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さて、と……
異世界でのスタート地点は廃墟でした!
異世界を生き抜く為の「闘い方」を模索中です……
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ワタシが“女神“さま……?
いきなりそんな事を言われても、実感が持てないです……
「ねぇ、今のキュイの話からすると、能力『テイム』とか『ジャンプ』って、このきぐるみを着込んだ時の、“キュルミー”としての能力ですよね?
じゃあ、ワタシの“女神”としての能力は何かあるんですか?」
「すみません、“キュルミー”として以外の能力は、ワタシの管轄外なんです。
いかんせん、“キュルミー”の能力でワタシはこの『階層世界』に居続ける事が出来るもんで……」
キュイは頭をポリポリ掻きながら、
「こればかりは、自分で見つけ出すしかなさそうですね……」
……ま、これはしょうがないです。
誰かの力を借りてズルしたらダメって事ですね、たぶん……
「アカリ様、もうすぐ“異次元ホール”を抜けそうです!
目が覚めれば、アカリ様はこの『階層世界』から自動退去します。
ほら、ワタシの姿や周りの景色がだんだん薄くなって来たでしょ?
大丈夫、またアカリ様がキュイぐるみを着たまま再び眠りに入る時、ワタシに会いたいと願えばいつでも会う事が出来ますから。
また次回、お会いしましょう……」
しばらくして、言い忘れた事があったのかキュイがひどく慌てた声で、
「あ、そうそう、異世界に着いたら『7世界の王』……」
そう言った後、周りの景色がス……ッと消えたと思った次の瞬間、パチッと目が覚めました。
どうやら、異次元ホールから抜けて無事に異世界へと来る事が出来たみたいです。
「ん……ココはどこですか……?」
異世界におけるスタート地点は、どうやら「廃墟」らしいです。
アカリが今倒れていたのは、この廃墟群に囲まれた真ん中の草むらです。
この草むらは、短い草とやや長い葉っぱが折り重なる様に出来ています。
おそらく、この草むらがクッションになってくれたお陰で、アカリは怪我ひとつ無く異世界に来られた様です。
廃墟は全て大小様々な泥レンガを積み上げて出来ているみたいです。
そして、この草むらを中央にして円を描く様に廃墟が配置されています。
右から左へそよ風が吹き抜ける度に、草むらのやや長い葉っぱの方が
サワサワサワ……
と気持ち良さげになびきます。
しかも短い草がライトグリーン、やや長い葉っぱがダークグリーンなので、吹き抜ける度にキラキラ光ってキレイなんです。
「最後、消え際にキュイさん、何か言っていた様な……
確か、『7世界の王』でしたっけ……
何なんでしょうね……?」
それと、さっきから気になる事が……
「……それにしても、さっきから身体がポッポッと火照ってるみたいに熱いんです!
特に手のひらを中心にして……」
そうなんです。
異次元ホールの中にいる間はキュイぐるみが守っていてくれたのです。
その反動でしょうか、異次元ホールから出て異世界に着いた途端、キュイぐるみの保護から解放されて身体中に巡り廻っていた熱が手のひらから放出されたくて集まって来たのです。
何とかしてこの熱を全部放出しなくちゃ、全身のあちこちで火傷しちゃいそうです!
火照った身体に必死に耐えながら、身近にあった廃墟の壁に手のひらを当てて寄り掛かろうとしました。
すると次の瞬間、何と手のひらから放出された熱により当てた部分の壁が砕け散ったではありませんか!
「なっ……!!!」
ただ、壁に手のひらが触れただけなのに……?
ただ触れただけでコレなら……
アカリは右に向きを変えて、目の前の壁に向かって軽く掌底突きを繰り出してみました!
すると、今度は砕け散っただけでなく、扇状に高速で破片が飛び散ったではありませんか!
アカリはしばし……ボーゼンとしました。
自分ひとりだけの力では、とてもじゃないけどこんな芸当は出来ないよ……
ふと、自分の両手を見ました。
自分の両手を覆っている、プニプニの肉球を。
まさか、このキュイぐるみの……この肉球の力なの……?
この肉球って、“気の排出”の補助もしてくれるの……?
さっき、管理人のキュイが、
『アカリ様の事を、母上のタカコ様もキュイも、何時でも見守っています』
と言ってくれたばかりではありませんか……
アカリはこのキュイぐるみに感謝しました。
お母さん……キュイさん……ありがとうね。
その後、体内を駆け巡る熱を外に放出しようと必死でいろいろ動き回った結果……
気が付いた時には、いろんな技のレパートリーが出来てしまっていたのです!
なので、この過程で出来たいろんな技の中で「戦闘術」として使えるものがあるかどうか、もう一度吟味し直しました。
試行錯誤を繰り返している内に、身体中を巡り廻って手のひらで燻っていた熱も徐々に治まりました。
「実際に使えそうな技も、いくつか出来ましたね……」
あとは、それに相応しい名前を付けたいよね……
そうね、女の子っぽいカワイイ名前がいいな……
名乗って、思わずポッてなっちゃう様な名前……
アカリだって15才の年頃の女子高生なんです。
カワイイもの……大好きですよぉ!
そう言えば、向こうの世界にいた時にスマホのネットサイトをググって、こんな言葉を見つけた事があったんです……
『今ドキ女子が胸キュンするオトコのモテ仕草』
これからカワイイ名前をパクるのも面白いかも……!
う~ん……と頭の中でいろいろと考えながらアカリがふと周りを見渡すと、廃墟のすぐ外にいるゴブリンの群れ8匹と目が合いました。
……あ、ラッキー!
さっそくあそこにおあつらえ向きなゴブリンの群れが……
さっそく実戦で技を順番に試してみる事にしました。
①壁ドン♡
まず、廃墟の壁に寄り掛かる様な姿勢で、胸を反りながら片手は身体の後方に、もう片手のひらだけ壁にトンと置く感じで軽く掌底突きを当てました。
「ん……『壁ドン♡』!」
すると、『壁ドン♡』を当てた部分の壁が砕け散り、その時の壁片が3匹のゴブリンへと高速で飛んで行き、当たった瞬間3匹ともその場で“昇天”してしまいました!
②顎クイ♡
「ギ……ギギッ!」
それを見て、一番近くにいた1匹のゴブリンが怒りの表情で襲って来ました。
「カウンター気味に……『顎クイ♡』です!」
アカリはウィンクしながら、その襲って来たゴブリンの顎にカウンターの掌底突き、『顎クイ♡』を当てました。
すると、直撃で喰らったゴブリンは脳しんとうになり、一時的に行動停止になってしまいました!
③腕グイ♡
そして脳しんとうになった仲間を見て怯んでいるゴブリンを見つけ、
「さぁ、次は連携技を試します!
『腕グイ♡』で捕まえてからの……」
怯んでるゴブリンの腕を『腕グイ♡』で捕まえて微笑みながら自分の懐に引き寄せます。
「……『壁ドン♡』ですっ!」
『腕グイ♡』で捕まえたゴブリンのどてっ腹に手を当てて、超至近距離から『壁ドン♡』をお見舞いしました!
哀れなゴブリンはその場で“昇天”しました……
④でこピタ♡
更に、先程カウンターの『顎クイ♡』により脳しんとうになったゴブリンの所にクルッと優雅に回転しながら歩み寄り、
「さぁ、おまたせしました。
アナタにはこの『でこピタ♡』をあげるね!」
そう言って、アカリはそのゴブリンに超至近距離の頭突き、『でこピタ♡』を思い切り喰らわせたのです!
ゴォ……ンっ……!
『でこピタ♡』を喰らったゴブリンは、白目を向いて“昇天”してしまいました。
アカリもちょっと頭がクラクラ……としました。
「ちょっと……強過ぎたかも……」
⑤肩ズン♡
その後、アカリは反対側を見てみると、何と剣を持ったゴブリンまでいる様です。
「ありゃ……ゴブリンじゃなくてゴブリンソルジャーだったんですね……」
ゴブリンソルジャーが降り下ろす剣を避けながら、再び剣を降り下ろすのにタイミングを合わせてカウンターの『顎クイ♡』を当てました。
そして、ゴブリンソルジャーがよろけている際にススッと懐へ潜り、顔に手を添えて潤んだ瞳でじっと見つめ合いながら……
「『肩ズン♡』で剣を持てなくしてしまいましょうね!」
そう言って、油断したゴブリンソルジャーの肩に超至近距離の頭突き、『肩ズン♡』をぶつけました。
今度は、頭突きの威力をちゃんと調節しながら……
ガランガランッ……!
ゴブリンソルジャーの剣をその場に叩き落としました。
⑥頭ポンポン♡
「さぁ、最後は『頭ポンポン♡』でおねんねしましょうね!」
アカリは両手を広げて優しく微笑みながらゴブリンソルジャーを抱き締め、その頭に手のひらをそっと当てて発勁技、『頭ポンポン♡』をお見舞いしました。
ブハァッ……!
ゴブリンソルジャーは声にならない声を上げて、目をグルンとひっくり返して“昇天”してしまいました。
⑦髪フゥ♡
あと残りはゴブリン2匹……!
その内の1匹に背後からススッと忍び寄り、
「アナタには『髪フゥ♡』をしてあげます……
さぁ、同士討ちをするのですよ……」
アカリは人差し指にチュッとキスをしながら、ゴブリンの頭に手のひらを置いて『髪フゥ♡』で気を送り込みました。
「ギギ……ギッ……?」
何と、ゴブリンは身体の自由が利かなくなって、自分の意思とは関係無くもう1匹のゴブリンに襲いかかり始めたのです!
お互いに身体を傷付け合い、相方フラフラになった2匹のゴブリンは、廃墟の壁を使った『壁ドン♡』ですぐ“昇天”してしまいました。
結果として、『胸キュン♡戦法』なるこの闘い方で7匹のゴブリン、1匹のゴブリンソルジャーに打ち勝つ事が出来ました。
「使えそうな技は結局、この7つだけでしたね……
ま、でもこれからの闘いでは実際に使用するのは、これらのうち2つ、多くても3つくらいの組み合わせになるでしょうけどね……」
そう言って、アカリは大きく頷きながら、
「でも……これは充分過ぎる程の大収穫です。
『胸キュン♡戦法』……これがワタシの闘い方なんですね!」
自分でもちゃんと闘える、そんな実感を再認識する事が出来たアカリなのでした……