はい、ちゅーわけで、今回スイレンとサトシが頑張っちゃうぜ〜
ああ、あと一つでカントーに繋げられる……
追記
方言って、難しいね
今日も今日とて晴れ模様。メレメレ島には気持ちの良い日差しが降り注いでいる。海岸には四人の影。サトシとガールズが集まっている。
「いよいよだな、スイレン」
「頑張ってくださいね」
「ファイト!」
海に向かって立つスイレンとアシマリ。キラリと、スイレンのZリングに付いているミズZが輝く。
「行くよ、アシマリ!」
「アウッ!」
スイレンが腕を交差させ、ポーズをとる。Z技の光を浴び、アシマリが技の発動態勢に入る。
「スーパーアクアトルネード!」
「アウゥッ!」
Z技のエネルギーを浴びたアシマリが海へと飛び込んで行く。高速で円を描くように泳ぐと、その力によって大きな渦潮が生じ始める。どんどん大きくなる渦潮が、海面からわずかに盛り上がる。
「おおっ!」
「これが水のZ技!」
「?ちょっと待ってください。様子が変です!」
リーリエの言葉に目を凝らしてみると、渦潮に沿って泳いでいたはずのアシマリが顔を水面に出そうとしている。
「アシマリ!」
「まさか、溺れてるの!?」
「ゲッコウガ、アシマリを頼む!」
急いでボールを投げるサトシ。飛び出したゲッコウガはすぐさま渦潮の中に飛び込むと、アシマリを両手で抱きながら飛び出してくる。
「アシマリ、大丈夫!?」
「ア、アウゥ」
「目が回ってるだけみたいですね」
「良かったぁ」
大きな怪我をせずに済んだことに、安堵の表情を浮かべるスイレンたち。一先ずアシマリの気分が落ち着くまで浜辺で休憩することにした。浜辺を歩こうとしているアシマリだが、なんだか足元がおぼつかない。
「アシマリ、ずっとフラフラしてる」
「Z技による疲労に加え、目を回して、酔ってしまったようですね」
「初めてだもん。そういうこともあるよ」
「うん……」
練習しようにも、使いこなせるようになるまで毎回アシマリが目を回してしまうのでは難しい。今回はゲッコウガが助けてくれたけど、本番でもそうとは限らないのだ。なんとか練習方法を見つけないといけないが……
「ひょっとしたら、バトル慣れしてないから、技のイメージとかが掴みにくいのかもな」
「バトル慣れ?」
「でも、アシマリならコツさえ掴めばすぐに出来るようになるさ。特大バルーンのときだって、そうだっただろ?」
「サトシ……うん!」
早速バトルのイメージを掴むため、特訓を始めようとするサトシたち。と、浜辺の奥の方にたくさん人が集まっているのが見える。
「何だろう?」
「行ってみましょう」
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人集りに近づくサトシたち。円のように並んでいる人の間から顔を覗かせると、中央に青いドレスを着て、楽器を手に持つ女性と、アシマリとよく似たポケモンが立っている。
「わぁ、オシャマリだ!」
「オシャマリ?」
『オシャマリ、アイドルポケモン。アシマリの進化形。色とりどりのバルーンを作り出すことができ、月夜には踊っている姿も確認されているロト』
人々が見つめる中、オシャマリが次々にバルーンを作り出していく。赤、青、黄色にピンク。多種多様な色のバルーンに、観客も大喜びだ。女性の奏でる音楽に合わせて、オシャマリがバルーンを作り出しながら踊る。スイレンとアシマリも、目をキラキラさせながら見ている。
「それでは皆さま、最後の演目と参りましょう。ダーリン、準備はよかとね?」
女性が海に向かって手を振ると、サーフボードに捕まっている男が海の方から手を振り返している。
「バッチリばい、イア!」
「あちらにいるのはダーリン、カノア!これより、アローラの神々の力ば借りて、二人の愛を証明しちゃりますけん!」
イアと呼ばれた女性が楽器を放し、腕を交差させる。腕についているのは白いリング。その中央には水色のクリスタルが。
「これってまさか、」
「Z技!?」
「行くばい、オシャマリ!愛と勇気の、スーパーアクアトルネード!」
Z技のエネルギーを纏ったオシャマリが、海の中へと飛び込んでいく。少しすると、カノアの周りに大きな渦潮が生じる。人々が見守る中、渦潮がカノアを飲み込み、
勢いよく巨大な水の柱となって、ボードごと高く持ち上げる。そのてっぺんにボードで乗るカノア。見事なバランスで渦潮の上にとどまっている。
「スッゲェ!」
「こんなZ技の使い方があったんだ……」
「あんな風に人を乗せることができるなんて、」
『Z技のコントロールが、とても上手ロト!』
クラスメイトが驚きの声を上げる中、スイレンは開いた口が塞がらない様子で、食い入るように水の柱を見ている。
ボードの上にオシャマリが乗り、最後に大量のバルーンをばらまく。観客の拍手であたりは包まれた。
あちこちから感激の声が上がる。サトシたちも拍手で今のパフォーマンスへの感想を込める。ただ一人、スイレンはずっとオシャマリを見ている。と、
「あれ、スイレン?」
スイレンが一直線に、人集りの中央で挨拶しているイアの元へと向かい、その手を取った。深呼吸してイアの目を見つめるスイレン。
「えっ?何?」
「あの……弟子入り、頼もー!」
「「「弟子入り!?」」」
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ひとまず場所を移したサトシたち。スイレンがキラキラした目でイアを見つめている。
「あの、私たち、二人のように息ぴったりのZ技、うちたいんです!教えてください!」
「えっと、そげなこと言われても……」
「ええやんか。教えちゃり。しばらくはここに滞在するからに」
「カノア……そうね。なら、教えちゃるよ」
「ありがとうございます!私、スイレンです。こっちはパートナーのアシマリ!よろしくお願いします!」
「俺、サトシです。こっちは相棒のピカチュウ」
「マオです。こっちの子はアママイコ」
「リーリエです。この子はシロンと言います」
自己紹介するサトシたち。中でも勢いよく頭を下げるスイレンに、イアが優しそうな笑顔を向ける。足元では、オシャマリとアシマリがお互いの鼻を擦り付け合い、挨拶をしている。
「私たちはね、世界中の海を旅する、海の民なんよ」
「海の民?」
思わず反応するサトシ。その名前に、なんだか聞き覚えがあるような気がしたのだ。
「君、海の民のことば知っとるん?」
「あ、いえ。その、もしかして水の民と何か関係があるのかなぁって」
「水の民のこと、知っとるん!?」
「私たち海の民は、水の民から離れた、言うなれば親戚みたいなもんなんよ」
「そうだったんですか」
「サトシ、水の民って?」
疑問符を浮かべるスイレンたち。どこまで説明したものか悩むサトシだったが、かつての旅仲間とその子については
「昔、旅の途中に出会ったことがあるんだよ。水のポケモンたちと深くつながっている人たちで、海底神殿にある海の王冠っていう宝とともに、水のポケモンたちと触れ合っていたんだ」
「ほんとによく知っとるんね。私ら海の民は、基本はあちこちの土地でものを仕入れる行商をしとるんよ」
「ばってん俺たちは違う。俺はトレジャーハンターたい」
「トレジャーハンター?」
「まだ見ぬ海のお宝探して、あっちこっち巡っとるんよ」
「まぁ、まだ夢の途中やけん。こうしてうちとオシャマリが生活を支えとるんよ」
微妙な表情のマオとリーリエ。トレジャーハンターという夢を追いかけているのは別にいい。夢に向かって一生懸命なのは、決して悪いことではないし、誰かに通じるところもある。が、恋人に生活のほとんどを支えてもらうのは、世間的にどうなのだろうか。なんだか恋愛や結婚に対して、微妙な不安が出来てくる。
「今回は何を探しに来たんですか?」
「よくぞ聞いてくれた!実は手に入れた文献によると、昔メレメレ島で嵐におうた船がおったらしいんよ。で、その船の積荷も、一緒に沈んでしまったばい。俺はその船にあった宝物を探しに来よっとね」
懐から取り出した古い文献を手に、自信満々なカノア。それを呆れているような、でもとても優しい表情でイアが見つめる。
「まぁ、そんなわけで。カノアが宝探す間、うちとオシャマリとで稼がんとね。でも、少しくらいなら特訓、手伝ってもよかよ」
「あ、ありがとうございます!」
再び勢いよく頭を下げるスイレン。と、ここでサトシが手をあげる。
「あの、だったら俺、手伝います。稼ぐの」
「えっ?」
「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」
「手伝うって……気持ちは嬉しいけど、なかなか大変なんよ。バトルとは勝手が違うとよ」
「そうだよサトシ。さっきのパフォーマンスとか凄かったじゃん。簡単にできることじゃないよ」
女性陣の反応を受け、サトシとピカチュウが顔を見合わせる。
「大丈夫ですよ。明日、見ててください」
ニッと笑うサトシとピカチュウに、カノアとイアが不思議そうに首をかしげる。取り敢えず明日の午後のパフォーマンスの時にゲスト出演することだけ決めて置くことにしたのだ。
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「そんじゃ、トレーニング始めるとよ」
「はい!よろしくお願いします!」
「アウッ!」
場所を変え、スイレンお気に入りのトレーニングスポット。シャキッと姿勢を正したスイレンとアシマリがイアに返事をする。カノアは船の情報を探しに出ており、少し離れた場所からサトシたちが見守っている。
「状況を聞いた限りやと、アシマリんパワー不足ね。Z技を使いこなすには、強い絆もやけど、ポケモンの方にもそれなりの力が必要になるんよ」
「そうなんですか?」
今までカキやサトシのポケモンたちが、あまりにも当たり前のように使っていたから知らなかった。よく考えたら、カキもサトシもポケモンたちとよく特訓している。そういった小さなことの積み重ねが、Z技の使用に繋がっているのだろう。
「取り敢えずパワーを上げること、そこからやね。オシャマリ」
「シャマ!」
オシャマリがバルーンを一つ作り出すと、イアがそれを手に取る。
「このオシャマリの丈夫なバルーン、アシマリのバルーンで割ってみ」
「はい!アシマリ、バルーン!」
いつもの様にできるだけ丈夫にバルーンを作るアシマリ。出来上がったバルーンをオシャマリのバルーンに向けて発射する。二つのバルーンが接触すると、アシマリのバルーンだけがあっさり割れてしまう。オシャマリのバルーンは、形を保ったまま浮かんでいる。
離れた場所から見ていたサトシたちも驚かされる。
「割れない!?」
「アシマリのバルーンも、ポケモンを入れても壊れないくらい丈夫なもの。でも、そのバルーンよりもずっと硬いみたいです」
「すごいな、オシャマリのバルーン」
「このバルーンが割れるようになれば、Z技に必要なパワーも十分身につくんよ」
「ほんとですか?」
「もちろん。ほら、休まんともう一回」
「はい!」
既に空が赤く染まりつつある中、スイレンとアシマリの特訓はまだ続いていた。しかし流石にアシマリの体力が限界のようで、疲れ果てている。
「今日はここまで。ゆっくり休まんと、明日の特訓について来れんよ」
「はい、わかりました」
「焦らんくてええんよ。うちとオシャマリも、最初はZ技使えんかったんよ。でも、カノアが近くで応援してくれて、何とか頑張ってこれた。Z技はよかよ。優しい海、激しい海。どんな海でも力になってくれる。スイレンも、いつか旅に出た時にわかる」
「どんな海でも……」
丁度その時、カノアが帰ってくる。残念ながら大きな収穫はなかったらしい。明日また会うのを楽しみにしながら、スイレンたちは帰るのだった。
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翌日、スクールが終わってすぐ、スイレンたちはイアがパフォーマンスしている場所に向かった。丁度パフォーマンスの準備をしているところらしい。昨日よりもさらに広い場所を選んだのは、サトシのリクエストだ。
「イアさん!」
「お、来たねスイレン。それにサトシも」
「今日はよろしくお願いします」
「サトシがどんなパフォーマンスするのか、楽しみにしとったんよ。それじゃ、始めるとよ!」
楽器を鳴らし人々の注目を集めるイア。すかさずオシャマリがバルーンを幾つか作り出し、アピールをする。子供達は既に虜になっている。
「今日は特別ゲストを呼んどりますばい。早速来てもらいますけん。遠くマサラタウンから、サトシとピカチュウ!」
「ピカチュウ、君に決めた!」
決め台詞とともに前に飛び出るサトシ。その方から飛び出す小さな影。ピカチュウが高くジャンプし、観客の真ん中に降り立つ。
「わぁっ、ピカチュウだ!」
「本物かわいい!」
「あれっサトシくんじゃない?」
「あぁ、何度かテレビに出てた」
アローラで人気ポケモンのピカチュウの登場に、子供達はさらに興奮気味だ。大人たちもサトシに気づき、興味深そうに近寄ってくる。
「ピカチュウ、エレキボールを打ち上げろ!」
「ピカッ!」
大きく体を捻るようにし、勢いをつけたエレキボールを上空高くに打ち上げるピカチュウ。
「バルーンを使って飛びあがれ!」
先程オシャマリが作り出した色とりどりのバルーンを足場がわりに、ピカチュウがどんどん高く登って行く。その素早い動きと、縦横無尽に空中を駆け上る姿は、子供だけではなく、大人までもを惹き込む。ピカチュウが先ほどのエレキボールの上を取る。
「アイアンテール!」
「チュー、ピッカァ!」
ピカチュウが、力一杯尻尾を振り下ろす。エレキボールを切り裂くと、凝縮されていた電気エネルギーが拡散し、黄色い火花が空で弾ける。
観客はもちろんのこと、スイレンやイアまでもが驚いている。
「わぁ、綺麗!」
「ポケモンの技に、こんな使い方があるなんて」
「は〜、これは予想外やね」
「ピカチュウ、大技行くぞ!」
「ピカッ!」
「連続でエレキボール!」
「ピカピカピカ、チュピィ!チュピィ!」
一つ、また一つと空にエレキボールが打ち上げられる。互いに反応しあい、バチバチと電気が空に走る。
「一箇所に集めるぞ。ピカチュウ!久々の、カウンターシールド!」
「カウンターシールド?」
「そんな技あったっけ?」
「私の知る限りでは、そんな名前の技は存在しないと思うのですが……」
まるでブレイクダンスを踊るかのように、地面に背をつけ、ピカチュウが回り出す。そのまま弱めの電撃を放出すると、ピカチュウをドーム状に囲むように、電気が広がっていく。それは落下して来ていたエレキボールに当たり、弾け……ない!
「浮いてる!?」
弱めの電撃に触れたエレキボールは、弾けることなく、まるでアシマリたちが作るバルーンのように浮いている。電撃に導かれるようにエレキボールが一箇所に集められていく。
「ピカチュウ、アイアンテールで打ち上げろ!」
電撃を止め、大地を蹴るピカチュウ。今度は尻尾の平面部分を使い、テニスのように集まって来ていたエレキボールを次々に打ち上げていく。一直線、それも等間隔に並ぶエレキボールは、さながら惑星が一直線に並んだ状態のようにも見える。
「行くぜ、全力!」
サトシが腕を交差させる。Z技のエネルギーが溢れ、ピカチュウを包んでいく。
「スパーキングギガボルト!」
発射された電撃の槍は、一番下のエレキボールを貫く。そのままの勢いで次々に他のエレキボールを貫きながら、上空高く飛んでいく。そしてかなりの高さに届いた時、エレキボールが一斉に弾け飛んだ。
Z技の威力までもが加わり、まるで真昼の空に大きな花火が打ち上げられたかのようにも見える。まるで光の粒子のようにエレキボールの破裂した余剰エネルギーが空を舞っている。やがてそれらも消え、まるで何事もなかったかのような青空が、広がっている。
「ありがとうございました」
「ピカピカーチュ」
お辞儀をするサトシとピカチュウ。呆気にとられていた観客を気にせず、サトシはイアたちの元へと向かう。一番最初に始めたのは誰だったのか。直後、割れるような歓声が辺りに響き渡った。
「サトシ、凄かったよ!」
「ピカチュウ、かっこよかった!」
「バトル以外にも、こんな風に技を使うことができるなんて。わたくし、勉強になりました。特にカウンターシールド。あれはどういったものなのですか?」
「サトシ、ほんまにおったまげたね。こういうことしたことあった?」
「旅仲間がポケモンコンテストとか、ポケモンパフォーマンスとかをやってて!俺もやってみたことがあったんです」
「そやったんか。サトシ、改めてうちのお手伝いの話、うちからお願いしたいんよ。引き受けてくれる?」
「もちろんです」
こうして、イアがスイレンとトレーニングしている間、サトシはピカチュウやゲッコウガたちとパフォーマンスを披露することになったのだった。
なお、この一件のおかげで、サトシがさらにメレメレ島にて注目を浴びるようになるのだが、それはまた別の話である。
そして、数日が経ち……
パァン
気持ちのいい破裂音とともに、二つのバルーンが割れた。イアとオシャマリが満足そうに頷いている側で、スイレンとアシマリがハイタッチをする。
「やったね、アシマリ!」
「アウアウッ」
「これでもう、パワー不足の心配はないとよ。あとはZ技を実際に使ってみること。よかね?」
「はいっ!ありがとうございました!」
成功を喜ぶスイレンたちを、少し離れた場所からサトシたちが見ている。顔を見合わせ喜ぶサトシたち。サトシはパフォーマンスで、マオとリーリエはお弁当や健康管理など、それぞれにできるやり方でスイレンとアシマリを支えてきたため、自分たちのことのように嬉しかったのだ。
「おーい、イア!有力情報!沖んほうで、それらしき沈没船ば見たっちゅー人がおったぞ!」
手を振りながら近づく人影。宝の船を探していたカノアが帰ってきたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
海の上を泳ぐハガネール……の姿をしたボート。カノアが運転するそれには、イア、サトシ、マオ、リーリエ、そしてポケモンたちが乗っている。
「こん辺りに、船ば沈んどる。まずは俺が軽く下見に行くけん、しばし待っとっとくれ」
「え?でも、どうやって海の中に行くんですか?」
「そこはオシャマリん力ば借りるんよ。ほんじゃ、オシャマリ」
「シャマ!」
オシャマリが特大のバルーンを作り出す。すっぽりとかノアを包んだバルーンは、水に落ちても割れる様子はない。
「じゃ、行ってくるばい」
オシャマリが鼻でバルーンを押すようにしながら潜って行く。その様子を見て、スイレンがまた目をキラキラさせている。
「スイレン?どないしたん?」
「一緒に潜れるの、すごくいいです!」
「スイレンの夢だもんな。アシマリのバルーンで海のポケモンと触れ合うの」
「へぇ〜。それならZ技、使いこなせるパワーあれば大丈夫じゃけん。今度一緒に潜ってみる?」
「是非!」
暫くしてカノアが戻ってくる。しかし表情は真剣そうだ。
カノアによると、船自体は見つかったものの、そこには既に先客が居たのだ。もくずポケモン、ダダリン。怒らせると、ホエルコをも即座にKOすることができる、海のポケモンの中でもかなり危険な相手。なるべく刺激しないようにしなければならないのだが……
突然の衝撃が船を揺らす。驚くサトシたちの目の前に、ダダリンの巨体が現れる。なにやら怒り心頭のダダリンは、船に容赦無く攻撃を仕掛けようとする。
「オシャマリ、アクアジェット!」
すぐさま行動開始するイアとオシャマリ。ダダリンの注意を船から逸らそうと、オシャマリが泳ぎまわりながら攻撃を仕掛ける。が、圧倒的な体格差に、タイプの相性もあり、オシャマリは船に叩きつけられてしまう。
更なるピンチがサトシたちを襲う。
「これ、うずしお?」
「強力な技ばい!船ん力じゃ、抜け出せん!」
今にも船を沈めんとする巨大な渦に、マオとリーリエは不安そうな表情をしている。何か対策はないかと考えているサトシやイア。と、スイレンが声をあげる。
「あっ!」
「どうした、スイレン?」
「師匠!Z技!逆方向に同じくらいの渦を作れば、」
「そっか!それなら打ち消せる!」
「……やけど、今オシャマリは」
目を回してしまっているオシャマリ。先ほどのダダリンからのダメージは、かなりのものだったようだ。
「やります!私たちで!」
「アウッ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
船のデッキに立つスイレンとアシマリ。二人の意気込みを見て、イアも頷くしかなかった。まっすぐ渦を見つめ、二人が深呼吸をする。
後ろで見守るイアとサトシ。いざという時にゲッコウガも動けるように待機している。呼吸を整え、息を合わせるスイレンとアシマリ。
「行くよ、アシマリ!」
「アウッ!」
スイレンが腕を交差させると、Z技のエネルギーが溢れ出す。アシマリが包み込まれ、体に力を込める。
「届け、水平線の彼方まで!スーパーアクアトルネード!」
アシマリが勢いよく海に飛び込み、円を描くように、高速で泳ぐ。徐々に形成されて行く大きな渦は、ダダリンがあの巨体で作り出したそれと、ほぼ同じ大きさにも達している。二つの水流が激突する。
大きな衝撃に大きな波が発生し、船を揺らす。それでも彼らが渦に飲み込まれていないのは、アシマリの作り出した渦が、同等の力で相殺しているから。アシマリが更に気合いを込めるようにスピードを上げる。ついにアシマリの渦がダダリンのそれを打ち破り、ダダリン本人をも弾き飛ばした。渦が収まり、波も落ち着いてきている。海面が静かになった時に、アシマリが海から飛び出し、スイレンの腕の中に飛び込んだ。
「やったね、アシマリ!」
「アウアウッ!」
成功の喜びを分かち合う二人を、みんなは優しく見守っていた。手を取り合うマオとリーリエ。ガッツポーズをするサトシ。一度微笑み合うカノアとイア。みんなの視線を受け、スイレンが振り向き、とびっきりの笑顔で答えた。
その後、改めて沈没船に向かったカノア。ダダリンの渦潮で流されていないか心配だったが、無事に発見された。そして暫くすると、カノアが小さな宝箱を手にして船に戻って来た。既に日が沈み始めていて、空は赤く染まりつつある。みんなが緊張の面差しで宝箱を見つめる。
「さぁ、ご対面ばい」
宝箱を開くと、そこには雫の形をした透明な鉱石。中にはZクリスタルのそれとよく似た、水色の液体が入っている。みずタイプの技の威力をあげることもできるお宝、神秘の雫が、そこに入っていた。それを手に取るカノア。取り付けられているチェーンを持ち、イアの首に優しく巻いてあげる。
「えっ、カノア?」
「これ、元々イアに上げるためん探しとったんよ。いつもいつも、俺んこと支えててくれるイアに、感謝の気持ちばい。愛しとうよ、イア」
「……もう、カノアったら」
口では文句のようにも聞こえる言葉が出ているが、イアの顔は、とても幸せそうだった。夕日の光を受け、神秘の雫が煌めいている。映画のワンシーンのような光景に、ガールズの目もキラキラしている。
「なんかいいなぁ、こういうの」
「うん。素敵」
「こういうの、憧れちゃいますね」
「感謝の贈り物、か……」
一方サトシは海の方を見てポツリと何か呟いた。
感謝の気持ちに、青い贈り物。そして幸せそうに笑うイア。彼が思い出しているのは、とある町での感謝祭のこと。青いリボンを身につけてくれた少女のこと。
「……今、どうしてるかな」
その後、まさかその女の子と再会することになるとは、この時のサトシは想像もしていなかったのだが……それはまた別の話である。
海の民であるカノアとイアは、これからも旅を続ける。翌日、改めてお礼を言いに来たスイレンたちは、別れの挨拶もすることになったのだった。
「ばってん、海はどこかで必ず繋がってるばい。旅を続けとったら、また合うこともある」
「そん時は、またよろしく頼むね」
「はい!」
ハガネールの形をした船が動き出す。手を振ってくれているイアとオシャマリ向かって、スイレンは精一杯のありがとうを込めて、手を振り返した。
「またいつか、師匠!」
Z技を使いこなせるようになったスイレン。海に馳せる大きな夢も、きっと叶うことだろう。海の向こうの世界に興味を持った彼女は、将来どうするのか。それはまだ誰もわからない。
それでも、メレメレ島での刺激溢れる生活は、まだまだ続く。
…………… To be continued
マーマネの誘いで参加することになったデンヂムシレース。
本番に向けて、三人で特訓だ!
参加するライバル達に、赤い姿のデンヂムシ。
誰がこのレースを制するのか。
次回、
『爆走!独走!激走!暴走?デンヂムシレース!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!