幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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冥界の焔(ヘルフレイム)

葵柳尊は現葵柳流師範の息子であり、武内出雲那の同門で幼馴染の親友だった少年だ。

 

その少年は夜天の色に近い黒髪で、帝国ヤマト人とは思えないくらいに白い肌が印象的な容姿をしていたが、それ以上に──

 

「俺は葵柳の長男にして黒き呪いに蝕まれし“魔の右眼”を持つ男、名を尊という! 死にたくなかったら666の魔獣が宿るこの魔眼を直視するな! 獣共を抑えきれる自信がないのでな! フハハハハハッ!!」

 

致命的な厨二病であった……。

 

()()()()()というのは、葵柳尊という少年は……既に亡くなった故人であるからだ。

 

現在より二年前に世界中を大混乱に陥れた【万応素(マナ)枯渇事件】は、世界中の人々の社会や生活に大打撃を与えた。 故に知らぬ者がいない程の大事件ではあったが、その事件を起こしたとされる組織は世界中の万応素を枯渇させようとする直前にそれを行う為の実験を世界各地で行っていた。

 

その実験に巻き込まれた犠牲者は数多く存在し、亡き者になった人間も少なからず存在していた。 ……その内の一人が、当時出雲那と共に青学の生徒として戦士の道を志していた尊であった。

 

「嘘……だろ? タイミングは合っていた筈なのに、何で倒れねぇんだよ!!」

 

「ヒャーッハハハハ! せっかく覚えてきた必殺技だったのに、ざ~んねんでしたぁぁああ!!」

 

スクエア東エリアの一角にある廃墟の広場で、当時中等部三年生であった出雲那は師である刀華と共にスクエアで実験を行っていた実行犯の男と対峙していた事があった。 出雲那と刀華の目の前に存在するのは額と胸に紅い核が埋め込まれているヘドロ状の魔獣。 頭部に湾曲した二本の角を持つ直立二足歩行の巨大な牛のような姿をしたその魔獣は廃ビルの上から高みの見物をして出雲那達を嘲笑している実行犯が実験の為に錬金術で練成して造り、二人に嗾けてきた【ヴェノムミノタウルス】である。

 

ヘドロ状のその身体は錬金術によってどんなに傷付けられても瞬時に超速再生するようになっており、音速を超えた攻撃で一瞬にして二つの核を同時に破壊しなければヴェノムミノタウルスを倒す事はできない。 故に二人は雷速の一刀である《雷切》の同時攻撃によって二つの核を同時に破壊したのだが……何故かヴェノムミノタウルスは倒れなかったのだ……その上──

 

「なっ!?」

 

「嘘……破壊した核が、再生した……」

 

「あ、そういや言い忘れてたわ。 クックック、実はよォ、その腐れ牛が再生する為に使っている燃料はなァ」

 

せっかく破壊した核が映像を巻き戻すかのように直ってしまうのを目の当たりにして絶望的な表情を浮かべる出雲那と刀華を実行犯の青年は愉快そうに憐れみ、不気味な三日月の笑みをしてヴェノムミノタウルスの頭部を見上げる。

 

「……」

 

その脳天には下半身がヘドロに沈められ、上半身のみを外に出してその場に囚われている黒髪の少年がハイライトが消えた虚ろな眼をして無気力に俯いていた。

 

「っ!! まさかテメェ……アイツの……尊の生命力を!?」

 

「ピンポンピンポーン! 大正解! クックックック、ヒャーハハハハハッ!! テメェ等がその腐れ牛を傷付ければ傷付ける程、オトモダチの命が再生能力の燃料として消費されるって事さ! あの様子だと後五回ぐらい再生したら、あのオトモダチはおっ死んじまうだろうなァ、ヒャーハハハハッ!!」

 

「そん……な……」

 

「テメェ……このゴミ野郎が!!」

 

「オトモダチの命が欲しかったら黙って殺されるこったなァ。 クックック……ああそれから、腐れ牛のド頭からオトモダチを無理に引き剥がすのは止めておいた方がいいぜぇ? ちょっとでも引っこ抜こうとしたらオトモダチの生命力を一瞬で吸い取り尽くす仕組みになっているからなァ」

 

「畜生……何か尊を救う方法はねぇのかよ……」

 

高いところから見下してショーを楽しむかのように愉快そうに三日月の笑みで嘲笑する青年。 出雲那はヴェノムミノタウルスの頭部に捕らえられている尊を救うにはどうすればいいのかと嘆くが、現実とは非情なものだ……。 ヴェノムミノタウルスが腐った肉片をまき散らしながら巨大な斧を持った右腕を振り上げる。

 

「ヒャッハー! 二人纏めて、おっ死んじまえぇぇええっ!!」

 

実行犯の青年の歓喜の叫びと共に巨大な斧が出雲那達に振り下ろされる。 これで万事休すか……と思われた、その時。

 

『……い……ずな』

 

「……ぁ……」

 

斧が叩き付けられる直前で出雲那の耳に誰かの声が聴こえて来た……彼が聞き間違える筈がない、それは紛れもなく最後の意志を振り絞った尊の呼び声であった。

 

そして尊は、出雲那にこう懇願してきたのだ……『頼む……俺を……殺してくれ』と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

 

プルートが振るった火ノ加具土の一振りが出雲那の持つ十拳の刃を弾き返し、出雲那の靴底に強烈な摩擦が生じる。 プルートの方を向いたままハイウェイのコンクリートを滑り、敵から約10mの距離を空けて制止。 出雲那は苦虫を嚙み潰すように歯を軋らせて死んだ親友と瓜二つの顔を持つ漆黒の少年剣士に訴えるように呼びかけた。

 

「尊! テメェ尊なんだろ!? オレだ! 出雲那だ!!」

 

二年前の事件で事の実行犯に利用され、自分の選択と葛藤の末に死んだ筈の親友が目の前で生きて存在している……出雲那はそのような焦燥に駆られ、目の前の漆黒の少年剣士に自分の存在を必死に示した。 しかし──

 

「いきなり背後から斬り掛かって来たうえに、訳のわからん妄言をほざくな! 俺は尊などという輩では無い!!」

 

その漆黒の少年剣士は不快を露わにして怒鳴るようにその呼びかけを否定していた。 他人に間違えられて否定するのは当然だ。 そもそも尊は黒髪で世の女性が羨むような白い肌をしていたが、プルートは銀髪で褐色肌、おまけに顔の右側三分の一が不気味に黒くなっていて、しかも厨二の憧れとも言えるオッドアイだ。 尊は厨二病ではあったが両目共に帝国ヤマト人らしく透き通った黒い瞳をしていた。 尊本人だというにはあまりにも変わり過ぎている。

 

「俺はプルート。 結社《終末の蛇(ヨルムンガンド)》──執行者No.ⅩⅢ《冥界の焔(ヘルフレイム)》のプルート・A・イグナイトだ!! ……【伊邪那美(イザナミ)の使徒】などというふざけた名で呼ばれる事もあるがな」

 

プルートは腰のベルトの左側に差してある《冥界の死刀(イザ=ナミ)》を左手に取り、出雲那に向けてそれを掲げ、自分の名と身分を高らかに明かした。 やはり彼は【伊邪那美の使徒】であったのだが、彼はその名で呼ばれる事を嫌っている様子に見える。

 

「なっ!!? ……終末の蛇……だと!!!」

 

そして出雲那はそれを聞いて驚愕を露わにした。 プルートが【伊邪那美の使徒】であるという事は彼が《冥界の死刀》を所持している時点で判っていた事だが、問題はそれではない。 彼が《終末の蛇》という組織に所属している人間だという点である。

 

──おいおい、想定外にも程があるだろ!? 《終末の蛇》っつったらあの【万応素枯渇事件】の黒幕で、構成員はどいつもこいつも化物だらけっつうSSS級犯罪組織じゃねぇか!!

 

秘密結社《終末の蛇(ヨルムンガンド)》──約四十年前の第二次遭遇(セカンドアタック)後の超常大戦終結よりその存在が噂されていたが、二年前に彼等の計画により世界全体を巻き込む大事件、【万応素枯渇事件】が引き起こされた事によりその頭角を現した世界的犯罪組織。 たった一人で小国を陥れる程の強大な能力や戦闘力を有する幹部【使徒】や実動員【執行者】を擁していたり、未知の技術で造られた自律機動兵器や一国の飛空艇団に匹敵する飛空艦隊を有しているなど、戦力は計り知れなく、二年前の事件後も世界各国で暗躍する姿が目撃されている。 彼等の実態・目的は今でも謎に包まれている。 二年前の【万応素枯渇事件】の際はその全貌を知る機会があったのだが、事件の首謀者である終末の蛇の使徒の一人であった《ゲオルグ・ワイスマン》が捕縛目前で何者かによって暗殺されてしまった為に、結局のところ彼等の事は表面上の事柄しか明らかになっていない。

 

「終末の蛇の執行者がこんな所で何をしてやがる!? まさか、また二年前の事件のようなデカイ悪事を企んでるんじゃねぇだろうな!!」

 

目の前に立つ漆黒の少年剣士の正体が終末の蛇の執行者だと知り、出雲那はプルートを威嚇するように睨みつけてそう問い質す。 二年前、彼等の構成員の一人が行った実験に巻き込まれて一人の親友を亡くした出雲那にとって《終末の蛇》には因縁を持っていると言っても過言では無い。 故に彼等が何か良からぬ事を企んでいるならば放っておく訳にはいかないのだ。 そう、志半ばで死んだ親友に報いる為にも……。

 

「……フッ!」

 

「ぐっ!?」

 

そして、問いかけに対する返答は黒炎の刃の一刀によって返されたのだった。 瞬間移動と見紛う踏み込みで10mの距離を一瞬にして詰めたプルートが霊装を逆袈裟に斬り上げ、咄嗟に出雲那が振り上げた鞘付きの霊装とぶつかり合って鈍い金属音が朱い空に響き渡り、鍔迫り合い状態となって拮抗する。 だが出雲那が歯を食い縛っていて表情に余裕が無いのに対してプルートの表情は涼し気で余裕があった。

 

「ぐぎぎぎぎ……!!」

 

「……ほう?」

 

徐々に出雲那が後方に押し遣られて行く中、プルートは出雲那の右腰にある《創生の雷刀(イザ=ナギ)》に気付いて、これは面白いと声を漏らした。

 

「成程……この異界に入る直前で冥界の死刀(こいつ)が共鳴したようにも見えたが、見間違いでは無かったようだな。 よもや貴様のような雑魚が【伊邪那岐の創り手】だとは、滑稽の極みだ」

 

「なっ!? あ・ん・だ・とぉっ!!!」

 

「フンッ!」

 

「げふっ!?」

 

蔑まれてカチンと来た出雲那は怒りで押し返そうとするものの、プルートの一蹴りによって出雲那は後方に一直線に吹っ飛ばされてしまう。 “くの字”に曲がった身体は対物(アンチマテリアル)ライフルの弾丸の如くハイウェイのガードレールを突き破って高層ビルの側面に叩き付けられ、勢いで外壁を削り窓ガラスを砕きながら側面を転がり上がって朱い空に放り出されて放物線を描き、そのビルの屋上にある貯水タンクに頭から墜落して派手な水柱が立った。

 

プルートがその様子を下から見上げて笑みを浮かべた。

 

「フッ、丁度いい。 【伊邪那岐の創り手】を見つけたら、“そいつを殺す”か或いはそいつの持つ“《創生の雷刀》を破壊”しろとレーヴェの奴から言われていたからな。 今回の目的とは違うが、ついでにやっておくとするか……マリ、貴様は手を出すなよ? これは俺がやるべき事だからな」

 

プルートは空に滞空して見下ろしているマリに手出しはするなと釘を刺す。

 

「プルート!? むやみに殺しちゃダメだからね!!」

 

「ああ、言われずとも解っている。 奴が持つ《創生の雷刀》を破壊するだけに止めておく。 それで良いのだろう、自称【不殺の魔導士】よ?」

 

「自称は余計よ! ……それと、《冥界の死刀》を使うのは危ないから極力鞘から抜かないようにしなさいよね」

 

「善処はしよう……尤も、それは奴次第だけど──なっ!!」

 

そう言うと同時にプルートは足下のコンクリートを踏み砕いて出雲那が吹っ飛んで行った方に跳躍するとハイウェイを飛び出し──

 

「《悪魔ノ風翼(デモンズウィング)》」

 

空中で先程飛んで来た時に背中にあった悪魔のような魔力翼を再び背中に形成して飛翔。 真っ直ぐと高層ビルに近づくと上一直線に崩壊した側面に沿うようにして垂直に上昇して行く。

 

「痛ってぇ……!」

 

黒い悪魔が下から迫って来る中、全壊した貯水タンクの水で全身ずぶ濡れになって倒れていた出雲那が蹴られた腹部を腕で押さえながらヨロヨロと立ち上がった。 十拳を杖代わりにしていてプルートの蹴り込みがどれ程重い一撃だったのかがよく分かる。 三大源力を持つ異能者じゃなければ身体はグチャグチャだっただろう……。

 

そして、正面に見える壊れた金網フェンスの奈落から黒い影が天に昇り、朱い空を見上げれば悪魔の翼を羽ばたかせた伊邪那美の使徒がその二色の眼で見下ろしていた。 まるで追い詰めた獲物を仕留めに行く直前の鷹のように……。

 

──クソ! この野郎、本当に尊じゃ無ぇのか……世の中同じ顔をしている奴は三人は居ると言うけどよ、瓜二つにも程があるぜ……。

 

「無様だな。 貴様のような雑魚にその剣は過ぎた代物だ」

 

「ザコザコ言ってくれるじゃねぇか、おい?」

 

見下して蔑んで来ている二色の眼を出雲那は癇に障った眼で睨み返す。 プルートはそれを取るに足らないと感じて無表情のまま出雲那に火ノ加具土の切っ先を向けた。

 

「一度剣を交えただけで判る、()()()()()()()。 意志だけは有るようだが、そこには【鋼の強さ】も【確固たる覚悟】も感じられない……そのような半端者を雑魚と呼ぶ以外に何と呼ぶ?」

 

「ハンッ! 半端者なぁ……確かにそうだな。 オレはまだ【自分の成すべき責任】を背負うどころか見つけてすらいねぇし【確かな夢】も無ぇ。 オレを戦士足らしめているモノと言えばアイツとの……“尊との約束を果たす”という何時までも引きずった安っぽい使命感だけかもしれねぇな……ハハッ!」

 

人の未来を導く為に慈愛の心で他者の助けになる事を自分の責任として背負う【鋼の強さ】を持っている自分の師のような存在である少女と、弱き者を助けられる存在になるという夢の為に例え才能が乏しくとも天才と称される者達に喰らい付いて高みを目指す【確固たる覚悟】を以って遊撃士を志す自分の親友の顔を思い浮かべて、愚痴を言うかのように出雲那は苦笑をする。 その二人や数々の一流の戦士達と比べて彼はあまりにも半端者だと言わざるを得ないかもしれない……だが、出雲那はそれに怯む事無く空から向けられている黒い刃の切っ先に向けて十拳の柄尻を掲げた。

 

「でもなぁ! テメェが何を言おうが、どんだけ強かろうが、オレは絶対にテメェに負けるつもりはねぇっ! テメェをブッ倒して、柊の奴を見つけ出して、クレア先輩も救う! そして、このふざけた夜を終わらせて、明日の学校に行くんだよ! 必ずなっ!!」

 

自分が未熟である事など百も承知だ。 そんな事人に言われなくとも自覚している。 でもそれがここで敵の暴力に屈していい理由にはならない。

 

「来いよ執行者! 葵柳流“十旋(じゅっせん)”、武内出雲那の意地(プライド)に懸けて、テメェをこの剣でブッた斬ってやるぜっ!!」

 

「……安い戯言だ」

 

もはや言葉はいらない、剣を手にして対峙したのなら後は刃を交えるのみだ。 屋上の床を踏みしめる出雲那が十拳を右腰に帯刀して抜刀の構えをとり、悪魔の翼を羽ばたかせるプルートも火ノ加具土の刀身を左腰の霊鞘に収めて居合の構えをする。 朱く燃ゆる煉獄の空を挟み両雄は今、激突する!

 

「行くぜ、執行者!!」

 

魔力の電光を身体中から発して気合いを入れると共に屋上の床を蹴り、出雲那は驚異的な跳躍力で空中に滞空するプルートへと向かって跳んで行く。 左手で握った剣は幼い頃から振り続けてきた愛刀の《黄旋丸》──その刀身が収められている鞘に電流を流し、中に刀身を射出する為の磁界を発生させた。

 

──どんなに奴が強かろうが、接近さえできれば《雷切》で一撃だぜ!

 

青学の生徒会長にして出雲那の師である東堂刀華の伝家の宝刀、その雷速の一刀は人には対応できぬ異次元の一閃。 出雲那のそれはまだ未完成ではあるが、それでも人間が反応できる速度ではない。

 

《終末の蛇》の執行者がいかに精強であろうとも人間には違いない筈だ。 接近して“雷切”を抜き放てば得体の知れない黒い炎を行使するプルートも恐らく一溜りもないだろう……。

 

「くらえっ! 雷k──」

 

「……フンッ!」

 

パッチン! プルートは出雲那が雷切を放つ態勢を取りながら下から跳躍して来るのを見計らって居合の構えを解いて左手の指を鳴らす。 それはプルートを雷切の射程圏内に捉える寸前のタイミングであり、今まさに雷速の抜刀術が抜き放とうとしていたところであった。

 

……だが、それが放たれる事は無かった。 その刹那、出雲那の身体が爆音と共に発火したからだ。

 

「ぐあぁぁあああああっ!!!」

 

全身を黒炎で焼かれる苦痛で悲鳴をあげ、出雲那はその刃をプルートに届かせる事無く落下して行く。 ハイウェイの上に背中から叩き付けられ、炎に焼かれながら無様にもコンクリートの上をのたうち回った。

 

「フンッ! 所詮は口先だけか……」

 

出雲那のその無様な醜態をプルートは鼻を鳴らして憐れみ、黒炎による苦痛に転げる愚か者がよく見える位置まで飛行高度を下げて嘲笑するようにその醜態を見下した。

 

「もう少し手応えがあるかと思ったが結局その程度か。 《伊邪那岐の創り手》と言えども所詮は世界のルールに従属せねば生きて行けぬ表の世界の戦士だな」

 

プルートは火ノ加具土を鞘から抜いて刃を天に掲げ、その切っ先に凄まじくドス黒い炎の球体を創り出した。 出雲那にとどめを刺すつもりだ。

 

「その《創生の雷刀》は破壊させてもらう。 実につまらぬ余興だっt──」

 

プルートが霊装の刃を振り下ろそうとしたその瞬間、無様に転げ回っていた出雲那が眼をカッ! と見開いて無理矢理右足をダンッ! と踏みしめ、瞬時に立ち上がってその勢いのまま右脚を軸にその場で黒炎に焼かれるその身を高速回転させ、凄まじい辻風を生み出すと共に黄旋丸を鞘に収めたまま腰のベルトから抜き放った。

 

「葵柳流帯刀術──《円旋陣(えんせんじん)》!!」

 

出雲那が技名を言い放った瞬間に出雲那の全身を焼く黒炎が辻風に移り空に舞い上がって消えて行った。 《円旋陣》とは片脚を軸にその場で回転し、自分の周囲を囲う旋風を巻き起こして敵の攻撃を流して弾く防御陣を展開する葵柳流の技だ。 出雲那はこの技で発生する風を利用して黒炎を吹き飛ばしたのだ。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」

 

「……ほう、意外にも技は確かのようだ。 まさか俺の炎を吹き飛ばすとはな……」

 

なんとか窮地を脱した出雲那だったが数秒の間猛烈な熱量の炎に身を焼かれていた為に全身火傷を負っており、肩を下ろして息遣いも荒くなっている。 プルートは自分が放った炎を吹き飛ばした出雲那の技に関心を示すものの、その表情は余裕そのものだ。 何故なら──

 

「まあ、無駄な事だがな」

 

プルートが再び指を鳴らして、今度は出雲那の周囲を囲むように漆黒の炎の壁を現出させたからだ。

 

「なっ!!? マジかよ!!」

 

「何度吹き飛ばそうが無駄だ。 此処一帯は既に俺の《第七園》の支配領域に置いたのだからな。 この術は()()()()()()()()()()しか使えぬ秘術なのだが、雑魚共を一掃するには便利なものでな。 指定した領域内における炎熱系の術を詠唱や術式などの一切の過程(プロセス)を省略して即発動する事ができる。 つまり貴様はこの領域内に居る限り、俺の炎に抗えぬという事だ」

 

「くっ!!」

 

出雲那は悔しさのあまり下唇を噛み締める。 この一帯に居る限り出雲那が何をしようとしても、その前にプルートの黒炎に焼かれてしまう。 《第七園》の領域内に居る限り出雲那の勝利は無きに等しいのだ。

 

──この術……【魔力】による術式で構築されているようだな。 ……なるほど、アイツもオレと同じ三大源力全てを持っている特異存在ってわけか……そりゃそうだな。 【伊邪那美の使徒】なんだしな……。

 

《八百万の神刀》の所有者になれる条件は【気力】【魔力】【霊力】の《三大源力》を身の内に秘めている事だ。 なので《冥界の死刀》の所有者であるプルートが伐刀者(ブレイザー)であり魔術師(ダンテ)でもあるのは当然の理だ。

 

──初めて同類に会えた気がするぜ。 今まで生きて来て色んなチカラを持つ人間と出会って戦ったりもしたけど、オレと同類の人間は一人もいなかった……だから、このままアイツに負けたくねぇ!

 

プルートが自分と同じ特異存在だと知り、出雲那の心にはプルートに対していつの間にかライバル心が芽生えていた。 同類だからこそ絶対に負けたくないと……しかし、この戦いに勝利する為にはプルートの《第七園》をなんとかしなければならない。

 

「……終わりにするぞ。 漆黒の業火の前に灰となれ、《創生の雷刀》!」

 

「畜生!!」

 

無情にも三度プルートが指を鳴らそうと左手を眼前に掲げ、それを見上げるしかない出雲那は悔しみを吐き捨てる。 これでこの戦いは終局か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させないわ! 凍れ、世界よ──《セルシウスサンクチュアリ》!!」

 

瞬間、突如として女性の声が響き、出雲那の周りを囲う黒炎の壁諸共ハイウェイが凍り付いた。 周囲のビル郡も、その先の炎の海も、気が付けば空と最果てのリトルガーデンを除く全てが一瞬にして氷のオブジェと化したのだ。

 

「……は!?」

 

「何っ!?」

 

「ちょっ!? 寒っ!! 何でいきなり辺り一面が凍ってんのよ!? プルート、アンタ何かした?」

 

「する訳がないだろう! 俺は《冥界の死刀》のチカラ以外は炎しか使わない! これは俺達以外の何者かがやったのだ!」

 

「何者って、一体誰よ!?」

 

突然凍り付いたハイウェイに出雲那は訳が解らず表情を固まらせた。 突然の事態にプルートとマリは空でギャーギャーと口論を繰り広げ、場は騒然となった。

 

「“氷”……まさか!?」

 

「驚いたわね。 まさか、貴方が再び異界に足を踏み入れているなんて思いも由らなかったわ──武内君」

 

左方に見えるビルの屋上、其処にはいつの間にか青白い冷気を纏うレイピア型の霊装を携えた一人の少女が立っていた。

 

青竜学園のセーラー服を身に纏い、艶のある亜麻色の長髪と凛とした立ち姿が出雲那の眼に映る。 その帝国ヤマト人離れした碧眼で見下ろす少女は、見間違う筈はない。

 

「やっぱりお前だったか……柊」

 

その少女は今日青学の新たな一員となり、昨晩の異界で出雲那を絶体絶命の窮地から救った氷の伐刀者──柊明日香その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お~出雲那よ! またヒロインに助けられるとは主人公として情けない。

そしてこの幻想戦記クロス・スクエアの物語内で敵ポジションである組織《終末の蛇(ヨルムンガンド)》が現れました……ハイ、『英雄伝説 軌跡シリーズ』でいう結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》に思いっきり酷似していますね。 ていうか某白面教授の名とか出て来たし、思いっきり身喰らう蛇ですね!(笑)

プルート「違う点と言えば使徒が順位付けされていたり、【使徒】と【執行者】の上にそれらの人間を纏める【総裁】とかいう中間管理職があったりするところぐらいか……手抜きだな」

うるせーよ! 強敵揃いの化物軍団と言ったら身喰らう蛇ぐらいしか思いつかなかったんだ!!

因みに《終末の蛇》の使徒は二十人、執行者は五十人近く居ます。 軌跡シリーズの身喰らう蛇同様に、どいつもこいつも怪物ばかりです。(身喰らう蛇の連中もこの世界では大体は終末の蛇に所属している) 中には意外なキャラが執行者になっていたりも!

マリ「因みにあたしも執行者よ! No.は次回のお楽しみ!!」

プルート「お前が執行者の時点で既に意外だと思われているだろうけどな……」

原作のままじゃ戦闘力が物足りないと思ったキャラは当然魔改造されています……少しネタバレしますが、あらすじの登場原作一覧の中にある内の一つの作品の主人公が超魔改造されて執行者になっています。

マリ「マジ!? 主人公なのに!!」

マジです。 今のところ登場済みの主人公は【黒鉄一輝】【リィン・シュバルツァー】【黒神めだか】【ラグナ=ザ=ブラッドエッジ】【マイ=ナツメ】【千種霞&千種明日葉(クオリディア・コードは六人主人公)】【ユーリ・ローウェル】【ジュード・マティス】【アスベル・ラント】【ユーマ・イルバーン】……彼等以外の誰かですね。

プルート「これ以外にも登場していなかったか?」

名前はまだ出していないからまだわからないぞぉ~? 二つ名が被っているから変えてあるかもしれないしぃ~!

マリ「ウザッ! その喋り方ウザッ!!」

プルート「その気に障る口を閉じろ! さもないと灰にする!!」

わ、わかったからその物騒な黒炎を消せって! ……まあ、それはこれからのお楽しみという事で……今日はこの辺で、サラダバー!



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