日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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さようなら

「これで何日耐えられるか……」

 

 

雅から借りている家に戻り、時雨達は話し合いをしていた。今回は運良く成功した食料調達だが、一歩間違えれば死ぬ。正に、死と隣合わせの行動である。当然今回調達した食料もいずれは無くなる。再びこの危険な綱渡りを繰り返さなければならないのだ。

 

 

「そうですね……2日だと思います」

「まじかよぉ……」

 

 

取ってきた時雨より錬の方が何故か落ち込んでいる。しかし、状況は常に悪化している。戦力の維持も難しいだろう。ニュースでやっていたウイルスの件も、まだ未知の部分がある。

 

 

「みく、あなた銃を扱えるかしら?」

「どうでしょう? 持ったこともないので……」

「ふーん」

 

 

そう言って、ほのかは顎に手を当て考え込む。ほのかは、どうにかして遠距離からの殲滅したいようだ。無論、そちらの方が危険性が少ないというメリットがある。

 

 

「そう言えば、なんでほのかは銃を使わないんだ?」

 

 

素朴な疑問を持った錬は、質問を投げかける。ほのかは真顔で

 

 

「私、剣術しか伸びなかったのよ」

 

 

そう言って自分の部屋に戻っていった。みくはメガネをかけ直して、サイドテールにしている髪をほどいた。

 

 

「時雨さん、私にも銃の扱いを教えてください」

「わかった」

 

 

時雨とみくは時雨の部屋に向かった。

 

 

「相川さん、ほのかさんが言っていていた事って本当なんですか?」

「ああ、間違ってはいない。くるみと由美が銃を使っていたから余計かもな」

 

 

銃の扱いを学んだ、みくは装填無しで練習をしている。

 

 

「こう持った方が楽だぞ」

「ひゃ!」

 

 

急に触れられて、みくは頬を紅潮させた。しかし、時雨は全く気にせず指導を続ける。よく思い出せば、時雨の自由な世界にいつの間にか、みくは憧れていた。

 

 

「わかったか?」

「ああ、うん」

「? じゃ、あとは何とかなるだろう。だけど無茶だけはするなよ」

「う、うん」

「あと、このお礼はキチンとしてもらうからな」

「な、何を!?」

 

 

みくは聞きながらも、どこか期待している自分がいた。しかし、時雨の答えは違った。

 

 

「数学のここがわかんないんだ。教えてくれ」

「わかったよ」

 

 

みくはシャーペンを持ち、教科書に補足を書き込みながら説明をした。時折、時雨の表情を眺めると、その表情はゾンビと戦っている時と同じくらい真面目だった。みくは今、この貴重な時間を大切にした。しかし、その時間は、やはりゾンビのせいで打ち砕かれる。

 

 

「時雨! いるか!?」

「錬、どうしたんだ?」

「またゾンビが増えている。今は、ほのかと由美が正面、夏奈とくるみが裏側を防衛している。時雨は正面の方に行ってくれ」

「わ、私も行く! 夏奈ちゃんだって戦っているのに私だけ待機なんてしてられない!!」

 

 

時雨と錬は顔を見合わす。そして静かに頷く。

 

 

「行くぞ、みく」

「ええ」

 

 

 

 

 

「みくは、ここから狙撃してくれ」

「わかった」

 

 

時雨は頷き、ほのかと合流しに向かう。ほのかと由美は互いに背を守るように戦う。やはり銃の方が有利なようである。しかし、時雨は愛刀を抜き構える。

 

 

「時雨君、2時の方向から集団が来るわ!」

「これを捌くのは骨が折れるなぁ」

 

 

そう愚痴を漏らしたときゾンビが仰向け倒れる。振り向くと次の標的(ターゲット)に狙いをつける、みくがいた。時雨は安心してゾンビ殲滅を開始した。時雨とみくが戦場に介入したことにより、戦況は時雨達が有利になっていった。ほのかは刀でゾンビの首を飛ばしていく。由美も両手に銃を構えて、ゾンビの額を的確に撃ち抜いていく。その様子は淡々と作業を繰り返す作業員のようだ。

 

 

「時雨様、お嬢様が拗ねますので余りこちらを見ないでください」

「拗ねないわよ!」

 

 

ほのかは包丁をゾンビの額に突き刺していく。流石の時雨も、あそこまで近距離戦闘(インファイト)は出来ない。そう言った意味では、ほのかはバーサーカーに近いだろう。ほのかと書いて、戦場に舞い降りた悪魔と言っても過言では無さそうだ。順調に周囲のゾンビの殲滅が終わった。その時……。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

背後で、みくの叫び声が聞こえた。3人は、みくの方に駆け出す。駆けつけると、数日前に時雨達を襲った奴らのゾンビだった。由美の放った銃弾はゾンビの頭を貫く。

 

 

「大丈夫!?」

「ほのか……もうダメみたい……」

 

 

そう言って、みくは押さえていた右腕を見せる。その腕は先ほどのゾンビに噛まれたことで出来た歯形がクッキリと付いていた。この世界で噛まれた、ということは感染したということである。このあと、みくは約2時間、苦しんだ挙げ句ゾンビになって襲いかかるだろう。

 

 

「う……ん。完全に……噛まれて……感染しちゃっ……た」

「うそ……よ」

 

 

みくの呼吸は荒かった。

 

 

「ほのか……お願……い。ゾンビに……私が完全に、ゾンビになる前に……殺して」

 

 

ほのかは唇を強く噛み、刀を持つ手は震えていた。以前までの、ほのかなら直ぐに殺せただろう。しかし彼女は、数多くの物を得た。それを失うのが怖いのだ、恐ろしいのだ。

 

 

「……ない」

 

 

涙目で、ほのかは叫んだ。

 

 

「私には出来ない! 初めて出来た友人を殺せない……」

「ほのか。その気持ちだけでも……嬉しいよ。それと貴女はもう少し感情を出しても良いのよ。あの人も……あなたのことを待っているわ。だから……諦めないで……。幸せを掴みなさい……。それと相川さん、ううん、時雨君。私は……あなたのことが好き……でした。あの人を必ず……幸せにしてあげて……ください」

「……ああ」

 

 

みくは、目を瞑った。実に穏やかな表情だった。ほのかは汚れていない綺麗なハンカチで涙を拭き、刀を構えた。

 

 

「みく、ありがとう。そしてさよなら……」

 

 

時雨と由美が見守る中、辺りに血飛沫が飛び、血溜まりが徐々に大きくなる。




今回で、山中みく氏が物語から姿を消します。彼女には大した出番をあげられず非常に後悔しています。しかしこの辺りで、ほのかの心をへし折らないと、ほのかの人間味が出てこなくなってしまうので、第18話で出番を終了させます。


パラレルワールドの みく「本当に終わり!?」
作者「もちろん」
パラレルワールドの みく「そっか」
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