いやぁ、やっぱり新年度が始まると忙しくてかなわんなぁ笑
まるで流星群の中を進んでいるかのようだ、なんて思えるほど、ウルトラホールを進むサトシたちが見る景色は美しく、そして激しい。
どこまでも続きそうな流星の道は、所々に自分たちが入ったのと同じような、ウルトラホールが見える。その一つ一つがどこかにつながっているのだろうか?
と、ソルガレオがウルトラホールの一つめがけてかけて行く。ウルトラホールに飛び込むと、風景の流れがさらに加速する。眩い光にサトシたちが思わず目を閉じる……
……目を開くと、そこはアローラとは似ても似つかぬ世界だった。
空は薄暗く、見渡す限り変化がない。大地と呼べるものもなく、あるのは浮遊している岩場のみ。他の人間やポケモンの姿はなく、ウルトラビースト、パラサイトが何体も飛んでいるだけ。水も緑も太陽も……今まで当たり前に見ていたものが、この世界には一切見当たらない。
どこか不気味なその様子に、マオたちは思わず身を寄せ合う。
「ここが、ウルトラビーストの世界?」
「暗くて、なんか不思議な感じ」
「うう……僕こういうとこ苦手なんだよぉ」
「それはわかったから、俺にしがみつくなって。動きにくいぞ、マーマネ」
あたりを探るように視線を動かすグラジオ。同じようにキョロキョロしているリーリエ。一方サトシはというと、
(なんだか……ちょっとあいつの世界に似ている……気もするかな)
かつて訪れたことのあった、世界の裏側に存在するもう一つの世界、そしてそこに住む彼の大きな友人のことを、一瞬思い出していた。が、
「っ、グラジオ!あそこだ!」
突然声を張り上げるサトシに周りが驚き、そして彼の指差す方向を見てさらに驚く。
サトシの視線の先には、他のウルトラビーストとは異なる姿をした影。透明だった体は黒く染まり、体格も一回り大きくなっている。
しかし何より異質なのはその中心に、見慣れた人物が取り込まれていることだった。
「母さん!」「お母様!」
閉じられていた瞳がゆっくり開き、ルザミーネは静かにグラジオたちを見下ろす。
『免れざる客ね……私とビーストちゃんの美しい世界に入ってきた汚点……』
「お母様!目を覚ましてください!ここは、お母様のいるべき場所ではありません!」
『黙りなさい。この世界への侵入者は、私が排除する……何者かは知らないけど、ビーストちゃんの世界は私が守る』
「お母、様?何を言って……」
ルザミーネの瞳に映るのは敵意や外敵に対する警戒のみ。あの時サトシたちに向けられた怒りや狂気は、微塵も感じられない。だが、それもまた異常だ。加えて先ほどの話……
「どうなってるんだ?」
「恐らく、あのビーストに取り込まれた影響だ。パラサイトは寄生虫のことだ。あのビーストは、他の生き物に寄生できるんだろう」
「寄生って……でも、それならお母様は」
「正直どうなるかわからない。まだまだ未知の存在だからな。だが、今の母さんが俺たちのことを覚えていないこと、そしてビーストたちを守るために行動すること、これだけは確かだ」
『この世界から、出て行きなさい!』
ルザミーネの怒りに反応するかのように周囲の様子が変わり始める。鉱石のように見える柱が、次から次へと地面から生える。その様子がまるで少女の願いが暴走した、緑豊かなあの景色のようで、思わずサトシは駆け出した。
あの子と同じように、ルザミーネの願いが暴走しているというならば、
「必ず止めて、助けて見せる!ピカチュウ、10万ボルト!」
「ピィ〜カ、チュウ〜!」
ピカチュウの放った強烈な電撃はしかし、柱を破壊するには至らなかった。カキのバクガメスやグラジオのルガルガンの攻撃さえも寄せ付けないその硬度は、計り知れない。
「っく、どうすれば……ソルガレオ?」
「ガルルルォォア!」
サトシたちの前に立ったソルガレオが雄叫びをあげる。大気が震え、地面が揺れる。後ろにいてこの迫力。真正面にあった鉱石の柱は、その雄叫びによって砕かれる。
「よっしゃ!先に進もう!」
「ああ!」
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急いで駆け出すサトシたち。ルザミーネは浮かぶようにしながら、奥の方へと進んでいく。慌てて追いかけるサトシたち。その姿を見たルザミーネは、
『出て行ってって、行ってるでしょ!』
触手のような腕が横薙ぎに払われ、モンスターボールが投げられる。中から現れたのは、ヤトウモリによく似ているが、ずっと大きいポケモン。その身体は、ぬしポケモンと同じように、強いオーラが包んでいる。
『エンニュートロト!でも、この反応……普通じゃないロト!』
「トレーナーである母さんが受けたウルトラビーストからの影響が、ポケモンにまで伝わっているのか……?」
エンニュートが飛び上がり、大きく口を開く。勢いよく放たれた炎がサトシたちに襲いかかる。
「バクガメス、かえんほうしゃ!」
「バスーン!」
咄嗟に指示を出すカキ。バクガメスの全霊を込めたかえんほうしゃが迎え撃つ。同等の威力を誇る二つの技がぶつかり合い、爆発が起こる。
「こいつは俺が引き受ける!みんなは早く、リーリエのお母さんを!」
先を促すカキ。サトシと視線があった時、カキが頷くのが見えた。
「……わかった。頼むぜ、カキ!行こう、みんな!」
更に奥へと進んだルザミーネを追うようにサトシたちが走る。行かせまいと、エンニュートが毒液を撒き散らそうとするが、バクガメスの炎が全て焼き払う。
「お前の相手は……この俺だ!」
鼻から炎を吐き、気合いを入れるバクガメス。エンニュートも先にカキを倒すべきと判断したのか、その鋭い視線をバクガメスに固定する。
炎と炎。
熱いバトルの火花が、切って落とされた。
ソルガレオにまたがり、ルザミーネの後を追うサトシたち。エンニュートでの足止めが失敗したと見るや、ルザミーネが再び向きを反転させる。
『しつこいわね……これでどう!?』
続けざまに投げられる3つのボール。中から現れるポケモンたちは、やはりエンニュートと同様、オーラを纏っている。
『ドレディア、ムウマージ、それにミロカロス。何れも強力なポケモンロト!』
「どうあっても、母さんは俺たちを邪魔する気なのか……」
ミロカロスのハイドロポンプと、ドレディアのはっぱカッター、そしてムウマージの10万ボルトがサトシたちに襲いかかる。
「アママイコ、マジカルリーフ!」
「アシマリ、アクアジェット!」
「トゲデマル、ゴー!」
ハイドロポンプの中を突き進み、強烈な一撃をミロカロスに当てるアシマリ。はっぱカッターを相殺するアママイコ。特性、ひらいしんで電撃を吸収するトゲデマル。ソルガレオから降り、それぞれのトレーナーがルザミーネのポケモンを見据える。
「マオ!スイレン!マーマネ!」
「ここは僕たちが!」
「大丈夫。絶対勝つ!」
「サトシ!リーリエをお願い!」
『僕もみんなをサポートするロト!』
「わかった……頼んだぞ、みんな!」
カキの時と同様、仲間を置いて先に行くサトシ。心配していないかと言われれば嘘になる。ただそれよりも、
(みんな、頼んだぜ……俺も、絶対助け出す!)
信じていたから、みんなを。
わかっていたから、為すべきことを。
ソルガレオは岩場から岩場へと飛び移りながら進む。後ろを振り返ることなく。
同じようにサトシも前だけを見つめる。
自分にできることを、為すために。
前に進むサトシと逆方向に、彼のボールからポケモンが飛び出したのを、振り返っていたリーリエだけが見ていた。
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「ミィィロォォ!」
「アママイコ、おうふくビンタ!」
「アーマッ!」
ミロカロスのアクアテールを、アママイコが受け止める。
「デンヂムシ、ほうでん!」
「ヂヂ!」
「ドレッディ!」
「ムゥマッ!」
「アシマリ、バブルこうせん!」
「アーウッ!」
ミロカロスを狙った電撃は、ドレディアの放つ葉の嵐に遮られる。反撃するムウマージのシャドーボールに対し、アシマリがバブルこうせんを使い、迎え撃つ。
「ドレ〜ディ〜」
「あ、これって……」
『フラフラダンスロト!みんなみちゃだめロト!』
見た者を混乱させることができるフラフラダンス。ロトムが警告を発するが、真正面からその技を見てしまったみんなのポケモンは混乱してしまい、釣られて踊り出す。
「アママイコ!」
「アシマリ、しっかりして」
「わぁっ!来るよ!」
混乱して行動できないポケモン達目掛けて、ミロカロスとムウマージの攻撃が迫る。
「コォン!」
「クロッ!」
「ニャッブ!」
炎の渦がムウマージを、葉っぱの渦がミロカロスをそれぞれ足止めする。驚きに動きが一瞬止まったドレディアにほのおのキバが炸裂し、吹き飛ばす。
「ニャビー!」
「ありがとう、モクロー」
「ロコンも!力を貸してくれるの?」
頷く三体。敵のポケモンは一体一体が異常に強い。それでも今ここで自分たちが倒してみせる。強い意志を瞳に宿す三体の登場に、他のポケモン達も混乱が解ける。
「よぉーし!あたし達も頑張るよ」
「僕だって、やってみせる!」
「うん!行こう!」
「ガメッ!?」
「大丈夫か、バクガメス?」
「ガ、ガメース!」
「……強いな」
ヤトウモリよりも一回りも大きい体をかがめているエンニュート。パワーはヤトウモリ時代とは比べ物にならない。
それに加えて異常なまでのスピード。あの纏っているオーラで能力が底上げされているようで、こちらの攻撃がなかなか当たらない。
「だが、俺はもっと強くなる!そのためにも、ここで負けるわけにはいかない!」
「ガッメース!」
闘志を燃やすカキとバクガメス。エンニュートが目を細め、素早い動きで接近してくる。
「今だ!からをやぶる!」
バクガメスの防御が著しく下がる。が、同時にその攻撃力と素早さが飛躍的に上昇する。飛びかかってくるエンニュートの攻撃を難なくかわすバクガメス。
「素早い相手との戦いは、何度も経験してるからな!」
確かにエンニュートは速い。だが、自分のガラガラだって負けていない。それに、さらに速いやつを、自分たちは知っている。
「あいつと全力のバトルをするため、高みを目指す!バクガメス、ドラゴンテール!」
エンニュートの背後に回り込んだバクガメスが、尾にエネルギーを纏わせ、勢いよく叩きつける。弾き飛ばされるエンニュートはしかし、倒れる気配はない。
「まだまだ、上げて行くぞ、バクガメス!」
「バスーン!」
サトシに頼るだけではなく、自分たちだって共に戦える。
強い意志を胸に込め、カキは、マオは、スイレンは、マーマネは、
かつてない試練に挑み掛かる。
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サトシ、グラジオ、リーリエが追ってくるのを見たルザミーネ。ますます怒りの感情が強く現れ、振り向いたその視線からは、殺気に近いものまで感じ取れる気がした。
『いい加減に……出て行きなさい!』
また投げられるボール。現れるのは白い体毛に刃のように見える角。四肢に力を込め、雄叫びをあげる。
「スォォル!」
「あれは、アブソル?」
「サトシ……リーリエと共に先に行け」
「グラジオ?」
「あのアブソルは、昔の俺のトレーニング相手だった。俺が倒す。だから、母さんを……頼むぞ」
ソルガレオからひらりと飛び降りながら、ボールを投げるグラジオ。敵を見据え、シルヴァディが吠える。
「頼むぞ!」
「ああ……約束だ!」
ソルガレオが岩場を飛び移りながら登って行く。足止めしようとアブソルが駆け出す。
「ソォル!」
「シルヴァディ、ブレイククロー!」
「シッヴァ!」
メガホーンとブレイククローが激突する。互いに弾かれ、後退するアブソルとシルヴァディ。
「ずっとお前には世話になってたな……アブソル。感謝している。だからこそ、お前を倒して、元に戻してやるのも、俺の役目……聖獣と一つとなった俺の力、お前に見せてやる!」
サイコカッターとエアスラッシュが激突し、爆発を起こす。同時に飛び上がる二体が空中でまたぶつかり合う。
「俺たちは、負けない!シルヴァディ!ファイトメモリを受け取り、雄々しき勇士の力を宿せ!」
メモリを取り込み、タイプを変えるシルヴァディ。タイプ相性としては有利になった。が、それでも油断できない相手であることには変わりない。
気を引き締めるグラジオとシルヴァディ。
再び、両ポケモンが激突する。
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いよいよ追い詰められてきたのか、ルザミーネが逃げるのを止める。
『どうして出て行ってくれないの?』
「わたくしは、お母様を助けにきました。だから、出て行くわけにはいかないのです!」
『知らない……知らない知らない!出て行ってよ!』
最初の頃と様子が違うルザミーネ。首を必死に横に振りながら叫ぶ姿は、まるで駄々をこねる子供のようで……
「それでも……助けます!」
『あっちへ行って!』
6つ目のボールが投げられる。現れるのはオーラを纏い、目つきまでもが普段より鋭くなったピクシー。
「あの子って、もしかして……」
「サトシ……わたくしが、あの子と戦います」
「リーリエ?」
「あの子とは、1番の仲良しだったのです……ですから、わたくしがやります……やらせてください」
覚悟を決めた表情のリーリエ。そんな顔を見せられては、何も言えなくなってしまう。それにこうしている間にも、ルザミーネの体に何か影響が出ているのかもしれない。
「わかった」
サトシが答え、一つボールをリーリエに渡す。ボールを見て話しかけるサトシ。
「ルガルガン……リーリエを頼むぜ。リーリエ、ここは任せた」
「はい!サトシ……お母様を、お願いします」
「わかってる。約束するから」
「……はい!」
きっと一番ルザミーネを助けたいと思っているであろう2人、グラジオとリーリエ。その2人から託された、大切な役目。必ずやり遂げてみせる。その意気込みを伝えたくて、示したくて、サトシは約束した。
今度こそ、絶対に守ってみせる。
拳を握るサトシ。
ソルガレオが大地を蹴り、ルザミーネの元へと向かう。
残されたリーリエとピクシー。
「ピクシー……わたくしが、あなたを助けます!」
「ピ!ピークーシー!」
「ルガルガン!アクセルロックです!」
ボールから飛び出してすぐ技を発動させるルガルガン。勢いよく突っ込んでくるピクシーを迎え撃つ。
「シロン、こなゆき!」
「コォォン!」
後ずさるピクシーの足元が凍りつく。動きが止まるピクシー。すかさず遠距離技のムーンフォースが放たれる。
「いわおとしです!」
「ルゥガ!」
弾ける二つの技。その衝撃でピクシーの足元の氷が砕ける。こちらを睨みつけてくるピクシーを見て、リーリエは、
「……思い出して、ピクシー」
静かに、でも優しい笑みを浮かべた。
カバンの中からとあるものを取り出す。何年も使い込まれ、少しくたびれて、色あせてしまっているそれは、しかし彼女と、そしてピクシーにとって、何よりも大切な宝物。
「わたくしと、あなたと、この子……3人で遊んでいたでしょ?」
そっとピクシーに見えるように掲げたそれは、いつもリーリエが寝るとき抱いている、ピッピにんぎょうだった。
「いつも、家族のように……」
幼いリーリエとピィが交代で新品のピッピにんぎょうを抱っこする記憶。ピィの方がまだ人形より小さく、持ち上げるのに苦戦している。
少し大きくなったリーリエと、人形より大きくなったことで、お姉さん気分になったピッピ。人形とお揃いのリボンをしている。
ピクシーになっても、ピッピにんぎょうを愛おしそうに抱っこする様子を、微笑みながら眺めるリーリエ。
沢山の思い出、沢山の笑顔、そして沢山の愛情。
「思い出して、ピクシー」
ゆっくりと近づいていくリーリエ。ピクシーからの攻撃を、ルガルガンとシロンが相殺し、リーリエをフォローする。
最後の数メートルをリーリエが走る。攻撃するために身をかがめるピクシー。予備段階に入り、体をオーラが強く覆う。
目の前に迫る脅威に対し、リーリエは、
そっとその体を抱きしめる。
「ピク!?」
「ピクシー……覚えてるでしょ?わたくしの声も、手も……あんなに楽しかった日々は、貴方の中にちゃんとあるはずよ。大丈夫。わたくしがそばにいるから。もう……放さないから……貴方も……お母様も……」
ピクシーを包む光とオーラが力強さを増していく。しかし先ほどまでの刺すような威圧ではなく、もっと暖かくて、優しい光。
ギュッと閉じられていた瞳をピクシーが開くと、
その目は元の優しい目つきに戻っていた。
恐ろしい力を持ったルザミーネさんのポケモン達
あまりにも多いウルトラビーストの数
こうしている間にも、ルザミーネさんの様子がどんどん……って、リーリエ!?いきなり何を!?
ルザミーネさんを取り戻させまいとしているのか?なら、突破するしかない!行くぜ、ピカチュウ、ゲッコウガ、ルカリオ!
俺たちの気持ちが高まったとき、新たな力が目覚める?
次回、XYサトシinアローラ物語
『キズナの果てに!唸れ、ピカチュウのZ技』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!