日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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さて、いよいよ物語も平和な方へ進行中。
サービスシーン? 知りませんね。今回は今までで一番多くなりそうです。
それでは、あとがきで。


未来にかける思い

結局、ほのかの実家に到着した頃には日が暮れてしまった。それでも、庭では(みのる)(みやび)が待っていった。実は腕を組んで仁王立ちして構えた。そして対称的に雅は車を見つけるなり、手を左右に振る。その度にたわわに育ちきった胸が揺れていた。

 

 

「ただいま、貴方~」

 

 

敷地内に車を停めて早紀は車を降りて実に向かって飛びついた。実もいつもの険しい表情が緩みきっていた。後部座席に座っていた由美は一度降りて運転席に乗り込んで座席の位置を調整した。

 

 

「私が代わりに車を車庫の中に入れてきますので、お嬢様、時雨様、錬様、夏奈様、車を一度降りてください」

「わかったわ、お願い」

 

 

そう言って時雨達は早紀達に近づいた。その際、真っ先に雅が時雨に抱きついた。その時、時雨の顔に雅の胸が当たる。雅はサラシを巻いているが、それでも感触だけは与え続ける。そうして時雨の思考を徐々に奪い始めた。時雨は顔を真っ赤にしてジタバタと、もがく。もがく時雨の肩を掴んで、ほのかは雅から時雨を引き剥がす。雅は一瞬驚いたようだが、ほのかの目力(めぢから)によって阻止された。

 

 

「外を見なさい、時雨君」

「ゾンビか……」

「時雨、ほのかよ、下がりなさい。ここは私が行く」

 

 

そう言う実だったが、足元がおぼつかなかった。どうやら連日の業務が襲ったのだろう。しかし、実は諦めようとしなかった。自分の娘とその仲間くらい守れるはずと信じているからだ。その様子を見た時、時雨はあることを感じた。

 

 

「……実さん。俺が行きます。俺が、ほのかの背中を守りますよ」

 

 

時雨は実に微笑みかけて、ほのかの背中を追った。実もあとを追おうとするが、それを雅と早紀に肩を捕まれて止められる。実は驚き振り返る。雅と早紀は実に向かって首を左右に振った。実は再び、時雨の背中を見た。刀を抜き、守りたい一心の時雨の背中を……ただただ見るしかなかった。

 

 

「時雨君なら来てくれると思ったわ」

「当たり前だ。俺は一度は退いた身だが、お前の右腕だぞ。しかも、お前は俺が去ったあと右腕を指名しなかっただろ」

「さあ、どうでしょうね」

「まあ、いいや。あとで話がるから」

 

 

ほのかは、口角を少し上げ反応を返す。そして口を何度か開閉して言葉を紡いだ。果たして、それが時雨に届いたのかは時雨本人しか知らない。時雨とほのかは鞘から刀を抜き、構えた。時雨は既に理解していた。ゾンビの行動限界の時間を。ゾンビの行動限界は、完全にゾンビになってから個体差があるが、1週間で行動を完全に停止する。だが、それまでに新たに感染者が増えてしまえば国民が全滅しない限り終わらない。

 

 

「時雨君、後ろ」

「!?」

 

 

時雨は素早く後方を向き、刀を水平に振った。ゾンビの体から頭が切り離され、切り口から血が空中に舞う。さらに手を止めることなく次々とゾンビを倒していく。時雨は目を細め、振り返った。その背後に戦隊ものの勝利演出の爆発などが似合いそうである。

 

 

「まだ……か」

 

 

ほのかは、刀を垂直に振る、振る、振る。1体でも多く倒すために。途中、時雨の愚痴には耳を傾けずに淡々と戦い続けた。その結果なんとか30分でゾンビを片付ける事ができた。

 

 

「終わったようね。戻りましょ」

「……ほのか、待ってほしい」

 

 

時雨は俯きながら、ほのかの手首を掴んだ。ほのかは振り払うことなく、その場で足を止めた。

 

 

「何の話? 次の防衛についての話かしら?」

「……俺は……お前……いや、ほのかのことがずっと前から好きでした。付き合ってください」

「まず、手を放してもらえる?」

 

 

時雨に手を離してもらった、ほのかは呆然としてジト目で時雨を見つめた。

 

 

「何を言っているのかしら?」

「いや、だから……」

 

 

辺りに沈黙が流れる。完全に時雨はタイミングを間違えたのだろう。しかし、このタイミングしかないと思ったからだ。

 

 

「そもそも、時雨君の言っているあの人に告白するんでしょ? それであの人って言うのが雅でしょ」

「は?」

「雅のように可憐で明るくて、む、胸が大きい人が好きなんでしょ」

 

 

時雨はなんと返したら良いのか分からなくなっていた。この状態で何を言っても負のスパイラルから抜け出すことができない。

 

 

「何を勘違いしているかよくわからないが、俺が口にする『あの人』って言うのは、ほのかのことだぞ?」

「……え?」

 

 

ほのかは珍しく顔を真っ赤にして、家の中に入ろうと走り出そうとした。その左腕を時雨は無言で掴んだ。そして、泣いていることを悟られないように、変に力まないように気を付けながら、ほのかに聞いた。

 

 

「……出来れば今ここで、ほのかの答えを聞きたい」

「……私の……答え……」

 

 

しばらく空を眺めた、ほのかは左右に顔を振り少し考え込んだ。どうやら、答えが思い付いたようで、真顔で時雨に伝えた。

 

 

「What makes me happy is your smiling face.よ」

「ほのか、すまん。英語と数学は苦手なんだ。今のは、どっちなんだ?」

 

 

ほのかは顔を赤く染め、モジモジしている。そして、はっきりと叫んだ。

 

 

「そうよ! 私、大道寺ほのかは、相川時雨のことが4年前から好きなのよ! 大好きなのよ! 死ぬほど好きなのよ。普段は素っ気ない振りをしたし、悟られないように感情だって表にあまり出さない様にしていたのよ!!」

「と言うことは……昔から俺達、両思いだったんだな」

「そ、そうね……」

 

 

ほのかは笑った。その笑顔は、少女のあどけなさを残しつつも、大人の女性の美しさを併せ持っていた完成された笑顔だった。その笑顔に見とれていた時雨に近づき、ほのかは彼の胸に手を当て自分自身の唇を彼の唇に重ねた。時雨も最初は驚き、目を見開いたがやがて目を閉じた。

 

 

「時雨~、生きてるか! 戻ってくるのが遅いから心配……」

 

 

絶妙なタイミングで時雨が戻ってこないのを心配した錬がひょっこりと顔を出した。錬は、真顔になる。

 

 

「……お邪魔しました(ごちそうさまでした)

「!?」

 

 

完全にキスに集中していたほのかは、錬が現れたことに気づいていなかった。表情を豊かに変える。時雨は、ほのかの腕を掴み笑った。ほのかもそれに釣られて笑った。

 

 

「戻ろっか」

「そうね」

 

 

時雨の肩にそっと寄り添い敷地内に戻った。

 

 

 

「ようやく、くっついたのね」

「ほのかに、グイグイ行かないと時雨はものにできないと言ったのにね……。変なとこで奥手なのよね」

 

 

母親2人は恋話に花を咲かせている。恋人繋ぎでてを繋いでいる時雨とほのかは、その様子を見て思わず苦笑いして見つめあった。ふと、瞳はあることに気がついた。

 

 

「そう言えば、時雨が大道寺を名乗るの? それとも、ほのかが相川になるの?」

「それは決まっているわ。私と時雨君……時雨で。大道寺グループを継ぐわ」

「そうなると、経済系の勉強もしないとだな」

「私が社長で、時雨は優秀な補佐になってもらうわ。もちろん経営の協力もしてもらうわ」

 

 

瞳は、自分の息子に恋人が出来たのと同時にもうじき息子が家を出ていくのが目に見えてきたようで涙を流していた。その肩を早紀が優しく撫でていた。

 

 

「早紀様、夕食の準備が整いました」

 

 

車を駐車が終わった由美は調理も済ませたらしい。時雨とほのかは恋人繋ぎで建物の中に入っていった。そのあとを瞳たちも続いた。

食堂に着き、皆の前に並べられたものを見て、時雨は目を輝かす。時雨の大好物のオムライスだった。オムライスの上にはケチャップで『ほのかさまをよろしく』と書いてあった。由美なりの、ほのかに対する思いなのだろう。時雨は由美の方を向いてウインクをした。由美は一礼して、その場を去った。

 

 

「いただきます」

 

 

瞳は早紀と思い出話で盛り上がっていた。オムライスをつまみながら、日本酒で頬を少し赤くしていた。食事が終わり、酔いつぶれている3人を見て、それぞれの子供達は唖然とした。部屋まで運ばなくちゃ行けないからである。それぞれ、おんぶして部屋に運んだ。ただ、早紀に関しては実がお姫様抱っこで運んで行った。

 

 

「……」

「お兄ちゃん、お母さんは私が運ぶから!」

 

 

それだけ、言い残し夏奈は素早く瞳を抱き上げ客室まで運んでいった。

 

 

「時雨、私も……お姫様抱っこしてほしいな……」

「はいよ、お姫様」

 

 

そのまま、ほのかを抱え上げほのかの部屋の前まで送った。

 

 

「じゃ、俺は風呂入ってから寝るから。おやすみ、ほのか」

「私もお風呂入るわよ」

「そうか、先どうぞ」

「一緒に入るの!」

 

 

ほのかは時雨の右腕を掴み、薄らと涙を浮かべていた。時雨は苦笑いを浮かべたものの了承した。ほのかの準備が終わるのを待ち、時雨の部屋に行き、荷物を持ち浴槽に行った。

 

 

「誰もいないようだな。荷物も無いし」

「2人きりになれるね」

 

 

時雨はそっぽを向き、素早くタオルを巻き浴室に入っていった。ほのかも丁寧にタオルを巻き中に入っていった。体を洗い終わり、浴槽に浸かり深い息を漏らした。

 

 

「どうしたの、元気ないわね」

 

 

時雨の背中にピッタリとくっつき抱きつく。時雨は満更でもない表情を浮かべていた。

 

 

「何でもないさ、ただ……幸せだなって」

「日常が無くなり、国が崩壊しているのに?」

「それでも、俺はこうしてほのかと恋人になれたからな」

 

 

ほのかは恥ずかしそうに口元まで沈め、気泡をたてている。時雨はほのかの頭を優しく撫でた。ほのかも満更でもない様子だった。

 

 

「しっぐれー! お疲れ! 背中流すぞ!」

 

 

扉を勢いよく開け、錬が浴室に姿を現した。ほのかの目が鋭くなり勢いよく浴槽を飛び出し、錬の首元を掴んだ。

 

 

「……一撃気絶させないわ。私と時雨の時間を邪魔しないで……」

「わ、わかった。わかったから」

 

 

気を緩め背中を見せた錬の首を狙い、斜め45度で手刀を叩き込み気絶させる。

 

 

「くるみ、いるわよね。錬を部屋まで運んでちょうだい」

「了解です。お嬢様。それと……」

「それと?」

「タオルが、はだけています」

 

 

ほのかは慌てて確認するが、タオルは浴槽に浮かんでいる。ほのかは顔を徐々に赤く染め、上と下を隠した。

 

 

「お嬢様、逆に色っぽいですよ?」

「くぅ……」

「見えてないから、見てないから!」

 

 

時雨も気をきかせ、既に後ろを向いていた。再び、ほのかは肩までお湯に浸かったが辺りは沈黙で包まれていた。

その後、何事もなかったように部屋までほのかを見送り、時雨も自分の部屋に戻った。部屋に戻り、カーテンを開け窓も開けた。空には満月が煌々と輝いていた。

 

日付が変わり、翌日。

時雨は目覚まし時計の音で目が覚めた。ゆっくりと起き上がり、目を擦った。

 

 

「時雨様、おはようございます。いきなりですが、お嬢様とのキスはどうでしたか?」

「な、何を言って……」

「なさったのでしょう?」

 

 

時雨は目を反らし子供の様にそっぽを向いた。その反応を見て由美は、やんわりと笑い時雨に語りかける。

 

 

「私の役目も……終わりのようです。私は、あくまでもお嬢様のお相手様が見つかるまで側にいるという契約内容ですので。時雨様、お世話になりました」

 

 

由美は深々と頭を下げた。時雨は、ゆっくりとベッドから出て由美に顔を上げるように言う。

 

 

「時雨おは……」

 

辺りに高い音が響く。時雨が真顔で由美の頬を叩いたからである。その様子をほのかは陰ながら見守ることにした。

 

 

「……俺が居るからってなんで由美がこの家を出ていくことになるんだ!? 昨日の夜だって真っ先に頼ったのは俺じゃない。由美だろ!!」

「……」

「あいつには、まだお前が必要なんだよ」

「朝ぐらい静かにしてよ」

 

 

頭を押さえながら早紀が顔を表した。どうやら二日酔いの様子である。

 

 

「由美~。二日酔いに効くもの用意して……。」

「は、はい。了解しました」

「あー、言い忘れてたけどほのかの子守りが終わっても私のメイドとして活動してもらうから」

「はい!」

 

 

時雨は朝食はいらないと言い、道場に向かった。道場の扉を両手で開ける。しかし、そこには自分を殺したい程愛していると言ってくれた、くるみはいない。そんな寂しそうな背中をほのかは、ただ見つめた。何と声をかけたらいいのかわからなかったからだ。

 

 

「ん、ほのかか」

「くるみのことを考えていたの?」

「まあな……。やっぱり心配だからな。俺がもっと早くゾンビの攻略法を見出だしていれば、アイツは生死をさまようことはなかった」

「それでも、それはあの子が自分で選んだ道よ」

 

 

道場から庭を見つめながら、2人はくるみの生存を願った。

 

その頃、時雨によって資料を叩きつけられた国の長達も重い腰をようやく上げ、行動に移った。具体的には解毒剤の生成の依頼を出したり、感染者の隔離、そしてゾンビの殲滅。生存者の保護だ。

解毒剤の生成に大道寺グループが手を貸したことを時雨達はまだ知らない。




皆さん、こんばんは作者です。無事、終着点スレスレまで来ました。スレスレというのは、自ら課した制約で合計文字数が10万文字突破、平均文字数3000文字以上維持がありまして、ここまで書いて約9万1000文字です。10万文字まで約9000文字ですが、これに関しては、平和になった世界を書こうと考えています。夏奈(時雨の妹ですよ)が将来何になるかとか、気にならないですか!?
と、いうことでご理解とご協力をお願いします。
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