幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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……先に謝っておきます。 クレア様ファンの皆さんマジごめんなさいっ! アニメでクレア様を一目見た時からどうしてもこのネタがやりたかったんですっ!!

クレア「ちょっとあなたっ!? 今回の話で一体わたくしに何をさせるおつもりですの!!?」

クイーンのデュエルは常に、エンターテインメントでなくてはならないっ! ……という訳ッス!

クレア「訳がわかりませんわァァアアアーーーーーーーーッ!!!」




もう一人のクレア

出雲那が明日香と合流して《終末の蛇(ヨルムンガンド)》の執行者《冥界の焔(ヘルフレイム)》プルート・A・イグナイトと《極光の魔女》二階堂マリを相手に激戦を繰り広げている頃、異界から救出した満身創痍のリディとエリカを現世に避難させたサクヤは無人の廃ビルの屋上で夜風に当たりながら携帯端末で誰かと通話をしていたのであった。

 

『いや~、さすがサクヤサンっス! 任務初日で【伊邪那岐の創り手】の人を見つけて協力のOKを頂き早くも任務を達成するとは、相変わらず仕事がハヤい!』

 

サクヤが耳に翳している携帯端末から発せられるのは胡散臭そうな男性の声だ。 どうやらサクヤは気を失っているリディとエリカを異界化の発生地点である東エリア中央区から安全圏まで遠ざけて避難させ近くの公園のベンチに彼女達を寝かせた後、再び中央区に戻って来て携帯端末で上司らしき人間に連絡して事のあらましを報告していたようだ。

 

「ふふ、まだ正式な協力体制を結んだわけではないのだけどね。 でも彼はきっと私達に協力してくれる筈よ」

 

『協力してもらわぬと困るな。 《天の岩戸(ネメシスホライゾン)》の扉を封印し“例の神話級”の出現を阻止する為には《創生の雷刀(イザ=ナギ)》のチカラが必要不可欠なのじゃからな』

 

サクヤがまだ任務を達成したわけではないと言った後に端末から発せられたのはジジ臭い喋り方をする凛々しい印象の女性の声だった。 その声の主は先程の胡散臭そうな男性と違って真剣に事の内容を話している。 なにやら彼等にとって重大な内容のようだが……。

 

「ええ、重々承知しています。 世界の命運を変える為、必ず出雲那を私達の味方に引き入れてみせるわ」

 

『頼みましたっスよ、サクヤサン。 アタシ等も準備が整い次第そちらに向かいますんで、それまでに彼や柊サンと一緒に異界化を収束さてください』

 

「了解しました。 これより異界探索を再開。 再び異界内に入り次第出雲那と合流して明日香を探し、協力して異界化の収束に当たります」

 

『うむ。 まあ、おぬしなら問題なくやり遂げられるじゃろ。 では、また後程な』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、異界内のリトルガーデンでは──

 

「フフフ……追われるのは心地が良いですわ。 自分が“女王(クイーン)”である事を実感させてくれますもの」

 

闘技場(コロシアム)を飛び出し、船の上の街中を跳び回りながら二人のクレア・ハーヴェイは激しい追走戦を繰り広げていた。

 

「ふざけるのも大概になさい! リトルガーデンの女王(クイーン)クレア・ハーヴェイはこのわたくし一人、それは絶対無敵(パーフェクト)の名を失った今でも変わりありませんわ!」

 

「ならば示してご覧なさい! あなたが“女王”であるという証を、この戦いで!!」

 

偽クレアがすぐ後方から追って来るクレアに振り返って彼女に指をビシッ! とさしつつそう高圧的に言い放つと、自身の六機の浮遊砲台──《気高き姫君(アリステリオン)》を推進装置(スラスター)として使って、宙に舞った。

 

「臨むところですわ……覚悟なさい、青竜学園風紀委員長《薔薇の女王(ローズクイーン)》クレア・ハーヴェイの名に懸けて、人の誇りを侮辱したあなたを絶対に許しませんわっ!!」

 

敵の挑発にクレアは右腕を水平に払って激昂を露わにする。 何故敵が自分と瓜二つの姿をしていて、尚且つ自分の百武装(ハンドレッド)である《気高き姫君》を武装しているのかは解らない。 だが、得体も知れない偽物如きが自分の名を語り、剰え地に堕ちてしまった《絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)》の名を名乗ってクレア・ハーヴェイの誇りを汚したあの冒涜者を絶対に許す訳にはいかない。

 

「あの者を墜としなさい、ペタルッ!」

 

今のクレアは【全身武装】を展開している為、自らの周囲には六機の浮遊砲台の他に十二機の小型浮遊砲台(ペタル)が展開されている。 先程まで敵によって破壊されていた半数の浮遊砲台は“破損に比例した一定量の気力を流し込む事によって修復する”事ができる百武装の機能が働いて既に修復済みなので戦闘パフォーマンスについては問題は無く、彼女は全身武装の背中にある小型の推進装置を吹かして空に飛び出すと同時に前方に見えるビルの屋上付近を飛ぶ偽クレアに向けて有らん限りの浮遊砲台を全て撃ち出す勢いで一斉に差し向けた。

 

──《気高き姫君》の事は所有者であるわたくしが一番よく知っています。 あの者は今【単純武装】しか展開していない。 気高き姫君は今わたくしが展開している【全身武装】でなら背中にある推進装置で飛ぶ事ができますけれども、【単純武装】だと攻撃武装である六機の浮遊砲台を推進装置にしなければ飛ぶ事はできないのです。 故に、あの者は今攻撃する為の武装を全て機動力に回しているが故に【全身武装】を展開しない限り空中では逃げ回る事しかできない筈……それならば全ての浮遊砲台を使って迅速に包囲し息も吐かせない怒濤の連続全方位射撃によって攻め立てれば、然程苦もなくあの者を無力化する事ができる筈──

 

「──温い」

 

──……えっ!?

 

クレアの気高き姫君が偽クレアをあっという間に包囲してそれ等が一斉に彼女に強烈な弾幕を浴びせようとしたその瞬間、なんと瞬きする一瞬の間に偽クレアが気高き姫君の包囲を抜けてクレアの眼前に一直線に迫り、一発の拳をクレアの鳩尾に叩き込んでいたのだった。

 

「──がはぁっ!!!」

 

驚愕の表情を露わにしているクレアの表情は一瞬にして苦痛の表情に変わり、口の中から唾液が吐き出されると同時に彼女の身体は“くの字”に曲がって弾丸のように吹っ飛び、ビルを二・三個突き破ってから市街地の道路に叩き付けられた。

 

「げほっ! げほっ! ……“加速(アクセラレート)”……くっ! 迂闊でしたわ。 まさか空中射撃戦と見せかけた一撃離脱(ヒット&アウェイ)を仕掛けて来るなんて……」

 

衝撃で蜘蛛の巣状の亀裂が入ったコンクリートの中心に片膝を着いて咳き込みながらクレアは即座に起き上がる。 しかし受けたダメージは大きく、片膝を着いたまま立ち上がる事が困難のようだ。 彼女は戦術と判断を見誤った失態を嘆きながら朱い空から蔑むような眼で自分を見下ろして来ている敵を睨みつけて忌々しそうに唇を噛み締めた。

 

「温い……」

 

偽クレアは先程から失望を禁じ得ないように同じ言葉を呟いている。 まるでゴミを見るような冷たい目だ。 一体奴はクレアの何が気に喰わないのか。

 

──【全身武装】も展開しないで見下してくれますわね……いい気になるのも今の内ですわ!

 

大きな痛手を負ってはしまったが、クレアは既に次の一手を動かしていた。 敵の後方に位置取っている状態の小型浮遊砲台(ペタル)十二機が反転して一斉にレーザー光線を撃ち放ち、偽クレアの背中に無数の光条が殺到する。

 

「……」

 

だというのに偽クレアはそれを歯牙に掛けず、振り返る事もなくただ近場のビルに逸れただけで余裕で全てのレーザー光線を避けたのだった……だがこれでいい。 それこそ薔薇の女王の目論見通りなのだから。

 

「貰いましたわっ!」

 

不意打ちの仕返しのつもりか、今度はクレアが“加速(アクセラレート)”を使用して偽クレアが寄ったビルの屋上に瞬時に回り込む。 その手には赤い薔薇のように真っ赤な長身の砲銃──《バスターキャノン》が握られていた。

 

──あの者に殴り飛ばされてビルを突き抜けた際、落下して行く硝子片と舞い上がる煙に紛れさせて浮遊砲台を六機共戻しておいたのですわ! あの者が小型浮遊砲台(ペタル)に気を取られてくれたおかげで容易にこのバスターキャノンを出す事ができましたの!!

 

《気高き姫君》は六機の浮遊砲台を変貌させる事によって高火力殲滅が可能なバスターキャノンを作り出す事ができる。 クレアの狙いは十二機の小型浮遊砲台を囮にして敵の注意を引きつけ、その隙を突いてこのバスターキャノンを形成し高火力の一撃をもって敵を撃墜する事だったのだ。

 

「これで終わりですわ! わたくしの前で“女王(クイーン)”を名乗り、その名を汚した事を後悔し懺悔なさいっ!!」

 

バスターキャノンの砲口に光が集まる、全身の気力をそこに収束しているのだ。

 

「ハァァアアアアアアッ!!!」

 

集まった光が極限まで輝きを放つと主の咆哮と共に極太のビーム光線が撃ち放たれた。

 

「……」

 

朱い空を穿ち、異界の瘴気を吹き飛ばす巨大な光の束が女王の名を汚す愚か者を容赦なく飲み込んで行く。 そこに許しは無い。 まるでクレア・ハーヴェイという女王の怒りをそのまま体現したかのような、圧倒的な一撃であった。

 

……やがて光の柱は収束し、朱が再び空を支配した……その時、クレアの眼に映ったのは──

 

「嘘……でしょう……!?」

 

バスターキャノンの一撃を受けても尚、朱い煉獄の空に無傷で健在する陰の女王(クイーン)が氷のように冷たい眼をこちらに向けている姿であった……全力で放った必殺の一撃が全く通用しなかったその無情なる結果がクレアの顔を絶望の色に染める。

 

何故、偽クレアはバスターキャノンの大火力砲撃を受けたのに無傷だったのか? それは彼女が今無言で自身の正面より解除した黄色い気力障壁──《N(ニュートラル)バリア》にある。

 

武芸者(スレイヤー)】が百武装を用いて使用する防御障壁は大きく分けて二種類。 一つは百武装を通して気力を放出し展開する相手の攻撃を受け止めて弾く性質の障壁(バリア)──《E(エナジー)バリア》、対してバスターキャノンの砲撃を無力化した《Nバリア》は攻撃を中和して掻き消す特性がある。

 

バスターキャノンさえも通用しないなんてと言わんが如くクレアは最早万策尽きたと手に持つ赤い砲銃を床にガタンと落としてしまう……それを見た偽クレアの顔には徐々に地の底から煮え滾るような苛立ちが浮かび上がってきていた。

 

「温い、温い、温すぎますわ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──貴様ァァァァアアアアアアアッ!! “女王(クイーン)”を舐めていますのっ!!!」

 

「っ!?」

 

突如として天に轟く激昂がリトルガーデン中に鳴り響いた。 偽クレアの突然の変貌にクレアは戸惑いを隠せず眼を見開いている。 一体、何がどういう事なのか意味不明だ。 だが、その理由は次に偽クレアがクレアに向けて突き付ける言葉によって明かされた。

 

「華麗且つ圧倒的なチカラで刃向かう者を圧倒し、戦場に君臨する──【覇者の威光】をもって制する戦いこそ、女王の真髄! それを微塵も体現する事ができない貴女など、もはや“女王(クイーン)”ではございませんわ!! 否、“クレア・ハーヴェイ”ですら有りはしないっ!!!」

 

「なっ!!? ……あなた……!!」

 

非情なる罵言が天壌より地に堕ちた女王を打ちのめす。 それこそが真実だと幻視してしまう程の威厳(すごみ)が堕ちた女王を指さすあの陰の女王には有った。

 

──手が……震えている……恐れているというのですの? このわたくしがっ!

 

己の存在すらも否定されたクレアの足は硬直し、手の震えも止まらない。

 

──あの者の言っている事は詭弁ですわ! 惑わされる事などありません!!

 

それでも奴の言葉を認める訳にはいかない。 【絶対無敵】の称号も、護るべき場所(リトルガーデン)も、愛する妹さえも失ったクレアには、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それを失ってしまえば、もう彼女には何も残らない……。

 

「ここに宣言しますわ! このわたくしこそが、真の《絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)》であるという事をっ!!」

 

この朱い空を統べる偽クレア……否、この世界の【絶対女王】が高らかにそう言い放ち、絶対女王の身体を王者の威光たる朱い輝きが包み込む!

 

光が弾け、姿を現したのは赤い装甲を全身に纏った【絶対女王】──

 

「瞠目なさい、真の《絶対無敵の女王》のチカラを!」

 

全身武装を展開したこの世界の“女王”が、ここに降臨したのだった。

 

「“女王(クイーン)”はただ一人──このわたくしですわっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【伊邪那岐の創り手】と【伊邪那美の使徒】による超高速戦はより激しさが増していた。

 

「地を這いずれ、雑魚がぁぁああああっ!!」

 

「うががががががが!!」

 

出雲那の顔面がコンクリート上に押し付けられ、猛烈な摩擦によって火花を撒き散らしながらハイウェイを痛々しく滑走する。 プルートが出雲那の後頭部を得物を持たない左手で掴み、気力強化を施した物凄い腕力で彼の頭を顔面からハイウェイ上に押し込み、そのまま高速低空飛行をしているからだ。

 

「ハハハハッ! このままその汚らしい面を剥がしてくれるわ!」

 

「ぐぞっ、でめ″え″え″え″え″っ!!」

 

あまりに強いチカラで押し付けている為に通過した道に亀裂が生じている。 漆黒の翼を背中に生やした悪魔が一人の少年の頭をコンクリート上に押し擦り付けて甚振るというあまりにも残虐で惨たらしい光景は一般人が見たら顔面蒼白ものだろう。 幾ら【星脈世代(ジェネステラ)】とはいえ、このままやられ続けたら出雲那の顔面がスプラッタなものになってしまうだろう……だが、このままやられる彼ではない。

 

「誰が、汚ら″じい″面だぁっ!? 舐め″ん″じゃね″ぇ″ぇ″え″え″────っ!!」

 

「っ!? なにっ!」

 

「葵柳流帯刀術──《櫟風車》ぁぁああああっ!!」

 

「チィッ!」

 

ここで出雲那は起死回生の剣技を繰り出した。 鞘に刀身を収めた《黄旋丸》を地に叩き付け、身体を無理矢理捻って超高速回転し、その遠心力をもって自分の後頭部を鷲掴みしているプルートの手を弾き飛ばしたのだ。

 

「クッソー! スペアのゴーグルもブッ壊れたじゃねぇかよ、ふざけんなっ! やられた分を十倍にして返してやらぁっ!!」

 

身体の自由を取り戻した出雲那は上空に逃れて距離を取ろうとするプルートを雷鳥の翼を羽ばたかせて追撃する。 額から流れ出る血を止血したいところだが戦闘中にそのような暇は無く、反撃の隙を逃す訳にもいかない。 黄旋丸の柄を掴み、雷速移動スキルの《雷光石火》を行使して、朱い煉獄の空を引き裂く閃光となって漆黒の少年剣士に向かって一直線だ。

 

「雑魚が図に乗るなっ! 《黒キ鳳凰ノ爆進(エクスプロード・オブ・ザ・ヘルフェニックス)》!!」

 

対するプルートも超高速飛翔スキルを使用して黒い鳳凰となり、両者は再び音速を超えた空中超ハイスピードバトルを展開。

 

「うぉぉおおぉぉおおぉおおおっ!!!」

 

「はぁぁああぁぁああぁあああっ!!!」

 

光と闇の軌跡が幾重にも交錯してぶつかり合い、その度に剣と剣を交える鈍い鉄の音が空に響き凄まじい衝撃波が大気を吹き飛ばして、地上の建築物の窓ガラスを次々と崩落させていく。

 

やがて光と闇の軌跡は錐揉み状に上昇しながらの撃ち合い合戦に発展。 プルートが《拡散スル飛炎(フレイム・バラード)》を放って黒炎弾の弾幕を張ると出雲那が黄旋丸を抜刀して《星墜とし》を放ち、飛ぶ斬撃が一発の炎弾を撃ち落とすと無数の光刃となって拡散し周囲の炎弾をも纏めて撃墜して行く。

 

このサイクルが数秒に渡り繰り返されると出雲那はプルートが放って来る弾幕の僅かな隙を突いて突攻を仕掛けたのだった。

 

──もらったぜっ!

 

《雷光石火》で雷速反転し、弧を描いて正面から来るプルートに《雷切》で不意打ちを仕掛けてケリを着ける。 それが出雲那が咄嗟に考え付いた必勝プラン……だったのだが──

 

「貴様の脆い策なぞ読めているぞ! 阻め──《断絶スル黒焔ノ防壁(ブラック・オレイカルコス)》っ!!」

 

「な、何ぃっ!?──がぁぁあああっ!!」

 

出雲那が近接範囲(クロスレンジ)に入る直前でプルートが正面に黒焔の壁を出現させた事によって、出雲那は黒焔の壁に正面衝突。

 

「あ″あ″あ″あ″あ″あ″っ!! 円旋陣ーーーーーーっ!!!」

 

黒焔の壁に阻まれて身体に黒焔が燃え移り、焼かれて数秒間猛烈な熱量に耐え切れずにのたうち回ると直ぐさま先程黒焔に焼かれた時と同じように身体を高速回転させて旋風を起こし、黒焔を吹き飛ばす……そして、その勢いのまま目の前の漆黒の少年剣士に一撃を加えようとするが、プルートは既に遥か後方に退避していたのだった。

 

「ぜぇっ! ぜぇっ! ……はぁ、はぁ……クソッ!」

 

額の流血は止まったが今度は身体中を大火傷……肩で息をする出雲那はもう満身創痍である。 ギリッと歯を軋らせて前方数十メートル上の空から余裕綽々な表情で涼し気に自分を見下ろしているプルートを忌々しそうに睨みつけて悪態を吐く。

 

──畜生っ! なんてヤローだ。 こっちはもうボロボロだってぇのに奴は余裕でピンピンしてやがるしよ……チッ! 執行者や使徒ら《終末の蛇》の幹部クラスはどいつもこいつも“小国ならたった一人で滅ぼせるレベルの規格外揃い”って話を聞いた事があったけど、これはガチだぜマジで。

 

出雲那はプルートの──《終末の蛇》の執行者の圧倒的戦闘力を直接体感し、自分との途方もない実力差を実感して内心で僅かな焦りが生まれていた。

 

──柊の奴はどうやらもう一人いた執行者と互角に戦り合っているみてぇだ……だとすると、柊と今戦っている執行者もこのプルートって野郎と同格だとしたら、()()()()()()()()()って事になるな……ハハッ、マジかよ……。

 

プルートが滞空する位置よりずっと奥を見てみれば遥か先の空で氷の華が乱れ咲き、虹色の閃光が朱を蹂躙しているのが見える。 あの空で《終焉の盾(エインヘルアル)》のエージェントである明日香と、もう一人の《終末の蛇》の執行者のマリが激戦を繰り広げているのだ。 それを目の当たりにして出雲那は自分のチカラの無さを思い知って内心で嘲笑した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という自身の思い上がりに対して……。

 

これこそが裏の世界……“プロの戦い”だ。

 

プロの戦いは決闘(デュエル)のようなルールや【ソーサラーフィールド】による非殺傷ダメージなど存在しない生死を賭けた戦い、故に敵は体勢を立て直す時間も作戦を練る時間も待ってはくれないし容赦もしてくれない。

 

「余所見をするとは見た目に反して随分と余裕のようだな? その余裕、直ぐに崩してくれる! 《拡散スル飛炎》!!」

 

「全っ然余裕じゃねぇよっ! クソッタレェェッ!!」

 

火ノ加具土を振るい無数の炎弾を容赦なく放って来るプルートにそう吐き捨てて、《雷光石火》で弾幕の中を掻い潜って行く出雲那──

 

「ぐっ!?」

 

しかしこの戦闘で受けたダメージは大きく、身体はもう満身創痍。 よって動きのキレが落ちてしまうのは自然の理であり、先程のように全ての炎弾を確実に躱す事ができなくなってきている為、何発かが頬や脚を掠り、徐々にダメージが蓄積していってしまうのは当然であった。

 

──くっ! もう少し……後……5mで──

 

「《断絶スル黒焔ノ防壁》ッ!」

 

「ちょっ!? テメe「おまけだ、《瞬ク間ノ座標爆破(ラピット・フォトンブラスト)》!」──ぐはぁぁっ!!」

 

根性で接近しても黒焔の壁に道を阻まれ、その上発動すれば瞬時に座標指定した空間が爆発する伐刀絶技をモロにくらわされるという豪華特典付きだ。

 

「ふっ、無様な姿だ。 貴様のような雑魚は羽虫の様に逃げ惑うのがお似合いだな」

 

黒い煙を上げて落下して行く出雲那にプルートは黒炎の弾幕を放って容赦なく追い打ちをかけてくる。 出雲那は瞬時に翻して朱い空の中弾幕から逃げ回るしかなく、もう戦いと言えるものではない程一方的な展開となったのだった。

 

──畜生、全快ならこんな弾幕楽勝なのにダメージがデカすぎて身体がいう事を聞かねぇから奴に近づけねぇ……いや、近づけたところでさっきの黒い炎の壁を出されて返り討ちに遭うだけか……。

 

「仕方ねぇ……これマジ苦手なんだが……──」

 

しばらく逃げ回った後、プルートから距離を取って黒炎弾の嵐の中から逃れた出雲那は溜息を吐くみたいにそう呟いて、右腕を前に伸ばし──人差し指の先をプルートに向けて“詠唱”を唱え出した。

 

「──≪猛き雷帝よ・極光の閃槍以て──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──・刺し穿て≫!!」

 

そして詠唱を言い終えると出雲那の指先から一条の雷光が迸り、漆黒の焔を刀身に纏う霊装を今まさに振り下ろさんとするプルート目掛けて真っ直ぐ一直線に突き進む。

 

「何っ!?」

 

予想外の不意打ちに流石のプルートも驚きを隠せない。 向かって来た雷閃は自分の身体の中心より若干左上にズレた位置に飛んで来たので身体を右側に傾ける事で難なく躱す事ができたのだが、攻撃の手は止めざるを得なかったようだ。

 

「チッ! やっぱ当たらねぇか……」

 

「“黒魔《ライトニング・ピアス》”か……フッ、まさか貴様のような頭の悪そうな輩が“詠唱術式”を使用するなど思いも由らなかったぞ?」

 

「うるせーっ! バカで悪かったなチキショー!!」

 

学園のペーパーテストで毎回赤点ギリギリの点数で凌いでいる出雲那はプルートの皮肉に対してヤケクソに開き直り癇癪を起こしていた。 人間図星を突かれるとどんな形であれ冷静ではいられないものなのだ。

 

魔導士(ウィザード)】などの“魔核”を体内に持って世に生まれ、【魔力】を使う事のできる者が行使する【魔法】には大きく分けて三種類の発動術式がある。 心に思い浮かべたイメージで現実に影響を与える“心象術式”、魔装錬金武装や魔道具に彫られたルーン文字で魔力に意味を与える“刻印術式”、そして言葉に発して唱える詠唱で己のイメージを現実に介入させる一般的に【魔術(まじゅつ)】と呼ばれる“詠唱術式”の三種類だ。

 

詠唱術式は“詠唱”を唱える為、形式上術の発動までのインターバルが長い故に他の二つの術式より隙はデカイが詠唱する言葉の有り方によって細かく術式を改変できるので、汎用性に限っては魔法術式系統随一を誇っている。

 

──奴の攻撃は一旦止めさせる事ができたが……少しくらい過ぎたぜ。 クソッ、もう体力がやべぇ……。

 

「ハァ、ハァ……ゼェ、ゼェ……」

 

「……長く遊びすぎた、そろそろ終わりにするぞ。 貴様のような雑魚には過ぎた一撃だが、《冥界の死刀(イザ=ナミ)》を抜いていない状態の俺が使える最強の伐刀絶技で灰にしてやろう!」

 

あまり時間を掛けている暇がない割には時間を掛け過ぎてしまった。 激しく肩で息を吐く出雲那に向けてプルートは決着を着けると宣言をする。

 

「冥界の底より出ずる死の黒焔よ、現世の光に陰を堕とす暗黒の陽と成りて、生きとし生ける全てを灰燼に帰せ──」

 

朱き天に掲げた刃の切っ先に今居る異界中から集まるように万応素(マナ)が集束され、黒い太陽が形成されていく。 その規模は出雲那の眼に映せる範囲の地上に丸ごと影が覆い尽くす程巨大だ。

 

──なっ!? マジかよ、魔導星防軍(エトワール)のエース・オブ・エースが集束魔法(ブレイカー)をブッ放す時に作る魔力球体より二十倍はデケェ上に、万応素の濃度も尋常じゃねぇ! あんなのくらったら一巻の終わりだぜ!!

 

その規模の大きさと尋常ならざる威圧感に出雲那は恐れ慄いてしまっている。 それはそうだ、これ程の超大規模を誇る攻撃スキルなど彼は今までに生きて来て初めて目にしたのだから。

 

……だが、畏れの中で出雲那にはほんの少しの余裕も存在していた。

 

「へっ、でもこの距離なら問題ねぇよ! 体力はやべぇけどあんだけ大掛かりなスキルなら速射性に劣る筈だ! ここは根性見せて《雷光石火》で避けt──」

 

しかし、現実とは非情なものだ。 出雲那がプルートの必殺技に対してどう対処するのかを決めて行動に移そうとしたその時、突如彼の後方約200m先──異界化が再現したリトルガーデンから耳を劈く程の大爆発音が聴こえて来た。

 

「キャァァアアーーーーーっ!!!」

 

咄嗟に振り向いてみると出雲那から見て手前側──リトルガーデンの船尾付近の左舷の甲板が爆炎に覆われており、その場所から爆風に吹き飛ばされて悲鳴を上げながら煉獄の炎海へと転落して行く一人女性の姿が見えたのだった。

 

「──なっ!? アレは、まさか……クレア先輩!!?」

 

特徴的な金髪ドリルツインテールに豊満なボディラインをクッキリと浮き出す派手な真紅のヴァリアブルスーツ……あんな超個性的な風貌を見間違える筈がない、あの女性はどこからどう見ても青学の風紀委員長クレア・ハーヴェイその人であった。

 

──わたくし以上に、これ程までに《気高き姫君(アリステリオン)》を使い熟すなんて……あの者は、一体?

 

何故、クレアが爆風に吹き飛ばされているのか? ……それは、甲板から彼女を哀れな目で見下ろす“陰の女王”の仕業だ。

 

「地に堕ち、誇りを失った愚鈍なる家畜よ。 その偽りの眼に確と焼き付けるがいいですわ──《絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)》クレア・ハーヴェイの真の姿をっ!!」

 

その陰の女王、王者の色たる赤の装甲を身に纏い、二十にも及ぶ浮遊砲台を女王を守護する騎士のように付き従える貫禄は、まさに“《絶対無敵の女王》クレア・ハーヴェイ”そのものであった。

 

──おいおいおいっ!!? 一体どうなってんだ!! クレア先輩が二人? 訳わかんねぇ……けど、たぶん転落している方が本物だな、そこはかとなくポンコツ臭がするし。

 

「このままじゃクレア先輩がやべぇ! 急いで《雷光石火》で──」

 

「──墜ちるがいい、闇の太陽よ──《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽(デスヘリオス・カタストロフィー)》────ッッ!!!」

 

炎の海へと転落して行くクレアを救わんべく出雲那が雷速で向かおうとするが、最悪な事にそこへプルートが《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽》の形成を終えて天に切っ先を掲げる火ノ加具土を勢いよく振り下ろし、超極大の“黒い太陽”を放って来たのであった。

 

「──ってヤベッ、野郎撃って来やがった! こんな時に……って、この弾道(コース)最悪じゃねぇかっ!!」

 

“黒い太陽”は斜め四十五度の角度で落ちるように向かって来ており、出雲那が回避した場合それはリトルガーデンへの直撃コースであった。

 

──どうする? 今すぐクレア先輩を助けに行かねぇと先輩が炎の海にワンチャンダイブしちまうし、かと言って黒陽(コイツ)をシカトしたら結局先輩はコイツに巻き添えをくらって灰になっちまう……それどころか、コイツの被爆規模によってはオレと柊も無事じゃすまねぇかもな……クソッ!

 

迫り来るプルート・A・イグナイト必殺の《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽(デスヘリオス・カタストロフィー)》! 煉獄の炎海へと転落して行く絶体絶命のクレア! さあ、どうする出雲那? 何を選択しても絶望的なこの状況、果たして切り抜けられるのか!!

 

 

 

 

 

 

 

 




逃げるんだよォォー、ス◯ーキィィーーーーーーーッ!!!

クレア「待ちなさい蒼空の魔導書ーーーーーっ!!(全身武装展開)」

リディ「貴様ァァーーーーーーっ! クレア様の前で処刑してやるーーーーーっ!!(空戦用装甲装着)」

エリカ「ウフフ、公衆の全面で素っ裸にひん剥いて差し上げます。 覚悟はよろしいでしょうか?(絶対運命の鎖を鞭のように振るって黒い笑顔)」

すいません! 自分は怒り狂った風紀委員トリオから逃走しなければなりませんので、今回のあとがきはこの辺で、サラダバーーーーーーッ!!

青学風紀委員トリオ「「「待てーーーーーーーーーーーっ!!!(大激怒)」」」


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