XYサトシinアローラ物語   作:トマト嫌い8マン

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ヒロインその1、ゲームのメインヒロイン〜

オリジナルの設定プラスオリジナルのエピソードです


少しの勇気を

その晩、サトシはなかなか寝付けずにいた。今日の出来事がずっと頭の中をぐるぐるしていた。

 

 

「Z技・・・か」

 

 

カプ・コケコの指導によって、彼はピカチュウとともに、初めてZ技を使った。二人の全身全霊、全力フルパワーの技。それを使った感覚が、サトシの体に残っていた。が、

 

 

「やっぱり・・・なんか、身に覚えがあるというか」

 

 

彼が気になっていたのは、その感覚を以前も感じたことがあるような気がしたからだ。ただ、Z技はサトシがアローラに来て初めて知ったもの。そもそもZリングとZクリスタルだって、こちらに来てから初めて見たものだ。が、体の中に何か感じさせるものがあった。

 

 

「全然わからないや・・・少し外を歩こうかな」

 

 

寝てしまったピカチュウや、隣にある研究部屋にいるククイ博士に気付かれないように、サトシは念の為にゲッコウガのボールを手に取るとそっと階段を上り、玄関から外に出た。

 

 

 

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「すごいな~」

 

 

空を見上げてみると、雲一つない空が広がっていた。さすがは周りを自然で囲まれたアローラ地方。マサラタウンにも負けないくらい、下手したらそれ以上の星が見えるくらいの空だった。それを眺めながらサトシはしばらく歩くと、海岸に人影があるのが見えた。

 

 

「あれって・・・」

 

 

風で帽子が飛んでしまわないように、片手で押さえつけながら、その人影は水平線を眺めていた。月明かりが照らすその姿は、世の男性ならば一瞬は見とれるのではないかというくらい綺麗だった。が、サトシにとってはどこかはかなげで、寂しげに見えた。白い肌は月明かりで淡く輝くようで、エメラルドのようなきれいな緑色の瞳は、どこか憂いがあるように見えた。その人影に、サトシは声をかけることにした。

 

 

「リーリエ!」

 

 

その声に反応した人影はサトシのほうを向いた。驚いた顔で、彼女はサトシを見てから、少し寂しそうな笑顔を浮かべた。

 

 

「サトシ。どうしたんですか?」

「なんだか眠れなくって、散歩しようかと。リーリエこそ、こんな時間に、何してたんだ?」

「少し・・・海を見たくなったんです」

「ふ~ん。何かあったのか?」

「えっ?」

「なんだか、さっきのリーリエ、少し寂しそうだったから」

 

 

リーリエの隣まで来てから、サトシは砂浜に腰かけた。それに倣うようにリーリエも隣に座り込む。ただ、顔はサトシのほうにむけず、まっすぐ海を見つめていた。しばらくして、リーリエはサトシに話しかけた。

 

 

「わたくしが博士のもとで暮らしている理由は聞かないんですか?」

「えっ?う~ん・・・別にいいかなって。俺だって泊めてもらってるわけだし、何か理由はあるんだろうな~ってくらいには思ったけどさ」

「・・・わたくしは、家に帰れないんです」

「えっ?」

「詳しいことはまだ話すことができません。ただ、そんなときに拾ってもらったんです」

「ふ~ん。よくわからないけど、もし家族とけんかしたんだったら、仲直りできるといいな」

 

 

サトシの言ったことは、とても単純なことだった。ただ、それはリーリエの心に強く響いた。曇りのないサトシの眼差しは、彼女にとって、暖かい光のようにも思えた。

 

 

「・・・できますでしょうか、仲直り」

「できるさ!もしリーリエが本気で家族と向き合えたらさ」

 

 

そうやって、迷うことなくすぐに答えてくれる。気休めのためではなく、本心からの言葉で。だからかもしれない。彼の言葉は、信じられるように思える。

 

 

「そうですね・・・わたくしも、頑張ってみます」

「あぁ。何でも言ってくれよ。俺もできることなら手伝うからさ」

「はい。ありがとうございます」

 

 

その時の彼女のほほえみには、寂しさはもう感じられなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「YOYOYOYO!こんなとこで何してんスカ?」

「子供は寝る時間っすから!」

 

 

と、夜の静寂とともにその場の雰囲気をぶち壊したのは二人の男の声だった。サトシとリーリエがその方向へ目を向けると、スカル団のメンバーがそこに立っていた。しかも、まさしくサトシとカキがあのとき戦った三人組だ。

 

 

「お前たちは!」

「スカル団、こんなところに来るなんて」

 

 

「あ~、お前この前邪魔してくれた奴じゃないスカ」

「あんときは良くもやってくれたわね」

「リベンジしちゃうっすから!」

「あのZ技を使うあいつもいないし、今がチャンスってことだな!」

 

 

そういって彼らは9体のポケモンを出してきた。圧倒的に不利な状況。しかも今度は9対1の勝負になる。いくらサトシでもこれは危ないのではないか。そうリーリエは思った。

 

 

「サトシ、ここは逃げるべきです。サトシ一人じゃ、とても勝てません!」

「逃がすと思ってんスカ?」

「アニキの言う通りっすから」

「あきらめておとなしくポケモンを差し出したら、考えなくもないよ」

 

 

逃げ道をふさぐように広がるポケモンたち。ポケモンに触れないリーリエは思わずサトシの後ろに隠れてしまう。ぎゅっと、彼の服をつかんだその手は、少し震えていて、彼女の目を強くつむられていた。と、彼女の手にそっと触れるものがあった。暖かくて、少し柔らかいその感触にびっくりしたリーリエは目を開けて確認してみる。彼女の手をそっと握っていたのは、サトシの手だった。まるで安心させるような、落ち着かせるような暖かさが、その手にはあった。目線を上げてサトシの顔を見てみる。そこにはカプ・コケコと戦った時に彼が見せたような、強い意思のある笑顔があった。

 

 

「大丈夫だ。俺たちを信じてくれ」

 

 

こんな状況でなぜそんなに冷静なのだろうか。どうして笑顔でいられるのだろうか。でも、そんな状況にあるはずなのに、不思議と彼の言葉は信じられた。気が付くと震えが止まっていた。彼の手が自分の手を放した。残ったのは不安ではなく、少しばかりの名残惜しさだったのに、リーリエは驚いた。

 

 

「行くぜ、ゲッコウガ!君に決めた!」

「コウガ!」

 

 

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ボールから現れたゲッコウガは臆することもなく、腕を組んだ状態で立っていた。敵の数と位置を確認すると戦闘態勢に入った。

 

 

「ヤトウモリ、はじけるほのおだ!」

「ヤングース、かみつくっす!」

「ズバット、きゅうけつだよ!」

 

 

9体のポケモンが同時に攻撃を仕掛けてきた。それをちらりとサトシとゲッコウガは確認すると、

 

 

「ゲッコウガ、躱して連続のいあいぎり!」

 

 

先に来たはじけるほのおを躱すと、火の粉がヤング―スたちに降り注いでしまった。味方の攻撃にひるんだすきに、猛スピードで動いたゲッコウガのいあいぎりが9体すべてに決まっていた。

 

 

「くそっ、なんなんスカ!ベノムショック!」

「躱せ!」

 

 

再びスカル団の攻撃、しかしどうしてもゲッコウガには当たらない。そこへゲッコウガにとっては死角となっている場所から、ヤング―スの一体がとびかかった。が、見えていないはずの攻撃をゲッコウガは難なくかわしていた。それもトレーナーから具体的な指示もなかったのにも関わらずだ。

 

 

「なっ!?」

「今のをどうやって躱した!?」

 

 

「行くぜ、ゲッコウガ。久しぶりの、フルパワーだ!」

「コウガ!」

 

 

サトシがこぶしを握り締めると、ゲッコウガも全く同じタイミングでこぶしを握り締めていた。二人が同時にこぶしを自分の胸に当てると、変化が起き始めた。ゲッコウガの周りに激しい水流がまとわりついた。スカル団はもちろん、ポケモンについての知識は博士も一目置くほど持っているリーリエも驚いていた。

 

 

「サトシ?何が・・・」

「お前たちに見せてやるぜ。ポケモンとトレーナーの絆の力を!」

 

 

その言葉とともに、ゲッコウガを包んでいた激しい水流がはじけた。現れたゲッコウガは先ほどとは変わっていた。頭には赤色が現れ、胴体の模様も変化し、カロス地方を旅した時のサトシと似た姿になっていた。極めつけは背中に現れた大きなみずしゅりけん。サトシとゲッコウガだけが持っている力、強いきずなで結ばれた二人だけの力。

 

 

「なんスカ、なんなんスカ、お前ら!?」

 

 

「これは一体・・・進化?でもゲッコウガはもう進化しないはずです。見たことも読んだこともない姿・・・一体何が」

 

 

驚くリーリエやスカル団たち。しかしバトルではそれは大きなすきを生むことになる。

 

 

「いくぞ!ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「コォウ!」

 

 

ゲッコウガが背中に現れた巨大なみずしゅりけんをスカル団のポケモンへ放った際、まったく同じ動きをサトシもしていた。二人はまるで一体のように、動きも、呼吸も、心も一つだった。そんな彼らにスカル団がかなうはずもなく、たった一つのみずしゅりけんで全員戦闘不能にされてしまった。

 

 

「お、覚えてろよ~!」

 

 

再び三人仲良く逃げて行ったスカル団。そのバイクの音が消えると、バトルの騒音が嘘だったかのような静寂が戻った。そして、ゲッコウガもまた元の姿に戻っていた。

 

 

「ありがとな、ゲッコウガ」

「コウガ」

 

 

サトシがねぎらうように声をかけると、ゲッコウガはうなずき、モンスターボールの中へ戻っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふぅ~。やっぱり久しぶりにこれやると疲れるな~」

 

 

少し疲労した様子のサトシ。疲れているところに聞くのも悪いかと思ったが、リーリエはどうしてもサトシに聞かなければいけないことがあった。

 

 

「あの、サトシ。今のは一体何だったのですか?」

「へ?あぁ、さっきのゲッコウガのことか?」

「はい。わたくし、いろんな本を読んで、たくさんポケモンについて勉強しました。もちろん、ゲッコウガのことも詳しく調べたつもりです。でも、わたくしが今まで読んできた本には、どこにも先ほどのゲッコウガのような力については載っていませんでした。あれは何なのですか?」

 

 

真剣に質問してくるリーリエに、どうやって説明しようかと思考を巡らせながらサトシは答え始めた。

 

 

「あれはキズナ現象っていって、俺とゲッコウガの絆の力なんだ」

「キズナ現象・・・ですか?」

「俺も、すごくよくは知らないんだけど、ごくまれに潜在的な力の高いポケモンが、本当に信頼できるトレーナーとの絆が高まることで、今みたいにさらに強い力を発揮できるようになるんだ」

「そんなにすごい力を、サトシたちは持っているんですね」

「う~ん、俺もよくはわからないんだ。ただ、俺はゲッコウガに選ばれたんだ。それで、一緒に強くなろうって決めたんだ。誰も知らない高みへ一緒に行くって。二人で同じ気持ちを持っているから、それに応えるようにこの力は俺たちをもっと強くしてくれる」

「すごいです・・・大きな夢を持っているんですね」

「はは、そうかな?」

「そうですよ。わたくしは、まだポケモンに触ることさえできませんのに」

 

 

自分とそう歳は変わらないはずなのに、サトシは自分が想像もできないほど大きな夢をもって、そのために努力しているのがわかる。きっと今までにもたくさんのバトルをして、たくさん旅をして、たくさんの経験をしてきたのだろう。それは、本を読んでいるだけじゃ得られないもの。実際にポケモンたちに触れて、旅をして、初めてわかるものばかり。自分には、それさえもできていないのに・・・

 

 

「大丈夫だよ。リーリエもきっとすぐにポケモンに触れるようになるって。俺も協力するから。そこからまた、リーリエも自分の夢を探してみたらいいんじゃないかな?」

 

 

彼はいつも笑顔でこういうことを言ってくれる。根拠なんてないはずなのに、言い切れる。それだけの覚悟を、勇気を、彼は持っている。だから安心できる、信じられる、少しだけかもしれないけど、強くなれる。

 

 

「はい。よろしくお願いします」

「それじゃあ、帰ろうか。明日二人そろって起きられなかったら大変だし」

 

 

差し出された彼の手。この手があれば、自分は強くなれる気がする。だから今は

 

 

「はい!」

 

 

サトシの手を握るリーリエ。二人はククイ博士の家へ戻っていった。

 

 

リーリエの心に、少しばかりの勇気と、まだ気づいていない小さな芽を残して。




しかしゲームとアニメで一番イメージ変わった気がしますね、リーリエ

まぁ彼女の問題をサトシが解決するんですよね、わかります笑

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