日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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ほのかの実家に着いた時雨達。
彼らの気は微かに緩んだ。
それでも、ゾンビの群れはやってくる。
今回、ほのかの母親の早紀が戦闘モードに。


母は強し

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

黒服の男性が頭を下げる。

ほのかは首を傾げ時雨に耳打ちをする。

 

「早く入浴したいからそこを退いてだそうです、それと伝言をお願いします」

「これは、失礼しました」

 

黒服の男性は素早く避け、道を開けた。ほのかは、真っ直ぐ大浴場に向かった。

時雨は、黒服の男性に耳打ちした。男性は頷き、移動を始めた。

時雨は早歩きで、ほのかに追い付く。

 

「ほのか、さっきの人は誰だ?」

「新入りよ、多分」

「多分って……」

 

ほのかが実家にいない間に、人事異動とかがあったのだろう。

彼女達は風呂場に向かった。

 

基本的に、ほのかの家は混浴だ。

時雨はそのことを気遣い、ほのかに先に入るように勧めた。

 

「あら? そんなこと気にする必要は無いわ」

「え」

 

時雨は無理矢理、脱衣所に引き込まれた。

 

 

 

「時雨達遅いな」

 

リビングで足をパタパタさせながら、錬は呟いた。

 

「錬様はいらっしゃいますか?」

「錬は俺ですけど……」

 

黒服の男性は安堵の表情を浮かべ、直ぐに真顔に戻った。

 

「時雨様からの伝言です。入浴したいから遅くなるだそうです」

「はいはーい、了解。伝言ありがとうございました」

「それと、時雨様の妹様はいらっしゃいますか?」

「はい?」

 

夏奈に伝えられた内容は、夕食の料理よろしくという内容だった。

夏奈はため息混じりに由美の案内でキッチンに向かった。

 

残された2人に重たい空気が流れる。

2人には共通の話題がない。

趣味も合わない。

正に最悪の組み合わせだと言っても過言ではないだろう。

2人とも黙って誰かが戻ってくるのを待った。

 

 

場が変わり、脱衣所。

 

この前とは逆に、今回は時雨が後から入ることになった。

普通の高校生なら、女子との混浴は楽しく、嬉しいものであろう。

だが彼の場合、根本的に違う。

時雨は、ほのかの恐ろしさをよく知っているからだ。

 

「どうしたの?」

「い、いや、何でもない」

 

時雨は最速で移動し、体を丁寧に洗い始めた。

後ろに視線を感じる気がするが、時雨は敢えて無視(スルー)することにした。

 

「時雨君の背中、昔と変わらないわね」

「そういうほのかは、変わりすぎだ」

「あら、そう?」

「昔は……こう……えっと、もっと怖かった」

 

肩に着いた泡を流し、ほのかと背中合わせで湯に浸かる。

 

「私って……そんなに変わったかしら」

「ああ、変わったさ」

 

空は綺麗な夕焼けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう少しコストを減らせないかしら」

 

書類という名の紙切れを見つめ、早紀の口から愚痴が溢れる。

溢れるのも仕方がない、彼女は睡眠時間を割いて業務に当たっている。

 

「それ以上は無理であろう」

「あら、帰ってきていたのね。(あなた)

「ああ」

 

大道寺(みのる)

早紀の夫であり、ほのかの父親だ。

早紀を影ながら支えてきたのは、間違いなく彼だ。

 

「我が娘が帰ってきているようだな」

「ええ」

 

山積みとなっている書類に、目を通しつつ早紀は頷く。

会話をしている間にも、捌かなければならない書類はある。

 

コンコン

 

「開いているよ」

 

黒服の男性達が入ってきた。

それぞれ帯刀しており、帽子を深々と被っている。

 

「実様! ゾンビの第2陣がこちらに向かってきています」

「わかった、私が行こう」

「いえ、私が行くわ」

 

最後の資料に目を通し終わった早紀が肩を回しながら立ち上がった。

その目は、娘達と会話している時とは大きく異なり、鋭く輝いていた。

 

「それに、娘達は出られない。お楽しみ中だからね」

「どういう意味だ?」

 

ヒールで足音を奏でながら、早紀は扉を両手で開けた。

お団子ヘアーを解き放ち、玄関の方に歩いていく。

 

「早紀さん、何処か行くんすか?」

 

リビングから偶然顔を出していた錬が早紀に尋ねた。

しかし、既に早紀は戦闘状態に入っている、錬の声は今の彼女に届くことはない。

 

 

 

外のゾンビの量は、ほのかと時雨が片付けた時の数倍の差だった。

それでも早紀は歩を止めることはなかった。

自分の背中には守りたいものがある。

 

「そう言えば、ほのかに銃の扱いは教えておくべきだったね……」

 

塀の上に立ち、ゾンビの姿を眺める。

まだゾンビは集まりきっていなかった。

 

「チャンスね」

 

塀から降り、着地する。

それと同時に左の太もものホルダーから、ハンドガンを手に持つ。

 

ダダダダダ……

 

辺りに銃声と硝煙が立ち込める。

早紀は夜中の襲撃を減らすために、()()()音が出る武器を使用した。

 

パーン

 

百発百中とまでは行かないものの、早紀は驚異的な的中率でゾンビを倒していく。

 

「怖いのは弾切れのタイミングとゾンビの波が、ぶち当たった時くらいかな」

 

呟きながらも速業で弾を補給する。

しかし限界がある。

このままのペースで諸費し続ければ、あと20分には文字通り手ぶらになる。

早紀もその事を承知で射ち続けている。

 

弾切れが先か、ゾンビ殲滅が先か……。

 

だが、早紀は膝を大地に着けた(いな)、着いてしまった。

体力切れだ。

 

「やっぱり歳かな……」

 

早紀は狙われにくくするため、常に動きながら射撃している。

つまり体力の消費が激しく、ここで体が限界であると叫んでいた。

 

「それでも、私は殺る」

 

ゆっくりと立ち上がり、塀に寄りかかる。

既に早紀の体力は皆無と言っても過言ではない。

連日の過労のせいだろう。

それでも、ハンドガンを構える。

体の軸はブレないように、トリガーを引く。

彼女を動かす原動力は、幼い頃のほのかの笑顔だった。

 

「ほんとに笑わなくなったな……あの子」

 

ゾンビの額に次々と弾を当てていく。

 

「射的は得意なんだよ!」

 

どんなに疲れていても、過酷な状況に(おちい)ろうと、彼女は楽しむ事を忘れなかった。

 

ダダダダダダタ……カチッ。

 

「弾切れ!?」

 

早紀は、素早くホルダーを確認する。

太ももには、(から)となったホルダーしかなかった。

 

「全く、時雨(アイツ)と違って私は運が無いな。でもな」

 

早紀は右の太ももに、つけられた2つ目のホルダーに手をかけた。

黒いナイフホルダーには白い文字で、『You to the nightmare』の文字が書かれていた。

 

ナイフ(コイツ)が今の相棒よ!」

 

斬 斬 斬

 

早紀は、これまた的確にゾンビの頭を攻撃していく。

体は既に悲鳴をあげていた。

 

「肩凝るわね」

 

薄らと笑ってみせるが、頬には大粒の汗が流れていた。

それでも早紀は手を止めなかった。

手首を上手く使いナイフを操っていた。

ゾンビの血飛沫が、高そうなエンパイアドレスに付着する。

しかし、早紀はそれを気に止めず、攻撃を続ける。

 

「これでラストね」

 

早紀は最後の一体のゾンビの額に突き刺し、ナイフを引き抜いた。

彼女は、この戦闘で一言でゾンビと言っても数種類いる事に気づいていた。

 

普通のゾンビ

走ってくるゾンビ

力強いゾンビ

這いずっているゾンビ

 

早紀が戦闘した限りでも、これだけの種類のゾンビがいた。

 

早紀は塀に寄りかかり腕を額に当てる。

 

「戻らなきゃね」

 

早紀はゆっくり立ち上がり、1つため息をついた。

腰に手を当てて、戻った。

 

「お母様!!」

 

玄関から風呂から上がってきていた、ほのかが早紀に駆け寄ってきた。

ほのかにしては珍しく、目に涙を浮かべていた。

早紀の厳しそうな表情が、少しだけ緩んだ。

早紀は、ほのかの頭を撫でながら呟いた。

 

「ああ……ただいま」

「お母様、無茶しすぎです」

「わかった、わかった」

「わかってないです」




更新が、少し遅れてすみません。
次回ですが、出来るだけ早く更新できるよう最善を尽くします。
気長にお待ちください。
そして、感想や評価をつけて下さった方々、本当にありがとうございます。
皆様の評価や感想が制作の意欲に繋がっていきます。
よろしかったら、お願いします。
葉月雅也でした。
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