幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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先日までインフルエンザに掛かってブッ倒れていました、蒼空の魔導書です。

軌跡シリーズの完結を見るまで死ねるかい! 少なくとも今年の秋発売される閃シリーズの完結編のエンディングを見ない事には死んでも死に切れねぇ!




堕ちた女王の闇

……朱き煉獄の世界の【絶対女王】の前に成す術もなく敗れ、獄炎の海へと投げ出された元リトルガーデンの絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)──クレア・ハーヴェイの意識は今、蒼穹の空の下潮風が肌を撫でる大海原を行く航空母艦の上にあった。

 

『ここは……リトルガーデンの船首……ですの?』

 

眼前に広がるオーシャンブルーとスカイブルーのコントラストを見てクレアは呆然と立ち往生してしまっている。

 

『何がどうなっていますの? わたくしは確かに、あのわたくしの偽物が撃ち放って来た一斉射撃を受けてしまって……それで──』

 

爆風に吹き飛ばされて船から落ちてしまった筈だ……記憶が確かならば、その後の彼女の運命は異界の奈落に広がる煉獄の炎海の中に落ち、その身を灼熱地獄によって……その筈なのに、彼女は今何故かリトルガーデンの船首付近の甲板の上に立っていて、目の前には煉獄の炎海ではなくどこまでも広がる大海原と水平線と雲一つ浮かんでいない蒼穹の青空が景色を青一色に彩っている……この海域は──

 

『温暖気候で生物が住みやすい穏やかな海流……まさか此処は──【リベリア海】……ですの?』

 

武闘王国ダイランディアの最南西部にある港湾都市《ブルーヴェイル》。 その行政区画の一角にクレアの実家が経営している民間軍事会社ワルスラーンの本社が存在している。

 

二年前の夏、【万応素枯渇事件】が起きる約一ヶ月前にワルスラーン社が開発した対サベージ用の武装兵器《百武装(ハンドレッド)》を武装して戦う戦士【武芸者(スレイヤー)】を育成する“小さな箱庭(リトルガーデン)プロジェクト”が始まった事で、ブルーヴェイルの港から約五百人の武芸者候補生とその他スタッフを乗船させたリトルガーデンが母なる海へと旅立った。

 

クレアが唖然と呟いた【リベリア海】とはブルーヴェイルの港から出て真っ直ぐ約300km海路を進んだところにある海域であり、彼女の悪夢の始まりの場所でもある因縁深い海であった……。

 

『っ!?』

 

突然大きな岩山に追突したかのような衝撃が船を揺らす。 その直後に悲鳴のような警報音(アラート)が鳴り響き、船の至る所に設置されている拡声器から緊急放送が流れた。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 船底に大型魔獣が取り付きました! 各職員、中等部以下の武芸科生、その他学科生は避難誘導の指示に従ってミリタリー区画のシェルターに避難。 高等部の武芸科生は選抜隊(セレクションズ)各員の指揮の下、各自対処に当たってください!!』

 

不器用でクソ真面目っぽい感じの女性の声が拡声器を通してリトルガーデン全体に行き渡り、慌ただしい複数の騒ぎ声が船内から聴こえて来る。 動揺でてんやわんやする者、恐怖のあまり逃げ出す者、冷静に行動を始める者と様々いるが、緊急放送を聞いたリトルガーデンの乗組員達が総動員で動き出したのだ、事態を打開する為に。

 

『今の放送は……エリカですの!?』

 

緊急放送の声はエリカのものだと瞬時に把握したクレアはこの状況に既知感(デジャヴ)を感じ、息を呑んで眼前に見える海の底を眺めた。

 

──リベリア海を航海中にリトルガーデンが何かにぶつかり、エリカが船底に大型魔獣が取り付いたと緊急放送を流した、この状況……忘れもしませんわ。 この状況は二年前の──

 

『──多脚生物系大型魔獣《クラーケン》の襲g──キャアアッ!!』

 

クレアが感じた既知感は現実となって顕れた。 眺めていた水面を突き破って天を突く異形に彼女は一瞬悲鳴を上げて尻餅を着いてしまう。 それは仕方のない事だ、何せ目の前には無数の吸盤が付いた大木の如く太くうねうねした軟体生物の脚が天に向かって聳え立っているのだから。

 

『間違いありませんわ……これは二年前の小さな箱庭プロジェクト始動初日、魔獣クラーケンの襲撃に遭ってしまった時の出来事ですの』

 

船を包囲するように次々と水面を突き破って現れる巨大な軟体生物の脚──遊撃士協会が危険度A級に認定している大型魔獣《クラーケン》の脚を見回して彼女は確信した。 何故だかは不明だが、どうやら今彼女の目の前で起きている事象はクラーケンの襲撃でリトルガーデンが撃沈してしまった二年前の悪夢を再現しているようであった。

 

クレアが顔を青ざめさせていると眼前に聳え立っているクラーケンの脚の鋭利な先端がリトルガーデンの甲板に向き、水中の魚を狙う銛が射出されるかのように勢いよく伸びて来る。

 

──っ!?しまった!!

 

『キャアアアアア──』

 

そして運が無い事に、クレアはその着弾地点に居た。 回避は間に合わず、己の迂闊さに苦虫を嚙み潰して死を覚悟した彼女は悲鳴と共に顔を伏せたのだが──

 

『──アアアァァァ……え?』

 

クレアは思わず間抜けそうな声を出して呆けてしまう。 襲い掛かって来たクラーケンの脚は何故か彼女の身体を透過してその後方にある砲台を刺し穿って行ってしまったからだ。

 

『どういう事……ですの? 今、確かにわたくしの身体を魔獣の脚が貫いた筈ですのに……』

 

艦内が無数の異形に蹂躙されて耳を塞ぎたくなるような破砕音が周囲に鳴り響く中で、クレアはクラーケンの脚が透過して行った腹部を摩って困惑していた。

 

これは一体どういう事なのか? ()()()()()()()()()()というこの状況……もしや、自分は今“霊体”になってしまっているという事なのだろうか……そんな事を考えていると無数のクラーケンの脚に蹂躙されて火災が起きている艦内から武芸科の生徒と思わしき数名が飛び出て来て、各所のクラーケンの脚に向かって突撃して行くのを確認する。

 

武芸科の生徒達は全員当然百武装(ハンドレッド)を展開しており、その中心に居るのは──

 

「目標補足、各自展開なさい! 艦が沈められてしまう前に魔獣を叩きますわよ!!」

 

──っ!? ……生徒達を指揮するあの者は、もしかして……()()()()()()()……?

 

じゃあ、やはり今見ている事象はあの悪夢の日の出来事……クレアは此処に来る前に偽物の自分に無様に負け、灼熱の炎海に落ちて焼け死んでしまったと言うのだろうか? ……だとしたら、此処は彼女にとって地獄に他ならないであろう。

 

「《漆黒の天槍(ミドガルドシュランゲ)》っ! うおおおぉおおおおおおッ!!」

 

「もう一息で全て駆逐できます、クレア様! 一斉射撃で一気に終わらせてしまいましょう!!」

 

「もちろんですわ! 近接戦要員は後方に下がりなさい!! ロングシューター型の者はわたくs──」

 

ファランクス型のリディを起点にシュヴァリエ型等近接戦闘員が艦の周囲の水面から出る各所のクラーケンの脚を叩いて数を減らして行き、後は根本を一斉射撃で殲滅して船底に取り付いている魔獣本体を表に引きずり出して決着を着けるだけだと判断し、過去のクレアが武芸科の生徒達に指示を出そうとするが、その声はバキィィ! という骨が砕けるような鈍い音と共に途切れてしまう……突如として第二陣が出るかのように海の水面を突き破って一直線に伸びて来たクラーケンの脚が過去のクレアの身体を突き刺し、彼女が後方に位置する建物の壁面に縫い付けられてしまったからだ。

 

「──ガハアッ!!?」

 

「「ク……クレア様ーーーーーーーーーッ!!!」」

 

腹に大孔を空けられた過去のクレアが口から血反吐を吐き、それを見て過去のリディとエリカが悲痛の叫びをあげる。 戦勝ムードだった武芸科の生徒達は突然の出来事を目の当たりにして愕然と困惑するばかりであった。

 

『そう……あの時、艦の船底に取り付いた敵は一体ではございませんでしたわ……敵の数を誤認していたわたくしは一瞬女王にあるまじき油断をしてしまい、その隙を突かれて重傷を負って死にかけてしまったのです……』

 

クレアは今見ている過去の自分がこの時に抱いていた居た堪れない思いを独白する。

 

『腹部を太い脚で突き刺され、壁面に縫い付けられたわたくしは身体に大孔を空けられてしまった事で大量の血液が身体から流れ出て深刻な貧血状態に陥り、蟲の息でしたわ……そんな醜態を曝してしまったわたくしは心底自分の未熟さを腹立たしく思いました』

 

「がっ……あ″あ″ぁ……」

 

『リディ達が魔獣の脚によって壁面に縫い付けられたわたくしを救おうとして道を阻む無数の脚を斬り捨てながらこちらに向かって来ている間にもわたくしの身体からは血が次々と流れ出て行き、わたくしの意識は段々と朦朧としてきていました。 わたくしは絶望の中でこう思いましたわ──ああ、わたくしはこの(ふね)と運命を共にするのですね──と……そんな諦めを抱いていたわたくしの命を救ってくれたのは、わたくしが最も愛する自慢の妹──』

 

「リ……ザ……」

 

「クレアァァァアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

女王の危機に紅蓮の炎に包まれている管制塔の最上階の強化窓ガラスを突き破り、駆けつける“小さな光”……それは壁面に女王を縫い付けている魔獣の太い脚を微塵に切断して、死にかけの女王を救う。

 

その光はこの場では場違いな程幼く、クレアと同じ金色の輝きを放つ長髪を揺らしていて、星空のように青い瞳の奥には大きな意志を宿している。 ……そう、彼女こそが──

 

『──《リザ・ハーヴェイ》。 生まれながらにして最大気力保有量SSランクオーバーの天才星脈世代(ジェネステラ)

 

「クレア! 大丈夫……今、傷を癒すわ!!」

 

リザはグッタリと仰向けに床に倒れる過去のクレアの許に寄り、その小さい手に膨大な気力を集中してクレアの腹部に空けられた孔に翳す。 《三大源力》の中でも【気力】は身体能力を強化するのに向いている、故に人間の細胞を活性化させて怪我の治癒能力を高める事も可能なのだ。

 

「クレア様っ!!」

 

「ご無事でしょうか!? 良かった……」

 

リザの治癒術が過去のクレアの負傷を治し、過去のクレアが体力の低下のあまり壁に背中を預けて座り込んだところで敵の妨害を切り抜けて来た過去のリディとエリカが合流する。 その時、リトルガーデンの船首側と船尾側のそれぞれの海面からクラーケンの本体が浮上し姿を現すのだった。

 

「……リディ、エリカ。 クレアを──わたしのお姉さまをお願い」

 

弱りきった過去のクレアを過去のリディとエリカに預けて船首側に現れた巨大イカの魔獣を見据えるリザ……彼女は駆逐するべき敵に向かってゆっくりと歩き出し、全身全霊を振り絞るような強大な【気力】を解放して大気を激震させた。 まるで、消えゆく前に激しく燃え盛る炎のように……。

 

『まるで何かを覚悟するかのように、命を削る程の膨大な【気力】を身体から放出させて敵に向かって行くリザ……この時にわたくしは切れかけの意識の中で、とても嫌な予感を感じたのを今でも鮮明に覚えていますわ』

 

「リザ……あなた……何……を……?」

 

「心配は要らないわ、クレア。 大丈夫……大好きなお姉さまとわたし達の大切な居場所(リトルガーデン)は、わたしが絶対に護ってみせるから……だから安心して。 あなたが目を覚ます頃には、全部終わっているわ……」

 

「リ……ザ……」

 

『こうして、わたくしの意識は命を懸けて敵へと向かって行く妹を見送りながら闇へと堕ちてしまいましたの…………その後、リザの言った通り、わたくしが目を覚ました時には全てが終わっていましたわ──わたくしにとっての“最悪の結末”で』

 

この瞬間、独白を続けるクレアが見ている光景がまるでDVDの映像を早送り再生するかのように切り替えられ行く……停止すると、彼女が居たのは床も壁も天井も真っ白な密室であり、部屋の中央に設置されているカプセル型の寝台の中には眼を閉ざして身体の活動を停止してしまった一人の小さい少女が眠っている……。

 

「リザ……リザ──ッ!! ……どうして……どうしてこんな……事に……っ!!!」

 

過去のクレアは最も愛する妹が眠るカプセルに覆い被さって泣いていた。 今の彼女に女王の威厳など何所にも無く、ただの一人の姉として妹が犠牲になった事を悲しんでいるのだった。

 

『結果的にリザは二体のクラーケンを倒し、皆を救ったのですわ……ですが、クラーケンはA級の手配魔獣。 戦闘のスペシャリストである遊撃士ですら苦戦を強いられる程の強力な魔獣を単独で二体も相手にするのは、幾ら生まれながらの天才であるリザでも……』

 

部屋の傍らに立って過去の自分が悲しみに暮れる姿を胸が引き裂かれる思いで眺めていたクレアは非常に辛そうに語っていた言葉を詰まらせ、目の前の過去から目を逸らして黙り込んでしまう……。

 

それは無理もない事だろう。 今彼女が見ている事象はリザが二体のクラーケンを撃退した一週間後──死闘によって身体を損傷し植物状態となってしまったリザをワルスラーン本社の地下研究室の冷凍保存カプセルに収容した日のものなのだから……。

 

『何故……(リザ)が犠牲にならなければいけなかったの? わたくしが弱い所為なの? ……なら、わたくしはこれから先、誰にも負けてはならないと──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、心に誓いましたの』

 

そしてまた、彼女が眼に映す風景が早送り再生されて行く……。

 

『その後“小さな箱庭プロジェクト”は凍結され、魔獣の襲撃で大破してしまったリトルガーデンも廃艦となってしまい、ワルスラーン社の社長であるお兄様が小さな箱庭プロジェクトで行う筈だった百武装(ハンドレッド)の最終調整を【戦島都市スクエア】にテスターを派遣して行う事を決定しましたの……そして、わたくしはそのテスターの一人としてリディとエリカと共にスクエアの学園に編入する事になった……』

 

風景が停止すると今度は青竜学園内にある教室内であった。 過去のクレアが青学の制服である紺色のセーラー服を身に着けて教壇に立ち、毅然とした態度で丁寧に自己紹介をおこなっている。

 

それを教室内の奥側中央に立って正面から眺めるクレアは感慨深く感じながら語り続ける。

 

『お兄様は四大学園の名門校《ナイツニクス学園》へ行く事を進めてきましたが、あの兄の言いなりになるのが嫌で、わたくしは自分の意志で《青竜学園》に行く事を決めましたの。 わたくしはこの学園でのし上がり、勝利を重ねて季節毎に行われる《四武祭(フェスタ)》も全て制し、スクエアの頂点に立ってみせると心に誓いました。 全ては愛する妹が再び目を覚ました時、【これからは、わたくしがあなたを護る】と堂々と約束できる姉である為に……その筈でした──』

 

「クレア・ハーヴェイさん、初めまして。 私は一年A組のクラス委員長、東堂刀華といいます。 クラスを代表して、これから学園生活を共にするクラスの仲間として、貴方を歓迎します」

 

自己紹介を終えた過去のクレアの前に出て彼女にこれからよろしくと握手を求めて来たのは柔和そうな雰囲気で眼鏡をした栗毛の女子生徒──当時青学の高等部一年であった過去の東堂刀華であった。

 

「え……ええ。 これからよろしくお願いいたしますわ」

 

「ふふ、よろしく。 何か解らない事が有ったら遠慮せずに聞いてくださいね。 この都市は生活のルールが特殊なので色々と苦労するかもしれませんが、クレアさんが慣れるまで私達がしっかりとサポートするので安心してください」

 

「ありがとう、感謝しますわ」

 

手を取って握手を交わす二人。 歓迎の拍手が鳴り響く中、クレアはそれを複雑な気持ちで眺めている。

 

『──青学に来て最初に知り合ったクラスメイト──“東堂刀華”…………わたくしは、彼女を前にして思わず()()を抱いてしまったのですわ……』

 

クレアは出会ったその時から刀華を畏れていたと言う。 優しそうな瞳の奥に宿る“大きな意志の光”……それは遥か未来(さき)を見据えている……この少女は本物だ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと一目で見抜き、それに圧倒されたのだ。

 

『わたくしとて軍事施設に居た百武装の黎明期に人々を世界のあらゆる脅威から護る《薔薇の守護者(ローズ・ガーディアン)》として名を馳せた身、世の中の平和を願ってはいますわ……しかし、究極的に言えばそれは名門ハーヴェイ家の者として、何よりも天才武芸者リザ・ハーヴェイの姉として相応しくある為に……ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 わたくしは、それに畏れを抱いてしまったのです……』

 

東堂刀華の内には目を逸らしてはいけないような何かがある……一昔前、武内出雲那の親友である黒鉄一輝は彼女を見てそう思ったという。

 

『当時のわたくしには判りませんでしたが、今はこの畏れの正体を理解しています……恐らく、これは嫉妬の感情に近い恐怖だったのでしょう。 他者の為に本気で尽くす事のできる“慈愛の心”……わたくしは、それを持っている彼女の事を心底羨ましく思いましたの。 ()()()()()()()……』

 

そして、三度事象は加速する……。

 

『それから一月の間、わたくしはスクエアという都市に順応するように努め、同時に百武装の最終調整という目的の遂行の為、都市の戦士候補生を相手にひたすら決闘(デュエル)に興じていたのですが……わたくしは、東堂刀華と決闘をする事だけは避けていましたの……』

 

百武装に限らず戦闘関係の技術の成果を測るにはより強い者を相手にした方がその成果を示す事ができるのは当然だ。 クレアは当時一目で刀華を強者だと見抜いており、本来ならば彼女は調整の相手にうってつけの筈なのだが……。

 

『彼女を相手に()()()()()()()()()()()()()()……そう思うと、どうしても彼女に決闘を申し込む事を躊躇ってしまうのです。 以前のわたくしならば勝てると信じて堂々と挑んでいたのでしょうが、リザを失ってしまったあの日からわたくしは表向きは堂々としつつも無意識に保身を優先するようになっていたのですわ。 それは何故か? ……正直、わたくしは怖かったのです。 《絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)》の二つ名、それすらも失ったら“クレア・ハーヴェイ(わたくし)”という存在に何の価値が残るのかと──』

 

この瞬間に加速していた事象は停止する。 ……顕れた場所は、約200mはある高さの天井から降り注ぐ多色のスポットライトの光に彩られた広大な空間。 全長100mはあるであろう正方形状の鋼石のフィールドを中心にすり鉢状に囲む観客スタンド──そこを埋め尽くす観客達の声援が空間を異常に熱狂させている。

 

『──ですが、スクエアの頂点に立つ事を目的とする以上、彼女との激突は避けては通れない道でしたの……わたくしが青学に編入して一ヶ月が経った十月の頃、スクエア四大学園最大のイベント《四武祭》の個人戦──《王竜四武祭(リンドブルス)》が始まったのですわ』

 

バトルフィールド上に立って向かい合っているのは、過去のクレアと、普段からは考えられないような覇気を感じさせて射貫くような鋭い目線で相手を見つめる栗毛の女子生徒──《雷切(らいきり)》東堂刀華。

 

『予選Gブロック決勝。 本選進出を賭けたこの試合で、わたくしは戦うのを最も恐れていた伐刀者の少女と相対する事となってしまいましたの』

 

百武装展開(ハンドレッド・オン)!!」

 

「轟け──《鳴神(なるかみ)》っ!!」

 

赤い六つの浮遊砲台《気高き姫君(アリステリオン)》を展開した過去のクレアに対して過去の刀華が雷鳴を迸らせて顕現させたのは黒漆の鞘に刀身を収めた刀型の霊装《鳴神》……それを左腰に差して抜刀の体勢で臨戦態勢に入った刹那、会場は観客達の大歓声で熱気に包まれ、運命の試合の始まりは告げられる。

 

『DUEL standby 3・2・1──LET's GO AHEAD!』

 

同時に過去の刀華は霊力を解放し、雷光の如き速力で過去のクレアに向かって駆け出して行くのであった。

 

『わたくしは、例え相手が誰であろうと絶対に負ける訳にはいかないと今までに培って来た《絶対無敵の女王》の全てをもって、東堂刀華を迎え撃ちましたわ……しかし、彼女はわたくしの動きも戦術も、()()()()()()()()()()()()()()()()()《気高き姫君》の包囲網を掻い潜り、わたくしは無様にもバトルフィールドの端に追い詰められてしまいましたの……そして──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──雷切!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

端に追い詰められて表情を絶望の色に染める過去のクレアに過去の刀華がとどめに抜き放った無敗の一刀──“雷切”……弟子にあたる出雲那のそれとは違い、その一閃はどこまでも鮮烈で世界を雷光の光に染め上げて行った──ここで、クレアが見る過去の事象は終幕を迎えた。

 

『──わたくしは……その一閃に引き裂かれて敗れたのですわ。 完膚なきまでに……()()()()()()()()()()()()には《絶対無敵の女王》なんて小さなものに縋ったまま前に進む事ができないでいるわたくしのチカラなど通用しなかったのです。 ……笑えますわね、ワルスラーン社という箱庭の中で《絶対無敵の女王》とあれだけ持ち上げられておきながら、結局箱庭の外に出れば簡単に負けてしまったのですもの……本当に救いようがない愚か者ですわ、わたくしは……』

 

この世の全てを溶かしてしまいそうな光の中で、クレアは静かに悔し涙を流して泣いていた。

 

ハーヴェイ家の者として、ワルスラーン社の武芸者として、そして今も眠る皆の命を救った幼い英雄の少女に相応しい姉である為に誇り高い“女王(クイーン)”であり続ける……それが彼女の想いであり、絶対的価値観(アイデンティティー)であった……でも──

 

『あれ程無様な負け恥を晒しておいて、未だに女王などと宣うのは見苦しいかもしれませんわね……ふふふ、確かに偽物の言う通り、わたくしはもはや“女王(クイーン)”では無いのでしょう』

 

なんて自分はみっともないのだろうとクレアは自身を嘲笑する。 あの異界の女王に言われた事が悔しくて仕方がないのに否定できない。 それが悲しくて、可笑しくて……悔しい。

 

『リディ、エリカ、お兄様、リトルガーデンの皆、そしてリザ……わたくしはあなた達が誇れる女王にはなれませんでしたわ。 二年前の王竜四武祭で東堂刀華に敗れて《絶対無敵の女王》の名を地に堕としてしまったのも、きっとわたくしの運命だったのです。 恐らく、それはあの襲撃の時に乗組員を護るべき艦長でありながら何もできずに妹を犠牲にしてしまったわたくしへの天罰だったのでしょうね……』

 

クレアはひたすらに今までの己の過ちを悔いていた。 もう、そこにはいつも凛々しく気風溢れる“女王”の姿はない。 ただただ泣き言を連ねるしかできない無力な少女が居るだけだった。

 

『ああ、なんだか胸が苦しくなってきましたわ……ふふっ、きっとこれがわたくしの咎の重さなのでしょうね。 なんとも──()()()!? なんか……凄く……苦しくなって……きましたわ。 首に縄を掛けられて……圧迫される……よう…………な──()()()()!!!』

 

そしてクレアは懺悔の念に駆られたのか息が苦しくなり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じ取って意識を手放した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……出雲那とプルートは、突如として目に入って来た光景を前に動揺と驚愕を露わにしていた。

 

「な……なにぃっ!!? 俺の《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽(デスヘリオス・カタストロフィー)》を止めただとォォオオオッ!!!」

 

プルートが放って来た必殺の伐刀絶技《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽》──その射線上には《天鳥》で滞空する出雲那を中間に挟んだ先に煉獄の炎海に転落している最中のクレアが居る為、出雲那は避ける事も出来ず一刻の猶予もない選択を迫られて万事休すな状況に追い込まれていたのだが──

 

「なっ!? ……氷の……壁?」

 

その刹那、出雲那に迫る“黒き太陽”を阻むようにして朱い天の先まで届くような極大の氷壁が出現して、墜ちる“黒き太陽”を妨害したのだ。

 

圧倒的質量と熱量を誇るプルートの《天カラ舞イ降リシ滅ビノ黒陽》を妨害できる程の氷壁を出現させた猛者、それは──

 

「傷を癒せ、《ヒール》!」

 

「っ!? あの野郎に負わされた火傷が消えていく……これは……“回復術”か」

 

「ふぅ、危ないところだったわね出雲那」

 

「……って、サクヤ!? テメェ、やっと追い付いて来たのかよ!!」

 

今も向こう側で“黒き太陽”と鬩ぎ合っている氷壁と唖然とする出雲那の間の()()()()()()()()()参上した黒髪ポニーテールの神秘的な女性──結社《終焉の盾(エインヘルアル)》の凄腕エージェント、サクヤ・マキシマであった。

 

今の彼女は氷の矛の様な形状の錫杖──《氷天牙戟(ひょうてんがげき)》を携え、アイスブルーに彩られた魔導服を思わせるようなドレスを身に纏っていた。 氷の術を主に操る魔導戦スタイル──“Modeセルリアン”である。

 

「それよりも、早く行きなさい出雲那! ぐずぐずしている場合じゃないでしょう!!」

 

「っ! そうだ、クレア先輩がヤバイッ!!」

 

クレアが炎の海にダイブしてしまうまで後約5m。 彼女を救うのに躊躇している時間はもう無い。

 

「ここは私が食い止めるわ! 君は至急彼女を救出して艦に居る【エルダーグリード】を撃破しなさい! 奴がこの異界化を引き起こした元凶よっ!!」

 

「わかった! 最速で飛ばすぜ! 《雷光石火》ァァアアアアッ!!!」

 

プルートの相手をサクヤに託し、出雲那は今にも炎の海に飲み込まれそうになっているクレアを救い出すべく一筋の雷光となって一直線に翔け降りて行く。

 

「うおぉぉぉぉおおおおおっ!! 届けぇぇえええーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

クレアの頭があと数センチで炎の海に接触しそうになったところで出雲那は雷速で急降下しながら手を伸ばし、クレアを救い出す事にギリギリ成功する──

 

「──()()()!?」

 

彼女のヴァリアブルスーツの後ろネックを掴んで……故にスーツの前ネックによって()()()()()()()クレアは急に引っ張られた衝撃と共に呼吸困難に陥ってしまう。

 

「うぉぉおおぉぉおおっ!!! 上がれえぇぇえええぇえええええっ!!!」

 

「ぐがあ″……あ″あ″……あ″……!!?」

 

しかも、そのまま出雲那が逆フリーフォールのように急激に上昇して行きやがる為に前ネックの圧迫が更に締まり、助けられている筈のクレアは数秒間理不尽な地獄の苦しみを味わう羽目になってしまった。

 

「おりゃぁぁあああああっ!! 救出成功ーーーーーーーっ!!!」

 

()()()()!!! ────きゅう~……」

 

挙句の果てに、リトルガーデンの甲板まで上昇した瞬間に出雲那が勢いのまま片手に掴んでいるクレアを片手背負い投げの要領で甲板内に投げ入れるという常識外れの暴挙……クレアは付近に建っている建物の壁に背中から激突して、そのまま魂が抜けたかの様に気絶するのだった……。

 

「ふぅ~、一時はどうなるかと思ったぜ。 ……まっ、クレア先輩も無事に助けられたんだし、これで一安心だな……さてと──」

 

いったいこれの何所が無事に助けたんだか小一時間問い質したいところだが、どうやらそんな暇は無いようである。 船首付近に建つ司令塔の上を見上げると、そこには六つの浮遊砲台と十二の小型浮遊砲台(ペタル)を周囲に付き従えている陰の【絶対女王】が出雲那と気絶したクレアを下賤の者を蔑むような眼で見下ろしていた。

 

「……なるほど……今オレをあそこで偉そうに見下して来てやがるクレア先輩の偽物がこの異界化の元凶ってわけだな」

 

『そう、あの陰がこの朱き煉獄の世界を現世に侵食させている存在……人の心の奥底に眠る闇を映し出す陰──エルダーグリード《ドッペルゲンガー》よ!!』

 

自分が倒すべき敵を見定める出雲那にサクヤが念話術を通して陰の【絶対女王】の正体を伝えてきた。

 

クレアが心の内に秘める闇を流出させて彼女を苦しめる怪異……奴を撃破すれば、少なくともこの夜を終わらせる事ができる!

 

「OKOK、上等だ! 絶対無敵の女王だかモノマネ女王だか知らねぇが、そのふざけた姿(ナリ)、このオレがブッタ斬ってやるぜ!!」

 

闇を斬り裂き、この夜を終わらせろ! 【伊邪那岐の創り手】、武内出雲那!! 今こそ己のプライドを懸け、雷神の刃を抜く時だ!!! ……そう告げているかのように《創生の雷刀(イザ=ナギ)》は今、静かに鳴動していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




今月の七日に投稿した新作予告短編、『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』はどうでしたか? クロス・スクエアの主人公とヒロインである出雲那と明日香、それから新作の原作ベースである『魔法少女リリカルなのはStrikerS』のキャラであるフェイトとシグナムは投稿された短編を見てこう言っています。

出雲那「……おい蒼空。 毎度毎度問答無用でシグナムに雷切をブチかましているオレが言うのも難だけどよ……コレ、本当に連載するつもりか? 幾ら最近D◯es i◯aeにハマったからって、敵TUEE!も程々にしとけよ」

明日香「冒頭の予言も不吉だけど、何よりも作品のイメージメインテーマがみんなのトラウマと言われている閃の軌跡Ⅲのエンディング『嘆きのリフレイン』って……ロクな展開になる気がしないわね……」

フェイト「始動した初日で六課が……(放心状態)」

シグナム「オイ蒼空! なんだこの【原作キャラ死亡あり】のタグは? 私か? また私なのか!?(カニクロで散々死にネタをやらされまくっている人)」

と、四人はこう感想を述べております。 詳しい内容が知りたい方は新作予告『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』を読んでみてくださいね!(宣伝)

新作の本編の執筆と投稿は今春開始予定!

予定通りに行かなくとも、少なくても今年中には連載したいですね!

それではまた次回!


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