「レ、レティシア様!?」
「様はよせ。今の私は他人に所有される身分、〝箱庭の貴族〟ともあろうものがモノに敬意を払っていてどうする。それだから黒ウサギと言われるんだぞ」
「え?なんで黒ウサギの名前が侮蔑みたいに使われているのですか?」
「黒ウサギ(笑)」
「黙ってください!!」
「よし分かった、黒ウサギ(爆笑)はどうだ?」
「余計に酷くなってくから却下です!!」
キシャーと威嚇しながら黒ウサギは窓を開けてレティシアと呼ばれた少女を中に招き入れる。レティシアの格好は紅いレザージャケットに拘束具を彷彿とさせるロングスカート。黒ウサギの先輩というのには外見は幼いのだが、この世界じゃ外見で年齢を判断する事は難しいのでおかしくは無いのだろう。
「こんな場所からの入室で済まない、ジンには見つからずに黒ウサギに会いたかったんだ」
「そうでしたか……あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!!」
そう言って黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かった。久しぶりに仲間に会えたことが嬉しいのだろう……その分、厄介ごとも来ているわけだが。
「レティシアだっけか?お前がここにいるっていう事はつまりそういう事で良いんだよな?」
「茶髪に黒いコート……なるほど、君が時雨か。それでそちらの金髪の方は十六夜……白夜叉から話は聞いているが会うのは初めてだな。改めて自己紹介だ。私はレティシア、元・魔王の吸血鬼だ」
「なるほど……前評判通りの美人、いや美少女だな」
「それには同意するが……白夜叉に話を聞いてるってことは白夜叉も噛んでるのか……よし、今から〝サウザンドアイズ〟行ってくる」
「待て、その両手に持っている物は何だ」
「何って……三角木馬だけど?」
〝魔王特権〟で三角木馬を作って白夜叉のところに向かおうとしたら止められた。
他のコミュニティに景品としているはずのレティシアがここにいるという事はレティシアがそこを抜け出して来ているという事。つまり、下手をすればそのコミュニティが面倒ごとを持ってくるかもしれない。
今のここのコミュニティの現状では妙な噂が立つ事は避けたい。それを白夜叉も知っているはずなのにレティシアをここに送りつけた時点で有罪だ。
「……一応聞いておこう、それを何に使うつもりだ?」
「白夜叉にOSHIOKIをする」
「何ぃ!?何て事をしようとしてるんだ……俺も行くぞ!!」
「待て、待ってくれ……!!頼むから待ってくれ……!!」
ノリノリの十六夜を引き連れて白夜叉にOSHIOKIしようと思ったがレティシアに服を引っ張られる。だがそんなもので止まるはずが無く、そのまま引き摺って扉に向かう。
「時間がないからどうか話を聞いてくれ……!!」
「……明日にしてやるよ」
「行くなら俺も誘えよ?」
「確かに問題児だな……私がここに来たのは新生コミュニティがどの程度力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないのは合わせる顔がないからだよ。お前たちの仲間を傷つける結果になったのだからな」
「え?……という事はガルドはもしかして!!」
「あぁ、私が鬼種化させた。君たちがコミュニティに参加して、そしてコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」
つまりコミュニティの力を見るためにガルド・ガスパーを吸血鬼にして当て馬にしたと。その結果、春日部は怪我をした訳だがレティシアの目的を考えると十分にガルド・ガスパーは役目を果たしたと思うのだが。
「2人の少女は確かに人間としてはずば抜けた才能を持っている……だがそれでもまだ原石だ。元とはいえ仲間の将来を安心して託せる程ではない。かと言って解散を促す段階は通り過ぎてしまっている……全く、良かれと思ってやったことが何もかも中途半端に終わってしまった」
そう言って自嘲が拭えないレティシアの姿はまるで道化のようで見ていて滑稽だった。危険を冒してここに来ているというのにあれもこれもと手を伸ばしたせいで何もかもが中途半端に進行してしまっている。
「クククッ……」
その姿がどうしようもなく可笑しくて、つい笑いが溢れてしまう。黒ウサギから睨まれるが笑いは止まらない。
「時雨さん!!」
「可笑しい者を可笑しいと笑って何が悪い?何もかもレティシアが中途半端にやって来たのが悪いんだ。初めから最後までやり通す意思があればこんな事にはならなかっただろうによ」
「まったくもってその通りだが……慰めてはくれないのか?こんな美少女が落ち込んでいるんだぞ?」
「お前がやりたいと思ってやった事だろう?ならそれにケチを付けるつもりはない。その結果、上手くいかなくて諦めるのなら慰めの言葉なんてかけても無駄だ」
そう、結局のところレティシアがやりたくてやった事なのだ。それに俺が口を挟むのはお門違いでしかないし、その結果レティシアが諦めてしまったのならそれまででしかない。
個人的にはここから再起して欲しいのだが……
「ようは、アンタは古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て安心したかったんだろ?だったら、その不安を払う方法が1つだけあるぜ?」
「何?」
「あ、黒ウサギなんだか嫌な予感がして来ました」
「諦めろ」
「アンタが〝ノーネーム〟が魔王を相手に戦えるか不安で仕方がないのなら、その身でその力を試せば良いんだよ……どうだい、元・魔王様?」
と、ここでそんな提案を投げかけたのは十六夜だった。その顔には試してみたいとありありと書いてある。確かに、元とはいえ魔王を相手出来るのは〝魔王の打倒〟を掲げているこちらからしてみればありがたい事だ。まぁ半分くらいはレティシアを安心させようとでも考えているのだろうが。
十六夜の意図を理解したレティシアは一瞬だけ唖然としてらすぐに笑い出した。よほど可笑しいのか涙目になっている。
「ふ、ふふ……成る程、その手があったか……実に分かりやすい。下手な策を弄さずに、初めからそうしていればよかったなぁ」
「時雨さん時雨さん、あの2人を止めてもらえませんか?」
「面倒い。それに元・魔王がどのくらい強いのか個人的に気になるから止めたくない」
「ゲームのルールは?」
「力試しに手間暇かけてもしょうがない。双方が一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う。それで良いだろう」
「地に足を着けて立っていた者の勝ち……いいね、シンプルイズベストって奴か」
そして笑みを交わし、2人は窓から中庭に飛び出していった。
会話だけ〜次々回辺りでルイオスが出るかな?