「生憎と店は閉めてしまったのでな、私の私室で勘弁してくれ」
店先での一悶着から白夜叉に案内されたのは白夜叉の私室。建物の外観が和風だったのでもしかしたらと期待していたが内装も和風だった。
童貞童貞と呟いている十六夜を部屋の隅に投げ捨てて、迷う事なく畳へとダイブする。
「遠慮無しか」
「畳なんて元の世界じゃ超が付くほどの高級品だったからな〜あぁ、この匂い好き」
元の世界だと畳一枚買うのに品質にもよるが家が建つほどの値段がするのだ。
「さて、改めて自己紹介させてもらおうかの。私は四桁の門、3345外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「器の大きな美少女(笑)」
「貴様だけ縁側に出してやろうか?」
「わりい」
それは困る。せっかくの畳を前にしてお預けは耐えられないので寝転がった姿勢のまま手を挙げて謝罪しておく。
「誠意が感じられぬが……まぁいいじゃろう」
「質問、外門って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強力な力を持つ者たちが住んでいるのです」
黒ウサギの説明によれば箱庭は上層から下層まで7つの支配層に分かれていて、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられているらしい。今居るのは箱庭の一番外側に当たる7桁の外門。白夜叉の言う4桁の外門には名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境になるとか。
そして久遠、春日部、復活した十六夜が黒ウサギの書いた箱庭の図を見てバームクーヘンと言ったところで白夜叉が呵々と哄笑を上げて頷いていた。
「ちなみに東西南北の4つの区切りの東側のあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったものたちが棲んでおるぞ。その水樹の持ち主などな」
そう言う白夜叉の目線は黒ウサギが持っている苗に向けられている。
「して、それは一体誰がどのようなゲームで勝ったのか?知恵比べか?勇気か?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
「なんと!?クリアではなく直接倒したとな!?」
「ちなみに、時雨さんは倒した蛇神様……蒼星姫様を眷属になさってます」
「ファッ!?」
白夜叉が変な声を出したのでダブルピースをしていると本当にこいつが見たいな目で見られた。確かに疑うのも無理は無い。何せ、神とは人間では敵わない存在なのだから。
現代では文書に残る神話から読み解く事しか出来ないが、その力は人よりも遥かに強大。ギフトを持っているとはいえど、人間では天地がひっくり返っても届かない存在であるから。
だから言わせてもらおうーーー
神には勝つことが出来ない?あぁそうなのだろうよ、お前の中ではな。俺の中では修羅神仏だろうがなんだろうがただの存在しているものにしか過ぎない。
だから倒せる。
だから勝てる
だから殺せる。
蛇神だろうが現人神だろうが天地を揺るがす鬼神だろうが、甘粕よりも弱いのなら倒せぬ筈がない。甘粕を倒した故に、甘粕以上の存在でなければ負ける事は出来ない。
「蒼星姫をゲームに勝ったとはいえ眷属にするとは……お主本当に人間か?」
「出自は怪しいがちゃんとホモ・サピエンスだっての……ん?口ぶりからすると蒼星姫とは知り合いなのか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ?もう何百年も前の話だがの」
「成る程ロリババアか……ありだな」
「十六夜ってば雑食ね」
十六夜の守備範囲の広さに軽くドン引きしていると突然に物騒な光を目に光らせた。
「だったら、お前はあの蛇よりも強いって事だよな?」
「ふふん、当然だ。私は東側の〝
〝最強の主催者〟という白夜叉の言葉に興味が惹かれる。十六夜たちもその言葉に惹かれたのか目を輝かせている。
「そう……なら、貴女のゲームをクリア出来れば私たちのコミュニティは東側で最強のコミュニティになるという事かしら?」
「無論、そうなるのぅ」
「そりゃあ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
3人が闘争心を剥き出しにして白夜叉を見る。そうしても良いのだが面白みに欠ける。なので湧き上がる好奇心を隠して表面上では興味無さげに白夜叉を見れば、こちらを見てウインクを飛ばしてきた。
黒ウサギはもう慣れたのか、目からライトを消して傍観に徹していた。
「呵々!!元気の良い童たちだ……さて、ならばゲームの前に1つだけ確認しておこうかの」
白夜叉が着物の袖から向かい合う双女神のーーー〝サウザンドアイズ〟の旗印が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで問うた。
「おんしらが望むのは〝挑戦〟か?ーーーもしくは、〝決闘〟か?」
その瞬間、世界が変わった。
さっきまで居た和室は消え失せて、白い雪原と凍る湖畔、そして
「なっ……!?」
「へぇ……」
十六夜たちは驚愕の声を出したが、これを目にしても湧き上がるのは好奇心だけだ。
五感から伝わる情報と第六感による判断の結果、これは幻などでは無く現実だ。元々あった場所に飛ばされたのか、それとも態々作り出した場所に飛ばされたのかは判断出来ないがこれを容易く成し遂げたことから並みの実力者ではない事はわかる。少なくとも、蒼星姫よりも数段は格上だ。
だが何故だろうか。これ程までの力を示した白夜叉だが、
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝
魔王、そのワードが白夜叉の口から出た瞬間に血が沸騰しそうな程に熱くなる。十六夜が何かに気づいて語っているがそれも耳に入らない程に激昂する。
魔王が目の前にいる。人間賛歌を謳う魔王である甘粕以外の、異界の魔王が目の前に。湧き上がる感情は怒りだろう。人間の輝きを、勇気を愛するが故に人類の敵対者となった甘粕を侮辱するような箱庭の魔王が許せないから。
「ふぅ……参った、降参だ白夜叉。今回は黙って
「……えぇ、私も試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
十六夜が意地を張った物言いで白夜叉に試されることを承諾するのに続いて久遠と春日部も苦虫を噛み潰したような表情で返事をした。それに満足そうに頷く白夜叉は続けてこちらに目を向ける。
「で、おんしはどうだ?」
「……その前に1つ聞きたい。白夜叉、お前は
〝挑戦〟を選ぶにしても〝決闘〟を選ぶにしても、まずはこれを聞かなければ返事のしようがない。これだけの世界を用意出来る白夜叉に感じた違和感の正体を明らかにしなければ。
疑問を聞いて一瞬だけ呆気に取られ、白夜叉は愉快そうに笑いながら頷いた。
「気づいたか……おんしの懸念の通り、今の私は
星霊の力を封印していると聞いて違和感の正体に納得し、それと同時に答えを決めた。
「白夜叉、俺も〝挑戦〟でいい。ただ、出来るだけ〝決闘〟に近い形で頼む」
「ほぅ?」
白夜叉の口から溢れたのは驚きでは無く好奇心に溢れた声。何も言われていないが理由をいえど促されているように感じる。
「今のお前が最盛期なら即座に〝決闘〟を選んでた。だが最盛期じゃない、だったら〝決闘〟を選ぶ意味が無い。弱った魔王なんぞつまらんからな。完全で完璧な状態の魔王を倒してプライドを砕いてこそ意味がある」
「ふむ……魔王という呼び名に何か拘りでもあるのか?」
「元の世界でも魔王が居た。だから俺にとっての魔王はそいつ以外には有り得ないんだよ。別世界だと分かっているがどこぞの誰かぎ魔王を名乗って好き勝手やってることが我慢ならない……まぁ、我が儘だとは理解してるがな」
「成る程成る程……あい分かった。おんしの希望に沿うゲームを用意しよう」
一先ずは納得してくれたようでさっきまで感じていた無言の圧力は消えて無くなった。
「お馬鹿ですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして横合いから思いっきり側頭部をハリセンで殴られた。
首置いてけ!!なぁ魔王だろ!?魔王なんだろ!?なぁ魔王だろお前!!なら首置いてけ!!
つまりはこんな感じ。