「ーーー人質のことは残念だった、だけど安心していい。明日、ジン・ラッセル率いるメンバーがお前たちの仇を取ってくれる!!その後の心配もしなくていい!!なぜなら、俺たちのジン・ラッセルが〝魔王〟を倒す為に立ち上がったのだから!!」
「ーーー皆さん!!僕たちが〝魔王〟を倒します!!だからどうか仲間たちに僕たちのことを伝えて下さい!!」
「「「「「おぉ……!!」」」」」
蒼星姫に案内された先に合ったのはひどく風化した景色とその奥に合った大きな館、そしてその館の前で演説をしている十六夜とジン、それとそれを聞いて感動しているような獣人たちの姿だった。
「……なんぞこれ?」
「我に聞くな」
「ーーーつまり、ガルド・ガスパーのコミュニティの奴らが今まで通りに襲撃をしようとしたけど手の平を返してガルド・ガスパーを倒してくれと懇願、それに対してあの演説をかましたと」
「まぁ平たく言えばそうなるな」
館の最上階の大広間で十六夜から事の顛末を聞いて自分なりに纏める。それにしても〝フォレス・ガロ〟の連中は頭の中がおめでたい。ガルド・ガスパーに指示されていたとはいえ、実行犯はあいつらだ。それなのにガルド・ガスパーが何もかも悪いという風で……まったくもって愉快極まりない。それを自覚しているなら美談っぽく見えるが、無自覚だったらただの茶番でしか無い。まぁ十六夜辺りならそれに気づいて指摘していると思うが。
「んで、何がどうしたらあんな演説を披露する事になるんだ?元々は特定の〝魔王〟倒して名前と旗を取り返したいって話だったのに気づいたら〝全ての魔王とその関係者〟倒しますってなってるぞ?」
「時雨なら分かるだろ?このコミュニティには不足しているものが多すぎる」
「名前に旗、人材、それと物資もか?」
「正解だ」
名前と旗印が名刺代わりになるこの箱庭で〝ノーネーム〟というのは大きなディスアドバンテージとなる。〝サウザンドアイズ〟で女性店員に断られた時のように他の店でも〝ノーネーム〟だからという理由で断られるかもしれない。でも俺たちを呼び出すまでこの〝ノーネーム〟があっていられたからには〝ノーネーム〟でも取引してくれる店はあるんだろうな。
そして人材だが、この〝ノーネーム〟には〝魔王〟に奪われた為に黒ウサギとジン、それに120人の
ゲームに参加出来ないとなれば当然のことだが収入が減り、まともに物資を蓄えることが出来ない。今の〝ノーネーム〟の現状から予想するに、ギリギリの生活をしているのだろうと察しはつく。
結論、どれもこれも〝魔王〟が悪い。
「元々は水源を確保して、ギフトゲームに勝ってコミュニティを強くするつもりでした。蓄えも何も無い状態だったのでコミュニティを大きくすることから始めて、それから〝打倒魔王〟を掲げるつもりだったのですが……」
「
「だからっていきなり僕の名前を出さなくても良かったんじゃないですか?」
「いや、案外悪くない手だな」
ジンが不満げな顔をしているが、個人的には十六夜がした方法に賛成だ。
「そもそも、このコミュニティはその他大勢の〝ノーネーム〟に過ぎない。例え〝打倒魔王〟を掲げたとしても、〝ノーネーム〟のどれかがそれを成したとしか誰も思わないだろう。だけど十六夜が名前を挙げたことで〝ジン・ラッセルのノーネーム〟と他の〝ノーネーム〟とは差別化が図れたわけだ。それに、どんな綺麗事や大義名分並べたところでこのコミュニティは〝ノーネーム〟ってことを理解しているのか?名前も旗も無いんじゃ誰からも信用されない。だからリーダーであるジンの名前を出してここのアピールを狙った……そんなところだろ」
「ご名答」
「僕としては前以て説明して欲しかったんですけどね……」
ジンの気持ちは分からないでも無い。言ってしまえばこれまで日陰で生きていた奴に今日から一国の主になれと無理やり表舞台に立たせるような物だからな。
「まぁここの最終目標である名前と旗の奪還の途中で他の魔王を引き寄せる可能性があるんだが……黒ウサギは言ってたよな、〝魔王を倒せば魔王を隷属させられる〟って?」
「つまり、他の魔王を倒してここに入れるわけですね」
「おう、魔王退治なら任せろ……生きていたことを後悔させて、泣きも笑いもしない順応なイエスマンに仕立て上げてやるから」
「ちょっとこの人、魔王へのヘイト高過ぎじゃ無いですか?」
「元の世界で何かとあったんだとよ。白夜叉にも噛み付いてたぜ?」
まぁここがどんな方針を出そうが気にはしない。最終目標の途中で他の魔王と戦えるのならそれは願っても無い事だからな。
「まぁその代わり1つだけ条件があります。今度開かれる〝サウザンドアイズ〟のギフトゲームに十六夜さんと……出来れば皐月原さんも参加してもらいたいんですが」
「お?俺の力を見せろってことか?」
「怪我が治った頃ならいけるが……そのギフトゲームに何かあるのか?」
「1つは十六夜さんの言ったとおりですがぶっちゃけた話、見れたらいい程度しか思ってません。そのゲームに、かつてここに所属していた僕らの仲間……元・魔王だった仲間が出品されるんです」
元・魔王、それを聞いて思うところはあるのだが……無理やり抑え込む事にする。魔王を名乗っていたにしてもジンが仲間だと言っているのならそれは悪性じゃなくなったという事。だったら倒すまでも無い。
それに元・魔王ということはーーーここのコミュニティは魔王と戦って勝った経験があるという事だ。
「魔王を隷属させたコミュニティでさえ滅ぼせる……仮称・超魔王とも呼べる超素敵ネーミングな奴も存在するのか!?」
「僕は十六夜の頭の中が超素敵な事になってると思いますよ?」
「ちなみに、俺の元の世界の魔王の別名は超魔王系勇者だった」
「何その超素敵センス、一度会ってみてえ」
このままだと話は進まないと思ったのか、ジンがわざとらしく一度咳払いをする。
「ゲームの主催者は〝サウザンドアイズ〟の幹部のコミュニティです。僕らを倒した魔王と何かしらの取引をして仲間の所有権を手に入れたと思います。相手は商業コミュニティですし、金品で手を打てれば良かったのですが……」
「貧乏は辛いってことか」
「ともかく、俺たちでその元・魔王を取り戻せばいいんだな?」
「はい、それで十六夜さんが僕の名前を勝手に出した事と皐月原さんが白夜叉様に喧嘩を売って大怪我したことはチャラにします」
「あれ?怒ってる?」
「はい、怒ってます」
黒ウサギはジンは11歳だと言っていたが、中々に腹が座っている。先代のコミュニティで揉まれたのか知らないが、考え方が同年代の子供のものでは無い。腹芸も出来ているし、その上で仲間に腹の内を曝け出すことも出来ている。
必要に駆られて育てたのか、元々才能があったのかは知らないがそれだけで優秀さが伺える。
「あぁそうだ、今の内に1つ言っておきたい事がある」
コミュニティのリーダーのジンと、問題児筆頭で意外と知性派の十六夜がいるなら丁度いい。〝サウザンドアイズ〟での女性店員とのやり取りを見て思いついたことを話してみよう。
「ーーー俺、新しくコミュニティ作っても良い?」
時雨ニキ「ノーネームに入ると言ったな?あれはウソだ」
黒ウサギ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!」