女神さま、きぐるみ着るとスゴいんですっ♪   作:きぐるみん

14 / 17
14縫. 地下応接間での攻防

────────────────

 

カムフラージュした建物の中……

巨大な魔方陣を打ち破る為にアカリがとった手とは……?

そして、地下応接間の攻防が始まる……

 

────────────────

 

 

 

 偵察トカゲの先導のもと、建物の中に入ったアカリとキュイ。建物の中は家具も何も無い部屋ですが、床一面に巨大な魔方陣が描かれています。

 

 どうやら、魔方陣の中心には地下室へと続く階段がある様です。たぶん、この建物はこの巨大な魔方陣と地下室を隠す為のカムフラージュでしょう。

 

 「だけど、何でこんな小さな漁村にこんな大掛かりな建物が……?」

 

 そんな事を考えながらアカリとキュイは巨大な魔方陣を見つめます。どんな魔法がかけられているか分からない以上、迂闊(うかつ)に踏み込む事は危険です。

 

 試しに、アカリは偵察トカゲを使って魔方陣を跨がせてみました。すると、偵察トカゲが魔方陣を跨いだ途端……何と一瞬でシュンッと姿を消してしまったのです!

 

 「転移魔法の類(たぐ)い……ですかねぇ?」

 

 「どこかに飛ばされるんならまだしも、異次元の狭間行きなんてヤですからね……」

 

 アカリはぷうっと頬を膨らませます。

 

 「アカリ様、イイ事を教えてあげましょう!実はどんな系統の魔方陣かが分かる方法があるんですよ。」

 

 「どんな方法ですか、キュイさん?」

 

 「もしも転移魔法『エスケープ』なら、無属性魔法の魔方陣です。もしもアカリ様の言う異次元の狭間に飛ばされる魔法、『ディメンション=ホール』なら闇属性魔法の魔方陣です。無属性魔法か闇属性魔法かどちらの魔方陣かを見分ける方法は……」

 

 キュイは枯れ葉を1枚歯でくわえてアカリに渡します。

 

 「この枯れ葉を魔方陣へ向けて宙を泳がせてみて下さい。もしも無属性魔法なら、そのまま消えて無くなります。もしも闇属性魔法なら、ボロボロの消し炭になります。」

 

 アカリはキュイに促されて枯れ葉を魔方陣へ向けてヒュッとスライドさせてみました。ヒラヒラと舞う落ち葉が魔方陣の上を通過した途端、何といきなりボロボロに炭化して消し炭となってしまったのです!

 

 「これでこの魔方陣は『ディメンション=ホール』だって事が判明しましたね。この魔方陣が闇属性魔法だって分かれば、対処方法もありますよ。」

 

 そして、キュイはアカリと共に魔方陣の傍にやって来ました。

 

 「闇属性魔法はそれに相反する光属性魔法で中和する事が出来るんです。本来なら光属性魔法をこの魔方陣に直接ぶつけるのがセオリーなのですが、アカリ様の場合はもっと簡単な方法があるんです。アカリ様、手を翳(かざ)してみて下さい。」

 

 そう言われて、アカリは魔方陣に向かってそ~っと手を翳してみました。魔方陣に近付くと何かにバチッと弾かれます。

 

 「アカリ様、その位置感を覚えて下さいね。その位置で壁ドン♡を発動してみて下さい!」

 

 アカリは手のひらのバチッバチッと弾く様な感触をガマンしながら気を集中させて、

 

 「……壁ドン♡」

 

 と気を放出しました!

 

 するとどうでしょう……気の放出口となった手のひらの位置を起点として、そこから拡がる様に巨大な魔方陣がスーッと消えて無くなって行くではありませんか!

 

 「アカリ様、今のでどういう事が立証出来たと……思います?」

 

 「まさか……ワタシの編み出した『胸キュン♡戦法』が、みんな“光属性攻撃”だったって事ですか?」

 

 「その通りなんです!たぶん、アカリ様に半分“女神”の血が入っているからなのかも知れませんね……」

 

 

 今の壁ドン♡で床の巨大な魔方陣が消滅したので、中央の階段へ行ける様になったアカリとキュイは階段を降りて地下室へと向かう事にしました。

 

 「ねぇキュイさん、地下室には何があると思います?」

 

 「まぁ、階段の前にあんな魔方陣を用意するくらいですからね……気を引き締めてかからないと、危険かも……です。」

 

 何か危険な気を感じながら、アカリは恐る恐る扉を開けました。すると、目の前に広がっているのは……事務所でしょうか?

 

 事務所には壁一面に木棚が設けられており、色んなオブジェが処畝(ところせ)ましと敷き詰められています。そして向こうにはこちらを背にしてソファーが向かい合う様に設置されています。

 

 ふとアカリが目線を斜め前に向けると、右向こうには磨(す)りガラスの仕切りがあります。磨りガラスの仕切りには誰か複数のシルエットが見えており、その向こうから何やら声が聞こえます。

 

 

……きゃん、ダメッ、背中なでると……

……はっ、にゃ……っ……

……そこ、耳っ……止めっ……

……くうぅぅんっ……

……“本能”には……逆らえないっ……

……にゃあぁぁんっ……

……んっ……尻尾も……弱いの……

……めえぇぇぇっ……

……いつまで……続けるのっ……

 

 

 「……はっ!キュイっ、女の子達の声が聞こえますっ!」

 

 そう叫んで、アカリは急いで磨りガラスの仕切りを回り込みました。磨りガラスの仕切りの向こうでアカリが見たものとは……

 

 仕切りの向こうにもソファーが置かれており、そこには2人のミント団の男達が腰掛けていました。彼らの足許にはイヌ、ネコ、ヒツジが……

 

 もとい拉致されたピント団のキュルミー少女達が、彼らにそれぞれのきぐるみをモフモフされて腰砕けにされていたのです!

 

 「うわっ……きぐるみを着たキュルミーの女の子達を、まるで“借りてきたネコ”みたいに……」

 

 

 何か……前にいた世界で似た様なシーンを映画紹介で見た事があります。確か……“任侠映画”だったでしょうか?もちろんキュルミーではなく、確かトラ……だった様な気がします。

 

 

 その衝撃の光景を見て、アカリの妄想がスパークして頭の中でぼんっ!と爆発してしまった様です。

 

 「あの……アカリ様?」

 

 キュイはやれやれ……という顔をして、フェアリーバードの嘴(くちばし)で

 

 「せーのっ!」

 

 と、プスプス煙が出ているアカリの脳天にサクッ!をお見舞いしました。

 

 「……いったーい!」

 

 どうやら、アカリは正気に戻ったみたいです。そして先ほどの光景を思い出し、

 

えっ……きぐるみをモフモフされちゃうと、力が抜けて腰砕けになっちゃうんですか?

 

と、アカリは驚愕の表情をしている様です。

 

 それと同時に、キュイもいつも傍から離れないアカリの“参謀役”として、

 

ワタシも母上のキョウコ様と旅を共にしていた時からずっと、キュルミーにこんな弱点があるなんて知りませんでしたよ……

 

とキュイも自分の知識不足に歯ぎしりしていました。

 

 

────────────────

 

 アカリもキュイも気付いていない様ですが……

 

 もともとキュルミーの闘い方は“きぐるみ”を媒体として、きぐるみとなったテイムモンスターの魂と憑依します。そして憑依したテイムモンスターの魂の力を借りて攻撃する、というスタイルなんです。

 

 彼女たち3人のミント団の女の子達は“量産ぐるみ”なので、主にテイムモンスターではなく野良の動物達が憑依します。

 

 憑依する以上、本来動物やモンスターが生まれつき持っている『モフモフされると力が抜ける』という“本能”まで引き継いでしまうのは、ある意味仕方無いのです。

 

 野性動物が異常なくらいテリトリーに入るよそ者を警戒しているのもその為です……

 

────────────────

 

 

 「アナタ達、この子達にこんな事をして、何サマのつもりなんですか!」

 

 「おっ、またピント団の女が来やがったよ。」

 

 「わ……ワタシはまだピント団に入るって決めた訳じゃありません!」

 

 「ちっ、ピント団じゃねぇ奴がコイツらを助けに来たって訳かぁ。だったら……教えてやる!」

 

 そう言って男はビッと指を指し、こう言い放ったのです!

 

 「俺達はな、コイツらを拉致誘拐してピント団のヤツらから食料物品をせしめようとしてたんだよぉ!」

 

 しばしの沈黙……

 

 ……えっ?そんな事したらピント団の人達も黙っちゃいないでしょ。食料不足がバレでもしたら、いくら兵力が少ないピント団が相手でも「兵糧攻め」でオシマイですよ……

 

 キュイはこのミント団の男達のアホさ加減に同情しています。絶対コイツら、ミント団の中でも下っぱの連中でしょ。それよりも……

 

 「せっかくミント団には極力手を出さずに穏便に済まそうって思っていましたのに……」

 

 あっ、アカリ様の肩がプルプル震えています。アカリ様、久し振りにブチッとキレちゃいますかぁ……?

 

 「アナタ達、ただ単にピント団の食料物品が欲しい為“だけ”の超くっだらない理由で、こんな『非人道的』な事をしていたんですかぁ~!」

 

 

 『非人道的』ってアナタ、だからただモフモフしてただけですって……しかも、下っぱの戯れ言をそのまま受け取っているんですか……!

 

 

 「やかましいっ!アクアウォール!」

 

 ミント団の……もういいや、下っぱの1人が水魔法を使って来ました。アカリの目の前に巨大な水の壁が、まるで津波の様に立ちはだかりました。

 

 しかし、今のキレてるアカリの前では……

 

 アカリは目の前のアクアウォールに手のひらをピタとくっ付けて、

 

「……壁ドン♡」

 

と言い放ちました!その瞬間、目の前の巨大な水の壁が崩壊し、“水滴の弾丸”となって下っぱ達に襲いかかったのです!

 

 「はがぁっ……!」

 

 ピント団のキュルミー少女達はみんなモフモフされていて伏せていたので、被害はありませんでした。

 

 もちろん、下っぱ達に逃げる猶予は与えません。壁の木棚からオブジェを引っ張り出し、次から次へと壁ドン♡に当てて“飛び道具攻撃”として下っぱ達にぶつけて行きます!

 

 案の定……ぶつけ続けられた事で頭に血が昇った下っぱ達は、攻撃による多少の被弾は目をつぶってアカリを捕まえに来ました。

 

 確かに……捕まってしまえばあのキュルミー少女達みたいにモフモフされて、腰砕けで足腰立てなくされてしまいます。そうなれば全てがお終いです……

 

 ただし捕まえる事が出来れば、ですがね……

 

 アカリは、捕まえに来た下っぱ達を身構えて気を溜めて待っています。そして捕まえに来た腕をスルリと半身ですり抜けつつ、掌底突きを下っぱの1人の顎に当てて

 

「……顎クイ♡」

 

と突き抜きました!衝撃が脳天の向こうまで達したのか、下っぱは白目を向いて倒れてしまいました。

 

 しかし、今の華麗な避け方といいアカリは戦闘技術も飛躍的に上達しています。そして、何事も無かったかの様にパンパンと埃をはたき、

 

 「キュイ……ワタシ達、あんな事も知らなかったなんて……もう少しモンスターの生態について勉強しておいた方がイイですね……」

 

 「そうですね、アカリ様……」

 

 アカリとキュイは目と目を合わせて頷き合いました。

 

 「あわわわわ……こりゃあ勝ち目ねぇよぉ!」

 

 残ったもう1人はそう言って、血相を変えてアカリ達の隙を突いて地下階段の方へ走り出しました。しかし、それを見逃すアカリとキュイではありません。易々と追い付いて、その腹に壁ドン♡を喰らわそうとしました。

 

 しかし、その時……

 

 

 『待ちなさい!そこまでです!』

 

 

 地下階段の方から聞こえる、凛とした透き通ったよく通る声……女の人……?誰?




ちなみに枯れ葉を魔方陣へスライドさせる判別方法ですが……

もしも火属性魔法なら、燃え尽きます。
もしも水属性魔法なら、ビショビショになります。
もしも土属性魔法なら、サラサラと砂に還ります。
もしも氷属性魔法なら、カチンコチンに凍ります。
もしも光属性魔法なら、枯れ葉から若葉へと生まれ変わります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。