いやぁ、思ったよりも長くなってしまった〜
不思議な出会い。サトシとほしぐも
白い靄のかかった景色……
ここは、どこだ?
どうしてここにいるんだ?
……声が聞こえる……
俺を呼んでるのか?……奥に?
太陽と、月……ここは、神殿?
来たことがない筈なのに、どうしてだろう。
ここがとても大切な場所だってことが、すぐにわかった。
神殿の高い塔を見上げると、空にヒビが走る。
大きな穴が空いたかと思うと、二体の大きな生き物が飛び出して来た。
白い体に鬣のように流れる毛。世界を照らすように雄々しく吠える、太陽の化身。
群青の体に巨大な翼。夜空を包み込むように神秘的に鳴く、月の化身。
太陽の化身はソルガレオ。
月の化身はルナアーラ。
……あれ?……どうして俺、名前を知ってるんだろう。
頼み?……俺に?
うん……わかったよ。
必ず見つける……だから、安心して、俺に任せてよ
◼️◼️◼️◼️◼️のことは……
誰もが寝静まった真夜中。
四つの島の守り神が、同時に感じ取った異変。
その異変に気づいたものは、ごく僅かしかいなかった。
その中心にいることとなる本人でさえ、まだ気づかずにいる……
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「……シ、起き……下さい」
『サト……るロト!』
何度か体を揺さぶられる感覚に、サトシの意識が覚醒する。ぼんやりする頭で周りを見ると、リーリエとロトム、ルガルガンたちが彼のベッドの周りに集まっている。
「あれ……?みんな?」
「おはようございます、サトシ」
『早く準備するロト!』
「えっ?」
「もうそろそろ、スクールに向かう時間ですよ」
「ええっ!?」
慌ててベッドから飛び起きるサトシ。リーリエが苦笑しながら部屋を出ると、すぐさま服を着替える。
幸いなことに、ルカリオがすでに服を出していてくれたため、手間が省けた。
「サンキュー、ルカリオ」
『もう少しシャキッとしろ。だらしがないぞ』
「ごめん。ちょっと不思議な夢を見ててさ。ってあれ?ククイ博士は?」
『ハラという人から連絡があり、スクール前に寄るそうだ。既に出かけている』
『早くしないと、サトシが遅刻するロト!』
ロトムに急かされるままに、サトシが着替えと朝食を済ます。なんだかとても大切な約束を誰かとしたような、そんな気がしていたが、どうにも頭に靄がかかって思い出せない。
「なんだっけな、今朝の夢……」
「カプ・コケコが?」
「ええ。突然私の前に現れたかと思えば、どこかへ飛んで行きました。何か大きな異変を感じ取ったのでしょう。他の島の島キングや島クイーンからも、同様の連絡がありましたぞ」
「四つの島の守り神たちが、みんな感じ取っていた……何か、このアローラ地方に起こっている、ということですね」
「ええ」
神妙な表情のハラに、ククイ博士も思わず表情が硬くなる。ここ最近、かつて無いほど立て続けに奇跡とも思えるような出来事に、彼は遭遇している。そしてそれはいつもある少年を中心にしている。
(まさか、またサトシに何か?……いや、俺の考えすぎなのか?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アローラに浮かぶ島の一つ、ポニ島。
そこにある巨大な祭壇に、訪れる人々。
うち3人は共通して白い服装をしている。
「いつ来ても圧倒されるわね……日輪の祭壇」
「遥か昔、アローラの守り神が異世界からの者たちと、激しい戦いを繰り広げたと言われる場所だもの。この祭壇に来ると、その伝説を現実のものとして、認識することができるわ。一度でいい、会ってみたいという想いは変わっていないわ」
「ロマンを感じますね〜。太陽と月の紋章も、具体的には何を表しているかは、まだ解明されていませんし〜」
「代表、この辺りから僅かではありますが、ウルトラオーラを感知しました。ただ、とても異常と呼べるものでは無いですなぁ。これは、ウルトラビーストの仕業ではなく、計測器の測定ミスでは?」
「非常に非論理的ね。その考察は科学者としてあらゆる可能性を考慮した上でのものではなく、博士に対する嫉妬からくるものだわ。調査を続けましょう。いよいよ、会えるかもしれないのだから」
「『ウルトラビースト』に」
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先に家を出たリーリエの後を追いかけるように、サトシたちはスクールへの道を走っていた。
「うわぁぁ、遅刻する!」
『だからパンをお代わりしてる場合じゃ無いと言ったロト!』
「ピィカ」
「コウガ」
『やれやれだな』
飛びながら怒るロトム。並走するピカチュウ、ゲッコウガ、ルカリオは、少し呆れ顔である。
「いや、なんか、変な夢見てた気がしてさ。そのせいか、なんか腹減っちゃって、っ!?」
思わず足を止めるサトシ。今一瞬サトシたちの前を、黄色い影が横切った。影の向かった森の方に目を向けると、オレンジのトサカに黄色の体。その水色の瞳がサトシをじっと見つめている。
「カプ・コケコ!?」
メレメレ島の守り神、カプ・コケコが、まるで付いて来いと言うように森の奥へと進んでいく。
「何だ?」
スクールに遅刻しそうだということを忘れ、サトシはカプ・コケコに導かれるままに、森の奥へと進んでいく。やがて森の中でも、木々が開け、陽が差し込んでいる小さな陽だまりの場所に、サトシたちがたどり着く。
「ここは……って、えっ?」
「ピカッ!?」
「コウッ?」
『これは、』
『どどどと、どういうことロトォ!?』
ロトムが素っ頓狂な叫び声を上げてしまう。けれども、それを責めることはできないだろう。陽射しが差し込んでいる場所を囲むように、四体のポケモンがそこにいた。サトシを待っていたのだろうか、サトシの方を見ている。
「カプ・コケコにカプ・テテフ、それに……」
『カプ・ブルルにカプ・レヒレ、何でこの島に来てるロト!?』
四つの島の守り神が、集結している。サトシが来たのを見届けると、鳴き声をあげ、四体ともが空に飛び上がり、別々の方向に飛んで行く。見上げるようにそれを見送ったサトシが足元の小さな茂みに視線を落とすと、そこにその子はいた。
深い夜空のような群青色に、まるで雲のように見える体。瞳が閉じられ、規則的な呼吸音が聞こえてくる。
サトシがそっとその子を抱き上げる。
『この気配……もしや……』
「……軽い。本当に雲みたいだ……ロトム、このポケモンは?」
『ビビッ!データなし。このポケモンも、全く情報がないロト!』
「えっ、じゃあ一体……」
すぅすぅと眠るその謎のポケモンを見つめるサトシ。ふと今日の朝のことを思い出す。確か自分は夢の中で……
「そうだ……約束したんだった。俺、この子を……」
ポケモンスクール。
少し遅れて博士が教室に入ると、一つの席が空いている。
「アローラ。サトシはどうした?」
「起こした時に起きてはくれたのですが、わたくしの方が先に家を出たので……」
「また何処かで寄り道してるんじゃないか?」
「あ〜、ありえるかも。ポケモンゲットしてたりして」
「そうかも。道端から突然グラードンが!」
「ないない。そんなこと絶対……とも言い切れないけど、流石にグラードンはないって」
そこは普通言い切れるところなのだが、守り神の件や波導の勇者のこともあって、ことサトシに限ってはあり得てしまうんじゃないだろうか、なんて思ってしまう。と、
「博士!」
噂をすれば何とやら。サトシが慌てて教室に駆け込んでくる。しかしその慌てようは、遅刻に対するものとは少し違うように見える。
「サトシ、どうしたんだ?」
「博士!実は、夢で約束して、それでカプ・コケコたちに、それから、」
「待て待て、取り敢えずは落ち着け」
ゼーハー言いながら説明しようとするサトシ。一先ず呼吸を整えるよう博士が促す。膝に手を置きながら、サトシが肩で呼吸をする。と、背中に背負われているリュック、わずかに開いているその隙間から、博士は何やら雲のように見えるものが覗いているのに気づく。
「サトシ。リュックに何か入っているのか?」
「はぁっ、はぁっ。っあ、そうだ!博士、この子を見て欲しいんです!」
そう言ってサトシは背負っていたリュックを手に取り、中を博士に見せる。興味津々なクラスメートたちも一緒に覗き込むと、いつもリュックにいるモクローの隣に、スヤスヤと寝息を立てる、見たことないポケモンが眠っていた。
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スヤスヤと眠り続ける謎のポケモン。異様なまでの軽さや、眠ったまま浮かぶ様子からしても、更に謎が深まる。
「ダメだ。特徴が一致するポケモンの事例がどこにもない」
「ユキナリにも聞いて見たが、やはり知らないそうだ」
教室の外に資料を見に行っていたククイ博士とオーキド校長が教室に入ってくる。博士はもちろんのこと、校長も初めて見るポケモンに興味津々シンボラー、らしい。
「もしかして、新種のポケモンだったりして?」
「それが本当なら、サトシが発見者、ってことになるな」
「どこで見つけたの?」
クラスメートの視線を受け、サトシがうーんと首をかしげる。
「いや、見つけたのは森の中だったんだけど、」
「だけど?」
「それが変な感じでさ、夢の中でこの子のことを見つけて世話するって約束したんだ。で、実際見つけた時には、カプ・コケコとカプ・テテフ、それに他にも守り神が二体来てて」
「それって……」
「ウラウラ島のカプ・ブルル、それにポニ島のカプ・レヒレ。四つの島の守り神、全員が来ていたのですか!?」
通常、それぞれの守り神は、自分の領地であるそれぞれの島を離れることはない。そんなことがあったと言われるのは、伝説の中の伝説に語り継がれる、とある大きな戦いの時だけだ。それほど大きなことなのだろうか。サトシがこの謎のポケモンと出会うことが。
(まさか、ハラさんが言ってたのはこの子のことか?)
「取り敢えず、この子に名前をつけてあげないとね」
「そうだな、サトシが見つけたんだ。名付け親もサトシがなるべきだな」
「名前?うーん、どうしよっかなぁ」
うんうん唸りながら、サトシが何かいい名前を考える。他のみんながサトシを見ている中、一人だけ謎のポケモンを見ていたリーリエが、ポツリと呟く。
「ほし……ぐも?」
「えっ?」
「あ、いえっ!なんだかこの子を見てたら、急に。キラキラしてて、フワフワしてて……それで」
両手の人差し指をつきあわせながら、リーリエが説明する。少し安直な考えだっただろうかと、少し不安になる。
「ほしぐもか……いいなそれ!」
「ああ。ぴったりな感じだな」
「うんうん。可愛いし、この子のことよく表してる」
クラスメートたちからも賛同の声が上がる。眠っているポケモンをサトシが両手でそっと自分の前まで持ってくる。
「これからお前の名前は、ほしぐもだ。よろしくな、ほしぐも」
サトシが改めてほしぐもの名前を呼ぶと、反応したのか、寝息が止まる。くぁ〜とあくびをしてから、その目がパチリと開く。
「おっ、起きた」
サトシたちが覗き込むようにほしぐもを見る。パチパチと何度か瞬きをすると、ほしぐもは口を開いて、
「ビャァァァアアア!」
耳をつんざくような泣き声を上げた。
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『こ、これは超音波並みの泣き声ロト!』
サトシたちはもちろん、ゲッコウガやルカリオまでもが思わず耳を塞いでしまう。それほどまでに強烈な泣き声をほしぐもはその小さな体から上げているのだ。
「ど、どうしたのかな、急に?」
「もしかして、腹でも減ってるんじゃ」
「でも、ほしぐもは何を食べるの?」
「そりゃあ……なんだ?」
よくよく考えてみると、新種のポケモン(仮)であるほしぐものことは、何一つとしてわからない。タイプは?特性は?性格は?好物は?どうしてあそこにいたのか?何故守り神が集まっていたのか?
考え出したらきりがないが、取り敢えずの問題としては、
「なんとか泣き止むようにしないと!」
「えーと、何か子守唄とか?」
「それなら俺が!ホシの子守をしてた時のがある」
カキやスイレン、マオと順番にあやしてみるが、どうにも泣き止む様子がない。サトシがやってみようと今あやしているマーマネに手を伸ばす。
「ダメだ、パス!」
「あっ、ちょ、マーマネ!」
パニクっていたのか、マーマネはサトシではなく、なんとリーリエにほしぐもを手渡してしまう。まだほとんどのポケモンに触れないリーリエ、その腕の中にポスンと、ほしぐもが収まる……が、みんなが予想していたリアクションは来なかった。
「……あれ?」
「リーリエ?」
「は、はい!」
「大丈夫なの?」
「え、ええ。どうしてかはわかりませんが、平気みたいです」
「ねぇ、ほしぐも、泣き止んでない?」
そういえばあたりに響き渡っていた泣き声が聞こえなくなっている。みんながほしぐもの顔を覗き込むと、
「ク〜?ガック〜!」
何やら安心したような、表情を見せ、どこか嬉しそうに笑っている。
「あれ?なんで?」
「すごいなリーリエ。どうやったんだ?」
「それが、わたくしにもよく分からなくて……」
「でも、ほしぐもも嬉しそうだな」
サトシの言う通り、ほしぐもはリーリエの腕の中から、可愛らしい笑顔をサトシたちに向けている。何故リーリエが全く恐れることなく触れるのかは疑問ではあるが、どうやらほしぐも的にはリーリエのことを気に入ったようだ。
「ともかく、折角ほしぐもの機嫌が直ったんだ。何を食べるのか、検証してみようか」
博士に連れられ、サトシたちはスクールの外、一場へと向かって、いろんな食材を買ってみる。何が好物なのか分からない以上、とりあえず試してみるしかない。
「さぁ、ほしぐも。何が食べたい?」
教室に戻り、サトシたちが一つ一つの食べ物をほしぐもに出してみる。きのみ、サンドウィッチ、マラサダ、ケーキ、更にはどんな人もポケモンも虜になるとまで言われるカキの家からのモーモーミルクまでが試されたが、それでもほしぐもが食べようとしたものはなかった。
「うーん、難しいなぁ」
「せめてタイプがわかれば絞り込めるかもしれませんが……」
「うーん、ほしぐもかぁ……あ、そうだ!これとかどうかな?」
何か閃いたマーマネ。ポケットの中から彼が取り出したのは、色とりどりの小さなお星様、ではなく、
「金平糖?」
「いやぁ、なんかほしぐもを見てたら思い出しちゃって」
「試してみようぜ。ほしぐも〜、食べるか?」
サトシが一粒金平糖を手のひらに乗せ、ほしぐもに差し出す。すると、さっきまで他の食べ物には見向きもしなかったほしぐもが、笑顔でサトシの手のひらから金平糖を食べた。
「おっ、食べてる食べてる」
「ほしぐもちゃんには、金平糖がなんだかとっても似合っていますね。お星様みたいですもの」
「マーマネに、甘い物好き仲間がまた増えたな」
「後で金平糖の美味しいお店の場所、教えるね」
「サンキュー、マーマネ」
笑顔を浮かべて金平糖を頬張るほしぐもは、なんだか生まれたての赤ん坊のようで、クラスみんながなんだかほっこりとした気分になった。
その頃、
アローラの海に浮かぶ人口の島。
そこでまた新たな異変が観測されていた。
「ウルトラオーラの反応が出たわ」
「場所は特定できたの?」
「ええ。それが、メレメレ島からです」
「先ほど観測されたという数値とほぼ同じ。微弱すぎるのではないですかね」
「なら、行って確かめてみるしかないわね。久々のメレメレ島に」
四人を乗せたヘリが人工島を飛び立つ。
目指す場所はメレメレ島、そこにいるのは……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあね、二人とも」
「ああ。またな、マーマネ」
「また明日」
マーマネの家の前に停まっていた車が走り出す。中に乗っているのはサトシとリーリエ。少し遠いという金平糖のお店に行くために、車を出してもらい、マーマネとともに買いに行った帰り道。
「あれ?」
「どうしました、サトシ?」
「いや、なんかあそこにヘリが」
サトシが指差す先、目的地であるククイ博士の家の前に、ヘリが一台停まっている。その側面には何かのマーク。
「あのマークは……まさか」
「ただいまー」
「おお、二人とも。丁度いいところに。二人に会いたいって人が来てるぜ」
「二人?」
家の中に二人が帰ると、そこには四人の客人が。白衣にゴーグルのようにも見える眼鏡をかけている男性、どこかおっとりとした雰囲気を持つ眼鏡をかけた女性、一人だけ白い服を着ておらず活発な印象を持たせる女性。そして、最後の一人、綺麗な金色の長い髪を持つ、目を惹く美しさを持つ女性。
「お母様!?」
「リーリエ!」
「『えええええっ!?』」
リーリエが来訪者に驚いていると、金髪の女性が嬉しそうにリーリエに駆け寄る。突然登場したまさかの親に、サトシとロトムが思わず声をあげる。
「久しぶりね、元気にしてた?どうして今まで連絡して来なかったの?」
「それは、その……」
抱きつこうとする母親をかわしながら、リーリエが曖昧な表情で返す。自分の空白の時間、ポケモンへの恐怖。その原因に関係があるかもしれない母親と会うことを、無意識のうちに回避していたのかもしれない。
「どうして避けるのよ」
「お母様、ちょっとそれは恥ずかしいといいますか」
「もう、照れちゃって。ちょっと前まで赤ちゃんだったくせに〜」
「ちょっとじゃありません」
「コォン」
「あら、可愛いロコンね……あら?リーリエあなた、ポケモンに触れるようになったのね!」
久しぶりの再会に戸惑う本人をよそに、何やらテンションが高いリーリエの母親。はたから見るとどう見てもただの親バカである。それもリーリエがまるで幼い子供かのように接しているのには、流石のサトシも戸惑っている。
「えーと、リーリエのお母さん、ですよね」
「あ、ごめんなさいね。君がサトシくんでいいのかしら?」
「はい。カントーのマサラタウンから来ました」
「初めまして。私はルザミーネ、リーリエの母親よ。エーテル財団の代表を務めているわ」
「エーテル財団?」
「ポケモンの保護や研究を主な活動にしているわ。それから、こちらは私の部下」
「ビッケです。保護活動の担当をしています〜」
「研究部門チーフのザオボーです」
「それから、彼女は協力者のバーネット博士」
「バーネットよ。サトシくん、よろしくね」
「あの、俺に用事って?」
「あ、そうそう。君が見つけたというほしぐもちゃんに会わせてもらえないかしら?」
「えっ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リュックの中から出したほしぐもを、ルザミーネが興味深そうに見つめる。その横ではザオボーとバーネット博士が何かの装置でほしぐものデータを取っている。
「やっぱりそうね。あの反応はこの子、ほしぐもから出ているわ」
「どうやら、この子はウルトラビーストに間違いなさそうです」
「ウルトラビースト?」
聞きなれない単語にサトシが聞き返すと、ビッケがパソコンを操作し、モニターにとある壁画を映し出す。描かれているのは四つの島の守り神と、見たことのない不思議な姿をした生き物。
「遥か昔、異世界から来た不思議な生き物が、アローラの守り神たちと激しい戦いを繰り広げたことがある、という伝説があるの。その生き物を、私たちはウルトラビーストと呼称しているわ」
と、突然サトシのボールの一つからポケモンが飛び出す。跪いたような姿勢で現れたのは、ルカリオだった。突然飛び出して来たルカリオに、ルザミーネたちも驚いている。
「ルカリオ、どうしたんだ?」
『……見たことがある』
「ルカリオが喋った!?」
「驚きです〜」
まさか喋る、というかテレパシーのようなものを使えるルカリオが存在するなんて。今まで確認されたことのない事例に、バーネット博士とビッケの目がキラキラしている。が、そんなことよりサトシはルカリオの発言が気になっている。
「ルカリオ、見たことがあるって?」
『この壁画に描かれている、ウルトラビーストと呼ばれるものたちのことを、私は以前見たことがある』
「!それは本当なの!?いつ?どこで?詳しく教えてもらえるかしら?」
「お母様?」
ルカリオの話に食いつくルザミーネ。今までにない程に関心を見せる母親の姿に、リーリエが不思議そうな表情になる。
『遥か昔のことだ。私がロータにいた頃のことだった。空を割り、奴らは現れた。人々が恐怖する中、奴らはロータの地に住む人やポケモンたちを襲った。我が主人、アーロン様が命と引き換えに奴らを空に開いた穴の向こうへと送り返した』
「じゃあ、あの時アーロンが言ってたのって」
『こいつらが、またこの世界に現れる、そういうことなのだろう』
話の半分以上を理解していたのは、恐らくサトシ、リーリエ、ククイ博士の3人だけだろう。しかしまさかアローラ地方だけではなく、他の地方にまで現れていたとは。
「そんな事件があったなんて……」
「そういえば、ルザミーネさんたちはどうしてほしぐものことを知ってたんですか?」
「ああ、それはね、バーネット博士の開発した観測機のおかげよ」
「ウルトラビーストに関係のあるものは、ウルトラオーラという特殊な波動のようなものを発しているのです。我々は常にその研究を行っているのですが……」
「昨夜、ポニ島にある日輪の祭壇で、異常に高い数値が観測されました」
「日輪の祭壇?」
「はい〜。これがその祭壇の写真です」
スクリーンに映し出されたのは、大きな岩山に囲まれている遺跡。高い塔のようにも見える中央の岩には複雑な模様。そして太陽と月の紋章。それを見たサトシは、既視感を覚える。聞いたことないはずの場所なのに、何故……
「っあ!思い出した!この場所だ!」
「サトシ?」
「どうかしたの?」
「昨日の夜、俺、不思議な夢を見たんです」
「夢?」
「その時俺、この祭壇にいました。そしたら空から初めてみるポケモン……確か、ソルガレオとルナアーラが現れて……その二人と約束したんです。この子を見つけて、世話するって」
「伝説に残される、ウルトラビーストたちが……」
「所詮は夢。ただの戯言ですよ」
サトシの話にビッケを除く3人の表情が変わる。信じられないものを見たようなバーネット博士。全く取り合っていない様子のザオボー。しかし中でもリーリエが違和感を覚えたのはルザミーネ。
それはどこか、物欲しそうな顔に、彼女には見えていた。
「サトシ君、ほしぐもちゃんを、エーテル財団で預からせてくれないかしら?」
「えっ?」
「エーテル財団は昔からウルトラビーストの研究をしているの。もしほしぐもちゃんがそうなら、いつか元の場所に返せる方法を見つけてあげられるかもしれないわ」
「それに保護活動のために、いろんな設備が整ってるの〜。安心して任せられる場所よ」
笑顔で提案するルザミーネとビッケ。優しげな笑みを向けてくる二人。本来預けることに大きな不都合はないはずだ。全く新種のポケモンなら、その道の専門家に任せた方が安心できるかもしれない……でも、
「あの、その提案ありがとうございます。でも、俺自分でこの子を育てたいんです。そう約束したから。だから、ごめんなさい」
真っ直ぐな瞳で自分たちを見つめ返すサトシに、二人はそれ以上の勧誘は無意味だと察した。
「ウルトラビーストは君のような子供の手に余る存在ですよ、サトシ君」
それでも諦めが悪いのはいるわけで、ザオボーが口を挟んでくる。その目を見ればわかる。彼はサトシをただの子供として見下している。そんな態度に対してサトシは怒るでもなく、
「それでもやってみます。きっと、それは俺がしなきゃいけないことだから」
「ポケモンについての知識も経験も、我々の方が上なのです。君のようなただの子供よりも、適任だと思いますがね」
「サトシはただの子供なんかじゃありません!」
ザオボーに対し怒りにも近い声をあげたのは、リーリエだった。リーリエがここまで感情的になっていることに、ルザミーネまで驚いている。
「サトシは立派なトレーナーです。その実力はカプ・コケコにも認められています!」
「カプ・コケコに?」
「メレメレ島の守り神にあったことがあるんですか〜?」
「本当なの?ククイ博士?」
「ああ。サトシの持っているZリングは、カプ・コケコが直接手渡したものだ。それに、カプ・コケコだけじゃなく、カプ・テテフともバトルしている。メレメレ島とアーカラ島、二つの大試練をクリアした、将来有望なトレーナーだ」
「サトシ君が……そう……」
「ふん、とても信じられませんなぁ」
「そんな、わたくしたち、嘘はついてません!」
「なら、試して見ればいいんじゃない?彼の実力を」
ルザミーネがザオボーに提案する。彼女もここまでリーリエが肩入れするこの少年の実力を見てみたくなった。
「いいでしょう。では、私が勝ったら、ほしぐもはエーテル財団で預からせていただきますぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ククイ博士の家の前で、サトシとザオボーが対峙している。審判を務めるのはバーネット博士。リーリエやルザミーネたちは、少し離れた場所から見守っている。
「使用ポケモンは一体のみ。どちらかが戦闘不能になったら勝負あり。このルールでいいわね?」
「はい」
「勿論です」
「では、両者ポケモンを」
「行くのです、フーディン!」
「フーディ!」
「よーし、ルカリオ!君に決めた!」
『ブルァ!』
ザオボーが繰り出したフーディンを見据えるルカリオ。先程のザオボーの態度に不快感を覚えたらしく、視線はいつもより鋭い。
「ふん。エスパータイプに対しかくとうタイプを持つルカリオとは。これだから子供は」
「俺のルカリオを甘くみない方がいいですよ」
「ならば見せてもらいましょうか。フーディン、サイコショック!」
両手に持ったスプーンを合わせ、フーディンがサイコパワーを込めた攻撃を放つ。真っ直ぐルカリオめがけて進む攻撃に対し、
「ルカリオ、しんそく!」
一瞬でフーディンとの距離を詰めるルカリオ。あまりの速さに、はたから見ていたバーネット博士たちも驚いている。サイコショックを難なくかわし、ルカリオの拳がフーディンの胴体に決まる。
『その程度の速度では、私は捉えられない』
「いいぞ、ルカリオ」
「ぐぬぬっ、サイコキネシス!」
フーディンがサイコパワーを集め、ルカリオを拘束する。宙に浮かび上げられるルカリオ。
「くくくっ、動けなければどうにもならないだろう!もう一度サイコショック!」
動けないルカリオに対し、フーディンが攻撃を仕掛ける。同時に二つのことにサイコパワーを使えることから、あのフーディンも相当鍛えられているようだ。しかし、
「ルカリオ、波導放出!その後はどうだん!」
体から爆発的な波導を放ち、拘束を解いたルカリオ。そのまま素早く波導を収束させ、はどうだんを放つ。
サイコショックを迎え撃つように進むはどうだんは、衝突すると、あっさりとサイコショックを貫いていく。
「なんだと!?」
『始まりの樹を守っていたものの方が、余程強いな』
ついにはどうだんがフーディンに命中する。大きく弾き飛ばされたフーディンは地面を跳ね、しばらく転がる。ようやく止まった彼の目は完全に回っていた。
「フーディン、戦闘不能!ルカリオの勝ち!よって勝者、サトシ君」
バーネット博士の声が響く。サトシの勝利にリーリエが思わず立ち上がる。
「サトシ君、君の実力、しっかりと見せてもらったわ。ソルガレオとルナアーラがどうして君にその子を託したのか、私も知りたくなった。ほしぐもちゃんのこと、あなたに任せるわ」
「ふん。私はまだ認めていませんがね。あれはたまたま偶然負けただけで、」
「全く非論理的ね。研究者なら、結果をしっかりと受け止めなさい。サトシ君、困ったことがあったら、いつでも連絡してね」
「わかりました。ありがとうございます」
最後にほしぐもの頭を撫で、ルザミーネたちはヘリに乗り込み、去って行った。
サトシとほしぐもの不思議な出会い。
そしてウルトラビーストを追うエーテル財団。
果たして、物語はどう進むのか。
余談だが、ほしぐもの能力、テレポートによってスクールでひと騒動起こるのだが、それは別の話。
…………… To be continued
テレポートパニックのお話は、タイトル通りにどっかへテレポートしちゃいました
というわけで、次回予告!
エーテル財団の作ったポケモン保護用の島、エーテルパラダイス。
そこに招待された俺たちは、メタモンの予防接種を手伝うことに。
ってこら〜!逃げるな!
メタモンはすぐに他のポケモンに化けるから、探すのが大変だ!
どうやって見つければいいんだ?
次回、
パニックメタモン、探すんだモン
みんなもポケモンゲットだぜ!