幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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疑心から確信へ……

遊撃士協会(ブレイサーギルド)》……民間人の安全を護る為【支える籠手】の紋章を掲げて世界中に支部を構える民間団体。 彼等の理念は地域の平和や民間人の安全を護るという点に集約されており、どんな事があろうとも常に民間の保護を優先する。 各支部に所属する協会の構成員──【遊撃士(ブレイサー)】達は協会を通して依頼を受け、日々様々な問題解決に当たっている。 その実務は迷子のペット探しや図書館より貸し出された本の回収などの雑用から世界各地に跋扈する化物の退治や民間人に危害を加える犯罪者の鎮圧などの戦闘関係の仕事まで様々であり、その多種多様な依頼に対応する為、彼等遊撃士協会には様々な分野に適した優秀な人員が所属している。

 

協会は内政や戦争への武力介入などといった国家権力に対して不干渉である中立な立場であるが故に、武闘王国ダイランディアをはじめとする世界中の国家にも()()()()()()広く受け入れられているのである。

 

戦島都市スクエアにも東西南北のエリアに一つずつ──計四つの支部が点在し、その内の一つである東エリア支部に所属しているB級遊撃士《ユーリ・ローウェル》とC級遊撃士《フェイト・T・ハラオウン》もまた、担当区域の平和と民間人の安全を護る為に今回の件の依頼を受けて調査に乗り出していた。

 

調査の名目で青学の生徒会室にやって来た二人に出雲那は昨夜の出来事を覚えている限り説明し、その内容を聞いたこの場に居る一同は騒然としていた。

 

「いきなり空間凍結結界のような現界から隔離された朱い空間に閉じ込められて、悪魔のような姿をした正体不明の霊体の化物共に襲われた……なぁ……話を聞く限りソイツ等は(ホロウ)じゃねぇみてーだが、連盟や護廷隊の周到な網に引っ掛からずにそんなモンがスクエア内に顕れるだなんて俄かに信じられねーけど、実際に霊力の残滓が残っていたとなると……重要な手掛かりになりそうだな」

 

「化物達から出雲那とシグナムを救った氷結能力を使う女子高等生伐刀者というのも気になるね……出雲那、他に覚えている事はない?」

 

「……悪りぃ。 化物共にやられて死にかけた所為か、幾つか記憶が飛んじまったみてぇでな、これ以上はどう頑張っても思い出せねぇんだ……」

 

ユーリが右手の親指と人差し指を顎に添えて首を傾げて考え込み、遊撃士手帳にメモを取るフェイトが更なる手掛かりを求めて出雲那にその他に思い出せる事はないのかを聞いてみる。 出雲那はこれ以上は思い出せないと申し訳なさそうに告げ、「そう……」と残念そうに言ってメモを取り終えた手帳を懐にしまうフェイトから目を逸らして周りを見回してみた。 皆、昨夜危険な目に遭っていた出雲那に心配そうな目を向けている。 特に彼の師のような存在であり人を思いやる気持ちの強い刀華は命に係わるような危険な事をした出雲那に対して怒っているのか非常に訝し気な眼をして出雲那を見つめており、その眼は笑っていない……。

 

──やべぇ。 刀華さんメチャメチャ怒ってやがる……はぁぁ、こりゃあ最低説教六時間は覚悟しといたほうがいいな。 しばらく夜のランニングも控えた方がよさそうだ。 あ~かったりぃ……ん?

 

笑っていない眼で無言で見つめてくる刀華を恐れて逃げるように目を他に向ける出雲那であったが、そこで明日香が真剣な表情で何やらブツブツ言いながら携帯端末を手に持ってディスプレイを見ているのに気が付いた。

 

──何やってんだアイツ? 優等生のくせに話を聞かないで端末を弄っているなんて……アイツ、本当は優等生のフリして実は不真面目なんじゃ──

 

「よし、もういい。 話してくれてサンキュな出雲那。 あとは現場に行って直接調べてみるぜ」

 

明日香に疑いの意を向ける出雲那であったが、ユーリの一声によって我に呼び戻された。

 

用事が済んだユーリとフェイトは生徒会室を跡にしようとするが、折角なので出雲那達は全員で二人を外まで見送る事にし、一同は校舎の玄関口前に移動した。

 

「んじゃ、オレ達はもう行くぜ。 これでも忙しい身なんでな。 取り込んでいるところ邪魔して悪かったな、生徒会長さん」

 

「いいえ、こちらこそ折角来ていただいたのにお茶菓子一つ出せなくてすいません。 また何かあったらいつでも来てくださいね」

 

「うん、ありがとう。 出雲那、あまり皆に心配かけちゃだめだよ。 一輝達も今日は暗くなる前に真っ直ぐ寮に帰りなさい。 連盟の方には私達が出向いて伝えておくから」

 

「分かっているさ、痛い目に遭ったからな。 もう刀華さんの長ぇ説教を受けるのも勘弁だし……」

 

「ありがとうございます。 ハラオウンさん達もお気をつけて、お仕事頑張ってください」

 

「おうっ! じゃあまたな」

 

ユーリが左手を小さく上げて気さくに別れの言葉を言うとフェイトが出雲那達に軽く一礼をし、二人は出雲那達に見送られながらピッタリ横に並んで校舎の昇降口を出て行く。

 

「しっかしフェイト、あまり皆に心配かけるなってお前さんも人の事言えないだろ? 準遊撃士時代、【セームベル】の孤児院が放火された事件で、中に孤児院のガキが一人取り残されたと聞いてオレの制止も聞かずに炎の中に飛び込んで行ったくせによ」

 

「ユーリだって私に説教できる立場じゃないでしょう? 貴方が王国騎士だった頃、魔獣の群れの殲滅作戦で隊列から突出し過ぎて防衛術式内への退避に間に合わなくなりそうになった事があったって、フレンが愚痴を言っていたよ」

 

「げっ!? あのヤロウ、なに勝手に人の失敗談を人のパートナーに話してやがるんだよ!?」

 

「フレン、ユーリの事が心配で心配で仕方がないって感じだったよ。 たまには休暇を取って王国騎士団に顔を出しに行ったらどう? 遊撃士になってから一回も会っていないんでしょう? 親友同士なのに……」

 

「それこそお前に言われたくねーよ。 お前だって遊撃士になってからというもの、なのはに連絡すらよこしていないんだろうが。 お前こそ休暇を取って魔導星防軍に顔を出しに行けよ」

 

「いや、それは違うよ。 私は何度もなのはの携帯にメールを送ったり、直接電話を掛けたりしたけれど、全く、全然、ちっとも返信が返ってこないし、毎回留守なんだ。 たぶん……いや、確実に仕事に熱中し過ぎて二十四時間携帯メールも読む間もなく働き詰めなんだと思う……」

 

「おい、それもう労働基準時間ガン無視なんてレベルじゃねぇって!? アイツいつか過労死するぞ! 今回の件が終わったら休暇届出して航空教導隊舎になのはを止めに行くぜ。 オレも行くからよ!!」

 

「う、うん……」

 

昇降口を出た二人は、そんな他愛もない(?)雑談をしながら校門に向かって学園敷地内の広場を歩いて去って行ったのだった。

 

「……今日はこれで解散としましょうか……」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

遊撃士の二人の姿が見えなくなると、重くなる空気の中、今は一旦お開きにしようと刀華が重い声音で一同に伝え、この場は解散となった。 仲間達が「また明日」と次々に帰路に就いて行き、夕陽の光で夕焼け色に染まったエントランスには出雲那と刀華だけが残った。

 

「「……」」

 

出雲那に背を向け、無言で昇降口の外を眺める刀華。 その背中はどこか悲し気で、夕焼け色に染まった背景も相俟って哀愁漂う雰囲気を感じさせている。

 

──刀華さん、やっぱりかなり怒っているのか? ……当然か……いつもの決闘でのドンパチなら説教一時間で許してくれるけど、今回は不足の事態と言っても死にかけたんだ。 相当心配させてしまったんだろうな……。

 

出雲那は刀華の背中を眺めて気まずそうに眉を顰めていた。 今回は本当に危険な目に遭ってしまった。 仲間達も去り際に気遣うような目線を出雲那に向けていたし、況してや技を伝授してくれた師のような存在に多大な心配を掛けてしまったのだ。 出雲那は相当な負い目を感じている事だろう……。

 

「……刀華さん」

 

「……」

 

刀華は何も答えない。 彼女はそのまま生徒会室に向かう階段がある廊下に向けて歩き出し、出雲那に何も言わずに去るかと思われたが──

 

「……イズ君」

 

廊下の手前で足を止め、出雲那に背を向けたまま、彼女は口を開いた。

 

「今回の件は予測すらできなかった不足の事態だったという事で不問とします……だけど、もう危険な事はしないでね。 君は戦士である前に未熟な学生なんだよ? 学園を卒業したら死の危険を伴う戦場に出なければならない事もあるかもしれないけれど、少なくとも学生生活の中だけは、安全に過ごして……」

 

そう言って刀華は出雲那に想う気持ちを寂し気な声音で伝えてきた。 やはり出雲那が昨夜死にかける目に遭ったと言う事実に刀華は不安を抱いていたのだ。 他者を思いやる慈愛の心を持っている彼女にとって、誰かが危険な目に遭う事柄など見過ごせるものではない。 況してや、それが大切な後輩で弟子のような存在であるならば尚更だ。

 

……それに、出雲那に限ってはある懸念もある。

 

「イズ君……君は“葵柳君”のようには絶対にならないでね? 戦士として甘い考えなのかもしれないけれど……目の前で誰かが消えるのはもう……たくさんだから……」

 

刀華は寂しげな声音のままそう言って再び歩き出し、今度こそこの場を去って行った。

 

「……そんなの……分かっているさ。 ……アイツとの約束を果たすまでは、絶対に……!」

 

エントランスに一人残された出雲那は心にスッキリしない気持ちを秘めたまま、昇降口を出て寮に帰る事にしたのだった。

 

「あ、来た来た」

 

「遅かったじゃないイズナ。 危うく待ちくたびれそうになったわ」

 

「お前ら……」

 

校門前では一輝とステラの二人が出雲那が来るのを待っていた。 二人はどうやら出雲那と帰り道を共にしようと考えていたようだ。

 

そのまま三人は校門を出て、夕焼け色に染められた歩道を歩いて行く。

 

「一輝はともかく、どういう風の吹き回しだヴァーミリオン? せっかく一輝と二人きりになれるチャンスだったというのによ」

 

「別に。 イッキがアンタを気にかけていたから、気を利かせただけよ。 アタシ個人もイッキの親友であるアンタの話を聞きたいと思っていたところだしね。 普段のイッキの私生活とか……」

 

「あはは……にしても、新学期初日から驚くくらい色々な事があったよね? 登校初っ端から風紀委員にケンカを売ったし、柊さんが僕達のクラスの仲間になったし、入学式の東堂さんの演説は素晴らしかったし、ステラと再会できたし、みんなで食事をしたり摸擬戦もやったし、ステラとマイ君は解り合えたし、そのうえ遊撃士まで訪ねて来るなんてね」

 

「……なんだか、イッキ嬉しそうね。 遊撃士の話で少し口もとがニヤけているじゃない。 それに、あのキンパツの女遊撃士と親しそうだったし……まさか、浮気じゃないでしょうね?」

 

ステラは疑いの目線で一輝の横顔を覗く。 言われてみれば一輝はフェイトと話すとき「ハラオウンさん」と妙にハキハキと会話をしていたから、もしや彼女に気があるんじゃないかと疑うのも仕方がないのだが……。

 

「僕が、ハラオウンさんに? それは無いよ。 僕が異性として好きなのはステラだけだし、それにハラオウンさんはユーリさんと付き合っているしね」

 

「えっ!? そうなの? 確かに、仲良さそうだったけれど……」

 

「因みに、あの二人は同棲しているぜ」

 

「ふぇっ!? ど、同棲っ!?」

 

「ナハハ! 顔真っ赤にして、お前大胆に見えて意外と純情(うぶ)だなヴァーミリオン。 残念ながら、あの二人は今のところ、今お前が妄想したような事をするまでは行ってねぇみたいだぜ。 フェイト先輩は青学のOBだから、よくオレ達のような後輩に愚痴を聞いてもらいに来るんだよなぁ、主に彼氏(ユーリ)関係の」

 

同棲と聞いて茹で上がったように顔を真っ赤にするステラをニヤニヤとイジりながら出雲那が言ったように、フェイトは二年前に青学を卒業したOBであり、一輝が親しそうにしていたのもそういう理由である。 遊撃士の採用試験を受けられるのは十六歳からなのだが、フェイトは学園卒業後すぐに採用試験に合格して、十八歳で見習いである準遊撃士となり、経ったの一年間で準遊撃士から正遊撃士になる為の条件を達成し、現在協会から二つ名を貰うに値するC級に至り、日夜遊撃士として人々の平和の為に活動している。 彼女がユーリと組むようになったのも、二人は幼少期からの幼馴染で準遊撃士時代に起きた“とある事件”で再会したのが切っ掛けであり、元々ユーリに気があったフェイトは正遊撃士となった日の夜にユーリに自分の想いを打ち明けた事で、二人は仕事のパートナー兼恋人同士の関係になったのであった。

 

「ははは。 まあ、あの二人に限らず、遊撃士の男女ペアの多くがカップルになる傾向があるみたいだね。 ハラオウンさんが準遊撃士となった二年前に起きた、あの世界規模に及んだ【万応素(マナ)枯渇事件】解決の立役者である《陽光》と《漆黒の牙》の二人も恋人同士だったみたいだしね」

 

「あっ、その二人ならアタシも知っているわ! 現在ダイランディア軍参謀長を務める元“S級”遊撃士──《剣聖》カシウス・ブライト准将の娘と養子だって聞いたわ」

 

「うん。 あの二人は本当に凄いと思うよ。 準遊撃士になってから経ったの半年で正遊撃士として認められて、事件時に世界中を巡って多くの人々の助けになって、最後に多くの仲間達と共に事件を引き起こした主犯の組織が潜む浮遊要塞へと突入し主犯格の人間を見事に撃破……まるで小説の英雄物語みたいだと思ったよ。 《陽光》と《漆黒の牙》の二人は、この剣で多くの人々を救う騎士を目指す僕の理想像さ」

 

「……イッキ?」

 

ステラは遊撃士の事を語る一輝が楽しそうに感慨に耽っているのを感じて疑問に思った、何故彼は遊撃士の話を楽しそうに語るのだろうかと……そんなステラの心情を察したのか、一輝は(おもむろ)に語りだした。

 

「ステラ……僕が昔『弱い人も才能が無い人も差別せず、大勢の人の助けとなる騎士になる』という夢を語ったのは、覚えているよね……」

 

「……うん。 それで、イッキは将来連盟に加入して理想の騎士になるって、言っていたわね」

 

「そう……夢は今でも変わらないけれど、今は連盟に加入しようとは思っていないよ。 ……僕は、遊撃士になりたいんだ……《陽光》と《漆黒の牙》のような、大勢の人を救う最高の遊撃士に……」

 

一輝は自分の胸の内を告白した。 遊撃士はチカラにも権力にも屈しない“自由騎士”とも呼ばれている。 基本規約により遊撃士は国家権力には干渉できないが、彼等が何よりも優先する規約は“民間人の安全”であり、国家が民間人に危害を及ぼすならば例外的に正面から国家にケンカを売る事も辞さない。 一輝はそんな彼等と自分の理想を重ねて、自分の夢を叶える為には遊撃士になるのが一番だと思ったのであった。

 

「……そう。 浮気じゃないと分かって、なんとなく予想はしていたけれど……うん、いいんじゃない? 人の為に活動する組織なんて、イッキに向いていると思うわ」

 

「ステラ……」

 

「それじゃあ学園を卒業して、もし遊撃士になれたのなら……アタシの国に来て一緒に国民のみんなを護ってくれる?」

 

意外にもステラは一輝が目標を変えた事をアッサリと受け入れた。 ステラ自身も愛するヴァーミリオン皇国民達を護りたいという理念で戦士となったので人々を護る為に活動する遊撃士には感心の念を抱いており、ヴァーミリオン皇国でも支部の遊撃士達は国民の安全の為に日夜手助けをしてくれているので感謝すらしている。 故にステラは一輝が遊撃士を目指す事に賛成し、正遊撃士となった暁にはヴァーミリオン皇国にある支部に所属して自分と共に国民達を護ってほしいという想いを抱いていた。

 

そんなステラの想いに対しての一輝の答えは言うまでもなく──

 

「もちろんだよステラ。 一緒に多くの人々を護って行こう。 僕と君なら、きっと……」

 

「イッキ……」

 

「ステラ……」

 

歩みを止めて、将来の約束と共に見つめ合う二人。 暖かな夕陽はそんな二人を祝福するかのように見守っているようであった……なんともロマンチックな絵面だが、忘れてはいないだろうか? 我らが主人公がこの場に居るという事を──

 

「おーい。 オレ邪魔のようだし、先帰っていいか?」

 

「「ファッ!?」」

 

二人の世界に浸透している最中に突然声をかけられたので、ギョッと我に返る一輝とステラ。 眼を細めて呆れた表情をしていた出雲那が付き合い切れなそうな表情をしていた為に、二人は急に恥ずかしくなり頬を朱らめて明後日の方向を向いて誤魔化しはじめるのだが、もう遅いと思う……。

 

「……まあ、それはいいとしてヴァーミリオン、柊の奴はどうした? お前アイツとダチなんだろ? 一輝と二人きりで帰るんじゃないんならアイツも誘っても良かったと思うんだが……」

 

甘々で鬱陶しく感じた空気が無くなった事により出雲那は気を切り替えて、先程から気になっていた事をステラに聞いてみる。 すると、ステラは何と言ったらいいのか分からないのか「う~ん」と唸り、眉を顰めた訝し気な表情になる。

 

「アタシもアスカを誘おうと思ったんだけど、さっき遊撃士の二人が去って行ってトーカさんが場を解散させた時にはもうどこかへ行っちゃってたのよ。 アスカの奴、ヴァーミリオンに居た頃も偶にふらっとどこかへいなくなる事があったの。 いつもはしっかりとした優等生なんだけど、放浪癖でもあるのかしら? ……そういえば、今日アンタが話していた昨夜の事件の話の中に気になった事があったんだけど」

 

「気になった事?」

 

「ほら、アンタを助けたっていう女子高等生伐刀者の話。 確か氷結能力を使っていたって言ったわよね?」

 

「……そうだ」

 

眼は額の傷から流れ出る血で霞んでいたとはいえ、氷なんて個体を見間違える筈がない。 出雲那は半ば曖昧にステラの疑問に応えたのだが、ステラはそれを聞いて言い難そうに言う。

 

「なんと言うか……偶然だとは思うけれど──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──アスカも、氷結能力を使う伐刀者なのよ」

 

「っ!!!」

 

ステラがその事実を告げた瞬間に、出雲那の頭の中に電流が流れるかのような衝撃が奔った。

 

──柊が、昨夜化物共を相手に無双していた女と同じ、氷結能力を使う伐刀者? 今日、教室で編入して来た柊の姿を見た時に見たフラッシュバックといい。 一体──

 

柊明日香は何者なのか? その疑心が出雲那の心を支配し、彼は居ても立っても居られなくなった。

 

「……悪い一輝、ヴァーミリオン。 やっぱり二人で先に帰ってくれ……」

 

「出雲那君?」

 

「ま、まさかぁ、偶然でしょ? アスカは優等生よ。 そんな夜中に出歩いて化物退治をしているなんて……」

 

「悪い! 気になって仕方がねぇんだ!!」

 

出雲那は焦燥に駆られて走り出した。

 

「あっ、出雲那君!? 危険だから今日は早く帰れっt「陽が落ちるまでには戻る! 柊に話を聞きに行くだけだから心配すんな!」ちょっ、待っ……!」

 

出雲那は一輝の制止も聞かずに行ってしまった。 疑心が確信に変わりそうで焦る気持ちはわかるが……。

 

「イズナ……アイツ、今アスカがどこにいるのか、分かっているのかしら?」

 

ステラの呟きの後に「カァー!カァー!」と夕陽の前に飛ぶカラスが鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……《異界化(イクリプス)》の反応があったのは、この辺りだったな……」

 

無数に建ち並ぶ高層ビルとその眼下のコンクリートの上を多くの車両が行き来する東エリア中央区。 ガラス張りの側面で夕陽の光が朱く反射するその景色を良く見渡す事のできる高層ビルの屋上で、黒い外套を纏った一人の少年がその景色を眺めていた。

 

「成程、眼で視る限りは何も異常など無いように思えるが、所々の空間に綻びが生じているな……フッ、下手な偽装だ。 無数のダミーを創る事によって“ゲート”の出現場所を【適格者】に発見されるのを困難にする腹のようだが……それで俺の眼が誤魔化せるとでも思っているのか?」

 

少年は外套のフードを外して素顔を露わにさせる。 少年は出雲那と殆ど変わらない歳のようであり、色が抜けたような銀髪が目立つ。 左右の瞳の色が違く黒と紅のオッドアイであり、右の紅い瞳の中心には無数の鎖が巻き付けられた六芒星のような紋様が宿っている。 顔は整っているが無愛想な雰囲気を醸し出し、褐色肌の顔の右側三分の一はジグザグに仕切られた黒い痣が侵食していて、かなり……厨二だ。 左腰に差してある紫色の鞘に収められた太刀も相俟って、凄く厨二臭い……彼の姿を見た一般人がいたら百人中九十八人が不審者だと思う事だろう。

 

キザっぽい笑みを浮かべて微妙にドヤ顔をしている銀髪の少年であったが、その時、少年は背後から来る気配を感じ取った。

 

「プルート~♪」

 

「ふっ」

 

「……アレ?」

 

少年は自分の背中に気さくに飛び掛かってしがみ付こうとして来たキャスケット帽を頭に被った少女を右に一歩ズレてやり過ごした。 飛びつく対象を見失った少女は当然少年の左を通り過ぎて切り立った端から飛び出してしまい、万有引力の法則に従って身体は奈落へと落下を始める。

 

「……ちょっ!? 下っ! 落ちる! 死ぬ! あたし死んじゃう″──ぐぇっ!!?」

 

「やれやれ、鬱陶しい女だ……マリ、何馬鹿をやっている?」

 

「ぐお″ぉ″ぉ″、 はやぐ上げでぇ″ぇ″ーーーっ!!」

 

少女が落下しそうになる寸前、【プルート】と呼ばれた銀髪の少年が少女の首に巻かれているマフラーの裾を掴み落下を防止する。 マフラーが首に締まって苦しそうに顔を青くする少女の名は《二階堂(にかいどう)マリ》。 彼女は魔女(ストレガ)ではなく純粋な魔導士(ウィザード)なのだが、何故か《極光の魔女》と呼ばれている。

 

「……フンッ!」

 

「んがぁっ────がっ!?」

 

苦しむマリの喘ぎ声が鬱陶しく思ったので、少年はマフラーを掴む腕に一気にチカラを加えてマリの身体ごと引っ張り上げて上に放り、宙を舞ったマリは頭から元の屋上の床に落下し、彼女の眼から星が出た。

 

「痛っつーーーーっ!! 何すんのよ! 頭パーになったらどうしてくれるの? もっと優しく引き上げてくれたっていいじゃない!! ……いたた」

 

「元々パーだろう? 問題ない」

 

「誰がパーよ!? あたし二大大国の名前、両方間違えずに言えるんだから!」

 

「それは一般常識だ。 それに貴様は飛行魔法が使えるだろうが。 冷静になれば対処できた筈だ。 この愚か者が」

 

少年は打ち付けた頭を痛そうに手で押さえて立ち上がってギャーギャー言ってくるマリの文句を川のせせらぎのように流して眼下の街を再び見下ろす。 少年の名は《プルート・A・イグナイト》、素性不明の謎の少年だ。

 

「さてと、そろそろ頃合いだな……先に行くぞ、マリ」

 

「ちょっ!? 待ってよプルート! アタシ魔導士だから【適格者】じゃないし、アンタがいないと“ゲート”に潜れないじゃない!! ちょっとーーーーっ!!!」

 

プルートは後ろで喚くマリを無視してビルの屋上から飛び降りて行く。

 

「フッ! 昨夜の異界化反応といい、今回の件といい、どうも最近この都市で《異界化》が頻発しているようだ。 これはひょっとすると、()()()()()()()が出て来るかもしれないな……フッ! 鬼が出るか蛇が出るか……楽しみだ。 なあ、《冥界の死刀(イザ=ナミ)》」

 

落下しながら不敵に笑うプルートの左腰の太刀の紫色の鞘には、白い字でこう彫られていた──“伊邪那美(イザナミ)”と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東エリアの街中を出雲那は駆け抜ける。 陽はもうすぐ沈みそうだ。 夜の闇が東の空を侵食しはじめている。 彼が目指す目的地は……昨夜、化物に襲われたアーケード街。

 

──犯人っていうのは犯行現場に戻るモンだぜ。 もし柊の奴が昨日の女なら、そこに居る可能性が高けぇ筈。

 

無論、出雲那は全く見当違いの場所を目指していたのだった。 ハッキリ言って出雲那そんなに頭は良くない。 戦いに関しては頭の回転が速いのだが、推理とか憶測とか、そういう分野はからっきしなのだ……。

 

「……よしっ、もう少しd「おい、決闘(デュエル)しろよ! 武内出雲那!!」ん? ──ってどあぁっ!?」

 

背の高い建物が密集する間にある通り道を通り抜けようとした瞬間、出雲那の頭上からデカデカと【5t】と書かれた分銅が落下して来た。 それに気付いた出雲那は慌てて前に飛び込んでそれを回避し、分銅の重量で破砕したコンクリートの破片が粉塵となって舞う中、出雲那は前転をして受け身をとり、立ち上がって分銅が落下して来た場所の近くの建物の上を見回して分銅を落とした犯人を探る。 ……そして、そこに居たのは──

 

「フッ! やはり躱したか。 そうでなければ、テスタロッサのライトニングバインドを執念で引き千切って舞い戻った意味が無い。 心が滾るぞ、武内!」

 

「……おい、何騎士がセコイ真似してんだよ……昨日おもいっきり雷切くらわせたというのに、もうピンピンして出てきやがったのかよ……シグナム先輩!」

 

屋根の上に立って威風堂々と出雲那を見下ろす美しき《流離の烈火の将》シグナムだった。 気付いた時には既にソーサラーフィールドが展開されていて、どうやら決闘は避けられる様子ではないようだ。

 

「悪りぃけど、今テメェの相手をしている暇はねぇんだ! 速攻で決着を着けてやるから恨むんじゃねぇぞ!!」

 

『LET's GO AHEAD!』

 

身体中に激しく電光を迸らせて、出雲那は星脈世代の強靭な跳躍力によって空へと飛び出して行ったのだった……今、この戦島都市スクエアで、何かが起きようとしている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




~噂の某エース・オブ・エースさんが現在何をしているのかが気になったので、某所にある《魔導星防軍(エトワール)》の訓練場に盗聴器を仕掛けてみた~

さて、レコーダースイッチ・オン!

???「ン熱血指導ゥなのォォーーーーーーーーーーーッ!!!(大音量)」

……え? ナニゴト?

????「私はもう、誰も傷つけたくないから! 失いたくないからっ!! ……強く……なりたいんです……」

???「ンナラバクラエッ! クロスファイヤーノダメージヲッ!!」

ドッカーーーーーーーーッン!!!

……なんか手が付けられないレベルで暴走しているぅーーーーーーっ!!? 早く何とかしてくれーーーーーユーリィィーーーーーッ!! フェイトォォーーーーーッ!!

???「ンまだまだァッ!! 私のン熱血指導ゥはこれからなのォォーーーーーーーッ!!!」



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