島の伝統的な料理よ。それを作ることが、今回の課外授業」
「料理かぁ。特訓の成果を見せてやるぜ!」
「ここにいる全員、料理は経験済み」
「と言っても、アーカラカレーはさすがに作ったことないなぁ。カキはどう?」
「残念ながら、俺は家庭料理しか作ったことがない」
ライチが思っていたよりも、サトシたちは優秀らしい。とはいえ、この伝統料理のアーカラカレーは、簡単に作ることができるわけではない。そもそも、材料が通常のものとは違う上に、とても手に入れるのが難しいと言われるものまであるのだ。
「今回は材料を探すところから、みんなにやってもらうわ。材料を集めるのに、二人一組で行動ね。ペアと集めてもらう材料は、こっちで決めてあるから」
そう言いながら、ライチはいくつかのカードを取り出す。今回の班分けはカキとリーリエペア、マーマネとスイレンペア、そしてサトシとマオペア。サトシたちが集めるのは、
「えーっと、マゴの実、ふっかつ草に、キセキの種?」
「あ、それだよそれ。そのキセキの種が、とても珍しくて手に入りにくいんだって」
「そうなのか?」
「材料がどれか一つでも揃わないと、アーカラカレーは完成しない。しっかりと見つけて来てね」
ウインクするライチ。早速出かけようとするサトシたちだったが、マオだけがライチに呼び止められる。出だしが遅れたサトシチームだったが、サトシは珍しいというキセキの種を見つけ出すために燃えているみたいだった。
ニヤリ、とライチが笑う。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
出発したサトシとマオがまず探すことにしたのは、一番自分たちから近いところにあるマゴの実。少し高い丘を登りきったところに、マゴの実の木が生えているのが見える。これで最初の材料ゲットだぜ!……なんてことにはならなかった。
マゴの実までの道のりに、何やら見慣れない花のようなものがたくさん並んでいる。
「何だこれ……何かの花か?」
「綺麗な色……でも、なんか大きいね」
『これは、花じゃなくてポケモンロト』
「「えっ!?」」
『カリキリ、かまくさポケモン。くさタイプ。昼間は葉を広げ、日光浴をしながら、光合成でエネルギーを蓄える』
「ってことは、今寝てるのか……」
ざっと辺りを見渡しても、どこもかしこもカリキリだらけ。気持ちよさそうに寝ている彼らを起こすのは、流石に避けたい。が、彼らを邪魔せずにマゴの実を取る方法は……
「あ、そうだモクロー。あいつなら静かに空を飛んでいけるはず……って、」
いそいそとリュックを開け、中を覗き込むサトシだったが、やはりというか何というか、モクローはぐっすりと眠っている。ご丁寧に鼻ちょうちん付きで。サトシのポケモンでも、カビゴン以来の居眠りっぷりには、流石のサトシも苦笑するしかなかった。
「モクロー、起きてくれ〜」
大きな声を出さず、囁くように声をかけながらサトシがモクローの体を揺する。モクローの目が開き、サトシを捉える……が、まだ半開き。完全に寝ぼけているようだ。
「モクロー、起きろ〜。ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「……クロ?」
目をパチパチと瞬かせ、首を振るモクロー。何とか意識は覚醒したらしい。
「モクロー、あそこの木にこっそり近づいて、マゴの実を取って来てくれるか?これなんだけど」
サトシの差し出した写真を見て頷くモクロー。まだ眠り足りないのか欠伸をしながらではあるが、モクローは丘の上を目指して飛んだ。
音を立てずに飛ぶことができるモクロー、見事に一体のカリキリも起こすことなく、マゴの実までたどり着くことができた。あとはそれを持って来てくれるだけ……と、ここで何故かモクローの動きが止まる。
「……ねぇ、サトシ。もしかして……」
「あー、多分そうかな……」
よく見ると、モクローの肩が一定のペースで上下しているのが見える。間違いない。
『「「また寝てる」」ロト!?』
思わず大きな声を出してしまうサトシたち。キッと、カリキリたちの鋭い視線が突き刺さる。昼寝の邪魔をされたことに相当怒ってるみたいだ。
「さ、サトシどうする?」
「マオたちはピカチュウと一緒に先の森に向かって走ってくれ。俺はモクローとマゴの実を」
「でも、危ないよサトシ!」
あの数の多さから考えると、いくらサトシの運動神経が高いといっても、カリキリたちの攻撃を全て避けきるのは難しいだろう。心配そうなマオに、サトシはニッと笑みを向ける。
「大丈夫。作戦は考えてあるから」
自信満々なサトシの様子に、マオは頷くしかなかった。
「よしっ、走れ!ゲッコウガ、かげぶんしん!」
駆け出すと同時に、モンスターボールを高く放り投げるサトシ。飛び出したゲッコウガはすぐさま分身し、カリキリたちの方へと走って行く。突然現れた大量のゲッコウガに、カリキリたちが気を取られているうちに、マオたちは先の森へ、サトシはダッシュでモクローの元へと向かう。
「モクロー、ほら行くぞ!ととっ、それからこれも!」
モクローを抱き抱えたサトシ。忘れないようにマゴの実を一つもぎ取っておく。走るサトシの後ろに、ゲッコウガが追いつく。その後ろでは、カリキリたちがソーラービームの体勢に入っている。
「ゲッコウガ、みずしゅりけんを空に向けて投げろ!」
すぐさま二つのみずしゅりけんを作り出し投げるゲッコウガ。二つのみずしゅりけんがカリキリたちの頭上でぶつかり合い、弾け飛ぶ。そのあたりだけ小さな雨のようになり、何とかソーラービーム発生を遅らせることに成功する。
「今の内だ!」
サトシとゲッコウガがマオたちを追って森へと走る。流石にそこまではカリキリたちも追ってくるつもりがないのか、追撃はもうなかった。
「サトシっ、大丈夫だった?」
「ああ、平気平気。モクローも無事だし、マゴの実もゲットしたし。サンキューな、ゲッコウガ」
「コウッ」
拳を合わせるサトシとゲッコウガ。二人だけの通じ合い方らしいが、お互いの考えていることを言葉も使わずに話しているのだろうか……ゲッコウガをボールに戻し、次の食材、ふっかつ草を探すため、サトシたちはまた歩き出した。
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第二の食材、ふっかつ草は割と簡単に手に入った。サトシたちは、岩の切れ間に沢山生えているのを見つけることができたのだ。その際、人が通るにはとても狭すぎるその切れ間の道を、ピカチュウとロコンが潜り込んでくれたため、予定よりも多めにふっかつ草が手に入ったのだ。
「ふっかつ草はね、食べたポケモンを一瞬で元気にすることもできるんだよ。まぁ、と〜っても苦いから、あんまり人気はないんだけどね」
「そうなのか……まぁ、なんとかは口に苦し、だっけ?」
「良薬ね。そうだね。効き目はジョーイさんのお墨付きだから、確かだし」
しかしできればあまり使いたくない、なんて思ってしまうサトシ。自分が昔苦い薬が嫌いだったこともあって、なるべく自分のポケモンたちにはそんな思いはさせたくない。
「それじゃあいよいよ、最後の一個だな」
「うん。滅多に見つからない、キセキの種。この先にある洞窟を抜けたところで見つけられるみたい」
マオが指差す先を見ると、高さはさほどない洞窟が見える。上から蔦が垂れ下がり、中は薄暗い。
「よし、行こう」
「うん!」
暗い道を進むサトシたち。サトシの後ろをついていきながら、マオが不安そうに辺りをキョロキョロ見渡す。何かがいるような音はなく、自分たちの足音だけが、洞窟内に響いている。
「あの……マオ?」
「へっ、な、何、サトシ?」
「いや、少し、痛いんだけど……」
視線の先、マオの両手が、サトシの右腕の肘辺りをしっかりと握っている。知らず知らずのうちに力を込めすぎていたようで、サトシが苦笑している。
「あ、えっと、ごめんね」
「いや、いいよ。不安ならつかまっててくれ。何かあったら、ちゃんと守るから」
差し出されたサトシの手。さらに今のセリフのおかげで、マオの頬に熱が登って来た。洞窟が暗いことをまさかありがたく思う時が来るとは、思ってもいなかったマオ。
「えっと……うん。ありがと」
さっきまでと違い、サトシの手をそっと握るマオ。サトシは安心させようとしているのか、しっかりと離れないように握っている。
(さらりとこういうことするんだから……もう)
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洞窟を奥に進むと、道が二つに分かれている。
「えっと……どっちに行けばいいんだろう」
「止まっていてもしょうがないさ。とりあえず進んでみようぜ。これは……こっちだ」
サトシの勘だけを頼りに進むことしばし、突然サトシの姿がふっと消え、繋いでいた手がするりと離れる。
「えっ、サトシ!?」
慌てて周囲を見るマオ、と足元から声がする。
「いてててて」
「って、なぁんだ。脅かさないでよ」
洞窟の地面に大きく開いた穴、そこにサトシは落ちていた。怪我は特にしていないようで、穴がそこまで深くはないこともあり、戻るのに特に問題はなさそうだ。
「でも、なんでこんなところに穴が「ディグ」ん?」
サトシの足元から声がする。下を見ると、地面からアローラのディグダが顔を出している。心なしか、不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか……
『ビビッ、まずいロト!データによると、この辺りはディグダたちの縄張りロト!』
「「ええっ!?」」
慌てて穴から駆け上がるサトシ。その後ろからディグダが追ってくる。一体、また一体とディグダが顔を出してはサトシたちの後を追いかける。
「ごめんな、ディグダ〜!」
走りながら大きな声で謝罪するサトシ。ひたすらに元来た道を走ったサトシたちは、また分かれ道の近くで足を止めた。
「もう追って来てないみたい」
「ふぅ〜。でも、なんとかディグダたちを脅かさないで進む方法を考えないとな……」
『でもそれには、ディグダがいるかどうかを確認する必要があるロト。どうやるロト?』
「うーん……ん?」
腕を組み、首をかしげるサトシ。ふと視線を下に落とすと、足元に何かが落ちている。拾い上げて見ると、それは細い毛のようなものだった。
「ロトム、これ何かわかるか?」
『何ロト?こ、これは、ディグダの髭ロト!』
「えっ、髭?」
あの頭に生えているものは髪じゃなかったのか……流石に驚いてしまうサトシ。
「髭……そうだ!出てこいイワンコ!」
何か閃いたのか、ボールからイワンコを出すサトシ。イワンコの前でその髭を持つ。
「イワンコ、この匂いのする方向を教えてくれ」
「サトシ、それでどうするの?」
「まぁ見てなって」
分かれ道の匂いを確認するイワンコ。と、片方めがけて吠え出した。
「よし、こっちからディグダの匂いがするなら、反対側に進もう」
「あ、なるほど!」
『こんな手があったロト!?』
イワンコを先頭に、サトシたちはどんどん洞窟の奥へと進んでいく。サトシの考えの通り、イワンコのおかげでサトシたちは、ディグダに出くわすことはなかった。と、先の道に、天井から光が差し込んでいる場所が見える。
「出口だ!」
「本当にたどり着いちゃった」
駆け出すサトシたち。洞窟の天井の穴からサトシが先に出て、手を差し出しマオを引っ張り上げる。しかし、無事に目的の場所にたどり着くことができた彼らを、岩陰から誰かがじっと見ているのには、気づかなかった。
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洞窟を抜けると、そこは一面の森だった。
「ここって確か、シェードジャングルだよ。美味しいきのみがいっぱい取れるって聞いたことがある」
「ここに、キセキの種があるのか……けど、どうやって森の中から見つければいいのか……」
「ピカチュ!」
「?ピカチュウ?」
大きな切りかぶの側にいるピカチュウが声を上げる。サトシたちが駆け寄ると、その切りかぶの中には大量のきのみが詰め込まれているのが見える。どうやらこれは、何か大きな皿のようなものらしい。その中から、ピカチュウが何かを取り出した。
「って、それってもしかして、」
「キセキの種!?」
『こんなあっさりロト!?』
ライチに渡された写真と見比べて見る。間違いなく、キセキの種だ。まさかこんなにあっさり最後の材料が見つかるとは。
「これで全部だよな」
「うん」
「ならあとはポケモンセンターに戻って、「ララーン!」っ!何だ?」
突然大きな鳴き声が辺りに響き渡る。警戒するように辺りを見渡すサトシ。すると、少し高めの場所から、大きな影が彼らの前に降り立った。
ピンクの体に大きなカマ。体はサトシたちよりも一回りは大きいだろうか。オーラを纏ったそのポケモンは、サトシたちを見下ろしながら、構える。
「あれは、ぬしポケモン!?」
『ラランテス、はなかまポケモン。カリキリの進化形。でも、このサイズは、通常の倍以上はあるロト!』
「バトルしようって言ってるのかな?」
「相手はくさタイプだな。だったらニャビー、君に決めた!」
ボールから飛び出たニャビーが戦闘態勢に入る。カマを振り上げ、声を上げるラランテス。ただでさえ大きな体が、さらに迫力を増す。
「行くぞ!ニャビー、ひのこ!」
「ニャッブ!」
先制攻撃を仕掛けるサトシたち。ひのこが命中し、ラランテスがよろける。と、ここでラランテスが片方のカマを頭上に掲げる。そのカマに、光のエネルギーが収束していく。
『あれはソーラーブレードの予備動作ロト!強力な技だから要注意ロト!』
「ソーラーブレード……ソーラービームと似た技なのか?なら、ニャビー、溜まり切る前に、ほのおのきば!」
予備動作で動くことができないラランテスの体に、ニャビーの技が炸裂する。大きな爆発が起こり、ラランテスがさらによろける。しかしエネルギーが溜まりきったようで、すぐさま光り輝く刃を振り下ろしてくる。
『来たロト!』
「かわせ!」
宙返りをするように移動するニャビー。見事にソーラーブレードを回避してみせる。
「このくらいのスピードなら、当たらないぜ!」
「ニャッブ!」
「ラァァァァ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
突然大きな声を張り上げるラランテス。突然のことにサトシたちは驚き、動きが止まる。
「何だ、今の?」
『まずいロト!今のは仲間を呼んでいたロト!』
「ええっ!?」
森がざわめき始める。辺りを見渡すと、既に大量のカリキリたちがサトシたちを取り囲むように集まっている。さらには何かが空を飛んで来て、ラランテスのそばにやって来た。
「あれは……ポワルン?」
てんきポケモンのポワルンが、ラランテスを助けに来たらしい。種族が違えど、仲良くできるというのがよくわかる光景だが、何もこんな時にそうならなくても……
「ポワァン」
ポワルンが鳴くと、急に日差しが強くなり始める。にほんばれによって、天候を操作したポワルンの体に変化が起こる。
「何何?進化?」
『違うロト。ポワルンは天候に応じて、姿やタイプが変わるロト!』
太陽のような姿に変わるポワルン。その背後ではラランテスがソーラーブレードのチャージに入っている。
「まずいっ!ニャビー、ひっかく!」
ジャンプするニャビー。鋭い爪でラランテスを狙うが、逆にポワルンみずでっぽうをくらい、後ろへ飛ばされる。と、そこへソーラーブレードが叩き込まれる。
「何で?さっきよりも早い!」
「天候が晴れだと、ほのおタイプの技の威力が上がる。でも、」
『相手にとっては、ソーラービームやソーラーブレードの溜め時間が短くなるロト!』
よく見ると周りを取り囲むカリキリたちも、戦闘態勢に入っている。
「今はラランテスを倒すことに集中しないとな。よーし、みんな出てこい!」
ボールからポケモンたちを出すサトシ。
「ゲッコウガ、ピカチュウ、ロコン、イワンコ。しばらくカリキリたちを引きつけておいてくれ!モクロー、お前はニャビーとタッグで行くぞ!」
ピカチュウを先頭に他のポケモンたちがカリキリたちの注意を引きつけに行く中、モクローはニャビーの横に並んだ。
「モクロー、つつく!ニャビーはひのこ!」
素早い連続攻撃がラランテスに決まる。2体めがけて発射されたポワルンのみずでっぽうをかわし、相手を見据える。しかし僅かなこの時間で、ラランテスが光合成を始めていた。
『強い日差しを浴びての光合成は、体力を通常よりも大幅に回復させることができるロト!』
「やっぱり厄介だな……っ、ニャビー!」
ラランテスに注意を向けていたニャビーめがけて、ポワルンがみずでっぽうを放つ。咄嗟のことで動けないニャビー。と、その目の前にモクローが立ち、攻撃を受け止めた。ニャビーにとって効果抜群のみずタイプの技、しかしくさタイプのモクローには、大きなダメージにならない。ダウン寸前だったニャビーを、モクローが見事にカバーしてみせた。
「よくやったぞ、モクロー!反撃だ、たいあたり!」
飛び上がるモクローが全身全霊を込めた蹴りをポワルンに繰り出す。見事に命中したそれは、ポワルンを大きく弾き飛ばし、木に激突させる。その衝撃の強さに、ポワルンは目を回してしまった。ちょうど強かった日差しもおさまってくる。
「やった!」
『これであとは、ラランテスだけロト!』
周りでは、カリキリたちの攻撃を、ピカチュウを中心にポケモンたちが防ぎ、跳ね返し、相殺している。これで邪魔が入ることもなさそうだ。
「ラァァァァ!」
最後の一撃とばかりに力を溜めるラランテス。それを見たサトシはニャビーとアイコンタクトをかわす。
「全力には全力!行くぞ、ニャビー!」
「ニャブ!」
ノーマルZを付け、腕を交差させるサトシ。Z技のオーラがニャビーの体を包み込んでいく。ラランテスがソーラーブレードを振り下ろすのとほぼ同時に、ニャビーが駆け出した。
「行っけぇ!ウルトラダッシュアタック!」
渾身の体当たりを繰り出すニャビーと、ラランテスのソーラーブレードが激突する。大気が震え、他のポケモンたちも動きを止め、その様子を伺っている。
「ニャッ、ニャッブ!」
カエンジシがするように、ニャビーが気合を入れて吼える。ニャビーの攻撃がソーラーブレードを打ち破り、ラランテスの体に直撃する。大きく弾き飛ばされたラランテスが、岩の壁に激突する。大きな土煙が上がり、姿を隠す。
煙の方をじっと見つめるサトシとニャビー。煙が晴れると、そこにはラランテスが目を回し、倒れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふっかつ草、多めに持って来ておいて良かったね」
「ああ。ラランテスも、苦いけど我慢してくれよ」
バトルが終われば敵も味方もなし。サトシたちはバトルで傷ついたポケモンたちにふっかつ草を分け与えていた。
にがさに顔をしかめていたラランテスが、サトシにカマを差し出した。その上には、小さく光る緑色の鉱石。
「それ、クサZ?」
「これを、俺に?」
頷くラランテス。笑みを浮かべ、サトシがクサZを受け取る。
「クサZ、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
「感動した!」
「へ?」「ピィカ?」
突然響いた声に、サトシとピカチュウが戸惑う。すると岩の陰からライチが現れ、サトシたちの元へと駆け寄ってくる。
「よくやったね、サトシ〜!期待以上だよ!」
「ちょっ、ライチさん。っ、苦しいです」
ガバッと全身全霊を込めたのではないかと思うほど、ライチがサトシを強く抱きしめる。照れくさいとか嬉しいとかより先に、苦しいが出てくるあたり、割と強い力が込められているようだ。
「みんなも、すごく頑張ってたね」
サトシのポケモンたち、そしてラランテスたちのことも抱きしめ、ライチがキスをしていく。ポカーンとしているサトシを見て、マオがくすりと笑う。
「あの、ライチさん、どうしてここに?」
「もちろん、君の試練突破を見届けるためだよ」
「へっ?試練?」
ポケモンを一通り抱きしめ終えたライチが立ち上がり、サトシの前に立つ。
「サトシとポケモンたちが力を合わせて様々な困難を解決していくの、ずっと見てたよ。この材料集めはね、それを確かめるためのものでもあったの」
「材料集めが?って、あ、マオ。もしかして知ってた?」
「あはは。実は、ライチさんに教えてもらってたんだ」
「試練の間、マオにはできる限り見守るだけでいて欲しいって、頼んでおいたの。君がどうするのかを、ちゃんと見定めたかったからね」
思い返してみると、確かにマオはサトシの意見を聞くか、材料の話をするかだけで、直接的に材料集めに関与していなかった。
「そうだったのか……」
「黙っててごめんね」
「でも、これではっきりした。サトシ、君の試練突破を、アーカラ島島クイーンとして、承認するわ」
「へ?ってことは……」
「次は大試練よ。心してかかって来なさい」
「……はい!」
その後、ロトムに促され記念写真を撮ったサトシたちは、ポケモンセンターに戻った。アーカラカレーも無事に完成し、サトシは大試練に向けて気合を入れる。
その大試練が、更に大きな出来事へと繋がっていくとは、この時誰も予想していなかった……
…………… To be continued
次回はいよいよ、アーカラ島の大試練。
ライチとのバトルに燃えるサトシたちだが、イワンコの様子がおかしい。
果たしてサトシはライチに勝ち、大試練を突破することが出来るだろうか。
『サトシ対ライチ!一番ハードなポケモンバトル』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!