箱庭2105380街区門。そこの居住区に今日行われるギフトゲームの相手の〝フォレス・ガロ〟は本拠地を構えていた。本来ならギフトゲームは専用の区画である舞台区画で行われるらしいのだが、あろうことかガルド・ガスパーは居住区を選択、しかも傘下に置いているコミュニティや同士を全員放り出しているらしい。
正直言って違和感しかない。仮にも久遠によって暴かれるまで自らの行いを隠し通していたガルド・ガスパーが考えなしにこんなことをするとは思えない。
だが、それも〝フォレス・ガロ〟の本拠を見て吹っ飛んだ。何故なら居住区が鬱蒼としたジャングルに覆われていたからだ。
「……ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだしな、おかしくはないだろ」
「そんなわけ無いじゃないですか。〝フォレス・ガロ〟のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず……この木、もしかして」
何か心当たりがあるのかジンが好き勝手に生えている木に手を伸ばして触れた。俺もこの木を見て少し違和感を感じたので触ってみる。すると樹皮が肉のように脈を打っているのが分かった。
「何これグロい」
「やっぱり〝鬼化〟してる……まさか」
「ジン君、ここに〝
木の脈打つ感触が気持ち悪かったので服で拭っていると久遠が門柱に貼られていた羊皮紙を指差しながら声を上げた。
『ギフトゲーム名〝ハンティング〟
・プレイヤー一覧
久遠飛鳥
春日部耀
ジン・ラッセル
・クリア条件
ホストの本拠内に潜むガルド・ガスパーの討伐。
・クリア方法
ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。
指定武具以外は〝
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具
ゲームテリトリーにて配置。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。
〝フォレス・ガロ〟印』
「ガルドの身をクリア条件に指定武具で打倒ですか……」
「こ、これはまずいです!!」
ジンはどこか納得したように、それに対して黒ウサギは慌てたような声を上げた。〝
「このゲームはそんなに危険なの?」
「ゲームそのものは単純ですが……問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ないことになります!!」
「分かりやすく言って」
「〝
「すいません、これは僕の落ち度です。まさかガルドがこれ程までの覚悟を持っていたとは……」
要するにガルドは覚悟を決めたわけだ。破滅を回避する為に今死んでも良いと自分の命を投げ捨てる覚悟を。それによって久遠や春日部のギフトに逆らう術を得たと。
だが、そう悲嘆するような事でも無いだろう。
「ところで、指定武具が何かも書かれていないのだけど?」
「〝
「なんか不安になって来た」
「同感だわ」
「すいません、黒ウサギが黒ウサギなばっかりに……」
「え?なんで黒ウサギが罵倒される流れになっているのですか?」
久遠も春日部もジンも、一見すれば落ち着いているようだった。確かに不利に見えるが、それでも勝ち目はあるのだ。それなら諦める理由なんてないし、諦めるのなら俺がこのコミュニティに手を貸す理由がなくなる。
「負けたら骨くらいは拾ってやるから気楽にやれよ。勝ったら祝勝会開いてやるから」
「だったらすぐに帰って準備したら?このゲーム、私たちが勝つから」
「むしろ丁度良いハンデ」
「……おい御チビ、この勝負に勝たないとあの作戦は成り立たない。だから負ければ俺はコミュニティを去るからな」
「わかってますよ、絶対に負けません」
久遠は胸を張り、春日部は腕をブンブンと振ってやる気を見せている。ジンも十六夜に何か言われているが臆している様子は無かった。
そして3人は門を開けて敷地内へと突入した。
「ーーーふぅ」
大きく伸びをして凝り固まった身体をほぐす。ガルド・ガスパーとのギフトゲームはあの3人の勝利で終わった。だがガルド・ガスパーは誰かの手によって吸血鬼化していて、そのせいで春日部は大きな深手を負ってしまった。
黒ウサギはそれを見てコミュニティの工房で治療しようとしていたのだが動かすと危険だと判断して、俺がその場で治療した。元の世界で医療の知識と経験があって良かったと思った瞬間だった。幸いなことに傷口は綺麗で痕が残ることは無さそうだった。ただそれでも出血が酷かったのでコミュニティの工房で増血処置を行うことになったのだが。今も春日部を診ていたのだが傷口が化膿している様子もないし、容体は安定していた。
ともあれ、これで十六夜の企みは上手くいきそうだ。魔王の傘下であった〝フォレス・ガロ〟を倒した事で〝ジン・ラッセルのノーネーム〟の名は広まることになった。企みの第一歩を躓いてしまったら何も出来なかったわけだしな。
そして春日部の見舞いに来た久遠に春日部の事を任せて本拠三階の談話室に向かう。黒ウサギにここの仲間が景品として出されているゲームのことについて呼び出されているのだ。俺と十六夜がゲームに出ると聞いて大歓喜して小躍りしていた黒ウサギがウザくて足払いしたのは語るまでもないだろう。
談話室に入るとそこにはキノコを生やしながら体育座りで部屋の隅に蹲っている黒ウサギがいた。
「よっ」
「よう、春日部はどうだった?」
「時期に目を覚ますと思うぞ。何せ春日部のギフトは縁を持った動物の力を得ることだ。それに野生動物並みの治癒もあったらしくてな。ところで黒ウサギは何してんだ?すっごくウザい」
「元・魔王様が景品のゲームがあっただろ?あれが延期になったんだとさ」
「延期?」
「しかもそのまま中止の可能性もあるときた。なんでも巨額のかいてが付いたんだとさ」
そういう十六夜の表情は不快そうなものになるがそれは人身売買を不快に思っているからでは無くて、ゲームの景品として出したものを金を積まれたからといって簡単に取り下げたホストを不快に思っているのだろう。
「信用よりも利益を選んだのか?だったらそいつらは根っからの商人で、商人失格だな。言い出した事を反古するとか利益を得たところで信用を無くして先に続かないだろうに」
「聞いた話によると〝ペルセウス〟のリーダーはゲームをしようとしているんだが部下が騒いでいるらしい。リーダーは言い出した事を覆せるかと言って、部下は〝サウザンドアイズ〟の看板に傷をつけても気にならないほどの見返りがあれば良いだろうって言ってな」
「流石はホストになれるだけの組織だ。一枚岩じゃないとか」
〝ペルセウス〟のリーダーは信用を選んで、〝ペルセウス〟のメンバーは利益を選んだという事らしい。どちらもまぁ判断的には間違っていないだろうが、個人的にはリーダーの方が好感が持てる。
「まぁ次回に期待するしかないな」
「そういや黒ウサギよ、その仲間ってどんな奴だったんだ?」
ここで十六夜が空気を変えようとしているのか黒ウサギにそんな質問を投げかけた。そう言えばその仲間のことについて何も知らない。元・魔王だとは知っているが、名前すらも分からないのだ。
「そうですね……一言で言えばスーパープラチナブロントの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです。それに思慮深くて、黒ウサギよりも先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るのなら、せめて一度お話がしたかったのですけど……」
「ーーーおや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか?」
窓の外から聞こえた声に思わず身構える。警戒を解いた覚えは無い。だが、声が届く距離まで近づかれた。窓に目を向ければ、そこにはガラスの向こうでにこやかに笑う金髪の少女が宙に浮いていた。
ガルド戦はカットカット、だって時雨ニキは出ないのだから。
そしてようやく金髪ロリの登場だ!!
喜べ紳士たち、君たちの願いはようやく叶う。