幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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BLAZBLUEヴァリアブルハートの第二巻を見て《朱弾の魔槍(ガリアスフィラ=アウトシール)》の製作の依頼者の設定をマイ自身が依頼を出したに変更しました。 詳しくは『マイ・ナツメという存在』の回を再読してください。 理由はというとマイの親父さんはチカラさえあればいいという価値観なのかと思っていたけれど、意外にも正当な武闘派だったのね……。

それにしてもマイの親父さんヤベェッ! あのアズラエルを単独で撃退した英雄ってヤバ過ぎだろ!? OYAZIは軌跡シリーズの最強親父共だけでお腹いっぱいだってのに。(汗)

こうなるといつかOYAZI大戦とかやってみたくなるな……国が一つか二つ消えるかも。(汗)




夜に塗り替えられる空

出雲那がシグナムと遭遇している頃、その数キロメートル先にあるアーケード街に先程聞き込みの為に青学の生徒会室を訪れていた遊撃士の二人──ユーリとフェイトが到着していた。

 

「現場に到着っと……なるほどな、あちこちで修繕ガジェットが工事をしてやがる」

 

陽が沈みかけた夕空の下、ユーリはアーケード街の辺り一帯を見回してそう呟く。 そこら中で酷く破損した噴水池や煉瓦造りの建物、倒壊したアーチなどを円柱状の機械がロボットアームを出して修繕作業をしているのが見えるので、明らかにこの場で何かがあったという事が一般人の目でも判別できる。

 

「これだけなら出雲那とシグナムが決闘で暴れたってだけかもしれないけれど、此処に霊力の残滓があるとすると……」

 

「ああ、いよいよキナ臭くなってくるな。 出雲那の奴は()()()()()()()()()()()()()()()()()、よっぽどの事が無い限り“あのチカラ”は使わねぇだろうし、使ったとしても霊的な何かを退ける為だろうから、どっちにしろ霊関係の事件があったって事だ。 出雲那から聞き出した話にも信憑性が出てきやがったな……」

 

「もし霊体の怪物が襲って来たら、星脈世代(ジェネステラ)魔導士(ウィザード)の私達じゃあどうにもならないね。 一応その対策は用意してあるけれど、ザコはともかく大物が出たら、これだけじゃ心もとないかな……」

 

仕事の依頼を出したのが瀞霊護廷隊であるので事件の内容が霊関係である可能性は大いに考えられるが、もし出雲那から聞き出した通りこの被害が何らかの霊体の化物によって齎されたモノだとするならば、もしそれに襲われた場合、星脈世代であるユーリと魔導士であるフェイトでは太刀打ちする事は不可能だ。 何故なら霊体には霊力でなければ干渉する事ができないからであり、霊力以外のチカラでは一切霊体に傷を付ける事ができないからである。 一定以上の気力や魔力を保有していれば霊体を視認する事ぐらいは可能なのだが、やはり霊体の化物を倒すには霊力が必要なのだ。

 

一応戦闘をする可能性を考慮してフェイトは幾らかの対策を事前に用意し、自身も今先程青学に訪れた際に着ていた私服ではなく《防護服(プロテクター)》と呼ばれる魔導士専用の防具を身に纏っている。 髪型も金色の長髪を二つの黒いリボンで括って可憐なツインテールにしており、それが裾が長めの黒い軍服風のジャケット&ミニスカートの防護服と相まって、非常に彼女の可憐さを引き立てている……風に棚引く白いマントは少し痛々しい気がするが、どこかの執行者のような黒服を着ているユーリとはお似合いなのかもしれない……。

 

「んな事はわかってるって。 だから護廷隊に助っ人を出してくれと頼んだんだろ?」

 

「その筈なんだけど……まだ来ていないみたいだね」

 

正遊撃士は依頼を遂行するにあたり手持ちの戦力では能力不足だと判断した場合、依頼を受けた遊撃士は自己判断と責任で協力者を募る事が許されている。 今回、スクエアに点在する協会支部に動ける伐刀者(ブレイザー)の遊撃士が誰一人としていなかったので、霊体の敵との戦闘に備えて依頼主である瀞霊護廷隊スクエア支部の方から隊士を一人協力者として現地に派遣する運びとなっているのだが……護廷隊の隊士らしき人物はこの場のどこにも見当たらない。 恐らくは派遣予定の隊士が外部での戦闘許可証をもらったり、記録の為の書類を用意したりと、準備に戸惑って遅れているのだろう。 大きな組織故にフットワークが遅いのだ。

 

「まっ、来てないんならしょうがねぇな。 この場の霊力の測定だけでも先にやっちまおうぜ」

 

「うん、そうだね」

 

「たのむぞ、フェイト」

 

「来て、《バルディッシュ》」

 

フェイトはその場で換装魔法を発動し、何も無い空間から黒い魔戦斧型の魔装錬金武装を取り出した。 そして彼女はそれを右手に持ち、夜の漆黒に染まりかけている天に掲げる。

 

「アクセス──」

 

バルディッシュの黄色の核が発光し、フェイトの全身が金色の膜に覆われる。 その後彼女を中心に金色に光る輪が形成され、それが波のように周囲に広がって行く。

 

「……どうだ? 周りに霊力の残りカスはあったか?」

 

「──……うん、発生してから時間が経っているみたいだから濃度が薄いけれど、周囲には霊力の残滓がある。 それも一つや二つじゃない、判り難いけれどかなり多いみたいだね……」

 

バルディッシュを持った右腕を真上に掲げたまま眼を瞑って制止しているフェイトにユーリが霊力の残滓は見つかったのかを尋ね、フェイトはそれに頷いて肯定する。 どうやらフェイトは今、周囲に存在する霊力を探っているようだ。

 

何故魔導士であるフェイトが霊力を探れるのかというと、現在彼女の魔装錬金武装であるバルディッシュの内部には遊撃士協会のバックアップをしてくれている《エプスタイン財団》により開発された【万応素測定装置】が組み込まれており、今はそれを作動させて近辺の万応素を測定しているからである。 元々、生物の潜在能力である気力はともかく魔力と霊力は万応素によって齎されたチカラである為、空気中に散布する万応素の質を調べる事により、その場に漂っている魔力や霊力を測定する事が可能なのだ。

 

「どうやら霊絡みの案件なのは間違いないみたいだな」

 

「そうだね。 伐刀者のならず者グループ同士の抗争というのも考えられたけど、それなら昨晩の内にギルドに情報が届いて緊急クエストが発生していただろうし、連盟の騎士達だって鎮圧に出動している筈だから、その線はあり得ないかな」

 

測定の結果、昨晩この場で霊的な何かが暴れたのだろうと結論付け、フェイトは測定装置を停止させてバルディッシュを持つ右腕を下ろした。

 

「やれやれ、どうやら出雲那が言った正体不明の霊体の化物が現れたっていうのが事実だという可能性が高そうだな」

 

「うん。 でも、それだと私達にできる事はここまでだね。 悔しいけれど霊力を持つ伐刀者でないと霊関係の案件に対処するのは無理だ」

 

「まっ、しょうがねぇか。 後は護廷隊の仕事だ。 これから此処に来る予定の遅刻隊士クンに調査を引き継いで依頼達成としようぜ」

 

霊関係の事件となると、これ以上は伐刀者ではない二人にできる事は何も無いだろう。 二人は後は専門家に任せて身を引く事を決める。 これが出雲那ならば最後まで首を突っ込もうとするだろうが二人はプロだ、引くべき時に引くという引き際を弁える事ができる。

 

「よしっ。 というわけで遅刻隊士クンが来るまでの間、その辺ブラブラとデートでもするか」

 

「ちょっ!? デ、デートって……いい、一応、今は仕事中なんだよ! そ、そんな不謹慎な……」

 

「おいおい、なにキョドって赤くなってんだ? 今更デートぐらいで初々しくなる仲でもねーだろ?」

 

「そ、それはそうだけど! ユーリが急に言うから驚いたんじゃない!! まったく……」

 

「はは、悪りぃ悪りぃ。 そんなにカリカリすんなよ、美人が台無しだぞ」

 

「大きなお世話だよ……」

 

一応まだ仕事中だというのに解放感に当てられてニヤニヤと意地悪な笑みで揶揄ってくるユーリに対して、フェイトは恥じらいによる動揺のあまりに頬が朱く染まる程怒鳴り声をあげている。 誘いを断ろうとしないあたりフェイトも満更ではないのだろうし、恋人同士なのだから別にデートくらいで恥ずかしがる程初心では無いのだが、急な不意打ちは気に喰わなく思ったのだろう。

 

「……ねぇ、ユーリ」

 

「ん?」

 

頬を朱く染めたまま不機嫌そうに腕を組んでムスッとそっぽを向くフェイトであったが、しばらく気持ちを落ち着けると彼女は腕を組んだまま横目でユーリに目線を合わせてきた。 その頬は先程よりも濃い朱に染まっていてモジモジとかなり恥ずかしそうにしている。

 

「あのさ……そろそろ私達、付き合ってから一年になるよね?」

 

「……ああ、そうだな」

 

「ならさ……え~っと……そろそろ私達も……そのぅ……」

 

「? ……なんだよ、ハッキリ言ったらどうだ?」

 

「だから……そのぅ……そろそろ恋人同士らしい事をというか……一つ上の関係にというか……」

 

「二人で同棲してんのに恋人同士らしい事も何もないだろうが……何だ、キスでもしてほしいのか?」

 

「そ、それもそうなんだけど……そのぅ……」

 

ユーリは焦れったいなとモジモジと尻込みして何かをねだろうとするフェイトにジト眼を向けて自分に何をしてほしいのかを言うのだが、フェイトはハッキリとそれを口に出そうとしない……いや、おいそれと言えないような恥ずかしい事なのだろう。 今の彼女は女の顔だ。 キス以上の事で恋人同士らしい事と言えば大人ならば察する事ができる筈なのだが、生憎ユーリ・ローウェルという男はこの手の事に関しては疎い……。

 

「……ユーリ……」

 

このままの調子だとまた何もできずに終わってしまうと悟ったフェイトは意を決してユーリの眼前に立ち、うっとりとした上目でその黒い水晶の様な瞳を見つめる。 空気が神妙になり、彼女が向ける真紅の瞳に当てられてユーリも自然と無言になり、息を呑まざるを得ない状況となっていた。

 

──おいおい……一体、何をするつもりなんだ……?

 

ユーリは自分のパートナー兼恋人の突然の行動に困惑しているが、その女の瞳に心臓は激しく鼓動している。 彼女が醸し出す神妙ながら扇情的な雰囲気に飲まれて戸惑っているのだ。 そしてその雰囲気に乗じてフェイトがその全身を戸惑いで硬直するユーリに傾け────ようとした、その時──

 

「──っ!!? フェイト! 跳べぇっ!!」

 

「っ!!?」

 

巨大な“異形”の接近を察知したユーリが我に返り、フェイトに叫ぶと彼女も我に返る。 瞬時に二人はその場から跳び退き、二人が0.5秒前に居た場所に大木の様に巨大な()が振り下ろされ、煉瓦で舗装された地面が砕けて粉塵が舞った。

 

「チッ! 幾ら何でも気を抜き過ぎた。 こんなデカブツの接近に気付けねぇなんてよ!」

 

フェイトと共に地に着地したユーリは今まで“異形”の接近に気付かなかった自分の不注意を戒めて悪態を吐いた。 粉塵が晴れるとその中から出て来たのは、ユーリの身体の二倍以上の大きさはあるであろう化物……全体的には人の様に直立で立ってはいるが首から上は魚の頭蓋骨の様な【仮面】に覆われていて、斑模様の巨大な体躯の胸の中心には円形の【孔】が空いている。 このような【仮面】と【孔】を持つ霊体の化物を、人はこう呼ぶ──

 

「《(ホロウ)》……くっ、油断した。 これだけ多くの霊力の残滓が漂っている場なら、何時虚が現れたとしても不思議じゃない! 少し考えてみれば判る事だったのにっ!!」

 

「フェイト! 反省すんのは後だ、とにかく応戦するぞ!! 用意した“アレ”を出せ!!!」

 

「う、うんっ!!」

 

ユーリの指示に応じたフェイトは換装魔法を使用してバルディッシュを別空間に仕舞い、代わりにその空間から二本の木刀を取り出した。

 

「ユーリッ!」

 

「おうっ!」

 

フェイトは手に持った二本の木刀の内の一本をユーリに投げ渡す。 この木刀が用意した対霊体の秘策だと言うのだろうか? ユーリは渡された木刀を肩に担ぎ、フェイトは木刀を正眼に構えて虚を睨みつけ、臨戦態勢に入っている。

 

「気を付けろよフェイト! コイツは確か【フィッシュボーンD】とかいう呼称(コード)付きの虚だった筈だ! たぶん、こんな木刀じゃ倒すのは無理だろーから、今オレ等がやるべき事は──」

 

「護廷隊の隊士が来るまでの時間稼ぎだよね? わかっているよ。 都市に虚が出現したとなれば護廷隊だって急行せざるを得ないだろうし、霊力を持たない私達が簡単に倒せる相手じゃないって事ぐらいは判る……でも、ユーリ」

 

「ん?」

 

「時間稼ぎとは言ったけれど……別に倒しちゃっても構わないよね?」

 

「……それは、死亡フラグって言うんだ──よっとっ!!!」

 

間を空けた後のユーリの一声と共に戦闘は始まった。 刹那、ブォン! という風切り音と共に二人はその場から姿を消し──

 

「《幻狼斬(げんろうざん)》っ!」

 

「《ブリッツアクション》!」

 

一瞬にしてフィッシュボーンDの背後に現れて、手に持つ木刀を同時に振るった。

 

「ブオォォォォンッ!!?」

 

「おっと!」

 

背中に叩き付けられた木刀が効いたのかフィッシュボーンDは弓なり背中を仰け反らせて奇声を上げる。 直後、お返しと言わんばかりにフィッシュボーンDは大木の様に太い右腕で背後の二人に裏拳をくらわせようと振るうが、二人はフィッシュボーンDが振り返ると同時にその場から後方に跳び退いたので、腕は空を切って風圧を起こすだけで済んだ。

 

「へっ! どうだバケモン、霊木製の木刀の味はよ? 伐刀者の霊装と比べればショボイだろーが、ちったぁ効いただろ?」

 

不敵な笑みをしてユーリが言うように、今二人が手に持っている木刀は万応素の影響で霊力が宿った樹である霊木を削って作られた代物だ。 これならば霊力を持たないユーリやフェイトでも霊体にダメージを与える事が可能だが……しかし──

 

「グォォオオオッ!!」

 

「全然効いてないね……」

 

「だな……」

 

ザコ霊体が相手ならばともかく、虚を倒すには木刀では火力不足であった。

 

「グォォオオオッ!!」

 

「ちっ! 《蒼破刃(そうはじん)》っ!」

 

「《フォトンランサー》、発射(ファイア)っ!」

 

形成不利を悟ったユーリとフェイトは逆上して襲いかかって来たフィッシュボーンDに気力の剣波と魔力の槍弾を撃ち込み、被爆によって張られた爆煙の煙幕に乗じてその場から退避する。 どんなに攻撃力が高かろうと気力と魔力では霊体である虚には傷一つ付ける事ができない。 故に攻撃としては効果が無いが目暗まし程度にはなるのだ。

 

ユーリは五階建ての建物の屋上の端に星脈世代の超人的な跳躍力で跳び移り、フェイトは飛行魔法を発動させてユーリが居る建物から5m程離れた空間に飛翔した。

 

フェイトは通常の魔導師ではない。 彼女のように飛行魔法を使用し空戦を可能とする魔導士は【空戦魔導士(エリアルウィザード)】と呼ばれ、空戦のスペシャリストとして世界中の大空を戦場として活躍するのだ。

 

空戦魔導士はフェイトのような一部の例外を除けば大体、魔導星防軍(エトワール)の《航空魔導戦団》に所属し、第二次遭遇(セカンドアタック)時に出現した異次元の扉より現れた怪物の一部である《魔甲蟲(まこうちゅう)》と戦うという義務を全うするのだが、その詳細については今は関係無いのでまたの機会に話すとしよう。

 

「ユーリ、どうする? 虚が相手じゃ長くは持たないよ!」

 

「分かってるって! クソッ、気力と魔力さえ通じれば、こんな野郎!」

 

空中に滞空するフェイトがユーリに指示を求め、ユーリは爆煙が覆う眼下の噴水広場を眺めて歯痒そうに唇を噛み締めている。 戦闘のプロといえども自分達のチカラが通用しない敵が相手では時間稼ぎをする事しかできない、況してや虚は護廷隊が“第一級討伐対象”として優先的に征伐を行っている悪霊なのだ。 このままのジリ貧な状況が続いたら危険だ。

 

ユーリはフェイトと目線を合わせアイコンタクトを送るとフェイトは頷き、爆煙が覆う眼下の噴水広場を見据えて魔法の詠唱を開始する。

 

フェイトが発動しようとしている魔法は《バインド》と呼ばれる拘束系の魔法である。 それは対象を空間に固定して動きを封じる魔法。 これならば魔法の効力は敵では無く空間に作用するのでその空間に存在する霊体にも通用する筈だとユーリは考え、バインドが使用できるフェイトに指示を送ったのだ、「煙幕が晴れて虚が姿を現した瞬間を狙って、奴にバインドを掛けろ」と。

 

「ま、あくまでも直感で思い付いた事だから実際に通用するのかは分かんねぇけど、モノは試しだな。 ……フェイト、タイミングを逃すんじゃねぇz──」

 

徐々に爆煙が収まってきたその時、突如爆煙の一部が膨れ上がり、なんとそこから爆煙を突き破ってフィッシュボーンDが空中で詠唱中のフェイト目掛けて跳び上がって来たのだった。

 

「なっ!!? マジかっ!!」

 

「くっ!? バルディッシュを仕舞うんじゃなかった! このタイミングじゃ、バインドが発動できない!」

 

「フェイト! 避けろっ!!」

 

「ダメ、間に合わないっ!!」

 

詠唱中故にフェイトは身動きが取れない。 先程換装で別空間に仕舞ったバルディッシュが手元にあれば高速詠唱や詠唱破棄も可能なのだが今それは彼女の手には無い。 後悔しても時は戻らない。 ユーリが必死にフェイトに呼び掛けるものの動けないものはどうしようもない。

 

気が付けばフィッシュボーンDはフェイトの目前に迫っていて、金色の魔導士を空から叩き墜とさんと大木の様な腕を振り上げており、もはやフェイトの命運は尽きたかと思われた……その時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咆えろ──《蛇尾丸(ざびまる)》ッ!!」

 

フィッシュボーンDの背後から、いきなり黒い人影が飛び掛かった。 その手に持った刀型の霊装の名を言い放つと共に刀型の霊装が鋸の様な刃と無数の刃節を持った蛇腹刀へと姿を変え、振り下ろされた刃が撓るように伸びてフィッシュボーンDの脳天を引き裂き、仮面ごと頭を両断して、大木のような腕がフェイトに触れる直前でフィッシュボーンDは霊力の塵となって現世より消え去ったのだった。

 

「──えっ!?」

 

謎の人影の助太刀により危機から脱したフェイトは何が起きたのか理解が追い付かずに呆然と眼を見開き戸惑っていた。 もう自分は駄目かと思っていたところで眼前に迫っていた脅威が突然消滅したので、意識が唖然となったからだ。

 

今、彼女の眼の前には黒い着物の様な戦闘装束を身に纏ったユーリより眼つきの悪い赤髪の男性が蛇腹刀型の霊装《蛇尾丸》を肩に担いで、()()()()()()()。 額を覆う黒い布の下には刺青があり、浮かべる笑みは獰猛な雰囲気を感じさせている……この男の素性、それは──

 

「待たせたな遊撃士共! 瀞霊護廷隊スクエア支部副長《阿散井(あばらい)恋次(れんじ)》唯今参上!!」

 

ユーリ達が待っていた瀞霊護廷隊の隊士……いや、彼は隊士どころか支部の副長格であった。

 

「へっ、ようやくお出ましか。 間一髪だったな」

 

「ワンッ!」

 

「《ラピード》、お前もお疲れさん」

 

恋次の登場でフィッシュボーンDが倒され、フェイトが助かった事に安堵するように人差し指で鼻元を拭うユーリの許にはいつの間にやらキセルを咥えた隻眼の大型犬が寄って来ていた。 どうやらこの犬──ラピードはユーリの飼い犬のようであり、ラピードを褒めるユーリの言動からしてどうやらユーリはラピードに何か指示を与えていたようだが……そんなやり取りをしている間に恋次とフェイトがユーリ達の前に降りて来た。

 

「よぉ遊撃士、遅れちまってすまなかったな」

 

「いいって事よ。 ラピードが上手く道案内してくれたみたいだしな。 ……にしても、あのバケモンを一撃で仕留めるとは恐れ入ったな。 まさか支部の副長が直々に協力してくれるだなんて、思ってもみなかったぜ」

 

「へっ、当然だぜ! 呼称付きとはいえ討伐手当0ガルドのザコ虚を瞬殺できねぇようじゃ、護廷隊各支部の副長は務まらねぇからな!」

 

「さすが、虚退治の専門家の【魂律士(コンタクター)】ですね。 危ないところを助けていただき、どうもありがとうございました」

 

ユーリの前に降りた恋次は気さくな挨拶を言ってから指定した時間に遅れた事を謝罪し、ユーリが気にするなと言ってフィッシュボーンDを一撃で倒した事を称賛し、恋次は称賛された事をこそばゆそうにして自分の実力を誇るように言い、恋次の隣に降りたフェイトが恋次に称賛と救われた礼の言葉を送った。

 

瀞霊護廷隊の隊士は皆【魂律士(コンタクター)】と呼称される特殊な伐刀者である。 魂律士とは二段階の形態に“解放”する事が可能な霊装──《斬魄刀(ざんぱくとう)》を顕現する事ができる伐刀者の事を言い、斬魄刀には霊を導き悪霊を浄化する能力が備わっている。 斬魄刀は通常“浅打(あざうち)”と呼ばれる刀の形状をしているが、所有者である魂律士が己の斬魄刀の銘を呼ぶ事によって斬魄刀のチカラを解放する事ができるのである。

 

今、恋次が肩に担いでいる蛇尾丸(ざびまる)は斬魄刀解放の第一形態──《始解(しかい)》。 これは所持者の魂律士が()()()()()()()を呼ぶ事で解放する事ができ、始解すると形状が変化して固有の特殊能力が使用可能になる。 これは通常の伐刀者の霊装より霊体に対する事象干渉力が高く、対霊体の戦闘に関しては他より一線を画している。

 

更に、斬魄刀には例外を除き護廷隊の“支部長格”のみが使用可能の()()()()()()()を呼ぶ事で解放する第二形態が存在するのだが、その詳細はまたの機会に説明する事としよう……。

 

「礼ならいいぜ。 それよりも仕事の話だ。 この辺りの霊力測定ぐらいはやったんだろ?」

 

「ああ、かなりの霊力の残りカスが漂ってやがった。 昨晩ここで虚のような霊体の化物の大群が出現して暴れていた可能性が高けぇ。 事が済むまで護廷隊(そっち)の網に引っ掛からなかった事を考えると、相当手の込んだ空間凍結結界を張ったんだろうよ。 昨晩の被害者もそう言っていたしな」

 

「やっぱりな……“朽木支部長”の予測通りだ。 となると、さっきのもそれに関係あるかもしれねぇな」

 

恋次はユーリからこのアーケード街の霊力測定結果を聞き出すとニヤリと悪どい笑みを浮かべてそう言う。 それはどういう事だという表情をしてユーリとフェイトは恋次に説明を求める目線を向け、恋次はそれを受け取って二人に説明をする。

 

「実は遅れた理由なんだが……経ったさっき、東エリアの中央区に微妙な空間の乱れが観測された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷切ぃぃっ!!」

 

「紫電一閃っ!!」

 

煉瓦造りの建物の屋上で雷速の抜刀と紫炎の剣が交錯する。 直後に周囲の建築物を崩壊させるような強烈な爆風が巻き起こり、爆心地となった建物は無数の瓦礫となって崩れ落ちていく。

 

『END OF DUEL! winner 武内出雲那!!』

 

「マタカテナカッタ……」

 

爆心地を覆っていた爆煙が晴れると、そこには抜刀を振り切った体勢で毅然と立つ出雲那と、その後ろに煉瓦の瓦礫に埋もれて目を回している情けないシグナムの姿があった。 出雲那の刀が先に届いたのだろう。

 

「ペッ! ……ったく、毎度毎度しつけぇんだよ。 “一対一の戦いでベルカの騎士に負けは無い”って、お前一対一で勝った事なんて無ぇじゃねーか。 何だよ、【ベルカの騎士】って?」

 

ソーサラーフィールドが解除され、目を回して気絶しているシグナムを一瞥すると共に出雲那は痰を吐き捨てる。 急いでいたところで邪魔されたので相当イライラしているのだろう。 見上げるともう既に空の十分の九が夜天に染まっていた。

 

「こんな事してる場合じゃねぇんだ。 一刻も早く、柊の奴を探さねぇと……」

 

この男には諦めて明日学園で聞くという選択肢は無いのだろうか……空がもう暗くなりかけているのを見て、出雲那は焦り出す。

 

──やべぇ、マジで早く柊を探し出して話を聞いて他の青学の誰かに見つかる前に寮に帰らねぇと、刀華さんにどやされる! 急がねぇと!!

 

出雲那はそう思って再びアーケード街に向かおうと足を踏み出そうとした……その時──

 

「明日香は、そっちには居ないわ」

 

突如、出雲那を呼び止める女性の声が聴こえてきた。

 

「っ!? 誰だっ!!」

 

突然聴こえて来た女性の声に出雲那は足を止め、警戒をして声が聴こえて来た方向を振り返る。

 

出雲那の呼びかけに応えるように物陰から姿を現したのは、肩周りと豊満な胸元を露出させた漆黒のドレスの様な衣服を身に纏った妙齢の女性であった。 黒いリボンで長いポニーテール状に纏められている黒髪は月夜に照らされて美しく、聖母のように整った顔立ちは神秘的な雰囲気を漂わせる。 出雲那を真っ直ぐ視る瞳は戦乙女のような凛々しさを感じさせ、漆黒の長刀を携えるその姿は女神の様にも死神の様にも見えた。

 

「こんばんは、武内出雲那君。 私は《サクヤ・マキシマ》──結社《終焉の盾(エインヘルアル)》のエージェントよ」

 

その女性──サクヤは警戒する出雲那の眼を真っ直ぐ見つめて、子供に語りかけるように優しく微笑むのだった。

 

この時、空の色は完全に夜へと塗り替えられた……。 武内出雲那の非常識な日常は、この邂逅をもって崩れ去る事となる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この物語に登場するBLEACHの死神は『魂を調律する者』という意味で【魂律士(コンタクター)】と呼ばれています。 理由は【“死神”という名が入った二つ名持ちのキャラが多く存在するので、ややこしくなるから】というのと、後々()()()()()が登場するかもしれないという事と、この世界の彼等は死神のチカラを持った人間だからです。

恋次「あくまでも俺等は伐刀者(ブレイザー)って事か?」

そういう事です。 因みに、恋次はユーリと同い年の二十一歳ですね。

恋次「おいっ!? ちょっと俺の年齢高くねぇか!? 原作で俺は一時的とはいえ一護の学校に通っていたんだぞ!!?」

護廷隊のメンツは原作でいう【死神代行消失篇】時の護廷十三隊フルメンバーとなっていますので、恋次達の見た目もその時の姿です。 この話の恋次は黒い布を額に巻いていたでしょう?

恋次「あー、そういう事か。 なら仕方ねぇな……」

理解できましたね。 まあフルメンバーと言ってもスクエア支部は六番隊なんで、恋次と【あの兄様】以外の登場はまだまだ先になりますけどね。

恋次「朽木隊長……いや“朽木支部長”の初登場はいつになるんだよ?」

それも未定です。 まあ他の人達よりは早いと思います。

それでは皆さん、また次回!



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