XYサトシinアローラ物語   作:トマト嫌い8マン

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内容的にタイトルを当初の予定から変更しました

いやぁ、流石1000回記念
内容が濃ゆいのなんの


リーリエの危機。うなる激流、聖獣の覚醒!

お泊まり会の翌日。

 

あのあと、サトシに支えられるようにしながら、リーリエは家に帰った。途中で別れたみんなの心配げな表情に、なんとか笑顔を返したものの、それは誰が見ても無理をしているのは明白だった。

 

そんなリーリエの様子に、ククイ博士もバーネット博士も、無理に事情を聞き出そうとせず、ゆっくり休むように言われた。

 

一人、ロフトのソファベッドの上に座り込むリーリエ。心配そうにこちらをチラチラ見てくるシロン。その顔も優れない。サトシのロコンが元気付けようと声をかけるが、シロンはしょんぼりしたままだ。

 

「シロン……ごめんなさい」

 

乗り越えたはずだった。

 

なのに、あのポケモンを見てから、体が思い出してしまった。

 

とてつもない程の恐怖を。

 

そのために、シロンにも、ピカチュウにも触ることができなくなってしまった……

 

「一体、どうして……」

 

ポタリ———ポタリ———

 

頬を伝い落ちた涙が膝を濡らす。どうしたらいいのだろうか、わからなくなってしまう。

 

「……助けて……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

———バキッ!

 

サトシが砂の上に倒れこむ。口の中を切ったのか、口の端に血が滲む。今までにないほどに激しい怒りの表情を見せるグラジオが、サトシの胸倉を掴み立ち上がらせる。

 

「何故リーリエを俺の所に連れてきた!」

 

至近距離から睨みつけるグラジオに対し、サトシは言葉を返すことができない。ほんの少し気を緩めていたその一瞬で、ほしぐもがテレポートしてしまったのだ。

 

ほしぐものことを叱ることはできない。きっとリーリエの会いたいという願いを叶えようとしただけだったのだろう。そこに悪意はなかったはずだ。ほしぐもは悪くない。誰の責任かと言われると、それは自分の監督不行き届きが原因だ。

 

「……グラジオ、俺、」

「あいつがポケモンに触れなくなったのは、シルヴァディを見て何かを思い出したからだ!会わせるべきじゃなかった!」

「っ、それは……」

「約束したよな!妹を守ってくれって、頼んだよな!」

「……ごめん」

「っ!」

 

グラジオが力一杯掴んでいたサトシの服を離す。数歩距離を置き、サトシを見る。強く握りしめられた拳から、グラジオの怒りが見て取れる。

 

けれども、サトシの様子を見ると、相当責任を感じているのもわかる。きっと本人は約束を守ろうとしてくれたのだろう。今回のことは完全に予想外のことで、彼にもどうしようもなかったことなのだろう。

 

怒りをぶつける矛先を無くし、グラジオが何度も深呼吸を繰り返す。

 

「——っ。すまない……熱くなりすぎた」

「いや……俺の方こそ……本当にごめん」

「……あいつを頼む」

「グラジオ?」

「俺は、もうあいつとは会わない方がいいのかもしれない。守るために修行したはずなのが、あいつを傷つけてしまった……なら、いっそ……」

 

サトシに背を向け歩き去るグラジオ。思いつめたような背中に、サトシは声をかけようかと思った。けれども、

 

「……グラジオ」

 

伸ばそうとした手が、力なく落ちた。

 

 

 

住処としたモーテルに帰ったグラジオ。鍵を受け取るときに、家族が訪ねに来たと話を聞かされ、警戒心が高まる。

 

ドアを開け、部屋の中に入ると

 

「お帰りなさい、グラジオ坊ちゃん」

「貴様っ、ザオボー!」

 

ニヤリと笑うザオボーがボールを手に取り、ポケモンを出す。

 

グラジオの意識は、そこで途絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝。

 

スクールに着いても、リーリエの表情は浮かないまま。シロンも、少し離れた場所から寂しげにリーリエを見つめている。

 

「リーリエ、元気出して」

「きっとまたポケモンに触れるようになるって」

「僕たちもちゃーんと協力するから」

「ね、だから元気出して。あたし達も、いつもの元気なリーリエが見たいから」

「マオ……みんな……」

 

「ピカピカーチュ」

「アウッ」

「マデュデュ」

「アーマイ」

「バスン」

「コォン!」

 

 

マオ達やポケモン達からの励ましの言葉を受け、リーリエが小さく微笑む。

 

みんなの優しさが、すごく嬉しい。

 

ポケモンへの恐怖が、消えたわけじゃないけれども。それでも、こうして背中を押してもらえるのが、とても心強くて、元気が出てくる。

 

ふと、修学旅行の時にサトシが言っていた言葉を思い出す。

 

「がんばリーリエ……」

「えっ?」

「……落ち込んでばかりでは、駄目ですよね」

 

ぐっ、と両手で拳を握るリーリエ。少し元気が出たらしいその姿に、周りも思わず笑みをこぼす。

 

「わたくし、もっと、頑張ってみます!」

 

みんなで顔を見合わせて笑い合う。教室の外でも二人の大人が顔を見合わせて笑い合う。心配して様子を見に来ていたバーネット博士とククイ博士。励ましてあげるべきだろうかと悩みどころでもあったが、仲間の力で元気を取り戻したらしい。

 

「安心したわ。ひどく落ち込んじゃうものかと思ってたのだけど」

「仲間のてだすけで、リーリエも自分で立ち直ったみたいだな。ただ、」

「ええ。彼も、そううまくいけば良いのだけど」

 

二人がこっそり教室を覗き込む。リーリエの机の周りに集まる仲間達。その中にいながらも一人だけ、リーリエに声をかけられずにいる。

 

サトシの様子がおかしいことに、みんな気づいていながらも、何処かただ事ではなさそうな雰囲気に、何も聞けずにいた。

 

結局その日、「リーリエのポケモンまたまた触れるようになろう」作戦という名のもと、様々な方法を試し(リーリエも相当な回数体を張った)、みんなも協力したものの、リーリエがシロンに触れるようにはならなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、みんなで揃って校門をくぐり外に出る。

 

「あれ?リーリエ、こっちなの?」

「はい。初めてシロンに触ることができた時のように、一緒に散歩に行こうと思いまして」

「そういえばそうだったね。あの時のリーリエ、シロンを助けようと頑張ってたもんね」

「ええ。その時のことを思い出しながら、もう一度シロンと向き合いたいと思います」

「そっか。頑張ってね」

 

リザードンにまたがり空へと飛び上がるカキ。家の用事があるからと一足先に出発するマーマネ。二人を見送ってから、リーリエはマオ達の方を見る。

 

「では、行ってきますね」

「あっ、ちょっと待った!」

 

マオに呼び止められリーリエが振り向く。キョトンとした表情を浮かべていると、スイレンがサトシの背中を押して、リーリエの前に進ませる。

 

「のわっ!?スイレン?」

「はい、お供」

「えっ?」

「うんうん。またロケット団とかに狙われるかもしれないでしょ。だからサトシが守ってあげてね」

「いや、でも」

「サトシ、命令」

「は?」

「この前の買い物に付き合うって命令は撤回します!だからサトシ、リーリエをしっかり今日1日守ること!いいわね?」

 

ビシッと指をサトシに突きつけるマオ。スイレンもウンウンと頷いている。

 

困ったような表情のサトシ。戸惑っているリーリエ。チラリと同時に隣を見ると視線が交差する。

 

スクールでの一日、結局サトシがリーリエに声をかけることは一度もなかった。リーリエも、そんなサトシの様子に、自分から話しかけられず、どこか気まずい空気が二人の間にはあった。が、

 

「では……お願いしてもいいですか、サトシ?」

「あ、うん」

 

どこかギクシャクしながら歩き出す二人。その後ろ姿を眺めながら、マオが溜息をつく。

 

「はぁ〜。これでうまく元どおりに戻ればいいんだけど」

「サトシ、なんだかぼーっとしてた」

「何か悩んでるっぽかったし、多分リーリエに関係あることなんだと思ったんだけど」

「大丈夫かな、二人とも」

「大丈夫だよ、きっと」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

以前シロンと共に歩いた道を、リーリエがまたシロンを連れて歩く、が。今回は隣にサトシが並んでいる。二人の足元にはシロンとピカチュウ。後ろからルカリオとゲッコウガがロコンと共に静かについて来ている。

 

因みにルガルガンとニャビーは朝から特訓のためにお留守番。モクローは家で寝ている。

 

眠っているほしぐもを抱きかかえながら、黙り込んでしまっているサトシをちらりと見てから、リーリエが口を開く。

 

「あの……グラジオお兄様は、わたくしのことをなんて?」

「えっ……」

 

唐突に振られた話題にサトシが驚く。

 

「どうして俺がグラジオと会ってたって……」

「なんとなく、です。何故かは分かりませんが、お兄様ならサトシを訪ねるような気がしたんです」

「そっか……」

 

女の勘という奴だろうか。本当にそうならそれってかなりすごいものなのではないか、なんてサトシが思っていると、リーリエが自分の口の端を指差す。

 

「ここ、今朝怪我してましたよね。昨日はなかったはずなのに。もしかして、それもお兄様が?」

「いやっ、これは……ち、ちょっと転んだ時に」

「……そうですか」

 

ああ、嘘やごまかしが下手なんだなぁ、なんてことを思ってしまう。きっと自分に余計な心配をかけまいとしているのだろう。でも、いつもと比べて明らかに様子がおかしいことから、なんとなく事情を察してしまう。

 

「それで、お兄様は?」

「う、うん。なんでリーリエを連れて来たって、すっげぇ怒られちゃった。約束してたのに、それもちゃんと守れなくて……」

「約束ですか?」

「うん……その、ごめんな、リーリエ。俺がちゃんとほしぐもを見ていれば、」

「いえ、サトシが謝ることではありませんから」

 

いつもの様に楽しい話、というわけにはどうもいかない。サトシはリーリエがまたポケモンを触れなくなってしまったことに対する責任を感じ、リーリエはそんなサトシの落ち込んだ姿に責任を感じている。

 

「……あの時、思い出したんです。飛びかかってくるシルヴァディの姿と、とても怖かったという感情が……忘れたくても忘れられない様な経験だというのに、どうして今まで忘れてしまっていたのでしょうか……」

 

俯いてしまうリーリエ。

 

「リーリエ……思い出すのは、やっぱり怖いか?」

「そう、ですね。怖くないと言えば嘘になります。でも……」

 

応援してくれるクラスメートたち。

協力してくれたポケモンたち。

見守ってくれた博士たち。

それに……

 

『がんばリーリエ!って感じだな』

 

「がんばリーリエ!ですから」

「それって……」

「はい。前にサトシが言ってくれた言葉です」

 

ぐっと両手で拳を握るリーリエ。その表情に不安や悲しみ、恐怖はなく、むしろやる気と勇気、そして元気が溢れてくる。まっすぐな視線を受け、サトシも自然と笑みをこぼす。

 

「そっか。強いな、リーリエは」

「みんなのおかげです。わたくし、ちゃんと全てを知って、向き合いたいと思います」

「そっか。なら、俺も協力するよ!絶対またシロンやピカチュウと一緒に遊ぼうぜ」

「はい!」

 

「クゥ?ガックゥ〜!」

 

サトシの腕の中で、ほしぐもが目を覚ます。リーリエのやる気を感じ取ったのか、寝起き早々、ほしぐもも元気いっぱいに、テレポートした。

 

「コウッ!?」

『またテレポートか……これは、ミュウを探すよりも厄介だな』

 

後ろからついて来ていた三体のポケモンを置き去りにしながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目の前の景色が一変する。目の前に広がるのは青い空に青い海。足が踏みしめるのは白い砂。あたりに建物はなく、大自然のど真ん中にポツンと残された砂浜に、サトシたちは立っていた。

 

「ここは?」

「わたくし、この場所をよく覚えてます!昔、家族で来たことがありますから」

「家族で?」

「はい。まだその時はお父様がいて、お母様は今ほど忙しくはありませんでした」

「……リーリエのお父さんって、研究中に行方不明になったって、前言ってたよね」

「ええ。詳しい内容は知らないのですが、確かお父様もウルトラビーストについて研究をしていたはずです」

「そうなんだ」

「ずっと前のことなのに、今でもあの時のことが鮮明に思い出せます」

 

リーリエの脳裏に浮かぶのは幼い日々。優しい母と、優しい兄。大好きなポケモンたちと共に遊んだ記憶。

 

 

するとまた景色が変わる。今度は小さな畑の側。きのみや野菜がいくつも実っている。

 

「わぁっ、懐かしいです!」

「ここも知ってるの?」

「お母様がまだ忙しくなる前のことです。ここで一緒にきのみやお野菜を育てていたんです」

「へぇ」

「服が汚れるのを気にせずに芋を掘ったり、野生のポケモンときのみを分かち合ったり」

「楽しそうだな、それ」

「ええ。それに、時間はかかりますが、自分で育てた野菜は、とても美味しく感じました」

 

 

またテレポートするほしぐも。今度はサトシも見覚えのある場所に。

 

「ここ、俺がアローラに最初来た時のホテルのレストランだ」

「そうなのですか?実はわたくしも、お母様によくここに連れて来てもらいました」

「あっ、そっか」

「?サトシ?」

「多分ほしぐもは叶えようとしてるんだよ。リーリエが言ってた、思い出して向き合いたいって願いを」

「クゥ?」

「……ありがとうございます、ほしぐもちゃん」

 

次の光景は少し小さめの部屋。あたりにはおもちゃや勉強机、それにたくさんのポケモングッズがある。

 

「ここって、子供部屋?」

「はい。わたくしとお兄様が昔使っていた場所です。あの頃のままですね」

 

ここで二人が幼い日々を過ごしたということだろうか。リーリエはともかく、あのグラジオとこの部屋の雰囲気がどうにも一致しない。思わず笑ってしまうサトシだった。

 

 

今度の場所も室内へ。しかしやや大きめで、そう、大人の女性が使っているのであろうことが予想できる。おしゃれな帽子にハイヒールが並べられ、棚にはたくさんの本やファイルが詰まっている。

 

「ここは、お母様の部屋ですね」

「あっ、リーリエ。これ」

 

ふと部屋の壁を見たサトシがリーリエを呼び、壁を指差す。

 

飾られているのはたくさんの写真。

 

生まれた時のリーリエ。

 

イーブイと遊ぶ幼いグラジオ。

 

絵本を読むルザミーネとリーリエ。

 

先ほどの砂浜での3人。

 

そしてメレメレ島のリーリエの家にもあった家族の写真。

 

「お母様……」

「本当に、リーリエたちが大好きなんだな、ルザミーネさん」

「……はい!」

 

ほしぐもの力でまたテレポートするサトシたち。

 

ついぞ彼らは気づくことができなかった。

 

飾ってある写真が、どれもこれも、まだ四人家族だった頃のものばかりだということに。

 

 

「コウガ?」

『ダメだ。この島からは、サトシたちの波導は感じられない。お前はどうだ?』

「コウガ」フルフル

『そうか……』

「コォン……」

『心配するな。きっと見つかる……む?』

 

「くっ……ザオボーめ。だが、無策のまま向かったとしても……」

 

「コウッ!」

「なっ!?お前らは、サトシの」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

新たな場所にテレポートしたサトシとリーリエは首を傾げた。

 

そこは今まで見て来た場所とは、明らかに別種の場所だった。建物の中なのは間違いない。けれども間違っても家族で旅行に来るような場所ではないのは明白だ。

 

「ここは、どこだ?」

「何かの研究施設のようですけど……」

 

薄暗く照らされるその空間はどこか不気味で、同時にリーリエには既視感のある場所でもあった。自分はここに来たことがある。そのことは確信が持てる。けれどもその時の記憶がない。であるとすれば、

 

「ここで、わたくしは記憶をなくしているのかもしれません」

 

 

「ルザミーネ様、これを」

「ウルトラオーラの反応……これはどこから?」

「どうやら地下施設のようですな」

「もしかして、来たのかしら?あの子達が」

「施設の監視カメラを確認したところ、サトシとリーリエ嬢ちゃんの二人と一緒のようですが……いかがいたしましょうか?」

「リーリエ……ここに来たということは、思い出そうとしているのかしら……研究の邪魔をされるわけにはいかないわ。ザオボー、どうにかして家に帰してあげなさい」

「かしこまりました」

 

 

「立ち入り禁止区域のはずなのに、わたくしはここを知っている……一体どうしてここに?」

「ここで何があったのか分かれば、またポケモンに触れるようになるかもしれないな」

「そうですね……もう少し調べて見ましょう」

 

「サイコキネシス!」

「フーディ!」

「スリーパ!」

 

突如として、リーリエ以外のみんなの体が宙に浮く。そのまま勢いよく壁に叩きつけられるサトシたち。

 

「ぐっ!?」

「サトシ!っ、誰!?」

 

肩に置かれた手に振り向くリーリエ。その腕を掴み睨みつけるかのように見下ろして来たのは、ザオボーだった。その傍らにはフーディンとスリーパーが控えている。

 

「ザオボー!どうしてあなたが?」

「どこまで思い出したのですか?」

「えっ?」

「ふむ……まだ完全には思い出したわけではなさそうですね。しかし少しでもリスクを減らした方が我々のため。忘れてもらいますよ、もう一度ね」

「っ!貴方は、何を知っているのですか?もう一度って、まさか」

「フッフッフッ……さぁて、なんのことでしょうね」

 

(っ!……ゲッコウガ、ルカリオ……何とかしてこの場所を)

 

 

腕を引かれ、連れ去られていくリーリエ。後からスリーパーとフーディンがついて来る。壁に叩きつけられた後、落下の衝撃を受けて気絶したのか、サトシたちは動く様子がない。

 

「サトシ!ピカチュウ!シロン!」

 

すぐにでも駆け寄りたい気持ちでいっぱいだったリーリエだが、ザオボーの力に抗えず、施設の奥へと連れていかれる。その先にあったのはやや広めの空間。その場所を見た瞬間、体が震える。この場所は、この場所こそが……

 

「さて、リーリエ嬢ちゃん。ちょっと忘れてもらうだけですよ。今度は思い出さないよう、より強力にね」

「ザオボー、貴方はわたくしの身に何があったのか、知っているのですか!?」

「ええ、知っていますとも。ですがあなたに教える必要はありません。スリーパー、やりなさい」

 

リーリエの目の前に立つスリーパー。手に持ったコインが振り子のように揺れ始める。

 

過去に催眠術で子供を誘拐したことがあるという記録のあるスリーパー。このポケモンの催眠術の力は、他のエスパータイプと比べても強い。記憶を封じ込めることなど、造作もない。

 

「さぁ……忘れるのです」

「あっ……わ、わたくしは……」

 

(嫌……忘れたくなんてない……向き合うって決めたばかりなのに)

 

 

 

「アイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

飛び込んで来る黄色い影。小さな体から繰り出された一撃が、スリーパーを弾き飛ばす。

 

「ちっ」

「ザオボー!リーリエから離れろ!」

 

肩で息をしながら現れるサトシ。肩を抑えていることから、先ほどの攻撃で受けた衝撃が相当なものだったことが伺える。そんな本気の攻撃をザオボーは人間に向けさせたということだ。

 

「また君ですか……まさかこの地下研究施設にまでやって来るとは。こうなったら君たちにも眠ってもらうとしましょう。スリーパー!フーディン!」

「そうはいくか!頼むぞ、ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

 

(約束したんだ。守るって、だから、)

 

「絶対、リーリエは助ける!」

 

 

ピクリと、体が反応する。

 

驚きながらも意識を集中させてみる。

 

目の前の少年と共に、この人工島に辿り着いた時に、主人の声が聞こえた気がした。

 

思いは一つ、主人を、そして一緒にいた少女を助けたい。

 

その思いが、偶然にも重なり合う。

 

視界に映るのは薄暗い場所。どこか機械的な周囲に、少女と眼鏡の男。

 

「コウ、コウガ!」

『見つかったのか?研究施設、それにあの男も?』

「やはりエーテルパラダイスに来ていたのか……恐らく、この地下にある研究施設だ。そこに奴らはいる!それに、恐らくシルヴァディも」

『では行こう。私が安全な道を探す。二人はついてきてくれ』

「コウガ」

「わかった」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「フーディン、テレポートです」

 

高速で移動し接近するピカチュウに対し、フーディンはテレポートであっさりかわす。すぐさま放たれるスリーパーからの攻撃をかわすピカチュウ。さすがの彼も、二対一のこの状況に、大いに苦戦している。

 

「サイコキネシス!」

 

フーディンの攻撃でピカチュウの動きが拘束される。そのまま持ち上げられるピカチュウ。

 

「ピカチュウ!」

「おっと、君たちも止まってもらいますよ!」

 

すぐさまスリーパーのサイコキネシスがサトシたちを拘束する。まるで締め付けるかのようにサイコパワーが込められ、サトシたちから苦しげな声が漏れる。

 

「君には一度負けましたが、所詮はまぐれ。君よりもはるかに知識のある私の方が、やはり強いのだよ」

「サトシ!」

 

思わず泣き出しそうなリーリエ。ザオボーの手を振りほどこうとしても、力が強すぎてできない。ふとサトシを見ると、口が動いているのが見える。ザオボーも気づいたようで、ニタリとしながらサトシを見る。

 

「おや、どうしました?許しをこうおつもりですか?」

「……今だ!」

 

サトシが声を上げると、通路から水の手裏剣と青く光る光弾が飛び出して来る。フーディンとスリーパーに命中し、大きく後退させると、サトシたちを縛っていたサイコパワーが解ける。地面に落ちそうだった彼らをキャッチする二つの影。

 

「待ってたぜ、二人とも」

「コウッ」

『遅れてすまなかった。だが、もう大丈夫だ』

 

サトシの両隣に並び立つゲッコウガとルカリオ。鋭い視線がザオボーを射抜く。歴戦の風格漂う二体の登場に、ザオボーは焦りを覚える。

 

「くっ!フーディン、サイコキネシスでリーリエ嬢ちゃんを捉えるのです」

 

サイコパワーで宙に浮かび上がるフーディン。そのすぐ側に浮かぶリーリエ。わかりやすい人質として、ザオボーはリーリエを使っている。

 

「さぁ、余計なことをするようでしたら、リーリエ嬢ちゃんの安全は保証できませんよ」

「っ、お前!」

 

「スリーパー、やってしまいなさい」

 

スリーパーの攻撃がサトシたちに迫る。下手に動くことができないサトシたち。

 

と、彼らの前に巨大な影が現れる。前足に力を込めた一撃が、スリーパーの攻撃を切り裂く。

 

「何っ!?」

 

「シヴァ!」

 

統一感のない体の特徴に、顔を覆う仮面。

 

シルヴァディが、ザオボーを見据えて吠えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「バカな。何故ここにタイプ:ヌルが!」

 

「そこまでだ、ザオボー」

 

ゆっくりと歩いて来るグラジオ。その瞳には激しい怒りが見えている。

 

「グラジオ坊ちゃん!どうやってここに!?」

「そいつらの力を借りた。サトシ、下がっていろ。こいつとは、俺がケリをつける!」

 

サトシの隣に立つグラジオ。シルヴァディが体勢を低くし、戦闘態勢に入る。対するザオボーは余裕の表情を浮かべている。

 

「ふっ。その仮面をつけた状態で、私のポケモンに勝てるとでも?」

「勝つ!俺は誓ったんだ!妹を、必ず守ってみせると!」

 

「お兄様……」

 

隣に誰かが並び立つのをグラジオが感じ取る。ニッと口元に笑みを浮かべるサトシ。前ではシルヴァディの隣にゲッコウガが立っている。

 

「サトシ……」

「約束したからな、俺も。リーリエを守るって!」

「……ふっ。行くぞ」

「あぁ!」

 

リーリエを助けたい。ただその想いだけを持って、サトシとグラジオ、ゲッコウガとシルヴァディが敵を見据える。

 

「もっともっと強く!行くぞ!」

「戒めの仮面よ、我ここに示す!我が心、聖獣とともにあり!今解き放て、シルヴァディ!」

 

激しい激流がゲッコウガを包み込む。それと同時に、シルヴァディを拘束する仮面に亀裂が走る。

 

「バカな!あの制御装置が壊れるだと!?それに、なんですか、そのゲッコウガの力は!?」

 

「ザオボー!ポケモンさえ出世の道具としか見ていないお前に、見せてやる!」

「これが、人間とポケモンの、絆の力だ!」

 

水流が弾けるのとほぼ同時に、シルヴァディの仮面が砕け散った。

 

姿を現したのは、まるでグリフォンのような雄々しき姿。拘束具であった仮面から解き放たれたシルヴァディが大きく吠える。その隣では背中に巨大なみずしゅりけんを背負い、腕を組みながら敵を見据えるゲッコウガ。さらなる進化を遂げた二体が、並び立った。

 

「な、なんですか、それは!?なんなんですか、それは!?」

 

予想だにしていなかった事態に、ザオボーが焦ったような声を上げる。

 

「シルヴァディ、リーリエを助けるぞ!」

「ゲッコウガ、援護するぞ!みずしゅりけん!」

 

飛び出したシルヴァディを止めようとするスリーパー目掛けて、ゲッコウガのみずしゅりけんが炸裂する。強い想いで繋がっている二人、その心に強さは比例する。たったの一撃で、スリーパーが戦闘不能に追い込まれてしまった。

 

一方シルヴァディはリーリエとフーディンの元へ飛びかかる。かつての記憶、それを思い出し、思わず目を瞑ってしまうリーリエ。しかし、

 

「シヴァ!」

「フーディ!?」

 

シルヴァディが飛びかかったのは、自分の真後ろにいたフーディン。その様子は、既視感のあるものだった。

 

「あっ……」

 

思わず口から小さく声が漏れる。

 

あの時も、そうだった。

 

自分を捕らえていたウルトラビースト。

 

その時、誰も助けようとしてくれなかった。

 

ただ一体を除いて……

 

 

フーディンのサイコパワーが途切れ、リーリエが地面に向かって落ちて行く。素早く駆け寄ったルカリオが、難なくキャッチする。

 

「ルカリオ!リーリエは?」

『心配ない。気を失っているだけだ』

 

「ぐっ、このまま終わるわけには、」

「いや、終わらせる」

 

逃げようとするザオボーの前に立つグラジオとシルヴァディ。主人の危機にフーディンがやってくる。

 

「戒めより解き放たれた聖獣の力、味合わせてやる!シルヴァディ、ダークメモリを受け入れ、悪の魔獣となりて、その力を示せ!」

 

グラジオの取り出したディスクがシルヴァディに取り込まれる。すると、シルヴァディの姿が変化する。あくタイプを象徴するかのように、体が部分的に黒く染まる。

 

「それは、タイプ:フルプロジェクトの!」

「闇の力に溺れて消えろ!マルチアタック!」

 

シルヴァディの専用技、マルチアタック。取り込まれたメモリのタイプにより、その技自体のタイプも変化する。あくタイプはエスパータイプに対し優位。その一撃を持って、フーディンはあっさりと沈められた。

 

「観念しろ、ザオボー!」

 

逃げ道を塞ぐように、ゲッコウガとシルヴァディ、ルカリオがザオボーを包囲する。追い詰めた、そうサトシたちは思った。が、

 

「今捕まるわけにはいかないのです!ネンドール、テレポート!」

 

別のボールから出したネンドールの力で、ザオボーは脱出してしまったのだつた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん……んん」

「あっ、気がついた?」

「リーリエ!」

「……サトシ……お兄様」

 

目が覚めると、二人が心配そうに覗き込んで来ている。自分が今いるのは、さっきまでと同じ、研究施設。ザオボーの姿は、どこにもない。

 

「大丈夫?」

「はい……ありがとうございます」

「……今日はもう帰ったほうがいい。疲れてるだろ?」

「いえ、それよりも。わたくしにはしないといけないことが」

 

少しふらつきながらも立ち上がるリーリエ。ゆっくりと歩み寄る先には、シルヴァディが。その前で止まると、シルヴァディがじっとリーリエを見下ろす。

 

「ごめんなさい、シルヴァディ。わたくしは、あなたのことを誤解してしまった。あの時も、今回も、あなたはわたくしを助けてくれました……」

 

サトシとグラジオが見守る中、リーリエがもう一歩シルヴァディに近づく。そっと手を伸ばし、シルヴァディの首元に触れる。そのまま顔を寄せて、シルヴァディに擦り寄るリーリエ。そこには恐怖も拒絶もなかった。

 

「ありがとう」

 

「リーリエ、お前……」

「やったな、リーリエ!」

 

驚くグラジオ、喜ぶサトシ。二人の方へ振り返ったリーリエは、満面の笑みを浮かべている。

 

「はい!おいで、シロン!」

 

主人の呼ぶ声に、喜んで飛びつくシロン。けれども、スクールでの時のように、リーリエが固まることはなかった。両手でしっかりとシロンを抱きとめたリーリエが、喜びのあまりに涙を流す。

 

「触れます!わたくし、触れています!ピカチュウ、ロコン!おいで!」

 

シロンだけではなく、サトシのピカチュウやロコンに触れても固まらない。ルカリオにゲッコウガ、ほしぐも。みんなみんな、触ることができる。

 

「わたくし、ポケモンに触れます!」

 

 

シロンたちをまとめて抱きしめるリーリエ。その笑顔は今までのどんな笑顔よりも、幸せそうなものだった。

 

顔を見合わせるサトシとグラジオ。ニッと笑ったサトシが拳を突き出す。一瞬驚いたグラジオだったが、小さな笑みを浮かべ、拳を合わせたのだった。

 

 

こうして、リーリエの記憶は取り戻され、そしてポケモンに対する恐怖心は消えた。

 

けれども、逃げたザオボーはどこへ行ったのか。

 

そして、エーテル財団に隠された秘密とは。

 

…………… To be continued




なんかバトル描写雑ですみません

いや、実際のアニメの方もかなりあっさりとしてた感あったので……
それに今回はどちらかといえば内面とかそういうところに焦点を当ててみようと思ったので

ザオボーとの決着の時には、全力出しますので


それでは次回予告レッツゴー


良かったな、リーリエ。またポケモンに触れるようになって。

でも、ザオボーはどこに行ったんだろう。

それに、グラジオの言ってた、エーテル財団の秘密もきになるし……

あれ?ほしぐもがいない!?

って、まさかあれって……

次回
ビースト襲来。エーテルの謎
みんなもポケモン、ゲットだぜ!
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