書士隊活動録   作:まさ(GPB)

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4 ―砂原の簒奪者(さんだつしゃ)たち―

砂原(すなはら)(昼)・エリア4―

 

「はぁッ!」

「――ふっ!」

兄さんがドスジャギィに、私はボルボロスにとそれぞれ攻撃していきます。

それまで互いに争っていた狗竜(くりゅう)土砂竜(どしゃりゅう)は、再び自分達に向かって攻撃してくる存在(ハンター)を認識すると、二頭は先程までと同様に私達を狙い始めました。

私は攻撃を続けながら少しずつ下がり、ボルボロスとドスジャギィをなるべく離すように距離を開けていきます。

何かあった際にすぐ駆けつける事は出来ませんが、これで乱戦になる事は避けられるはずです。

 

ドスジャギィとその群れに対峙する兄さんは、周りのジャギィ達による攻撃を避けながら、確実に狗竜へとダメージを与えているようですね。

さて、兄さんなら大丈夫なので、私も目の前のボルボロスに集中しましょうか。

接撃ビンをある程度残すために外し、そのまま矢を射っていきます。

土砂竜は全身の泥が剥がれ落ちているので、それらを撒き散らす攻撃は出来ません。最中が隙だらけである、という点で見れば少し惜しいですが、これは言っても仕方のない事ですね……。

「はっ!」

なるべくボルボロスの視線が私から外れないように、矢を放ちつつ左右に動き回ります。突進が来ても兄さんの方へ届かない距離で。

そんな私に対し、土砂竜は歩いて距離を詰めてきました。

ここで向かってくるボルボロスから逃げるように動くと、それを追って後を付いてくるので私は動きません。下手に動いて兄さんに意識を向けられても困りますからね。

「そのまま……やぁっ!」

迫り来る鼻先をアイシクルボウⅡで射ち、一瞬怯んだ隙を見て土砂竜の下をくぐり抜けます。

ボルボロスは外敵()が自分の巨体をすり抜けて後ろにいる事は分かっているので、辺りを見渡さず即座に振り向いてこちらを向きました。

「いい子です。当面は私だけがあなたの相手ですよ」

矢をつがえた私は、土砂竜の正面で弓弦を引き絞って立ち上がります。

 

     ◇

 

アリシアがボルボロスを引き離して自身に注視させているのを、彼女の兄カイルも分かっていた。

「さて。ある程度傷を負わせて、追い払えばいいと言われたからな……。悪いが手早くやらせてもらうぞ」

そう口にした彼は、ドスジャギィが薙ぎ払うように振った尻尾を潜り抜けると、即座に反転して夜刀(やとう)月影(つきかげ)】で突きと斬り上げを繰り出す。

カイルはそのまま太刀を振り下ろすまでやりたかったが、周りにいたジャギィの一頭が飛び込んできた為に回避を選択する。

その回避先に今度はドスジャギィが噛み付いてくるのが見えたが、彼は冷静にこれを避けた。

――チッ、幾ら相手がジャギィとは言っても上位は油断禁物だな……!

考えながらも、近付いてきた別のジャギィを切り伏せる。

 

「くっ……少しばかり数が多いか」

自身とドスジャギィの周囲にいるジャギィの数は五頭。彼の実力自体はもちろん、武具も優秀と言えどもボスが率いる集団に囲まれては苦戦は免れないだろう。

だからと言ってジャギィばかりにも構ってはいられない。

「アリシアの事も心配だしな……」

再びドスジャギィが噛み付いてくるがカイルは夜刀【月影】で薙ぎ払いながら後ろへと飛び下がる。

狗竜は頭部を斬られた事で怯んだが、彼の背後を一頭のジャギィが狙う。

「チッ!」

カイルは舌打ちをして横に転がって回避、ジャギィ達の包囲から抜け出した。

ドスジャギィは上体を起こして吠える。すると周りにいたジャギィが次々に飛びかかってきた。

「ここで使うのは少し賭けだが!」

しかし彼は襲い来るジャギィ達を、練気を込めた剣撃――気刃斬りで迎え撃つ。

太刀を右上から振り下ろす一撃でまず一頭。返す刃で二頭目。

「おおぉぉぉッ!」

さらに連続で右左にと繰り出す斬撃で二頭を纏めて斬る。

――これで残りは……!

真上から振り下ろす一撃で残った一頭のジャギィを狙う。だが、仲間がやられるところを見ていたその個体は、後方へ飛び退く事でカイルの攻撃を回避した。

それでも――

「はぁッ!!!」

彼は地面に夜刀【月影】を叩きつけるが、そこから流れる動作で身体を一回転させると横に太刀を一閃。先程の一撃を避けたジャギィと、カイルの正面にいたドスジャギィの頭部を、気刃大回転斬りによって同時に切り裂く。

これによって五頭――その前に倒した一頭も合わせて計六頭――のジャギィは全滅し、頭部を斬られて仰け反った狗竜の“王者のエリマキ”とも呼ばれる大きな耳もボロボロになってしまっていた。

「これで逃げてくれればいいが……」

 

痛手を負ったドスジャギィは咆哮(ほうこう)した後、威嚇行為を取る。怒り状態へと入ったようだ。

と、狗竜の咆哮によって呼び出されのか、二頭のジャギィが姿を現す。

「そう上手くはいかない、か」

気刃大回転斬りを繰り出した事で、一度(さや)へ収めた夜刀【月影】に手をかける。

カイルは状況を見て呼び出されたジャギィ達がまだ僅かに遠いと判断した。しかし抜刀するよりも先に、目の前にいたドスジャギィはその巨体を使ったタックルを仕掛けてきた。

「おっと!」

だが彼は身体を投げ出すように転がって避ける。

――流石に、あの怒り状態の体当たりを受ける訳にはいかないな……!

即座に立ち上がったカイルはドスジャギィに向かって走り出すと同時に、タックルを外した事で隙だらけのその背後へと夜刀【月影】を振り下ろす。

斬られた狗竜は振り返りながら噛み付いてくるが、彼は上体を後ろに反らしてギリギリで回避した。

一度カイルが距離を取ると、改めて向き直ったドスジャギィが威嚇して吠える。そこに、呼び出されたジャギィも合流してきた。

「……そろそろ逃げてくれてもいいだろ?」

思わずドスジャギィに向かってこんな事を口にしてしまうカイルだが、当の狗竜達はお構いなしに飛びかかってくる。

まず小型のジャギィ二頭による体当たりと噛み付き。続けてドスジャギィが勢いよく踏み込みながら、その鋭い牙でカイルを狙う。

「ええい!」

怒り状態に加えて統率された連続攻撃に、彼も回避に専念する。

しかし、こうして避けているだけではドスジャギィを追い払えない。

「いい加減に……!」

再び噛み付こうとしてきた一頭のジャギィに斬撃を見舞って沈黙させる。

「はッ!」

さらにカイルは動きを止めることなくドスジャギィの胴体へと太刀を振るう。

流れるような動作による攻撃で、狗竜の反撃を躱しつつ確実にダメージを与えていくと、遂に耐え切れなくなったのかその巨体が大きく吹き飛んだ。

 

それでもドスジャギィはすぐに起き上がる。

「これで行ってくれよ……」

こう言いながらもカイルは再度、夜刀【月影】を構えた。

彼としても早くドスジャギィを追い払って、ボルボロスを抑えているアリシアの援護へ向かいたいのだ。

――ガンナーがボルボロスに相性がいいとは言っても、ずっと一人で戦わせる訳にはいかないからな。

そんなカイルの思いが通じた――という訳ではないだろうが、起き上がったドスジャギィはカイルに目をやると、一つ吠えて自分達が巣にしているエリア5へと繋がる道に向かっていく。それに残っていた一頭のジャギィも付いて行くようだ。

「漸くか……」

逃げるドスジャギィの後ろ姿を確認して、カイルはさらに自身の背後で戦っているアリシアとボルボロスを見る。

――まだ砥石を使わなくても行けるな。

彼は夜刀【月影】を一度鞘に収め、走り出す。

 

     ◇

 

流石にそろそろキツくなって来ましたね……。

ボルボロスの怒り状態は収まっていると言っても、気を抜くと危ない場面が何度かありましたし……。

「アリシア!」

攻撃の為に矢を手にしていると、私を呼ぶ兄さんの声が聞こえました。

「少し遅いですよ、兄さん!」

私はボルボロスから目を離さずに答えます。

「すまん! アイツ等(ドスジャギィ)が中々にしぶとくて……なッ!!」

全速力で走ってきた兄さんはそのままの勢いでボルボロスに斬り掛かりました。

斬られた土砂竜は怯みましたが、すぐ兄さんに反撃しようと噛み付こうとします。

「やらせません!」

そんなボルボロスの横顔へアイシクルボウⅡで射撃して妨害していきます。兄さんに噛み付く寸前で攻撃され怯むと、今度は私に狙いを定めてきました。

ある程度ですが距離が近かった事もあり、ボルボロスは動作が少ない体当たりを繰り出してきます。

「っ――!」

これを二回ほどバックステップで離れて難を逃れます。

隙が出来たところを後ろにいる兄さんと正面にいる私から挟撃(きょうげき)を受け、ボルボロスはエリアの中央辺りまで移動していきました。

土砂竜が穴を掘って潜り、移動していく先を確認しながら兄さんと合流します。

 

「逃げたようだな」

「そのようですね……。そろそろ、ボルボロスも限界のはずです」

「出来れば次のエリアで仕留めたいな」

「えぇ、依頼目標はボルボロスですが、本来の目的は砂原の調査ですからね」

会話をしながらも、兄さんが切断したボルボロスの尻尾から甲殻などを剥ぎ取っていきます。

「……よし、こんなもんだろう」

尻尾の剥ぎ取りを終えたので、土砂竜が逃げた方向に進むとしましょう。

ボルボロスが向かった先はエリア8。ここから先はその過酷な暑さから、クーラードリンクが必要になりますね。

アイテムポーチからドリンクを取り出して、一気に飲み干します。

兄さんは砥石を使って太刀の手入れも済ませたようです。

「待たせた。準備完了だ」

その言葉に私は頷く。

「では、行きます」

ボルボロスの後を追って、私達も灼熱の砂漠地帯へと足を踏み入れました。

 




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