「……さて、ここまで戻ってきたものの、どうするか」
時雨達はのってきた車まで戻ってきたものの、そこから移動するための足がなかった。ここから都心部に行くのに車まで3時間程度はかかる。くるみは安静にするため、車の後部座席に寝かしている。呼吸はしているが、意識はないようだ。由美は何度かエンジンをかけようとするが、車は動こうとしない。
「お嬢ちゃん、それにそこの兄ちゃん。乗っていくかい?」
聞きなれた声が聞こえたので皆顔を上げた。そこには後部座席の窓から顔を出している錬の姿があった。そして運転席の窓が開き、サングラスをかけた海が顔を見せた。
「時雨、久しぶり」
「海さん、くるみが……」
海は急いでシートベルトを外して時雨達が乗ってきた車の中を覗きこんだ。止血された状態で眠る自分の娘を見て少し呆然としたが、直ぐに出血原因などを確認した。
「出血の具合から聞く限り、致命傷はないと思う……。だけど、怪我の原因がゾンビの攻撃となると、どうなるかわからない。とりあえず親戚の医者のところに連れていくけど、あんたたちはどうするの?」
「この資料を国に提出してきます。そして……」
「そしたら、私の家に全員で帰ります」
時雨のセリフを遮るように、ほのかが海に言う。海は頷き、電話を始めた。相手は先ほど言っていた親戚の医者である。数分話し、海に言われて時雨達は車に乗り込んだ。海の車は時雨達が乗っていたミニバンの色ちがいであった。
「道中のゾンビは時間がないから轢いていくから」
そう言って海は力強くアクセルを踏み込んだ。車はその場を去り、都心部へ向かった。助席に乗っていた瞳は自分の子達が自分に気がついていなのでは? と不安になっていた。無論、時雨と夏奈は自分の母親に気がついている。だが、敢えて何も反応しなかった。夏奈はくるみの心配、時雨は持ち出した資料に目を通している。瞳は待ちきれず、自分から声をかけた。
「時雨、夏奈、大丈夫だった?」
「大丈夫なら、今頃普通の生活を送っている」
「大丈夫、心配しすぎだよ」
時雨は実に素っ気なく答えた。その様子を聞いている海は笑いを堪えるのに必死になっている。その様子が気に入らなかったのか瞳は子供のように頬を膨らませている。錬は疲れているのか爆睡していた。車は高速道路を乗り、都心部まで一直線で進んでいった。途中にゾンビが何度か現れたが、ことごとく海が操る鉄の塊に轢かれいく。
「フフッ……雑魚が………」
途中から海の変なスイッチが入っていた。時雨はニヤニヤと笑いながら資料の最終確認を、ほのかは口角を少しだが上げていた。
「もうすぐで都心部に着くから。準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
車はゆっくりと左に逸れた、高速道路を降りる為だ。E○Cのレーンに行き、バーを撥ね飛ばしてそのまま都心の地を走り続けた。
「う、海さん……お金……」
「ん? カウンターに、ちゃんと置いたよ。1000円」
時雨は振り返って見ると確かにお札が窓に挟まれて、風によって揺れていた。時雨は呆然とその様子を眺めていた。
高速道路を降りた車は規定速度ぴったりで一般道路を走行している。時雨はゾンビとの戦闘のせいか、資料を抱えながら眠ってしまった。
「時雨君、資料の内容覚え……あら?」
時雨は気持ち良さそうに寝息をたてている。そして無意識のうちに時雨の体が左右に揺れ、ほのかの肩に寄りかかった。
「にゃっ……!」
さらに時雨は意識があるかの如く体が傾き、ほのかの膝に時雨の頭が乗った。その様子を見た瞳はイタズラっ子のように口瓊手を当てニヤニヤと笑った。その様子を見たほのかは右手を震わせる。それを察知した瞳は直ぐに前を向き、海に色々話しかける。勿論、海は何も聞いてないフリをする。
「ん……。ハッ すまない、ほのか。スカート汚してないか!?」
「別に汚れてないわ」
「私の息子って、鈍感なのかな……」
「鈍感なのは貴女よ、瞳」
「え!?」
戸惑う瞳を余所に笑い声をあげながら海はハンドルを握る。
「国の長がいるのは、この建物。でも気を付けなさい。他の生存者に狙われるから」
「大丈夫です。俺は今死ぬわけには……いかないんで」
後ろのドアを開け、振り返りながら時雨は資料を片手に微笑んだ。そして颯爽と建物の前にいるガードマンと話を付け、中に入っていった。その光景をみた海は何かに納得したようで、言葉でこう表した。
「あれじゃあ、うちの娘やほのかの心を奪えるわね」
「な、何言っているのですか、海さん?」
「何でもないよ……」
その頃、時雨は建物内を走っていた。途中、何度も「走るな」と言われたが時雨は耳を貸さずに走り続けた。ドアを次々に開けるが、施錠されているか、誰も居ないかの2択だった。
「畜生……どこだ!?」
内心、時雨は次の部屋に居なかったら諦めようとしていた。だが、彼には主人公補正がかかっているようだった。扉に手をかけ、力強く押した
「何者だ!」
「……呑気に会議している人間は、ここか?」
若干息が上がっているが、時雨はハッキリと口にした。
「警察を呼ぶぞ!」
「呼べばいい。今、警察はほとんど機能していない。それだけじゃなく、この国自体が機能を停止している」
「……」
「何も言えないようだな、これは追撃のチャンスだな」
そう言って時雨は持っていた資料を机の上に投げた。そして椅子と机に乗り、資料の説明を始めた。
「この資料はファールゼード社の研究室から持ち出した物だ。ウイルスの対処もゾンビの活動限界の計算式まで載っている。まあ、無駄にしないでくれよ。こっちも命懸けで見つけ出したんだからな」
そう言いながら時雨は机から飛び降り、靴紐を結び直した。周りの人間達は資料を両手に、何やら話している。国の長はただただ、靴紐を結び直している時雨を見つめていた。長の脳裏には様々な事が余儀っていた。この少年は如何にして生存したのか、どうやってここまで来たのか……。そして、この子は何者なのか……。
「き、君は……何者なんだ?」
「……」
時雨はドアに手をかけな出ようとしていたところを呼び止められ、首だけで振り向きハッキリと答えた。
「時雨です、相川時雨。普通の高校生ですよ」
「普通って……」
時雨は笑いながら手をヒラヒラと振り、その場をあとにした。走って来た道を今度はゆっくり鼻唄混じりに歩く。それと同時に時雨はあることに気がついた。
「……やべぇ。出口どこ?」
自分が軽度の方向音痴を持っていることを忘れていた。スマホも車の中に置いてきてしまっているため、連絡がとれない。近くに人が居ないか見回すが、誰もいない。
「迷子ですか? お坊っちゃま」
「ん? ほのかか」
「まったく、肝心な時に方向音痴が出るなんて……。情けないわね、時雨君」
そう言って、ほのかは出口に向かって歩き始めた。時雨はその後ろに黙って付いていった。
「時雨君、このあとどうするの?」
「自宅に帰る前に、早紀さんに心配かけたからな。顔出しくらいで、ほのかの家に寄ろうかと思ってるが?」
「泊まっていきなさい。もうすぐ夜よ?」
「じゃあ、そうさせてもらう」
そんな話をしているうちに出口に着いた。しかし、そこには車は姿を忽然と消した。そして、くるみと海もいなくなっていた。
「親戚の医者の元に早く行きたいから置いていかれた……」
「武器は、ちゃんと置いていってくれたんだ」
結局、車がないためただ呆然と1時間ほど待った。1時間経って、ほのかがあることに気がついた。スマホを取りだし、自宅ではない番号に電話をかけ始めた。
「あと50分でお母様が迎えに来るわ」
「そういうの、もっと早くやってくれ……」
「忘れていただけよ」
決め顔で、ほのかが言った。錬は呆れながらも1人で大爆笑をしていた。その後、時雨の肩を叩く。
「少しでも、時雨と一緒に居たいからだぞ」
「そんなわけあるか。死と隣り合わせの世界にいるんだぞ。ましてや、ほのかが俺のこと好きなわけ……ないだろ?」
「……そうよ」
ほのかは少し元気がなかったが、反論はした。しかし、錬は納得がいかなかったようで考え込んでいた。その後無言で、しばらく待っていると1台の車が時雨達の前に停まった。
「お待たせ。早く乗って」
「お願いします」
「貴女、アイちゃん?」
「そうよ、殺戮のアイよ」
何やら物騒な会話をしている隣を高校生と中学生は通り抜け、車に乗り込んだ。夏奈は瞳を早く車に乗るように急かした。瞳を乗せ、点呼を取り車はほのかの実家に向かって走り始めた。
ゾンビ出てねえええ! とか怒らないでください……お願いします。
話が変わりますけど、スイートプリキュアのキュアビートってかわいいですよね。エレンちゃん、かわいい。……。
……。
……次回またお会いしましょう。