────────────────
アカリは突然ミント団支部長のフィリルと勝負に……
しかもキュイにトラブルが発生したらしい……
この勝負、どうなるの……?
────────────────
地下階段から女の人がゆっくりと降りて来ました。アカリは、その女の人の服装を見ました。
上着は白いパリッとしたシャツの上から黒のベストを羽織り、下は黒のスラックスというアンサンブルです。
いわゆる「礼服」というヤツでしょうか……お化粧もバッチリで、遠目から見ても凛とした立ち姿です。
【フィリル】──────────
この女性の名前はフィリル、年齢は27才です。父親がフェンリルウルフ、母親が人間との間に生まれた「フェンリルハーフ」です。
髪はクリーム色で肩まで伸びる髪をポニーテールで縛っています。若かりし頃の『白い巫女』キョーコにあえて似せているのはナイショの話。
目の色は普段は両目とも翡翠色なのですが、血が昂(たかぶ)ると右目だけ瑠璃色の“オッドアイ”に変化するんです。
血が昂ると左右の目の色が違う“オッドアイ”に変化する所は、フェンリルウルフである父親の血を引き継いでいます。
また、フェンリルウルフとは違い人間を“餌”としなくても生活が可能な所は、人間である母親の血を引き継いでいます。
血筋は父親よりも人間である母親の血をより色濃く受け継いでいる為か、オオカミ顔ではなく人間らしい優しい顔つきになっています。
あと、支店長という管理職の肩書きを背負っているからか、キリッとダテ眼鏡をかけています。
身長はやや長身の165cmで、胸の大きさは服の上からでも分かるEカップです。
────────────────
下っぱの連中のだらしない服を見た後ですから、アカリの目もポ……と熱くなっています。
こういう女の人の事を「デキル女」、「女が惚れるオンナ」って言うんでしょうね……
まだアカリがポ……となっていたので、キュイが嘴(くちばし)でアカリの腕……ではなくその奥の脇腹をツンツンとつつきました。
「……はうっ!ごめんなさい、見とれていました……アナタは誰ですか?
アナタもミント団なんですか?」
踞(うずくま)ってプルプル悶絶しながら質問するアカリを、横でキュイがニヤニヤして見ています。
「私はミント団スメルクト支部から来た、支部長のフィリルと申す者です。以後、お見知り置きを……」
そして、先ほどのアカリの一撃で白目を向いてひっくり返った男と敵前逃亡を図ろうとした男……下っぱ2人組を見下ろしました。
「すみません、先ほどはお見苦しい所をお見せしてしまいました。配下の教育が行き届いていなかった私の責任です。
この者たちは私達『ミント団』の流儀で処罰を与えたいのですが……宜しいでしょうか?」
アカリはどうぞ、どうぞ、と下っぱ達にリボンを付けるかの如くフィリルに送り返してあげました。
「ありがとう、恩に着ます。さてと、堅苦しい事務的な会話はここまでにしましょうか……」
フィリルがその言葉を発して大きく伸びをしながらふうっ、とひと息ついたその途端……
ニッコリ笑った彼女の目が一本筋になり、ふにゃんと緩んだ口元はちっちゃい八重歯がキュートな“にゃんスマイル”になりました♡
さっきまでのフィリルのあまりの変わり様に、アカリはパチクリ目を丸くしてしまいました。
か……可愛いです……さっき見た凛とした立ち姿と比べると、ギャップ有り過ぎで萌えちゃいます……!
キュイは、フェンリルウルフの外見を知っているだけに思わずククッと笑ってしまいます。
いくら人間らしい優しい顔つきと言えど、こういう所でフェンリルウルフの“素”が出ちゃうんですね。本人は気付いてないでしょうけど……
「んっ、このニオイ!……コレって、私の敬愛する英雄キョーコ様がお召しになった伝説のきぐるみじゃないですかぁ~!」
フィリルさん、ニオイで分かっちゃうんですね!って言うか、1度ふにゃんってなるとココまで変わっちゃうんですか、このヒト……
「ねぇフィリルさん、このピント団の3人のキュルミー娘さん達を返して頂きたいのですが……」
ふにゃんとする前のフィリルさんの物腰柔らかな対応を見ていたアカリは……あえて丁寧にお願いしてみました。
「いいですよぉ~!でも、このままお返ししては、私のミント団支部長としての立場もありますしねぇ~。」
しばらく考えていたフィリルは……イイ事を思い付いたらしくニコッと笑ってアカリに問いかけました。
「じゃあ貴女、私とひと勝負しませんかぁ~?もし貴女が勝ったら、この娘さん達を返してあげてもイイですよぉ~?」
「ちょっと待って、このままじゃあ勝負は受けれません!もうひとつ教えて、もしワタシが負けたら……どうなるんですか?」
「もし貴女が負けたら……じゃあ、ミント団に入団してもらおうかしらぁ~。今、入団募集をしている最中なんですよぉ~。」
「分かりました、負けた場合はそれでイイです。それで、その勝負の内容は何なんでしょうか?」
「では勝負の内容ですが……、私の“生まれ故郷の場所”を当ててもらいましょうかぁ~!」
アカリはふつふつと沸き上がるツッコミを何度も我慢しようとしましたが……無理でした。
「……何のヒントも無しに分かるかーい!」
そもそもフィリルさんと会うのが初めてなら喋るのも初めてだし、しかも現段階でフィリルさんの素性すら何も知らないんです。
フィリルはアカリに手をヒラヒラ振ると、今度はアカリの側に付き添うフェアリーバードの方を向き、気を感じてニコッと微笑みました。
「久し振りね、キュイちゃん。いくら姿形が変わっても、ココロのニオイは変わらないのねぇ~!」
……フィリルさんのニオイですって?それ、ワタシの聞き間違いじゃないですよね?突破口み~っけ!
「その代わり、解答は……そうですね、キュイちゃんのみに答えて貰いましょう!コレでどうですか?」
それを聞いてアカリはニッと笑いました。キュイは心配そうな顔をしてアカリを覗き込みます。そこで大変な事実を知るのです……
何と……キュイがフェアリーバードに『復活』して以来、それより前の記憶が飛び飛びになっているらしいのです!思わぬ副作用、発覚!
思わず頭を抱えたアカリでしたが、すぐに次の一手を閃いてキュイを安心させました。アカリは頭の回転が速いのです。
「大丈夫ですよ、キュイさん。それよりも聞きたい事があります。意識のほんの一部だけでも“階層世界”に片足掛ける事は出来ます?」
アカリはキュイに小声で囁きます。そして暫くボソボソ話して、フィリルに再び対峙しました。
「その条件を呑みましょう。キュイさん、ワタシ連戦続きで疲れましたから、あのソファーで……フィリルさん、イイでしょ?」
スカリーがニコッと微笑んでウィンクをしてくれたので、遠慮無くアカリはソファーに座り、ウトウトし始めました。
そして取り残された形になってしまったキュイ。しかも過去の記憶が飛び飛びになっているという最悪の状態でフィリルと2人きりです。
果たして、こんな調子のアカリ&キュイ対フィリルの勝負はどうなってしまうのでしょうか……?