ギフトゲーム開始と同時に先に動いたのは白夜叉だった。鉄扇を取り出して広げ、一度軽くステップを踏むと同時に360度全方向から白夜叉が迫って来た。一見すれば危機的な状況なのだろうが白夜叉からは敵意も殺意も闘気も無い。つまり戦いとすら認識されていないわけだ。
流石は神霊と星霊のハイブリッド様。見事にこちらのことを舐めてくれている。強者ゆえの慢心、勝者ゆえの油断がそのままこちらの勝機になるとも知らずに。
腰に下げていた焔華の柄を握り、そのまま背後から迫る白夜叉の本体目掛けて居合斬りを放つ。抜刀と納刀をほぼ同時に行うこの居合斬りは甘粕を除いて誰も見てから反応された事は無い。だが手に残る鈍い手応えと甲高い金属音から鉄扇で防がれた事を認識する。
あぁ、仮にも元であっても魔王を名乗るのならこの程度防いでもらわないと困る。
振り向きと同時に驚愕した表情で固まっている白夜叉目掛けて跳躍。十数mはあった彼我の距離を一息の間に潰してその顔を掌で文字通りに掌握する。
「っ!?」
それを黙ってなすがままにされるはずが無く、白夜叉は鉄扇で腕を払った。聴覚が捉えた音と視覚が捉えた映像、そして痛覚が知らせる激痛から腕が最低でも粉砕骨折した事を知覚し、
「ーーー!?」
白夜叉の表情は折られた腕をそのまま使った事からか。どんなギフトを使用したかと推察しているからだろう。種明かしをしたしまえばギフトなんて使っていない。そもそも自分にどんなギフトがあるかすら把握していない。その正体は即ち気合いと根性。その2つで痛みに耐えて、折れた腕を使っているに過ぎない。
地面に叩きつける事はしたのだがゲーム終了の報せは無い。ならばこれは有効打にカウントされて無かったのだろうと考えていると、全身を悪寒が襲った。
強烈な、そして明確な死の気配。元の世界では数える程しかこれほどの死の気配を感じた事は無い。即座に白夜叉を投げて後退すると、白夜叉を中心として高温が発生した。
「ーーーすまぬな。正直、おんしのことを舐めておった」
白夜叉の身体から炎が上がる。成る程、これが白夜叉のギフトなのだろう。白夜叉の名前の白夜とは太陽が沈まない夜のことを指し示す。すなわち沈まずの太陽、太陽の力を使うギフトか。
「別に良いさ、舐められる方が殺りやすい」
ともあれ、これで白夜叉からは慢心と油断は消え去った。粉砕骨折していた骨を正しい位置に戻し、服の一部を破いて簡易の包帯を作り、巻きつけて固定しておく。
さて、これで
太陽の炎を纏った白夜叉が突貫してくる。開始の時のようなスピードに任せた小手先の技では無く、最高速度で最短距離を行く。確かにそれは実に効率的な手段だった。なにせ今の白夜叉は小型の太陽と同じ、対してこちらはいつも通りの状況になっただけのただの人間。触れられるどころか近づかれただけでも肉が焼かれて血液が沸騰して死にかねない。
だから選んだのは迎撃、それも初手と同じように居合斬り。刃を届かせる必要は無く、力ではなくて技を持ってして殺傷範囲外にいる白夜叉の首目掛けて斬撃を飛ばす。
そして斬撃が白夜叉の首に届きーーー白夜叉の後ろから
したり顔で突っ込んでくる白夜叉。
「なーーー!?」
居合斬りの軌跡から
動きを鈍らせたのは一瞬だけで、白夜叉は逆に加速して向かってきた。何せ向こうは小型の太陽なのだ。人間が発生させた炎程度では止まらないだろう。太陽を火で焼けるわけが無いのだから。
まったく……
相手の理屈にこちらが嵌ってやる道理など無いというのに。
「ーーー!?」
次に白夜叉の顔に刻まれた表情は驚愕と焦り。それはそうだろう、何せ太陽の炎が人間が発生させた蒼炎に
炎が炎を燃やすという矛盾を容易く実現させる。太陽の炎を燃やせな道理など無い。甘粕のイェホーシュアの炎と毒を焼き尽くしたこの蒼炎が、
進むわけにはいかなくなり、白夜叉が慌てて足を止める。そしてそれこそが待ち望んでいた必殺の瞬間となる。
焔華を両手で握り締めて上段に構える。砕けた腕が激痛を走らせて限界だと叫びーーーそれを
相手を必ず殺すという意味合いを込めて名付けた、文字通りの必殺の技。
「ーーー
全力で振り下ろされた一撃が、白夜叉の身体を斬り裂いて真っ赤な花を咲かせた。
割とあっさりと決着。まぁ白夜叉は本気じゃないし、時雨ニキも殺る気はあっても全力じゃないからこの程度。
にしても片腕粉砕骨折しても気合いと根性で耐えて平然としている時雨ニキ……流石は甘粕の継嗣やでぇ!!