斧の扱いって難しい。

戦闘中、自らのミスで仲間に迷惑をかけてしまった少女が、資料館で斧について勉強するお話。そう、彼女は斧使いなのです。

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ボボボプレプレ~男の子と女の子~

~学園都市サイバック 学術資料館~

 

「あれ、もしかして……」

 

何千、何万という膨大な書物が所蔵されている世界きっての大資料館。その中で数冊の本を抱えた銀髪の少年が、椅子に腰かけて本を読もうとしている仲間を見つけた。その仲間とは淡い桃色の髪色をした、小柄な少女である。

 

少年は少女を認識するや否や、何度か深呼吸を繰り返す。そうして意を決したかのようによしっ、と小さく気合を入れると、ぎこちない動きで少女の元へと歩いて行った。その様はさながらロボット……よりも不格好だ。

 

「プ、ププププレセア!」

 

「ジーニアス」

 

少年がどもりながらも少女の名前を呼ぶ。少女は本から目を離し、顔だけ少年の方へ向け、彼の名前を呼んだ。名前を呼ばれたジーニアスは頬を赤らめる。

 

「どどど、どうしてここに?」

 

「斧の扱い方について学びに来ました」

 

「……斧?」

 

「はい」

 

プレセアは頷く。実はこの少女が武器としているものが何を隠そう斧である。家庭の事情で木こりとして働いていたと聞けば、なるほどと頷けるものもある……訳が無い。

 

なにせ彼女はとても木こりと思えないほど華奢な体つきをしているのだ。背丈も低く、同年代と比べても小柄だ。加えて、彼女が操る斧はと言えば、自身の身の丈ほどある巨大な戦斧。彼女の姿からどうしてそのように想像することが出来ようか。

 

まぁ、それはそれとして。

 

ジーニアスはプレセアの言葉にキョトンとした後、すぐにハッとしてプレセアに再度尋ねた。

 

「もしかして、昨日の戦闘のことで……?」

 

プレセアが静かに頷く。昨日の戦闘、とは彼らが昨日にフィールド上でモンスターと戦った時のことである。

 

戦闘中、プレセアが魔物めがけて斧を振るった際に、手から斧がすっぽ抜けて飛んでいったのだ。それだけならまだしも、その斧が飛んでいった先がより問題だった。なんと味方が戦っている、その丁度ど真ん中をめがけて飛んでいったのである。

 

飛来してきた戦斧に巻き込まれたのは少年一人と青年一人、そしてモンスター三体。幸い、少年たちに斧の刃が直撃したわけではなく、ヒール一回分の怪我で済んだのは不幸中の幸いだろう(ダメージが小さいとは言っていない)。

 

その戦闘後のプレセアの落ち込みようとは目も当てられなかった。普段から感情を表に出さず口数の少ない彼女だが、この時は80%減で普段より口数が減り(ジーニアス比による)、怪我をした当人たちが大丈夫だと言い聞かせても、彼女は何度も謝っていたくらいだった。そんな彼女の様子を見かねた仲間達が気分転換にとその翌日である今日、自由行動という名目で休息をとりれたのだった。

 

「昨日、私は皆さんに大変なご迷惑をかけてしまいました」

 

「そんな!僕たちは誰も気にしてないよ!ロイドやゼロスだって大丈夫って言っていたじゃないか!」

 

「お気遣いには心から感謝しています。ですが、私は自分が許せません。もしあの戦いが強敵との戦いだったら……?私の行為は、皆さんの命に関わることでした」

 

「でも!でも……わざとやった訳じゃない!誰だって失敗することはあるよ!」

 

「ありがとう、ジーニアス。あなたは優しいですね」

 

「あ……ボボボボクはははは」

 

ジーニアスは嘘偽りのない本心をプレセアに伝えた。

プレセアはそんなジーニアスに微笑み、礼を告げる。

彼女の言葉と表情にジーニアスは顔を赤くし、途端に焦り、どもり始めた。そんな彼の様子がどこかおかしくて、珍しくプレセアはクスッと小さく笑った。

 

「そ、そうだ!ボクで良ければプレセアの斧の勉強に協力するよ!」

 

「ありがとうございます。しかしご迷惑では?それにジーニアスだって読みたい本がある筈です」

 

ジーニアスの申し出にプレセアは彼が抱えている本を見ながら返答した。彼女の視線に気づいた彼はブンブンと首を横に振る。

 

「あっ、こここれは気にしないで!ただ、手持無沙汰だったから適当に勉強の復習をしようと思って取ってきただけだから!」

 

「そうですか……?」

 

早口で説明するジーニアス。彼の言葉を受け、プレセアは少し戸惑った後、彼に向かって言った。

 

「それでは、よろしくお願いします。ジーニアス」

 

 

こうして二人は斧について勉強を開始するのであった。

現在、一つのテーブルに二人が並んで座っている構図となっている。当初、至近距離にプレセアがいるということでジーニアスは興奮し、動悸が激しくなっていた。プレセアには秘密だ。

そんな状態から落ち着きを取り戻し始めたジーニアスはプレセアに素朴な疑問を投げかけた。

 

「でも、斧の勉強ってどうするつもりだったの?」

 

「斧の指南書のようなものがあれば良かったのですが、こちらには無いと司書の方から伺いました」

 

そうだろうなぁと心の中で納得するジーニアス。

 

「それでも斧に関する書籍か何かが無いかと探していたところ、一冊だけあったのです」

 

「それが、この本?」

 

はい、とプレセアは頷く。

テーブルには閉じられて、表紙が上になっている一冊の本が置いてある。その装丁は暗い緑色一色で、表紙には本の題名が書かれているだけの簡素なデザインである。

 

「タイトルが『斧を操るつわもの達』か。斧が武器だった人たちのことが書いてあるのかなぁ?」

 

「きっと、そうだと思います。私もまだ読んでいないので確かなことは分かりませんが……」

 

「とりあえず、読んでみよう」

 

ジーニアスの提案にプレセアは頷き、表紙を捲った。本の題名が書かれたページが現れた。それからまたページを捲る。すると今度は本の目次が書かれたページにたどり着いた。ジーニアスが目次を読み上げる。

 

「えっと、『幻想の勇者の章』、『運命の猛戦士の章』、『永遠の猟師の章』、『つむじ風のふられマンの章』、『反英雄の戦鬼の章』……大まかに五つの章ごとに区切られてるみたいだね。一つだけ変なのがあるけど」

 

「とりあえず、読んでみましょう」

 

プレセアはページを捲る。はじめに二人は幻想の勇者の章に突入した。

 

 

【幻想の時空剣士の章】

 

少年は剣士である。

 

彼は歴戦の強者である父親に鍛えられ、若いながら剣技の腕前は中々のものだった。剣士というのだから当然、得物は剣であるが、彼はそれ以外にも、冒険を通じて槍や戦斧をも使いこなしていくオールマイティな剣士であった。

 

そんな少年は、旅を通じて剣の腕前だけではなく、多くの仲間を得ることができた。そうした旅の果てに、彼は悲願を成し遂げ、勇者になった。

 

「まずは人物紹介のようですね」

 

「そそそそうだね!」

 

そんな彼は、真面目な好青年である。

それでも、時々彼は皆の緊張をほぐすためか、しばしば駄洒落を言う。そんな彼のネタを紹介しよう。

 

『瘴気で正気が!?』

 

『樹が動いたって?気のせいだよ』

 

『カレーはかれぇ』

 

『ダオスをだおす!』

 

 

「あれ、なんかダジャレ集になってきたんだけど……」

 

「……」

 

彼の駄洒落のレパートリーはこれだけではない。

詳しくは、次のページから始まる【アルべイン流 駄洒落ランキングベスト100】をご覧になってほしい。

 

「ええっと次のページ……うわっ大量の駄洒落が書いてある……」

 

「……」

 

【幻想の勇者の章】はここまでとする。

5ページ後から次の章である【運命の猛戦士の章】を紹介する。

 

「……え、終わっちゃった!?なにこれ!?斧の話なんて少しもないじゃないか!」

 

「なるほど」

 

「へ?」

 

ジーニアスが突っ込みを入れる中、何かを理解したプレセアは頷いた。

 

「ジーニアス、私は分かりました」

 

「な、何を?」

 

きりっとした顔でジーニアスを見るプレセア。ジーニアスは彼女の凛々しい顔にドキッとしながら尋ねた。

 

「斧を使いこなすには、駄洒落の一つでも言えないと駄目なのだと。この本は人物紹介を通じて、斧を扱うための極意を悟らせようとしているのです」

 

「え、本当に?でもプ、プレセアが言うなら……」

 

「だおすをだおす」

 

「ダメだよ!やっぱりダメだよ!止めてプレセアー!」

 

 

【運命の猛戦士の章】

 

世界中を旅した彼女は勇猛な戦士だ。

 

戦斧を振り回し、向かい来る敵を薙ぎ払うその様は見る者を畏怖させた。また、彼女は斧だけではなく剣や槍に矛、時にはフライパンを片手に戦うのだが、その技術もまた天下一品である。寧ろ斧その他の武器よりも剣を振るう技術が優れているという。

 

「今回も人物紹介からだね」

 

「そうですね。彼女、ということは女性なのでしょう」

 

戦闘では前衛として敵を圧倒する彼女だが、実は料理上手で家庭的な一面をのぞかせる。特に絶品なのは『ビーストミートのポワレ』だ。彼女の住む国の名物だが、その料理の具材がまた独特である。ビーストミート、クリーミーチーズ、ロールパン、そしてイフリートだ。なんと召喚魔人が必須なのである。炎を操ることで、絶妙な焼き加減を引き出すということだろう。彼女やその国の料理人の料理技術は誰もが舌を巻くレベルなのだ。

 

「今度は料理の話になってきた……っていうかイフリートって!?」

 

「……」

 

戦いから退いた後、彼女は宿屋の女主人を勤めることになる。

そんな彼女の絶品料理の種類は、世界を旅してきた経験から優に100種類を超える。

次ページからは、彼女の料理レシピの大半を公開したい。

 

「まさか……わっ、物凄い数の料理のレシピが載ってるよ!へぇ~、こんな料理もあるんだ」

 

「……」

 

【運命の猛戦士の章】はここまでとする。

123ページ後に次章、【永遠の猟師の章】を掲載する。

 

「1ページに1レシピ。120種類の料理が紹介されてるから120ページなんだ……これ、もう料理本じゃないの!?」

 

「悟りました」

 

「え?」

 

先ほどと同じように突っ込みを入れるジーニアス。プレセアは再び何かを理解したのか、一度頷き、言葉を口にした。

 

「この本は、料理が上手に作れないと、斧を使いこなす技量は上がらないのだとここでは訴えてるのです」

 

「いや、多分それは違うと思うよ……?」

 

「ジーニアス、あなたは料理が上手でしたよね?このあと私に料理を教えていただけませんか?」

 

「え、ボボボボクが!?ププププレセアに!?」

 

「駄目でしょうか」

 

「ぜぜぜ全っ然!!料理のことならボクに任せてよ!」

 

「ありがとうございます、ジーニアス」

 

 

【永遠の猟師の章】

 

少年は狩りを生業としていた。

 

猟師として生きていくうちに、彼は我流ながら剣の技術を身につけていった。更に、使いこなせる武器は剣(大剣や短剣も含む)だけではなく、斧や槍、矛槍といった武器も使いこなせる器用さを持ち合わせていた。

 

食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。そんな彼の平穏な日常の中で、突如空から降ってきた一人の少女。やがて2つの世界を股に掛けることになろうとは、この時の少年は思いもしなかった。

 

「ここまでの人達は皆、斧以外の武器も使えたんだね」

 

「ゼネラリスト、ですね」

 

そんな少年の好物と言えば、彼の幼馴染が作るオムレツである。そのオムレツはふわっふわのとろっとろ。旅路の果てに、彼は幼馴染の作るオムレツをお腹いっぱい食べたいと言ったくらいだ。最早プロポーズである。

 

「今度も料理の話?」

 

「……」

 

また、少年は過去のトラウマからお化けといった類のものが苦手だ。モンスターとして出てきた場合は割り切って倒しているようだが、普段は怪談などを聞くと身を震え上がらせるほど怖がる。人間、得体のしれないものに恐怖を抱くのは当然のことだろう。

 

ここで彼が怖がるような怪談百選を紹介したいと思う。次のページからご覧になっていただきたい。

 

「あっ。……一ページに一つ怪談が載ってるみたい」

 

「……」

 

【永遠の猟師の章】はここまでとする。

102ページ後に【つむじ風のふられマンの章】を紹介する。

 

「ここまで一切、斧の話が出てこないのはどういうこと!?」

 

「分かりました」

 

「……えっと、何を?」

 

うんうんとプレセアは頷く。ある程度予測がついたジーニアスだが、あえて尋ねた。

 

「怖い話の一つでも話せないと、斧を扱う技術は下がる一方なのだと」

 

「その解釈は、本を書いた人もビックリすると思うよ」

 

「というわけでジーニアス、今夜お付き合いお願いできますか?」

 

「おおおお付き合い!?」

 

「はい。この本からいくつか怪談を拾ってお話しようと思います」

 

「あ、……うん。そういうことだと分かってたさ……うん」

 

「? よろしくお願いしますね」

 

 

【つむじ風のふられマンの章】

 

青年は孤児であった。親を失い、傷を負った彼はとある町の孤児院に入り、そこですくすくと育った。

 

立派に成長した青年は、お世話になった孤児院に恩返しするため、とある騎士団に入団した。青年は戦斧を携え、体格の良さを存分に生かした攻撃を行う。彼の持ち味だ。

 

それからある日のことだった。彼は一つ300万ガルドはくだらないお宝――レンズと呼ばれる代物――があるという話を耳にし、好機とばかりに騎士団が結成した調査隊に入る。彼はレンズを調査隊よりも早くに入手することで、それを売り払い、手に入れた金を孤児院の経営の足し……いや、家族の生活の糧にしてほしいと考えたのだ。

 

「偉い人だね。ね、プレセア」

 

「そうですね」

 

そんな家族思いの青年だが、彼が幼少期だった頃はとんでもない悪ガキであった。

友人二人と共に、スカート捲りに勤しむ日々を送ったこともある。そんな彼についた異名はつむじ風。つむじ風の如くスカートを捲ることからその名がついたのだ。

 

「ん?雲行きが怪しくなってきた……」

 

「……」

 

また、大層な女好きでもあり、自身の育った町の女性全てに告白をし、全敗を成し遂げた経歴を持つ。

 

彼の人生においてフラれた回数は最早数えるのも困難だ。女性へのアピールとして天空泣き落とし、電光石火流し目など新技を思いつくほどである。

 

そんな青年の女性へのナンパテクニックをここで紹介したいと思う。興味を持ったならば次ページから掲載されているテクニックを読み、実践してほしい。

 

「次ページ……うわっ。えぇ、なにこれ……」

 

「……」

 

【つむじ風のふられマンの章】はここまでとする。

3ページ後には最終章である『反英雄の戦鬼の章』を掲載する。

 

「ナンパテクニックとかゼロスじゃあるまいし……大人って馬鹿ばっか?」

 

「合点がいきました」

 

「えーっと、今回も?」

 

嫌な予感しかしないジーニアスだが、それでも無視する訳にもいかないため、プレセアに聞き返す。

 

「はい。異性への無償の愛こそ、斧を振るうためには必要不可欠ということです」

 

「いや、そんな話は一度も出てきてないよ!?」

 

「ですから、ジーニアス」

 

「え?」

 

「もしよろしければ……」

 

(えええ!?ここここの流れ!!ももももしかしてプレセア、ボクのことをー!?)

 

「今度ご飯を食べさせてあげますね」

 

「うううううん!うん!是非食べさせてほsh……うん?」

 

「ご飯に愛情をこめて作ること、そしてご飯を他人に食べさせることで愛はより活性化されていく。合理的です」

 

「いや、え??いやいや」

 

「これは、さながら母親の気持ちになれということですね。二つ前の章と今回の章、合わせ技で一本です」

 

「うーん、うん?まぁ、プレセアがそれでいいならいいや……」

 

 

『反英雄の戦鬼の章』

 

男は戦斧を片手に戦場を駆け回っていた。その剛腕から次々に敵を屠り、蹴散らしていく。その様から暴斧の異名をとっていた。

 

だが男は味方を裏切り、敵側に寝返った。強き者との死闘を求め、寝返ってしまった。

 

そうして男は、元は味方だった人間に討たれ、戦場から姿を消した。英雄に討たれた反逆者として消えていったのだ。

 

「壮絶だね……」

 

「そうですね」

 

そんな男は軟派な人間をみると、激高した。道具を使うんじゃないと叫び、背後に回るなと怒り、あまつさえ術の類を使うとそんなものに頼るなと怒声を浴びせる。

言ってしまえば我儘な人間なのだ。しかし、男の中には紳士的な側面もあるらしい。……のだが、真実は彼の中にしかない。

 

「やっぱり、ここまでで斧の使い方なんて一言も言及されてないんだけど」

 

「……」

 

そんな我儘紳士な男の全ての我儘を網羅した。興味があれば次のページから記載されているので読んでみていただきたい。

 

「最後までこのパターン……」

 

「……」

 

【反英雄の戦鬼の章】はここまでとする。

3ページ後に後書き、また参考にした書物や資料を記す。読む必要は正直ない。

 

「最後まで、斧の扱い方について書かれてなかったね」

 

「大丈夫です、理解しました」

 

「……何をなの?」

 

五度目ともなると、流石のジーニアスも少々呆れていた。碌なこと言わないと確信していた。

 

「この章では他人の我儘を知ることで、自分を冷静に省みることができる。言わば”人の振り見て我が振り直せ”と言っているのです」

 

「う、うん(あれ、凄いまともなこと言ってる……)」

 

「つまり斧を扱う際には周囲に注意を払い、相手がいる場合にはその動きを観察し、きちんと対応していかなければならないと遠まわしに助言しているのです」

 

「う、うん(言ってることはまともだけど、ここでそんなこと言ってる気がしない……)」

 

「そういうことでジーニアス、今度私と対戦してください」

 

「プ、プレセアと!?」

 

「大丈夫、安心してください。斧は使いません」

 

「斧を使わないで戦うの?」

 

「はい。大切な仲間を傷つけるわけにはいきませんから」

 

大切な仲間。その言葉にジーンと感動するジーニアス。と同時に、それ以上の関係に進められたらなぁと少々残念がった。青春である。

 

「ジーニアスの動きをよく観察し、それに合わせた対応策をとるという模擬実戦のようなものです」

 

「なるほど。分かった、協力するよ!」

 

「ありがとうございます」

 

(でも、結局斧の扱い方そのものは書かれてないんだよね、この本)

 

丁度、プレセアが本を閉じたところだ。

簡素な装丁がなされた本をジーニアスはしばらく見つめていた。

 

 

~外~

 

資料館から二人は外に出た。

陽も暮れ始めていて、彼らの眼前に広がる光景がオレンジ色に染めあげられている。

 

「すっかり夕方だね」

 

「はい」

 

目元に手をかざして庇を作るジーニアス。その言葉に頷くプレセア。それからしばらくの間、二人の間に沈黙が続いた。

 

ところが普段ならば会話が続かないことに焦ってしまうジーニアスも、今この時は沈黙が続いても気にはならなかった。

 

(変な感じ)

 

彼はチラッと横目でプレセアを見る。そこには無表情で前を見つめる普段通りの彼女がいた。

 

「ジーニアス」

 

「う、うん!?どどどどうしたの!!」

 

「? 早く皆さんと合流しましょう」

 

「う、うん!そうだね!あははははは……」

 

そう言ってプレセアは歩を進め始める。チラ見したのがばれたのかとドキドキしながらジーニアスは慌てて彼女を追うように歩き始めた。

 

「今日はとても充実していました。ジーニアスのおかげです。ありがとうございます」

 

「そそそ、そんなことないよ!僕の方こそちょっと強引だったかなーって」

 

「いいえ、そんなことはありません。一人で読んでいたら、きっと気づかないことも多かったでしょう」

 

(あの本でプレセアが気付いたことって、多分著者も想像してなかったことだらけだった思うけどね……)

 

でもまぁ、プレセアが納得してるならいいか。少年はそう結論付けた。

 

「それでは、早速今日から特訓をしましょう。ジーニアス、よろしくお願いします」

 

「! うん!任せてよプレセア!」

 

「はい」

 

胸を叩く少年に頷く少女。二人は少々急ぎ足で仲間たちの元への帰路についた。

 

 

 

~その後~

 

 

「弧月閃!」

 

プレセアが振るう斧がモンスターを切り裂く。

そのまま後方を振り向きざまに斧で一文字に薙ぐ。背後に迫っていたモンスターが吹っ飛ばされていった。

 

「プレセア、あの日から急に強くなったな!」

 

茶髪の二刀流少年がはりせんを両手に構えながら話す。

 

「本当だね~。わっ、貰っちゃったぁ」

 

金髪ロングヘアーのほんわかした少女がニッコリしつつ同意した。ローバーアイテムを敵にかましながら。

 

(まさか、本当にあの特訓が効果あるなんて)

 

ジーニアスがけん玉でモンスターをぶん殴りつつ、プレセアを見る。

本を読んで以降、様々な特訓をこなしたプレセアはすっかり元気を取り戻した。

二度と過ちは犯さないと強く心に秘めた彼女は、真剣に特訓に取り組み、パワーアップしたのだ。

 

(なんであんな特訓で……まぁ、でも元気になって良かった)

 

ホッと一息吐いた瞬間である。モンスターが不意を衝いて飛びかかってきたのだ。

 

「わっ!このぉ!!」

 

攻撃を間一髪避けたジーニアスは、けん玉を思い切り振り下ろす。

 

瞬間、けん玉の糸が切れて、繋がっていた玉が明後日の方向へ飛んでいった。

 

その先には

 

「!?」

 

モンスターを倒しきったばかりのプレセアがいた。

 

玉が彼女の後頭部にクリティカルヒット。

 

ぱたりと倒れるプレセア。

 

 

「プププ、プレセアああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 

戦闘後、プレセアに謝り倒すジーニアスの姿があった。

 

 

おわり。


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