彼らが次に休息を得るための場所は、雅が昔使っていた家。
物事は順調に進んでいるように見えたが、アイツの体は限界だった。
日常が崩壊した世界で見えぬ未来を見るために、戦う少年少女の物語
日常が崩壊した世界で。第14話
「実さん達、大丈夫かな」
窓から外の風景を眺めながらポツリと夏奈が呟く。
時雨達は、雅が何故追い出したのかが薄々、感づいていた。
「大丈夫よ、私の両親よ。少しは信頼しなさい」
「そうだね」
夏奈は再び窓の外に目を向けた。
「錬、今武器は何がある?」
「『金月』『銀月』『更識』 木刀、アサルトライフルとショットガンとスナイパーライフル、あとは包丁だ」
「そうか……ありがとう」
その時、時雨の視界が少々歪む。そして体がいつもより重い。
「時雨君、どうしたのかしら?」
「大丈夫だ。平気だよ、ほのか」
ほのかは腑に落ちない様子で、時雨のことをしばらく見つめた。
雅の言っていた家に行くには高速道路に乗らなければ時間が、かかってしまう。そのため、時雨達は高速道路を目指した。
「本来はシートベルト絶対着用ですが、自ら拘束しては緊急時に動けないということが、おきる可能性があるので着用しなくても構いません」
「おう」
今だ元気なのは錬だけだった。皆どこか疲れている中、彼だけは陽気さを失わなかった。
高速道路は思いのほか空いている。由美は快適に車を走らせる。
グラッ
時雨の重心が傾く。
「時雨君!?」
「お兄ちゃん?」
ほのかは素早く時雨の額に触れる。額は熱く、顔もよく見ればホンノリと赤かった。
「やっぱり貴方、無茶していたのね!」
ほのかの言葉で皆、思い返す。
ほのかの家での防衛、廃屋で立て籠もった時、ほのかの実家に着いてからの防衛……
何かと時雨は先頭に立ち、戦ってきた。肌寒い中。
「由美、次のサービスエリアで必需品を買い足すわ」
「御意」
「それと、くるみ。後ろのトランクの中に水があるはずよ。取って頂戴」
「はい、了解」
夏奈は時雨の手を握っている。その手も、ほんのりと温かかった。
「由美、とばしなさい」
「了解」
由美はアクセルを強く踏み込んだ。
サービスエリアに到着し、由美は速度を落とした。駐車場には複数の車が駐車されている。
「周辺にゾンビが見えたら夏奈、撃ち抜きなさい。錬、付いてきなさい」
「わかった」「りょうかい」
ほのかと錬は帯刀し、夏奈はスナイパーライフルを取り出した。
「行くわよ」
ほのかのタイミングに合わせて、錬も駆け出す。案の定、サービスエリア内にも、ゾンビは存在した。
逃げている最中に感染したのだろう。ほのかは
あらかた片付いてきたので、ほのかは冷却シートを手に取った。
「……うっ」
「ほのか? どうかしたのか?」
「トイレに行きたいだけよ、これを持って早く車に戻りなさい。弾丸を無駄に消費するわけにはいかないんだから」
「おう……」
錬は、ほのかから冷却シートを受け取る。受け取るのを確認すると、ほのかはトイレに向かった。
錬は何か嫌な予感がしたので車に戻ることを躊躇った。そして暫くその場で考え込み、ほのかの後を追った。
「くっ……」
胃から今朝食べたものが出てきそうになる。気持ちが悪い。先ほどのカップルらしいゾンビの首を切り飛ばし時から辛い。
トイレにたどり着き、ほのかは出来る限り素早く個室に駆け込む。内側から鍵をかける。
安心したせいか、ものが上がってくる。結局、嘔吐してしまった。
ほのかの感じていた不安が的中したしまった。この刀を持って再び戦えるかという。
「はぁはぁ……」
思わず肩で息をしてしまう。無敵だと思われ、信頼されている彼女も一人の人間である。心を持っているし、罪悪感もある。
ほのかは周りの人に頼ることをあまりしてこなかった。いや頼り方を知らない、だから辛いのだろう。
「ほのか、大丈夫か?」
扉の外から錬の声が聞こえて、ほのかはドキッとする。彼には車に戻る様に言ったはずだから。
「正直言って、俺とほのかの仲は浅い方だと思う。だから、何て言うか……何も出来ないし、してやれない。だけどよ、お前には頼れる奴がいるだろう」
「え?」
「おいおい、俺に言わせるのかよ。お前は今、誰のために動いて、苦しんでいるんだ? 時雨のためだろ! 初心を忘れるな」
「……そうね」
「てか、俺シリアス系できないからこんなことやらせるなよ。それと、時雨が好きっていうことバレバレだぞ」
そう言って錬は車に戻った。少し時間を空け、ほのかも車に戻った。
「ほのかさん、大丈夫ですか? だいぶ時間がかかっていたみたいで」
「ええ、大丈夫よ」
いつもと変わらない表情で、ほのかは答えた。
「皆様、しっかり掴まっていてください」
由美は再びアクセルを踏み込んだ。
「お兄ちゃん起きないね」
「兄貴は前から自分一人で抱え込む癖があるし……あと寒いの苦手だし」
「そうですね、彼の部屋は夏場以外暖房が付いていますから」
ハンドルを握りながら由美は苦笑した。彼もまた普通の人間だ。
「そう言えば、ほのかさん。お兄ちゃんがいた不良グループってどうしたんですか?」
「当然解散したわ。」
「でも、ほのかさんやくるみさんみたいに強い人がいたし……」
「それじゃあ、時雨君が寝ている間に、その後のお話をしましょうか」
時雨がほのかの家を出て行って自分の本当の家に帰る最後の別れの時、ほのかは顔を上げられなかった。
顔を上げてしまったら、泣き崩れているところを時雨に見せることになる。
だから俯いて時雨と別れた。しかし、その後もほのかは元気がなかった。
新たに側近をつけることもなく、ただただ呆然としていた。
また追い打ちをかけるように、メンバーが手紙をおいて抜けていった。
そこには、時雨の存在の大きさがわかるものばかりだった。
皆、時雨の努力している背中に憧れていたのだ。
「由美、くるみ。大道寺ほのかの名において宣言します。本日をもってグループを解散します」
「御意」
「わかったよ、でもどうするの? このあと」
「由美、時雨君が受ける高校名を調べてほしいの」
「いいのですか? 彼は側近に戻りませんよ」
「……違うのよ由美。私は純粋に彼が好きなの」
「ほのかが感情的になるのは珍しいな。なあ、由美」
「そうですね」
独自のルートと観察力で、由美は時雨の好みを集めた。
ほのかも、ほのかで髪の毛の色を変えた。銀髪から茶髪に。
それだけ、ほのかは時雨のことが好きになっていった。彼のために料理も練習した。いや、し続けた。
「ということよ」
「ほのかさん、かわいい一面もあるんですね」
「うるさいわよ、夏奈」
「てか、やっぱり時雨のこと好きなんだな」
錬が実に面白そうに笑う。その顔を見て、ほのかは握り拳を作る。
「まあまあ、落ち着いてくれ。ひとつ時雨の友人として貴重な情報をあげるからよ。あいつ好きな人が昔からいるらしいぞ」
にやにやと笑いながら錬は情報を提供する。ほのかの思考は完全に停止してしまった。
その様子を見て、みくは外の風景を眺める。
あちこちで火の手があがっているらしく、点々と赤いものが見える。
みくはこの先?生き延びれるかが不安で仕方なかった。それでも、このメンバーなら生き延びれる、そんな根拠が無い自身もあった。
今回のテーマは
錬君に出番を! 過去のお話の続編 時雨君に地味な苦痛を で執筆しました。
いかがだったでしょうか?
面白くなかったと感じる人もいると思いますが、少しでもこの物語が面白いと感じてくれている人がいれば幸いです。
なぜこのシーンを書いたかと言いますと、ほのかや時雨が完璧すぎて共感できないという指摘がTwitterのダイレクトメッセージで届いたからです。
作者的には、どうしても自分が生み出したキャラクターには死んでほしくないとか、目立つようにとか思っちゃうわけですよ。だからこそ、こういう指摘はありがたかったです。さすがに主人公の時雨を今ここで殺すわけにもいかなないので風邪という現実味があるものにしてみました。
次回は、国の動きや警察の動きが書けたらいいなと思っている次第です。
これからも 日常が崩壊した世界で。 をよろしくお願いします。