蒼星姫を倒してから十六夜から離れた場所にいる事に気付いた。なので十六夜がいるだろう場所に戻ってみるとそこにはびしょ濡れになっている十六夜と倒れている蛇神、何かの苗を抱えてはしゃいでいる黒ウサギがいた。どうやらいない事に気付いて追ってきたらしい。
「よぉ、倒せたんだな」
「当たり前だ、そっちはーーー」
「あ、時雨さん!!ご無事でよかったーーー」
と、2人がこちらを向いて呆けた顔をした。
「どうした?何かあったか?」
「ーーーハハハッ!!お前ホンット最高だなぁ!!」
「な、なななななぁーーー」
「な?」
「ーーーなんで、
あぁ、そっちに驚いているのか。
黒ウサギが驚いた原因は、
「そっちは十六夜が勝ってその苗もらったんだろう?こっちは俺が勝ってこいつを眷属にした。蒼星姫、自己紹介」
『蛇神の蒼星姫だ。食料になるか眷属になるかと問われたから眷属になる事を選んだ』
「野生児!?野生児ですか!?なんで蛇神様を食べようとしてるんですかぁ!?」
「あぁ?何言ってるんだ?蛇だぞ?貴重なタンパク質だぞ?見つけたら捕まえて頭落として皮剥いで食うしかないじゃないか!!」
「んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
黒ウサギが苗を落とさないように頭を掻きむしってる。十六夜が静かだと思っていたら腹を抱えて震えながら河原に転がっていた。どうやら腹筋が人理崩壊したらしい。
このままだと話しにくいと思ったのか蒼星姫が黒ウサギのそばまで寄って頭を下げた。頭から飛び降りて感謝のつもりで鼻っ面を軽く撫でる。
「おい時雨、俺の事笑い殺すつまりか?」
「そんなつもりはなかったんだけどな……」
タバコを吸いながらそう返すとようやく黒ウサギの発狂は終わったらしく、髪がボサボサで息が荒い。
「発情?発情期なの?」
「お?押し倒しに来るか?」
「ちょっと黙ってくれませんかねぇ……!!」
あ、これは本気で怒ってるやつだと察して両手を挙げて態とらしく降参のポーズをとる。十六夜も似たようなポーズをしているが、腕がウェーブしてふざけているのが分かる。
「まったく……御2人共、帰りますよ!!」
「と、その前にだ。聞きたい事がある」
帰ると言い出した黒ウサギに対して十六夜が軽薄な声と表情を消す。
「オマエ、何か決定的な事を隠しているよな?」
「……なんの事ですか?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事もーーー」
「言っておくが、時雨も気付いてるぜ?なぁ、そうだろ?」
「まぁ、何か隠しているってのは分かってた。蒼星姫の眷属だってそれを警戒してだし」
『何!?つまり食おうとしたのは演技なのか!?』
「残念、本気だぁ……!!」
蒼星姫が新たに抱いた希望を打ち砕く事を忘れない。
「俺も初めは純粋な好意か、誰かの遊び心かと思っていた。だがな、黒ウサギが必死に見えるんだよ」
「十六夜がコミュニティに入る事を拒絶した時、あんなは本気で怒っただろ?それでちょっと予想したんだが……黒ウサギのコミュニティは衰退したか、弱小チームじゃないか?だからチームを強化するために俺たちを呼び出して、十六夜の発言に怒った」
「へぇ、そこまで考えがいってたのか」
「まぁ悪意や敵意は感じなかったから触れるつもりは無かったけど、万が一を考えると裏切らない奴が欲しかったんだよ。それが蒼星姫の眷属の真意だ……半分ぐらいな」
嘘やハッタリではないと分かったのか、黒ウサギは観念した様に肩を落としながらポツリポツリと語り出した。
曰く、黒ウサギのコミュニティには名乗るべき名が無く、その他大勢の扱いである〝ノーネーム〟という蔑称で呼ばれている。
曰く、コミュニティのテリトリーを示し、誇りである旗印もない。
曰く、現在のコミュニティには中核をなす仲間は1人も残っておらず、ほとんどが10歳以下の子供ばかり。
「……もう崖っぷちだな!!」
「普通ならその崖から飛び降り自殺するレベルじゃないですかやっだぁ!!」
「ホントですね〜♪」
隠し事を聞いて出た言葉に黒ウサギは自虐気味にそう言うと膝をついて項垂れた。知ってはいたが改めて口にして末期な事を再認識したのだろう。
「んで、何があったんだ?まさか自然にそうなったわけじゃないんだろ?」
「はい……私たちは全てを奪われました。箱庭を襲う最大の天災ーーー〝魔王〟によって」
「マ、マオウ!?」
「……魔王、ねぇ」
魔王というワードを聞いて十六夜は新しいオモチャを見た子供の様に輝かせていたが、反対にこちらの内心は不快な物でいっぱいになっていた。
甘粕以外が魔王と呼ばれている事が気に入らないという、十六夜みたいな子供の様な理由で。
「魔王は〝
確かに、それは魔王らしい行いといえば行いだろう。気まぐれに我儘に、全てを蹂躙して奪っていく物語に登場する最悪の化け物。
そこから黒ウサギは堰を切ったように次々と語ってくれた。
新しく名前と旗印を作る事が出来るがそれはそのコミュニティの完全解散を意味して、黒ウサギたちはかつての仲間たちが帰ってくる場所を守りたいと。
その為にコミュニティを再建し、いつの日か奪われた名前と旗印を取り戻して掲げたいと。
その為に強力な力を持つプレイヤーを異世界から召喚したのだと。
「お願いです。どうか、どうかその強大な力を我々のコミュニティに貸してください……!!」
そう言って黒ウサギは深々と頭を下げ下げた。こちらの内心は決まっているが、十六夜の方は一見したら興味なさそうに振舞っている。
そして3分ぐらいたっぷりと時間をかけてーーー
「魔王から誇りと名前をねぇ……いいな、それ」
ーーーニカッと楽しそうに笑って、黒ウサギの事を肯定した。
「ーーーえ?」
「協力するって言ってんだ。時雨も良いんだろ?」
「うん。それよりも〝世界の果て〟に行こうぜ?そろそろ日が暮れる。蒼星姫、乗せろ」
『待遇の改善を要求する』
文句を言いながらも頭を下げた蒼星姫の上に十六夜と、慌てて行動した黒ウサギと一緒に乗り、〝世界の果て〟に向かわせる。
「えっと、どうして御二方は黒ウサギたちに協力してくれるのですか?」
「こんな面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分くらい働いても良いだろ」
「俺は魔王ってのが気に入らんからだな。プライドべきべきにへし折って泥水でも啜らせたい」
「なんで魔王にそんなにヘイトを稼いでいらっしゃるのですか!?」
「俺が認める魔王はたった1人だけだ。だから他の奴が魔王と名乗っているのが気に食わん」
そういう風に黒ウサギに協力する理由を話しているとようやく〝世界の果て〟に辿り着いた。
横幅が約2800mもあるトリトニスの大滝。
瀑布の飛沫で数多くの虹が作られている。
天動説の様に世界を巡る太陽。
そのどれもが元の世界では無いもので、だからこそ言いようのない感動を味合わせてくれた。
あぁ、確かに〝世界の果て〟と呼ぶに相応しい景色だったと、これだけでもこの世界に来た価値はあったと密かに思った。
時雨、密かに箱庭の魔王へのヘイトを貯める。
時雨からしてみれば魔王は人間賛歌を謳う魔王である甘粕だけ。だから異世界だと言っても魔王を名乗ってる奴が気に入らない。
だから魔王のプライドをべきべきにしたがってます。