今年で54となるまだまだ現役バリバリの海軍大将が送るアナザーストーリー。
お試し投稿。おじさんのカッコイイシーンを書きたかった。
暗闇の中、一人だけの足音が響く。
重く、威圧のあるその姿は、すれ違うだけでも失神する程に強靭的だった。
銀世界かのような灰色の髪。浅く生えた髭。プカリと煙管から吸った煙を吐き、「大将」と書かれている純白のマントを翻す。
腕まくりをしたその腕から覗くのは、痛々しい火傷の跡。決して消えることのない、後悔の怨念の塊。
その男は酷く軽い男だった。命令も軽く流し、何となく生きていく楽観的な男。
その男はとても部下思いだった。部下同士の争いとなれば、自ら進んで仲裁し、何が原因なのか徹底的に調べあげ、そして誤解を解くために自分の命を投げ捨てる男だった。
その男は幼い頃から騒がなかった。何があっても、赤ん坊の頃から静かに、清らかに、誠実に、物事を瞬時に理解し、何があっても落ち着いて行動していた。
異例の中の異例、海軍の中でも絶対的な力を誇る、海軍大将の上に存在する男。
だが、その男にも秘密がある。
たとえ楽観的でも、たとえ部下思いだとしても、たとえ強靭無敵な力を誇っていても、彼には絶対に隠さなければいけない事実があった。
それは誰の耳から聞いても首を傾げることであり、同時に信憑性のない、彼にも及ばない異常なこと。
彼の名は、【アルファ・バスティーユ】。
今年で54になる、自称現役の海軍の一人であり。
ーーー転生者であった。
彼、アルファ・バスティーユは転生者である。前世はまだ戦争があった頃で、流れ弾で命を落とした男だ。
彼が目を覚ますと、そこは戦争のような灰色の空で、空爆が落ちる日本ではなく、明るい日の日差しに、真っ白な天井だった。
女性は彼を見て大層嬉しく笑い、男性は隣にいた婆へ、喜びを伝える。
もちろん彼は混乱した。自分は死んだはずなのに、何故こんなにも暖かな空間で目が覚めているのだろう。
もしかして奇跡的に生き残ったのかと考えた。だが声を出そうとした時、自分の声とはまるで別人のような声を出して、さらに混乱する。
何だ、この声は。まるで赤ん坊のような……。そして、体の自由もきかず、体をよじろうとしたが、そこで彼は気づく。
女性が、自分を抱いていることに。
(………………まてまてまてまて危ない危ない)
今度は慌てることなく、冷静になった。そうだ、これは危ない。二十になったばかりの男が、こんな綺麗な人の隣で寝ているなんてあってはならない、と離れようとするも、やはり体の自由が聞かない。
じゃあせめて女性に退いてもらおうにも、やはり赤ん坊のような声しか出ず、逆に女性に抱きつかれた。
ここで彼はようやく「おかしい」と思い始める。何故この女性は何の迷いもなく自分を抱きしめているのだろう。自分の親は戦争の余波によって他界したし、恋人はそもそもいない。生き別れの妹だとしても、全然似ていない。ならこの女性は誰だ?そしてあの二人は何故自分達を愛おしそうに見ている。
不思議そうに彼は女性を見上げる。女性は彼の視線に気づき、ニッコリと笑ってこう言った。
「あなたの名前は、アルファ。気高い戦士の名よ。あなたも、気高く優美に生きなさい」
(……………………ん?)
ここで、ついに彼の思考は止まってしまった。
何年か時が経ち、彼は自分が生き返ったのだと知った。だがその時間があまりにも残酷に、そして遅かった。
両親は既に殺され、故郷は潰され、彼は海軍に拾われた。
前世でも、今世でも変わらない人生。
もうこんな人生は懲り懲りだ。
だから彼は精進した。誰にも負けない力を、誰にも刃向かえる力を、悪しきものを滅せれる程の力を。
そうして手に入れた、この力と地位。
彼は海軍大将となった。これで、ほぼ彼に刃向かえるものはいなくなった。
そして彼は、「悪魔の実」という力を手に入れた。これで、彼の上に立つものはいなくなった。
もう、あんな悲劇は繰り返したくない。あんな悲劇を繰り返さないのなら、彼は何だってする。悪魔にだって魂を売ってでも。
そして、彼は悪しきものを滅ぼす。
今日も、その帰還中であった。
悪しきものを滅した後、彼はセンゴク元帥という男に報告をしなければならない。
彼にとってセンゴクは超えるべき相手だ。いつかその席を自分が取って、そしてより良い未来へ導くための玉席として、センゴクのいる地位は必要であった。
センゴクのいる部屋にへと着いたアルファは、軽く二回ノックをする。
返事もせず入った彼は、資料を持った手を揺らしながら、何枚もの資料に向かっているセンゴクへと声をかけた。
「お疲れさん、センゴク。相変わらず大変だねぇ」
「ぬ、アルファか。任務は終わったのか?」
「だから来てるんじゃないか。おら、これが今回の調査結果と、あと監獄にぶち込んどいた海賊の情報。それと近辺の状態の資料に、今回の派遣人数、負傷者リスト。全部目に通しておいてくれ」
「ああ、ご苦労であった」
センゴクは渡された資料を軽く目を通し、直ぐ横に置いておく。
アルファは肩を落としながら、煙管を吸った。
長い文字列が流れている資料に若干目を通しながら、アルファは長く伸びた髪を払う。
「その資料は?」
「新しく賞金首になったもののデータだ」
「へぇ、襲ってこようか?」
「そうしたいのは山々なんだがなぁ……お前にはまだやってもらいたいことがある」
「んー?」
プカプカと煙を浮かせ、軽く応える。
センゴクは賞金首リストを取り出し、ある一枚をアルファへと見せた。
「海賊【疾風のファネル】8700万ベリー。お前にはこいつを捕まえてもらいたい」
「りょーかい。場所は?」
「今は西の海にいる」
「連れて行っていい人数は?」
「お前が決めていい」
「じゃあ十数人でいいかな。行ってくるわ」
「もう夜だ。明日に行きなさい」
「うぃー」
まるで酔っ払ったかのように気楽な返事をするアルファは、その【疾風のファネル】の紙をちぎって去っていく。
軽い音をたてて閉まっていく扉を見届けたセンゴクは、重い溜め息を吐いた。
もう彼とは、何十年もの付き合いだ。
だからこそ、色々と考えてしまう。
「…………まだ、その心か、アルファよ」
センゴクはその疑心暗鬼を、資料にへと打ち込むことで無理矢理振り払った。
■
疾風のファネルは、神々しく輝く宝の山を見てうっとりと顔を綻ばした。
やっと見つけた、宝の山。この宝の山の為に新世界に来たと言っても過言ではない。
人を殺してでも手に入れたかった、ただ一箇所の財宝。彼はこれを求め、数々の人間を殺し、数々の人々を敵に回してきた。
「おいお前達!早くこの宝を運べ!」
それは船員達も同じで、皆興奮した状態で宝を運び始める。
徐々に運び出される純金達を見つめ、ファネルもその後を追う。
全ての宝が船に積まれた頃には、既に船員全員が乗っていた。
「よし、出航しろ!」
「はい!」
横取りされないためにも、早くこの島を出なければならない。やっと見つけた、初めての宝なのだから。
ファネル一味は早々に出航に、宝の山があった島を後にする。
この調子で、次の宝も見つけていこう、と意気込んだその時だった。
「うわああああああああああああああああああああああッッ!?」
「ッ!?」
船員の悲鳴と大きな揺れに、ファネルは思わず膝をつく。
それと同時に、火薬の匂いが船に充満した。大砲を使った訳でもないのに、焦げ臭い匂いが彼らを襲う。
敵襲だ、と一人が叫んだ。
それは誰だ?とファネルは言う。
誰もその姿を確認出来ていないため、さらに混乱は大きくなった。
やがて一人の船員が、双眼鏡から覗いて初めて敵を確認した。
「敵はーーーー碇のマーク、『海軍』です!」
真っ白な帆に描かれた、青い碇のマーク。それは海軍の意味を指す。
海軍なら大丈夫だ。ここは大将達が来るところではない。自分で言うのもなんだが、こんな底辺の海賊に大将自ら出向くなんてことはないだろう。
中将くらいなら何とか切り抜ける、とファネルは余裕の笑みを見せる。
「…………あっ、あ……!?」
だが、依然双眼鏡から覗いていた船員は、突如吃った声を出し始めた。
その状態に只事ではないと判断したファネルは、怒号に近い命令を出す。
「どうした!何かあるなら言え!何も無いなら直ぐに武器を構えろ!戦況を整えるんだ!」
「……ひぇ、あ……ああ……!?」
「お前はどうした!何かあったのか!?」
ファネルはその船員の肩をつかみ、無理矢理振り向かせた。
だが船員の顔は真っ青で、なかなか焦点が合わない。
もう一度言おうとした時、別の双眼鏡で覗いていた船員が、悲鳴にも近い大声を上げ、『その名』を口にする。
「ーーーーー『白虎』が乗ってるぞォ!?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
ファネルの時が止まった。
呼吸をするのも忘れ、もはや焦点を合わせていない船員にも気にかけれなくなった。
その名を聞いたものは、戦意喪失し、そして絶望を感じてしまう、恐ろしい名。
海軍の最終兵器。絶対無敵の海軍大将。その煌々とした銀色の瞳からは、銀翼の猛獣と呼ばれ、海賊の間では恐れられる存在。
その名は『白虎』。
赤犬、青雉、黄猿よりも恐ろしく、無情で残虐な、海軍大将の名であった。
「……ダメ、だ」
この戦いを受けてはいけない、とファネルの脳が言っている。
「…………逃げろ、逃げるんだ!戦うな!」
肩を掴んでいた船員を床へ横にし、彼はそれが白虎なのかと確認を取る前に、撤退命令を出した。
白虎は化け物だ。そして、相手がどうしようとなくなるまで、徹底的に痛めつける、決して殺しはしない男。
それが海賊にとっても、とても辛いことなのだとわかっている行動かわからない。だがこれだけはわかる。彼に捕まったら一環の終わりだと。
ファネルの意志が船員に伝染したかのように、船員は直ぐにその場を離れる態勢に出た。
距離を開けば、いくらあの白虎でもこれまい。と微かな余裕を感じて、ファネルはホッと肩を落とす。
「逃げられると困るんだけどねぇ」
その、直後。
ドクリ、とファネルの脈が早くなり、徐々に熱を帯びる。
心臓の音が喧しい。汗がブワッとでる。それは明確な拒絶反応の証だった。
振り向くな。振り向いたら自分は終わりだ。
ここで終わりたくない。ここで、自分の冒険を終わらせたくない。
だからどんなに船員の悲鳴が轟いても、彼は振り向かず、この場を切り抜ける方法を蜘蛛の巣のように考え始める。
「こっちを向かないと、おじさん凹んじゃうんだよねぇ」
トンッ、と軽めに肩に手を置かれる。
その妖艶な吐息が、ファネルの耳に吹きかかる。しかしそれは、ファネルにとっては血腥い地獄の吐息にしか感じなかった。
だめだ、振り向いてはいけない。
この臭いを、吸ってはいけない。この血の臭いを。
だが体は正直だ。体は機械のように、後ろを向こうとしている。
涙腺からとめどなく出る涙を止める術など、彼には残されていない。
だがそれでも、彼には確実にわかったことがあった。
「ん?やっと振り向いてくれたねぇ。おじさん結構傷ついちゃったよ」
この男には、勝てないと。
振り向いた瞬間、彼の目に飛び込んでくるのは地獄絵図だった。船員からは異常な程の血が出ていようが、何故か息があって呻き声を発している。中には殺してくれ、と連呼をしている奴がいる程に。
これが、白虎のやり方。
相手が何も出来なくなるまで、徹底的に痛めつけて、死ぬ寸前で相手をしなくなる、残虐性のある無情な行為。
「余所見は困るねぇ」
「ーーーーー!?」
呆然としていたら、ファネルは白虎に何かをされた。
いつの間にか床に身を伏せていた。鼻からは止まることない鼻血がドバドバと流れ、肩はゴキリと外れる。
肩が外れた?たった顔面に攻撃を受けて?
そんな馬鹿な、何でこれだけで、こんなにもダメージを負うんだ。
「なかなか耐えるねぇ。だけどこれで終わりかな」
反撃をしなければ、死んでしまう。
早く、自分の能力を。
ーーーあれ?と突然ファネルは考え出した。
おかしい、何で
だって自分の悪魔の実のちからはーーー。
「【疾風のファネル】確保」
ロギアの、はずだ。
ファネルが最後に見たものは、何も感じない銀の瞳だった。
□
「【疾風のファネル】。まぁなかなかだったんじゃない?」
「そ、そうでしょうか……我々の目には、大将の圧巻だったと思いましたが……」
たったの14人しか乗せられていない海軍船。その中央で、アルファは煙管を吹かせていた。
隣には、既に壊滅したファネル一味の船が並んでいる。皆息も絶え絶えなので、ここから海に飛び込んで逃げるのは難しい。
アルファは部下の応えに、軽く笑って返す。
「実はよぉ、俺の攻撃が二発目で沈むやつはそんなにいねぇんだ。だからファネルは相当な実力者だったぜぇ」
「そ、そうなんですか……」
「そうそう。俺でもクザンとか四皇とかは骨が折れるよ。まだ無敵ってわけじゃないからね」
そう軽く言いながらも、彼の決意は本物だ。
いつか、この世界の頂点に立つ。
そして、前世と同じ未来を繰り返してはならない。
ーーーあんな悲劇には、もう出会いたくない。
それは、過去にも苦しみを持った男の懺悔。
そしてここから、アナザーストーリーが動き出す。
「まっ、歳には逆らえないけどな」
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。俺はまだ現役だから」
ーーーそれよりも、戻ろうぜ。俺達の居場所に。
実は密かに妖怪漫画のあの遊び人をイメージして書いている。
続きは一応書いておこうと思っておりまする。