しかしまだ半分ほど?と言ったところ……。
―
そんな私達を睨んでいるボルボロス。その頭殻にある
怒り――それはほとんどの生物が持っている感情です。私達人間はもちろん、モンスターも当然持ち合わせていますね。
小型モンスター、特に草食種などは反撃をしてくる程度ですが、これが大型モンスターともなると怒り状態のパワー、そしてスピードは凄まじいもの。ガンナーである私は、その一撃が命取りになるので油断は出来ません。
ボルボロスの怒り状態での突進は非常に驚異ですからね。通常時でもその威力は危険ですが……。
そして何より獣竜種の特徴として、脚を攻撃して怯ませても怒り状態では踏ん張って一切転倒しない、という厄介極まりないものがあります。こちらにも注意が必要ですね。
硬直していた身体も回復し、これで動けると思ったその瞬間。土砂竜はほんの少しの動作から、勢いよく全身を使い体当たりを仕掛けてきました。
「おわっ!?」
「――ッ!」
兄さんは転がるように回避して難を逃れましたが、僅かに反応が遅れた私は、これをまともに受けてしまいます。
「アリシア!」
「ぐ――ぁっ!」
「この……!」
衝撃で吹き飛ばされ、泥沼へ叩きつけられるように倒れる私に、ボルボロスは更に噛み付こうと迫ってきます。ですが兄さんがその間に走り込み、土砂竜の前脚に一太刀を浴びせて気を逸らしました。
私はその隙に起き上がり、身体の状態を確認します。全身を包むジンオウSシリーズのおかげで、ダメージはそれ程ではないみたいですね。
……泥沼に突っ込んだおかげで、そこら中泥まみれではありますが。
「やってくれましたね……」
反応出来なかった私が悪いのですけれど。まぁ天然の泥パックが使えて良かった、と思う事にします。
――はぁ、ロックラックに帰ったら髪は念入りに手入れしないと……。
ボルボロスの気を引いていた兄さんは、立ち回りながら横目で私を見ます。それに私は頷いてから五本の矢を手に取り、アイシクルボウⅡにつがえて土砂竜の背後へ。
「ふぅ……――――ハァッ!!」
兄さんに噛み付こうとしていたボルボロスに撃ち放った五本の矢、そのうち四本が命中し、矢先から氷が弾けます。それにより土砂竜は攻撃を中断して、私を再びその視界に捉えました。
その隙を突いて兄さんが切りかかりますが、私を正面に見る形で移動しながら向きを変えた事で、
「チッ!」
更にボルボロスは数歩後退し、頭部を下げて地面に着けたと思うと、今度は凄まじい勢いで私達に向かって突進してきました。
迫る土砂竜を前に、兄さんは咄嗟に右へ身を投げ出して
嫌がるような仕草を見せたボルボロスは私を見るや否や、縄張りである泥沼へ一目散に向かって行きました。剥がされてしまった泥を、再び全身に纏うつもりなのでしょう。
「それは困ります……ねッ!」
アイシクルボウⅡに矢をつがえ、泥浴びをしている土砂竜の真上に向けて放ちました。その矢は無防備なボルボロスの直上で破裂し、無数の破片が降り注ぎます。
範囲外にいた兄さんは、破片が全て落ちてから攻撃に向かいますが、同時に泥浴びも終わったみたいですね……。土砂竜が起き上がってしまいました。
外敵が近付いてくる事に気付いたボルボロスは、その存在――兄さんに勢いよく頭殻を振り下ろしてきます。
「くそッ!」
ちょうど正面だった兄さんは懐に飛び込むようにして回避すると、その後ろで大きく泥が弾け飛びました。
土砂竜の股下をくぐり抜けた兄さんはすぐに振り返って攻撃に移ろうとしますが、当のボルボロスは私どころか兄さんすら見ずに背を向けて歩き始めます。しばらくすると、前脚の爪を使って地面を掘り始めました。
地中に潜った土砂竜。移動する際に出る土煙を見ると、どうやらエリア4に向かったようですね。ペイントボールの匂いも、同じ方向から漂ってきます。
私はアイシクルボウⅡを折り畳んで背中に収め、砥石を使って夜刀【月影】を研いでいる兄さんの側に駆け寄りました。
「兄さん、お怪我はありませんか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。アリシアこそ、あの体当たりを受けただろ?平気か?」
「はい、防具のおかげでそこまでのダメージではありません。……全身泥まみれなのは問題ではありますが」
顔に少し付いた泥は半乾きになり始めていますし、防具の隙間からも入ってるのも気持ち悪いのですね……。
「まぁボルボロスとやりあって、そうなるのは仕方ないだろ」
笑いながらそう言った兄さんは、研ぎ終わった夜刀【月影】を
「終わったぞ」
「ではこのまま、ボルボロスを追いましょうか」
「よし!」
私と兄さんは互いに頷き合い、ボルボロスの後を追ってエリア4へと向かいます。
◇
―砂原(昼)・エリア4―
砂原のやや東部、中央付近にあるエリア4。ここも砂漠地帯に近いことから強い日差しが照りつけますが、エリア3と同様にドリンクを飲まずとも熱に体力を奪われる心配はありません。
そのおかげか、ここには暑さに強いリノプロス以外に
「こちらから近付かない限り、向こうから襲ってくる事はないでしょうが……」
厄介なことに今回の砂原には、狗竜のボス――ドスジャギィの存在も確認されている点です。
――今はまだ実際にその姿を見ていませんが、ここで現れると最悪ですね……。
エリア4に移動したボルボロスは先程まで鼻孔から出ていた鼻息は収まり、今度は口から
生物である限り、疲労というものに無縁ではありません。古龍は別としてですが……それはさて置き。とにかくモンスターであっても、生きている限りは疲れが溜まります。この疲労状態になると普段よりも行動が遅くなったり、ブレスが出ないといった変化が見られますね。
「アイツも疲れが出てきたみたいだな」
「そのようです。ここで畳み掛けたいですが、そう簡単にはいかないでしょうね……」
「だがチャンスなのは変わらないだろ? じゃあ、一気に行くぞ!」
兄さんはそう言って、ボルボロスに向かって駆けていきます。
全く……そういう所は頼りになりますけど、それでももう少し兄さんは慎重になった方がいいですよ。
ボルボロスは兄さんから攻撃を受けるものの、疲労状態にあるためか、すぐに反撃をする事が出来ないようです。
私はアイシクルボウⅡに装着していた強撃ビンを接撃ビンへと切り替えて、土砂竜に近い位置から頭部と胴体を狙って矢を放っていきます。
兄さんの斬撃と私の射撃で再び剥がれ落ちていく泥。左の後脚から泥が剥がれると同時に、踏ん張る事が出来なかったボルボロスは転倒し、その巨体を地面へ横倒しにしてしまいました。
「今だ――ッ!」
隙だらけになったところを狙い、兄さんは再び練気を開放して気刃斬りを繰り出していきます。
「はああぁぁッ!!!」
夜刀【月影】を大きく左右に振って連撃、ボルボロスの尻尾に狙いを定めて振り下ろします。更にそこから体を捻り気刃大回転斬りで切り裂きました。しかしまだ切断には至らないようですね……。
納刀する兄さんの背後で土砂竜が起き上がりますが、入れ替わるように私も矢を放って攻撃していきます。疲労状態のところをこれだけ攻められれば、かなりのダメージになったはずです。
起き上がったボルボロスは近くにいた私を見つけるとその場で回転し、尻尾で追い払おうと攻撃してきました。
「――っ! はぁッ!!」
私は後方へ跳ね、距離をとって回避。尻尾が眼前を通り過ぎてから、今度は土砂竜の背後から矢を射ちます。
その私の横を兄さんが走り抜けて、再度ボルボロスへ。夜刀【月影】を抜刀すると同時に、先ほど切断出来なかった尻尾に狙いを定めて振り下ろすと、遂にその尻尾を切る事が出来ました。
「よし、いい調子だ!」
「油断は禁物ですよ?」
「あぁ!」
痛みとバランスが崩れたことで、ボルボロスは地面に倒れていましたが、またすぐに立ち上がります。向こうもまだまだやる気、のようですかね……。
しかし土砂竜は私達を見ていたかと思うと、エリア4の西側――エリア6とエリア8へと繋がる二つの通路の中間にある、穴の開いた岩石のような物へ向かっていきます。
「行かせるかッ!」
兄さんがボルボロスを追って攻撃しますが、これだけでは止まりません。目的地に到着した土砂竜は頭を下げると、岩石を地面ごと
破壊された場所には穴があり、そこから
ボルボロスは巣穴から出てきたオルタロスを見つけると、片っ端から
陸上に
と、悠長に見ている暇ありませんね。大型モンスターは疲労状態の回復を優先して行動するので、私達はそれを阻止しなければいけません。
オルタロスを捕食しているボルボロスの右側から兄さんが攻撃。私は反対側に回って攻撃しようと、弓に矢をつがえた、その時――。
背後から聞き覚えのある――そしてこの場で一番聞きたくない――特徴的な鳴き声に、私達は振り返りました。
エリア4東部、エリア1に通じる道からドスジャギィが歩いてくるのが見えます。しかし、まだこちらを見つけていないようですね。辺りを見渡しているのが確認出来ます。
――そのまま気付かずに行ってくれれば……。
そう願いながらボルボロスへ目を向けると、丁度オルタロスを捕食し終えたところ、という最悪のタイミングでした。
「兄さん!」
私の呼びかけに兄さんもボルボロスを見たその瞬間、地面を軽く二度蹴った土砂竜が、大きな咆哮を上げて再び興奮状態になります。
耳を塞いで耐えた私達に振り向いた土砂竜は、頭を低くして突進する体制に入りました。
「くっ、またか!」
「っ……!」
何とか突進を回避します。
ボルボロスの勢いはすぐに止まらず、私の後ろにあった岩に激突。そのまま頭殻を振り上げて岩を破壊しました。
「まずいですね……」
土砂竜が岩を壊したことで、ドスジャギィがこちらに目を向けます。
位置が悪かったですね……兄さんには気付きませんでしたが、私に気付いたようです。狗竜が上体を起こして吠えると、今まで遠巻きに見ていたジャギィ達が反応して動き始めました。
「ボルボロスは怒ったばかりで、ドスジャギィまで参戦してきますか……!」
近くまでやってきた一頭のジャギィを、手にした矢で直接斬りつけます。
「チッ、厄介だな。――アリシア! 前に避けろ!」
兄さんの呼びかけで咄嗟に前転すると、私の影をボルボロスの口が飲み込んでいるところでした。間一髪、と言ったところですね……。
しかし今度はドスジャギィが噛み付こうと迫ってきます。
「こ、のぉっ!!」
迫る狗竜のアギトをアイシクルボウⅡ本体を使い、下から押し上げるように逸らしてそのまま下を潜り抜けます。
ボルボロスとドスジャギィは、互いが近くに来た事で小競り合いに発展したようですね……。この隙に兄さんと合流して、エリア8へ向かう道にある岩陰へと身を潜めます。
「アリシア、大丈夫か?」
「少し危なかったですが、平気です」
「良かった……それで、これからどうする?」
鳴き声で周りにいるジャギィ達に命令をするボスと、それを蹴散らす土砂竜。今回の依頼はボルボロスの狩猟と砂原の調査なので、出来る限り他のモンスターを狩るのは避けたいところです。
「私がボルボロスの注意を引いて引き離すので、その間に兄さんがドスジャギィを追い払ってください」
いつもなら私が追い払うのですが、今回扱っている武器はアイシクルボウⅡ。小型のジャギィと中型のドスジャギィが相手では少々分が悪いので、兄さんにお任せします。
「追い払うだけでいいのか? なら“こやし玉”をぶつけてやれば良いんじゃないか?」
「いえ、出来ればドスジャギィが巣で休んでる間に片付けたいので」
こやし玉でも良いのですが、それだとすぐに縄張りの巡回を始めるので、可能な限り避けたいです。
「そういう事なら了解だ。気を付けろよ?」
心配そうな声で兄さんが言います。ふふ、心配しなくても大丈夫です。
「ガンナーである私に、ボルボロスは相性のいい相手ですよ?」
「フッ、そうだったな。それじゃあ、行くか!」
「はい!」
岩陰から飛び出した兄さんはドスジャギィへ向かい、私もアイシクルボウⅡに矢をつがえて弓弦を最大まで引き絞ります。
「さぁ、こっちに来なさい!」