二大大国の一つ、武闘王国ダイランディアには《
軍に優秀な人材を輩出し国の為にチカラを振るう十二宗家は《矛十二支》と呼ばれ、その家系に属する子は、将来ダイランディア軍に従軍する為に戦島都市スクエアの四大学園に入学し、戦士としての素養を身に付ける事が義務付けられていた。
十二宗家の一つである《ハヅキ家》の嫡男として生まれ、家の次期当主候補であった少年《マイ・ハヅキ》もまた、義務に従って四大学園の一つである青竜学園に在学し、将来ハヅキ家の当主として国に尽くす有能な戦士となる為、日夜勉学・修練に励んでいた。
『周りの人間は全て敵と思え。 当主たる者に友などいらぬ、孤高こそ真の強者の証よ』
ハヅキ家の現当主である父親の教えに従い、マイは中等部時代誰一人として友達を作らず、ただ有能な戦士となる為だけに、ひたすら一人で知識を身に付け、戦闘技術を研磨し続けて淡々と三年間を過ごした。 その姿はまるで機械人形のように生気が無く、周りの人間はマイを気味悪く思い誰も彼に近寄ろうとしなかったのである。
優秀な戦士を輩出する十二宗家の子は在学中に何か名誉となる成果を収め、自分は有能な戦士であるという事を示し、家の面子を維持する必要がある。 その最たるものはスクエア四大学園の一大イベントである武闘大会《四武祭》に出場し、ベスト16以上の成績を収める事であるのだが、マイは中等部時代に三度個人戦である《王竜四武祭》に出場し、その全てが初戦敗退。 無情にもなかなか成果を上げられずにいたのであった。
自分にチカラさえあればと考えたマイは統合企業財体に属する開発研究所の一つである《第七機関》に自分専用の
依頼した純星煌式武装はマイが高等部に上がって間もなく完成し、その年の四月下旬にマイは製作された純星煌式武装の適合率を確認する為にスクエア中央エリアに存在する《装備局》を訪れたのだった。
「これが……僕の純星煌式武装……」
装備局内の一角に存在する、天井が高くて一部の壁面がガラス張りになっているトレーニングルームのような空間の中央にて、マイは目の前の収納ケースに格納されている朱塗りの長槍と向き合っている。
『はい、その槍が第七機関にて製作されたマイ・ハヅキ様専用の純星煌式武装──《
装備局の研究員の一人がマイに放送でそう伝えると収納ケースが開く。 マイは既に発動体となっている純星煌式武装《朱弾の魔槍》の柄を恐る恐る手に取り、収納ケースからそれを取り出して構えた。
『それではこれより《朱弾の魔槍》の適合率検査を行います。 計測の準備は既にできているので、どうぞ始めてください』
その言葉を受け取るとマイは朱弾の魔槍を強く握りしめて、気合いと共に自らの内に秘める【気力】という名のチカラを解き放つ。
「はぁぁああああぁぁああああぁああああああああっ!!!」
マイの身体を覆う気力のオーラが吸い寄せられるように朱弾の魔槍に収束されて、凄まじい勢いで注ぎ込まれていく。 純星煌式武装は通常の煌式武装より気力の消費量が馬鹿に成らない為、その分吸収速度も半端ないのだ。
「──ぐっ!?」
想像を絶する気力の消費速度による負担により、マイは表情を歪めて苦痛を露わにする。 その間に正面の大型モニターに表示されている適合率のパーセンテージが急速に上昇。 50%……60%……70%……数字の上昇は止まる事を知らない。
「ああああぁぁっ!! 行っけぇぇええええぇぇええーーーーーーーーーーーっ!!!」
肩が強張り、最後のチカラを振り絞って、一気に持てる気力を有りったけ朱弾の魔槍に注入するマイ。 槍はやがて大きな朱い光を発し、一瞬にしてそれが増大し、部屋中を飲み込んだ。
「うおっ!? まぶしっ!」
「なんというエネルギー量ですか!?」
「ああっ、眼が! 眼がああぁぁっ!!」
強化ガラス一枚越しの計測部屋で様子を視ていた装備局の研究員達が、その巨大な光に宛てられて腕で眼を塞ぎ驚きの声をあげている。 マイの気力が注がれた朱弾の魔槍から放出されるエネルギー量が凄まじく予想以上だったようだ。 やがて光は収束して消えていき、モニターに計測結果が算出された。
「適合率……100%。 ……マイ君と朱弾の魔槍は完全に同調しています」
「なんと……」
検査結果は脅威の
「第七機関は個人のプロフィールに合わせて順当なウルム=マナダイトを選出し、個人専用の純星煌式武装を作成することができるとは聞いてはいたが、これほどとは……」
研究員長と思わしき人物が検査結果を見て感嘆としている、第七機関の科学力は侮れないという念を抱いてしまったからだ。 光が完全に消滅すると研究員達はマイが居る武装保管室の扉を開き、彼の状態を確認しに部屋へと入って行く。
「マイ君、適合率検査はこれで終了で──」
「適合率100%でしたので身体に異常は無いと思いますが、一応健康状態をチェックする必要があるので、医務室で健康診断を──」
研究員達の言葉はそれ以上進まなかった……何故なら部屋の中央に居る筈の少年の姿は何処にも見当たらず、代わりに一人の見ず知らずの人物が朱弾の魔槍を持ってその場にへたり込んでいるのを目の当たりにしたからである。
「「「「…………」」」」
研究員達は絶句した。 サラサラな青い長髪に丸みを帯びた美しい曲線のしなやかな肢体、そして胸部に盛り上がる非情に柔らかそうな豊満な双丘がその人物の性別が女性だと認識させる。 一体これはどういう事だ? 先程まで此処で検査を行っていた少年マイ・ハヅキはどこへ消えてしまったのか?
「貴方は……誰ですか?」
研究員の一人が目の前で座り込んでいる青髪の美少女に恐る恐る尋ねてみる。 この時点で研究員達は全員ある仮説を立てていた。 『純星煌式武装を使用するには、何らかの代償を払わなければならない』。 そして適合率の計測の為に、
……そして、その仮説は現実であるという事実が少女の口より明らかとなる──
「僕はマイ……《マイ・ハヅキ》……です」
純星煌式武装《朱弾の魔槍》の代償……それは“自分の本来の性別を失う”というものだった……。
「自分の性別を失う……!?」
「じゃ……じゃあ、アンタって……!」
マイが語った自分の純星煌式武装の代償の内容を聞いて唖然と立ち竦む編入生の二人。 明日香は塞がらない自分の口を両掌で押さえ、ステラはワナワナと震える右指の先を非情に気まずそうに下を向いているマイに向けて恐る恐る確認の言葉を口に出し、出雲那達は全員何と説明したらいいのか判らず黙る以外の行動を取れずに困り果てている。
「……うん。 ……私は……
ステラの確認に応えて衝撃の真実を告白をするマイ。 その表情はこの後返って来るであろう二人の反応を恐れて影を落としていた。
マイ・ナツメの本名は《マイ・ハヅキ》であり、元男──
「あ、あ……ああ……!!」
「……」
マイの告白を聞いてステラは震えながら声を詰まらせ、明日香は驚愕のあまり言葉が出てこないようだ。 無理も無い、他の女性が羨むような美しい曲線を描く理想の身体つきをしていて、自身の豊満な乳房の事を話題にされて恥ずかしがる乙女のような反応を見せるこの美少女が、本来は男性だったなんて、とても信じられるものではないだろう。(殺人料理を笑顔で平らげる悪食なところは置いておくとして)
勇気を振り絞って自分の正体を暴露したマイは編入生二人の応答を恐れ、今にも泣き出しそうな程表情を曇らせている。 元々男であった人間が恥も外聞もなく女として生活しているなんて、聞いた人間はその人物を軽蔑し拒絶するのが普通だからだ。
「……へ……変た──」
「っ!!」
そして案の定、ステラが口を開き蔑みの言葉をマイに投げかけようとする。 嫌われて罵倒されるのは覚悟の上だった。 しかし、いざそうなろうとするととても耐え難いものであり、マイは恐れていた言葉が発せられようとしている現実に心が砕けそうになる。 眼から涙が流れ出そうな悲痛が身体を支配し、今にもこの場から逃げ出したい衝動に駆られてしまう。
──……やっぱりこうなるか……ははっ、そりゃそうだよね。 元々は男だったというのに、のうのうと女として生きている異常者なんかと仲良くなんてしたくないよね……残念だったなぁ、友達が増えると思ったのに……やっぱり悲しいよ……。
非難される悲しみが刃となってマイの心に突き付けられた。 ステラがその言葉を言い切れば、その刃はその矮小な心を突き穿つだろう。 マイは恐れるあまりにチカラの限り眼を瞑った──
バチンッ! ……ステラがその言葉を言い切る直前に、そんな何かを叩くような音が生徒会室内に響いた。
「…………えっ!?」
突如として鳴り響いた効果音の後に訪れた静寂の中マイは恐る恐るゆっくりと眼を開き、目に入って来た光景に唖然と言葉を洩らした。 ……何故か、アリサが自分とステラの前に割り込むように立ち、ステラの頬を平手打ちしていたからだ。
「……貴方……一体、今マイに何て言おうとしたの?」
アリサの行動に周りが動揺する中、叩かれた頬を手で押さえて何がなんだか分からないと無言で困惑しているステラにアリサがそう問いかけた。 その声には怒気が込められており、彼女が相当な怒りを露わにしているという事が明らかである。
「何……って、それは──」
「“変態”って言おうとしたわよね? ……ふざけないで! マイがこの代償の所為で半年間どれだけ辛い目にあったと思っているの!? 良く知りもしないで、知った風な事を言わないでちょうだい!!」
「ア、アリサ……」
「ア……アタシは!」
困惑するステラに右人差し指を突き付けてアリサは激怒する。 彼女の突然の激情に庇われたマイは戸惑い、出雲那達在校生組はやってしまったなと困り果てている。 一体どうして自分は怒鳴られているのかと理不尽に思いステラはアリサに反論しようとするが、それを制止するように一輝がステラの肩を掴んだ。
「今のは……ステラが悪いよ」
「イッキ……」
「ステラ、柊さん。 マイ君は何故、“マイ・ハヅキ”ではなく《マイ・
「姓が変わっている……まさか!?」
一輝が神妙な空気で編入生二人に問うと、マイの姓名が変えられている事に気が付いた明日香が何か重大な事実を察して眼を見開き、その反応を確認した一輝は明日香の返答を待つまでもなく語り出した。
「そう……マイ君は実家であるハヅキ家を追い出されたんだ。 以前にマイ君から聞いた話だと【女になってしまったお前に、もはや価値など無い】と父親から言われたらしく、その上に女性となってしまったマイ君がハヅキ家の者と悟られぬよう、姓まで変えられてね……」
「「っ!?」」
明日香とステラはあまりにも荒唐無稽な話に驚愕する。
「第一次遭遇以前には世界中で男尊女卑の風潮があったのは知っているよね? 三大源力が世の要となった現代は実力主義の為にそんな風潮は薄まりつつあるけれど、マイ君の実家であるハヅキ家にはその風潮が残っているらしく、【女を上に立たせるのは恥】とされているみたいなんだ。 マイ君はハヅキ家の嫡男で次期当主候補だったみたいだけど、家の掟で“当主は必ず男性でなければならない”と決まっているらしい。 その為、次期当主候補でありながら女性となってしまったマイ君は、当主候補から外されて実家から見捨てられた……という事なんだ」
「何よ……それ……」
「酷い話ね……」
一輝が語ったマイの過去にステラと明日香は絶句する。 幾ら性別が変わってしまったとはいえ家の掟を優先して子を追い出すなんて、人としてやっていい筈がない。 況してや家の名を捨てさせるなど狂気の沙汰だ。
「青学に通い続ける事は姓を変えた事で許されたけみたいだけど、これまでハヅキ家の当主となる為だけに生きて来たマイ君が新たな生き方を見つける為には他人に頼る必要があった……だけど、マイ君が元は男性だったというのは皆が知っている。 その為、学園の皆がマイ君の事を気味悪がって、誰もマイ君に手を差し伸べようとせず皆が彼女を拒絶した……元々マイ君は実家の教えで誰とも関わろうとしてこなかったから自分を理解してくれる友達もいなくて、完全に孤立してしまったんだ。 これは去年の五月の始めくらいの頃の話だね」
「「…………」」
明日香とステラは悲惨過ぎるマイの過去に対して、何も返す事ができなかった……純星煌式武装《朱弾の魔槍》が課した代償はあまりにも重く、マイ・ハヅキという人間の全てを奪ってしまっていたのだから。
「あの頃のマイは正直見ていられなかったぜ。 毎日毎日教室の隅で死んだ魚みてぇに虚ろい眼をして塞ぎ込んでいて、魂が抜けちまった様な気に入らねぇ顰めっ面をしてやがったからな。 あれは見てるこっちが気分悪かった」
「っ!!?」
「出雲那、貴方ねぇっ!!」
出雲那の不敬な物言いに今まで黙り込んでいたマイがショックを受けるように顔を強張らせ、アリサが出雲那を窘める。 しかし出雲那は全く動じる事無く、一輝から引き継ぐように話を続けた。
「話は最後まで聞けよ! ……まあ、そんなわけで誰もマイを助けようとしなかったわけだ。 それが気に入らなかったオレ達はなんとかしてやろうとマイに話を聞こうとしたんだがよ、その時のマイは誰に対しても突っ撥ねるような態度で拒絶してやがって、まるでこの世の全ての人間を親を殺した仇に見てやがる感じだったんだ。 当然オレ達も【僕に関わるな! 放っておいて!】と聞く耳持たず追い返されちまってさ、どうする事もできなかったんだ」
出雲那、一輝、善吉、リィンの四人は当時、絶望に打ちのめされていたマイをなんとか救おうとしていたが、マイの絶望は相当深いものであり、彼女は癇癪を起す子供のように荒れ狂っていた。 その為、出雲那達はマイに話を聞く事も儘ならず、結局引き下がるしかなかったのである。
出雲那は壁に背中を預けるように寄り掛かり、その時の事を思い出してあの頃の無力を噛み締めるように黄昏る。
「結局マイはそのまま周りから完全に孤立し、その状況が変化する事も無く月日が経って半年……今からすると約半年前にマイはとうとう生きる気力すらなくなったらしく、この都市の中央エリアに建っている《シリウスタワー》の屋上にある展望台から身投げして自殺しようとしやがったんだ」
「な、なんっですってぇっ!!?」
「自殺……」
《シリウスタワー》とは、戦島都市スクエアの中心に高々と聳え立つ180階建ての超高層ランドマークタワーである。 その高さは1000mを越えており、そんな高さの屋上から地上に落ちたのなら例え身体能力最強の星脈世代であっても即死は免れないだろう。 そんなところからマイは身投げしようとしたのだから、ステラが驚愕するのも、明日香が絶句するのも、無理はない。
「その時青学は休校でな。 オレ達は偶然その場に遊びに来ていて、落下防止の柵を乗り越えて身投げしようとしてやがったマイを誰よりも先に目撃したんだ。 そして、それを見て真っ先にマイを救おうと飛び出したのが、其処のアリサだ」
「アリサさんが?」
「一輝もリィンもかなりのお人好しなんだがよ、アリサは【放っとけない病】患者として認定される程の超お人好しで困っている奴を見かけたら助けずにはいられねぇ人間なんだぜ。 本人はツンケンしてて認めないけどな」
「誰が【放っとけない病】患者よ!? 貴方にだけは言われたくないわ!」
出雲那に言われた事をアリサは全力で否定する。 しかし、実はアリサはその半年間何度もマイを心配して話し掛けようとした唯一の者であり、出雲那達がどうしようもないと諦めにも似た様子見に徹している中、彼女だけが何とかしてマイに話を聞こうと行動していたのだ。 まあ、実際に話し掛ける事が出来たわけではないのだが……。
「んで、アリサは柵からマイを強引に引きずり下ろしてマイの自殺を阻止したんだが、その後【僕はもう誰にも必要とされていない屑なんだ! だからもう死んだ方がいい!! もう一人のまま生きるのは嫌だっ!!!】と、叫んで手が付けられない程激昂したマイに平手打ちをかまして言ったのが印象的でな──「ちょ、出雲那!? 貴方何を──」その時のクサイセリフったら……ぷぷっ!」
アリサがマイを救った時の場面を語る出雲那。 説得の為に言い放ったクサイセリフとやらを言おうとした事でアリサが非情に恥ずかしそう顔を赤らめて抗議しようとするも、出雲那はお構いなしに思い出し笑いをしながら事情を知らない明日香とステラにそのセリフをバラした。
『確かに生きていれば目を背けたくなるくらい理不尽な目に遭う事が沢山あるかもしれない! 貴方の心の痛みは今叩いた痛みなんかよりもっと痛いのでしょう! だけど貴方、このまま誰にも理解されずに終わるなんて本当はイヤでしょう? だったら他人に言われるがまま黙っていないで、自分からぶつかって行きなさい! 相手に拒絶されるのが恐いのは誰だって同じよ! 人との繋がりというのは、それを乗り越えて創っていくものなの! だから前を向いて歩きなさい!! 自分を偽らずに有りの儘の自分を曝け出して行きなさい!! 大切なのは姿・形じゃないわ!──
──人との繋がりを求める、誠実な“気持ち”よ!!!』
「わああああああああああぁぁーーーーーーーーーーーっ!!!」
「「…………」」
出雲那が語るアリサの恥ずかしいセリフを、話題の本人は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてセリフを遮るように大声で発狂する。 しかし、編入生二人はどうやらしっかりとセリフを聞き取ったみたいであり、無言で唖然としていた……。
「人との繋がりって……」
「大切なのは姿・形じゃない。 “気持ち”よって……」
「復唱しないで! お願いだから!!」
「ぷぷぷっ、確かに生きていれば目を背けたくなるくらい理不尽な「いい加減にしないと本気で引っ叩くわよ出雲那!!」」
「あははは……」
編入生二人は唖然としながら気になったセリフの部分を復唱し、アリサはそれによる恥ずかしさに耐えられず二人に復唱を止めるよう全力で懇願する。 出雲那が面白がってもう一度アリサの恥ずかしいセリフを繰り返そうとすれば、アリサは激怒して怒鳴る始末。 なんという話の脱線具合なのだろうか、一輝の苦笑いが場の哀愁さに拍車を掛けている。
「ふふっ、そろそろ止めてあげたらどうですか? アリサさんが顔を膨らまし過ぎて爆発してしまいそうですよ」
「刀華先輩まで!?」
「まあいいじゃないかアリサ。 その言葉があったから、俺達とマイは友達になれたんだから。 そうだろう、マイ?」
「……うん、そうだね」
リィンの求める同意にマイは頷く。 言葉はどうあれ、マイはこのアリサの純粋な想いに救われたのだ。
「私の心が弱かった所為で、あの時はみんなには大きな迷惑をかけちゃって、今でもゴメンと思っている。 だけど、それ以上に感謝の気持ちでいっぱいだよ。 元々男だった私を気にかけてくれて、受け入れてくれて、それでもって友達になってくれて、とても嬉しかった。 特にアリサには感謝してもしきれないよ。 自殺するつもりだった私を救ってくれたし、私が女として生きると決心した時もしゃべり方や遊びなどの女の子の事を色々と教えてくれて、本当に助けられた。 おかげで私は、この身体や自分の境遇と向き合い、前を向く事ができた。 今の自分が好きだと、心から思えるようになったんだ」
「マイ……」
「半年間みんなと一緒に頑張ってこれて本当に良かった。 三ヶ月前の獣王四武祭で私が聖ルシフェルの《
「カッ! 泣く程の事じゃねーだろ? 男だろーと、女だろーと、お前はお前だろうが!
「うん……ありがとう善吉。 もう一度言うけど、みんなありがとう! みんながいたから私は今ここにいる。 だから……本当にありがとうっ!!」
マイは嬉し涙を流しながら仲間達に感謝の気持ちを伝えた。 どんな存在でも胸を張って生きて良い。 自分の居場所を作って良いのだ。 それが“当たり前”なのだから。
「まったく、なんだかアタシ達、すっかり蚊帳の外じゃないの……」
「ふふっ、まあいいじゃないステラちゃん。 マイさん達の絆がどれほど大きいかが分かる、いい話を聞かせてもらったのだし」
「……そうね。 最初は気分最悪の暗い内容だったけれど、最後はしみじみとしたわ……はぁ、なんだか取って聞かされたような感じよね。 これでマイの事を認めなかったらこっちが悪者じゃないの」
「そんな事言ってるけれど、どうせもうどうするか決めているのでしょう?」
「当然」
心温まる空気の中で明日香と話し合ったステラは若干気まずさを抱きながらマイの前に足を踏み出す。 その為マイは動揺してビクッと身体を一回震わせるが、気をしっかり保ってステラと真剣な表情で向き合った。 面と向かうのが恥ずかしいのか、それとも先程マイを傷つけるような事を言いそうになった事を気まずく思っているのか、ステラはモジモジと頬を赤らめて若干そっぽを向きながら口を開く。
「さっきは、その……悪かったわね。 アンタの事情も知らないで偏見で勝手な事を言って……」
ステラの口から出て来たのは先程言おうとした発言についての心からの謝罪であった。 生まれつき才能に恵まれている所為か少し傲慢なところが見え隠れするステラだが、彼女は自分の過ちを素直に認める事のできる人間であり、それが彼女の美点と言える。 だからこそ彼女は皆から慕われているのだ。 そんなステラの想いをマイは嬉しく思い、温かな微笑みを浮かべた。
「ううん、私の方こそゴメン。 もっと早く話しておくべきだったのに黙って隠したままにしておこうとしていたんだもん。 私、凄く卑怯だったよね?」
「もう気にしていないからいいわ、誰にだって隠しておきたい事の一つや二つあるものよ。 アタシだって、昔イッキが脱いだ靴下を一足コッソリ盗んで毎晩匂いを嗅いでいた事を、イッキに黙ったままなんだから」
「ちょっ、ステラァ!!?」
「テメェの方が変態じゃねぇか……」
「あはは……」
和解の空気の中トンデモ発言をして周りをドン引きさせるステラであったが、どうやらステラはマイの事を認められたようである。 これで二人の蟠りはなくなっただろう。
「コホン! ンンッ……改めてよろしくね、マイ! これから友達として、学園生活を楽しみましょう!」
「私からもよろしく、マイさん。 私はステラちゃんと違って最初から貴方の事を受け入れるつもりでいたから安心してね。 純星煌式武装の代償で不幸な境遇に陥る事なんて、よくある話なのだから気にする必要はないわ」
「なっ!? ズルいわよアスカ! 自分は気まずい事言わなかったからってアタシだけ悪者にするだなんて!」
「ん~、それにしても、マイさん肌が白くて綺麗ねぇ。 元男性だというのに、こんなに女性として完成した身体になっているのは元々女性ホルモンが多かったのかしら? 正直、妬けるくらい羨ましいわ……」
「ひゃん!? 唐突に腕を突つかないでよ明日香! ビックリするじゃないか!」
「アタシを無視して和気藹々としてんじゃないわよ! アタシにも突つかせなさい!!」
「イヤァァァーーーッ!!」
無事和解をしたマイと編入生二人は早速仲良くじゃれ合いを始めてしまい、場は和ましい雰囲気に包まれたのだった。 三人は良い友達になれそうだ。
「やれやれ、女が三人集まれば姦しいとはよく言ったもんだぜ」
「そうだな、アリサが身体を張った甲斐があったというものだ。 お疲れ、アリサ」
「ふふっ、マイの親友として当然の事をしたまでよ。 別に特別な事をしたわけじゃないわ……親との折り合いが悪いのは私も人の事言えないからね(ボソ)」
「……アリサ?」
ワイワイと打ち解けているマイ達を眺めて一時はどうなるかと思ったと安心感に包まれる一同。 そんな中で今回の一番の立役者であるアリサは過去に自分がマイに言った【大切なのは人との繋がりを求める誠実な気持ち】という言葉について思い耽っていた……自分の実家との現状を照らし合わせて……。
──あの時、あんな言葉が自分の口から出て来るなんて思いも由らなかったわ。 私自身、人の事言えないっていうのに……そうか……あれが私の本音なんだ……なら、言い出しっぺの私が行動で示さないとね。 今度実家に戻る機会があったら、その時は母様と……。
「燥いでいるところ悪いんだけど、お客様がお見えになってますよ東堂会長」
「ん? ありがとう千種君。 そういうわけですから皆さんそろそろお開きにしましょう。 マイさんは装備局に出向いて《朱弾の魔槍》を第七機関に提出してから寮へ帰宅してください。 他の皆さんは暗くならない内に速やか寮に戻る事! ……特に武内君は昨晩もまた決闘を行って騒ぎを起こしたそうですね? その件についてはまた後日詳しい話を聞かせてもらいますから、今晩は大人しく就寝する事! いいですね!!」
「──いや。 その件については今聞かせてもらうぜ、出雲那」
「ちょっとユーリ!? 勝手に入ったらダメだって!」
「ん? アンタ等は……」
そうこうしているうちに事務室に書類のコピーを取りに行っていた霞が来客を連れて戻って来ていた。 刀華が来客を迎え入れる為場を解散させようとして注意事項を言っていると、その最中に出入り口の扉から丁度二十歳くらいの男女一組が断りもなしに勝手に扉を開けて入室して来る。
「よおっ、出雲那! それに他の奴等も! 元気に学生生活を謳歌してるか?」
「お忙しいところ失礼します……一輝、昨晩振りだね。 出雲那も身体の具合は大丈夫? 引き取ったシグナムと一緒に倒れていたみたいだけど」
「ユーリ!」
「ハラオウンさんも、どうしてここに?」
男性の方は腰の上まで伸ばした黒い長髪をしていて腰に鞘に刀身を収めた刀を携えたぶっきらぼうな印象の青年であり、女性の方は金色のロングストレートの髪型をしていてアリサ同様
「仕事だよ仕事。 《瀞霊護廷隊》の依頼で、昨晩東エリアのアーケード街で観測された“霊圧の残滓”についての調査にな。 昨晩その場に居たお前なら何の事か分かっているんだろ、出雲那?」
「っ!?」
男性が出雲那に来客した用件を伝えると、出雲那は何の事かハッと察する事ができた。 それは昨晩、出雲那が入り込んでしまった謎の空間と、そこで突如顕れ襲ってきた化物達の事だ。 その霊力の残りカスを護廷隊はしっかりと観測していたのであった。
「そんなわけで……《遊撃士協会》スクエア東エリア支部所属、B級遊撃士《
「同じく東エリア支部所属、C級遊撃士《金色の閃光》の《フェイト・
「協会規約に基づき、件の当事者である武内出雲那高等生に昨晩の話を伺わせてもらう! 調査の協力よろしく頼むぜ!」
二人は身に付けているバッジと同じ【支える籠手】の紋章が描かれた表紙の手帳を掲げて毅然とそう言い放つ。 地域の平和と民間人の保護の為に世界中で活動する、調査と戦闘のスペシャリスト【
「……」
何事かと一同が騒然となる中、柊明日香は眉を顰めて若干険しい表情を浮かべていた……。
まさか……まさかマイが元男だったなんて! ……って『BLAZBLUEリミックスハート』を知っている人なら判りますよね? どう思う、マイちゃん?(笑)
マイ「わざとらしい茶番だね(冷たい目)」
厳しいっスね……てなわけで、この世界のマイも原作同様女体化してしまった元男でしたー。(棒)
原作では魔導書によって女になってしまったマイですが、この世界だと純星煌式武装の代償で女になってしまいました。
そしてリミックスハートの続編ヴァリアブルハートにて初登場したマイの武装《
マイ「ヴァリアブルハートがまだ完結していないからまだまだ謎が多い武装だよね。 原作だとカジュンが製作した事象兵器のレプリカだけど、何故か投げると敵を追尾したり、軽い負傷なら治癒してくれたり──」
意☆味☆不☆明♪
マイ「DA☆MA☆LTU☆TE」
だ が 断 る !
因みにマイの父親が女になってしまったマイを突き放した真意については果たしてどうなのでしょうか? リミックスハートと同じか、それとも……かなり先の話になりますが、いずれは明らかにしたいと思います!
マイ「父上……」
さて、今回のラストに出雲那達の前に現れた
マイ「それじゃあ、またねっ!」