いやー、一章終わらせられちゃいましたよー。 予定だとあと四・五話は続くかもしれないと思ってたのにー、あははっ!
覚醒した《
果たして、出雲那は二年前の悲しい事件で亡くなった友の剣を越える事ができるのか? 強敵《ドッペルゲンガー》との決着はどういう結末を迎える? 明日香VSマリ、サクヤVSプルートの戦いの行方は?
それは読者様方のその目でお確かめください! ではどうぞっ!
《創生の雷刀》に宿るイザナギの魂が覚醒し、契約を終えた出雲那は正式に【伊邪那岐の創り手】となった。
リトルガーデンを覆っていた“神域”がその役目を終えた事で消滅し、白い燐光が天へと昇る。 その“白”が異界の空を支配していた煉獄の朱と融け合い、異界の空はまるで明日の陽が東より出でる直前のような
神域の消滅に伴いそれに覆い隠されていたリトルガーデンが再び異界のハイウェイ終着点にその威容を現し、その甲板上に築かれているミリタリー区画の工場地帯に武内出雲那は舞い戻って来た。
「いきなり野暮用に行っちまって悪かったな。 待ちくたびれてねぇよな? クソモノマネグリード」
無骨な鉄板で舗装された工場広場にて出雲那と偽尊──ドッペルゲンガーの両雄は20mの距離を挟んで再び対峙する。
「解せぬぞ……突拍子もなく唐突に吐き気を催す程悍ましい光の領域内に幽閉され、気分を害し酔っていたところでようやく解放されたと思いきや……貴様、いったい
前方に上げて指し出した偽りのその人差し指は息が詰まるような動揺に震えている。 《
──奴の全身から漲り溢れている、あの不快な“白き雷光”から感じ取れる底知れぬ不可解な寒気は何だ? まるで首元に絶対零度の氷鎌を突き付けられたかのようなこの威圧感、尋常ではないぞ!? そして、それ以上に奴が手に握っている、あの果てしなく悍ましき強大なチカラを内に感じ取れる太刀は、いったい何だというのだっ!!?
発しているチカラの質と手に取った得物が先程とはまるで異なり、それはドッペルゲンガーにとって抗い切れない脅威を感じたからだ。
日の出が放つ曙の如く出雲那の全身を包み込んでいる神々しい光の膜と、その内側より超高密度の“白い雷光”をバチバチィと音を立てて外へと放出し周囲の眼を焼くスパーク現象がまるでその脅威を語っているかのようだ。 通常の武装でも
「ああこれか? さっきの野暮用で貰ったモンだ」
先程中断した戦闘を通して自分より格下だと確信した筈の武内出雲那に対して……そんな風に後退り、震える声を振り絞る偽尊。
「は……はんっ! そうかよ。 で、でもそれが何だというのだ? きっ、貴様と俺とでは覆せない決定的な格の差があるという事実に変わりはn「尊ォォッ!!」──ぬおぉっ!?」
そこへ逃がすまいと相手の強がりに被せて出雲那が言い放つ。
「確かに、オレはあれから二年経った今でもテメェに届けていねぇド三流剣士さ。 このままだとテメェに交わした“あの約束”も果たせる兆しすらも見えなくて、いつも
“白き雷光”迸る《創生の雷刀》を左手に持って対峙する相手に柄尻を掲げ、胸の内の熱き想いを叩き付けた。
「オレは、負けねぇ。 大切なダチ達と笑って過ごす
自分が不甲斐無い所為で本来自分が相手をするべき【伊邪那美の使徒】の足止めを引き受けたサクヤが代わりにこの異界の収束させるという大仕事を託してくれたこの背中に懸けて、世界創世期より眠り続けていたイザナギが負けられないという自分の思いに応えて永き眠りから目覚め誓いと共に授けてくれたこの覚醒した《創生の雷刀》に懸けて、戦島都市スクエアという
「行くぜ……尊」
出雲那は多くの誓いを胸に掲げた《創生の雷刀》を再び腰のベルトの右側へと差して帯刀。 足下の鉄板が砕ける程チカラ強く左脚を前に踏み出し腰を大きく落として居合の体勢に入ると、《創生の雷刀》の刀身が納まっている“伊邪那岐”と文字が彫られた荘厳な鞘の内部に世界を創造した白き雷──《
「覚悟しろよ……たぶん──」
青学最強候補にして生徒会長、東堂刀華より授けられし伝家の宝刀──《雷切》を放つつもりだ。 しかし、今までとは想像もつかないような桁違いなエネルギーの磁界が鞘の中に形成されていくのを見ると、このまま刀身を射出すれば間違いなく想像を絶する超規模の一閃が炸裂する事だろう。 故に──
「──一切加減出来ねぇからな! くらえ──
──《
最早、
瞬間、柊明日香はリトルガーデンから解き放たれて来る絶大な規模のエネルギーを直感で感じ取り、瞬時に適切な対応を構想して即行動に移した。 呆けているマリに隙を突いて即座に接近し、腕を取って真下の炎海の上にポツンと浮かんでいるビルの残骸の上に彼女を組み伏せる。
「ちょっ!!? アンタいきなり何すんのよっ!?」
「早く伏せなさい、来るわっ!!」
「だから何が──ンガッ!? コラッ、あたしの頭におもいっきしデカパイ押し付けてんじゃn──」
更にその瞬間、明日香の拘束を振り解こうともがくマリの喚き声を遮るように二人が経った二秒前まで居た空間を左から右に大きく薙ぎ払うように何かが光速で通過して行く。 そのエネルギーがあまりにも巨大な上、一流の戦士として活躍する
色盲に陥ったかのように色が消え、全てが止まった世界で経った今頭上の空を通過して行った巨大な何かに対して困惑を露わにしていると、世界の無色は数秒で砕け散る。
「「──っ!!? キャアアアアアアアアーーーーーッッ!!!」」
元の煉獄の朱と暁闇の空に時の流れが回帰したと同時に炸裂する異界中を激震させる程の豪快な大轟音と衝撃波。 更には、その直後に彼女達の遥か後方の炎海が空高く幅広く吹き上がり、大瀑布の如き炎の高波となって彼女達に迫り来る。 二人は悲鳴と共にビルの残骸小島ごと一瞬にして炎の高波に攫われ、そのまま凄まじい勢いで押し流されて行ってしまった。
数秒後に灼熱の激流槍が残骸小島を突き貫いてバラバラに砕け散らし、明日香とマリはその衝撃によって無防備にその上から投げ出されてしまう。 このままでは二人は炎の高波に飲み込まれて骨まで焼き尽くされてしまうだろう絶体絶命の最中、救いの女神の手は差し伸べられた。
「──明日香ッ! 執行者の子も、掴まりなさい!!」
押し流された数キロ先で冷気の坊膜を全身に纏って熱のダメージを中和しながら炎海面ギリギリの位置に退避していたサクヤが炎の高波に押し流されて来る二人に気付いて至急救出せねばと迫り来る炎の高波の中へと決死の覚悟で飛び込んで来たのだ。
炎の高波が迫る数メートル手前の宙で無防備を晒している二人を拾い上げたサクヤは手に携えた氷天牙戟で天の暁闇をも埋め尽くす炎波の壁を突き穿ち、そのまま裏側に突き破って、見事サクヤは二人を暁闇の空へと救出してみせた。 まさに危機一髪だ、もし少しでも救出するタイミングが遅れていたら二人は灼熱地獄の中で焼け堕ちていたかもしれない……。
「ひぃ、ひぃぃ。 ぜぇ、ぜぇ……じっ、死ぬ″がと思っだぁ″ぁ″……!」
「あ……ありがとうございます、サクヤさん。 助かりました」
「危ないところだったわね、明日香。 危機感知スキルの精度と素早く回避行動に移れる即応能力はさすがは若手のエースといったところだけど、適切な退避場所を選択する判断力がまだまだ甘いわよ」
「返す言葉もありません……」
掴まっていたサクヤの細腕から身を離し、明日香は自分の未熟さに愕然と反省する重い表情を顔に浮かべながら《ブルーウォーカー》を用いて宙に立つ。 しばらくして死にかけた事により生じていた焦燥と混乱を回復して正気に戻ったマリもまだ気分は悪そうだが、いつまでも誰ともわからない巨乳美人になんか引っ付いていられないと飛行魔法を発動して、無言のままサクヤから離れて行った。 近場の空中で気分良さそうにリトルガーデンを見下ろしているプルートの許へと戻るのだろう。
「サクヤさん、今のはいったい? ……何か、凄まじく強大なチカラが、あの船から……ッ!!?」
神妙な顔付きで異界のリトルガーデンの方を見遣る明日香。 先程まで彼女はリトルガーデンからかなり離れた場でマリとの戦闘を行っていたのだが、艦付近で戦闘していたサクヤに助けられたので解る通りリトルガーデンは今明日香の視界に大きく映されている故、それが二人が炎の高波によってかなりの距離を押し流されて来た事実を裏付けている。 その艦体を丸ごと飲み込んでも釣りが来る程の高さがあった炎の高波は艦を飲み込む手前で鎮まったようであり、お蔭で艦の甲板上の様子が空から一望できた。
──何が、あったと言うの? ……甲板上の街全体がまるで……森林を丸ごと伐採した跡のように……。
明日香は甲板上の街の惨烈な有り様を目の当たりにしてその透き通るような碧眼を驚愕に染めていた。
偽スティングのホーリーブレスにより中央から広くぽっかりと空いていた空洞の外側周辺に僅かに残っていたファミリー区画、甲板内の外周三分の一を占めていたターミナル区画、艦首側のミリタリー区画、
いったいどうしてこんな有り様に……と、伐採森林化してしまったリトルガーデンの街全体の様子を探るように見渡していると──
「あれは……武内君?」
ミリタリー区画があった艦首付近に出雲那の姿を発見する。 彼は今明日香達が居る艦の左舷側に向いており、左手に持っている神々しい輝きを放つ神秘的な
「悪いな尊、
《
「あ″……あがぁ”っ……!!」
ドッペルゲンガーは出雲那の前に這いずりながら断末魔の苦鳴をあげていた。 身体は肩から上と足首から下を残して消滅させられていて、頭からは黒い瘴気を噴出させている。 奴は何処からどう視ても致命傷だった、武内出雲那はこの異界の主を遂に倒したのだ……だがその顔に勝利の喜びは無く、どこまでも無念な悲壮感で満たされている。
「恐らく、もうお前と戦える機会なんか無ぇだろうな。 こんな
それが悔しくて仕方がない、そんな無念さでいっぱいの顔だ。
《創生の雷刀》を用いて抜き放たれた雷切──《神薙・創雷一閃》の威力はもはや別次元のものであった。 太刀に宿りし創生神イザナギのチカラである《創生の神雷》という世界を創り出せる程のエネルギーで形成した磁界をもって射出された太刀の刀身は超雷速を遥かに超越した絶速で振るわれた事で全てを薙ぎ払い、結果として先程の天災的な惨状を引き起こしたのだった。 一閃の間に幅広く横に弧を描いた刃の延長線上に存在していた全ては総じて異界の果てまで真空刃により切断され、絶速の居合いによって発生した衝撃波は暁闇の空と朱い煉獄に敷き詰められた炎海を爆散しそれ等を天変地異の如く荒れ狂わせ、真空刃に切り裂かれたリトルガーデンの街はその衝撃波の影響を間近で受けた為にその全てが異界の果てまで吹き飛ばされて行ってしまっている。
「テメェが本物の尊じゃねぇって事は解っているけどよ。 それでもオレは……」
そんな罪悪感を孕んだ視線で徐々に消滅していく様を見下ろされていたドッペルゲンガーは清々しく鼻を鳴らした。
「……ふっ、気落ちするんじゃない。 勝者は胸を張るべきだ」
その口から吐き出された言葉は倒された事の恨み言でも出雲那の泣き言に対する嘲笑でもなく、意外にも励ましの言葉であった。
「一振りの剣も、使い手である剣士が一より鍛え製作したものではないだろう。 他者から授かったチカラを行使して勝とうが卑怯な行為などではない。 勝者は勝利を謳い、敗者は敗北を嘆く。 それが【勝負の掟】なのだから、勝者である貴様がそんなに沈んだ貌をしていては、俺は倒された甲斐が無いではないか」
「お前……」
「解ったのなら誇らしくしていろ。 俺は、もう逝く……」
徐々に光の粉となって消えて逝こうとする偽尊が見せている精悍な顔付きは、二年前に亡くなった親友のそれと遜色は無かった。 《ドッペルゲンガー》というグリードの特性は
「尊──っ!!」
出雲那は消え逝こうとする亡き親友の陰に誓いを叫ぶ。
「オレは、お前との約束を絶対に果たしてみせる! 【伊邪那岐の創り手】としての宿命が何だ? 自分の成すべき責任が見つからないからどうした? オレはどこまでも強くなって、襲い掛かって来る奴等からオレの大切な“個”を救い続けてやるぜ!! だから……あの世で一時も目を離さずに観ていろよな、尊っ!!!」
「ああ……さらばだ、出雲那。 我が生涯の
尊の陰は出雲那にそう別れを告げると一切の未練も無しと言っているかのような澄んだ黙貌になり……完全に光の粉となって、暁闇の
「あばよ……ダチ公!」
見上げる天へと昇って逝く親友にチカラ強く別れを告げ返した。 その顔にはもう、憂いなどは無かった……。
尊の陰が暁闇の空に消えて逝く様は
「サクヤさん、これって……」
「ええ。 出雲那がこの異界の主を倒してくれたお蔭で、異界化が収束をはじめたのね」
まるで世界が浄化されていくような景色の中で、明日香とサクヤは出雲那の活躍によってこの異界を攻略完了したのだという事を実感していた。 敵対組織の実力者と戦い、助っ人の少年が秘めたチカラを覚醒させるなど、色々な事があって長かったこの夜もようやく終わりの時を迎えたのだ。
「フフッ、ちょっと危なっかしかったけれども、初めての異界攻略にしては上出来ね♪ ドッペルゲンガーはその性質故に戦う人間によっては【グリムグリード】級の討伐難易度になる事もあるS級のエルダーグリードだったっていうのに、それを一人で倒しちゃうなんてね。 彼は即戦力として十分役に立ってくれそうじゃない。 ねぇ、明日香?」
「…………」
ドッペルゲンガーを倒してこの異界を収束させるという大役を果たした出雲那をサクヤは大いに称賛しているが、彼女に同意を求められた明日香は何やら難しい表情をしてリトルガーデン上の出雲那をじっと見つめている。
「おい、貴様ら」
眉間に皺を寄せた明日香が何かを言いたそうにサクヤと視線を合わせようとすると、彼女達の後ろから厨二病臭い高圧的な男の声が掛かって来た。 二人がハッと振り返って見上げると其処に飛行スキルで滞空していた二人は無論の事、彼女ら《
「あの伊邪那岐の雑魚に伝えておけ! 【チカラに覚醒したからには、貴様は俺の倒すべき宿敵だ。 次に会う刻は容赦なくその魂、我が“死の黒焔”をもって塵も残さず灰にしてやる。 努々忘れるな、“冥界の王”の死手は何時だろうと貴様と貴様に連なる総てを死の世界に堕とさんと足下の血溜まりの底で蠢いているぞ】──となぁっ!!」
と、プルートが右手に握った《
「この異界の主はハズレだ、もう此処に用は無い。 とっとと帰還するぞ、マリ!」
「あ!? コラッ、ちょっと待ちなさいよプルート!!」
マリの制止も聞かずに素っ気無く徐々に光が満たされていく暁闇の空へと飛び去るプルート……彼が言ったように次に出雲那とプルートが出くわす事があれば、その時は恐らく周りを巻き込んだ本気の殺し合いになってしまう事だろう。 それが《八百万の神刀》に宿る【二大創産神】に選ばれし二人の宿命なのだから……。
「まったくアイツはもう、少しは人の話を聞けってーのっ! ……ったく!」
自分のパートナーが飛び去った方を見上げてマリは無視された事に悪態を吐き、しょうがない人だなと両腕と両脚を組みつつ苛立ちを吐き捨てるように呆れ顔を作って明日香に視線を向ける。 その眼は何やら照れ隠しをするように宙を泳いでいて、妙にこそばゆそうな表情だ。 若干頬も朱らいでいる。
「あのさ……そのぅ……さっきはありがとう、助けてくれて……」
さっきというのは明日香が彼女を出雲那が放った《神薙・創雷一閃》の真空波が通過する射線上から引き下ろして庇った時の事だ。 もしあの時、明日香が自分の身を優先してマリを庇わずにより安全な回避行動に移っていたとしたなら、彼女は今頃魂魄となって暁闇の空へと消えて逝った尊の陰と共に黄泉の国へと旅立っていた事だろう。 故に敵同士でありながらも自らの命を顧みず自分の命を救ってくれた明日香にマリは律儀にも感謝を伝えているのだ。 右手の人差し指で蟀谷を掻きながら彼女が不器用丸出しでお礼を述べる様はなんとも初心で可愛らしい感じがする。
「マリ、貴女……」
「か、勘違いしないでよね? べ、別にアンタと友達になりたいと思ってお礼を言ったわけじゃないんだからっ!」
「友達って、何もそこまで……」
相手から優しい眼を向けられた事にテンパってマリは思わずまるで隠せていない心の内を盛大に曝け出しつつ明日香に蟀谷を掻いていた指をビシッと差し向けて顔を真っ赤にしながら教科書通りのツンデレ台詞をかました。 なんて恥ずかしい発言をしているのこの子は? 明日香はマリの言動に軽く引いたが、内心拒絶しているわけでもないようで、相手の熱視線から逃れるように眼を閉じこちらも照れ隠しするように若干頬を朱く染めているのを見ると満更でもなさそうだ。 お互いにツンケンしたりクールぶって本音を隠してしまったりと素直になれないところがある故に、どこか通じ合える要素があるのかもしれない。 そんな二人の微笑ましいやり取りを見ているサクヤが「クスクスッ」と温かな微笑をしている所為で余計に二人は居た堪れない気持ちになった。
「と……とにかく! あたしとアンタ達はあくまでも敵対組織のエージェント同士、馴れ合う訳にはいかないのよ!」
「ええ、そうね、貴女の言う通りよ。 個人的にはちょっと残念だなとは思うけどね……貴女、あの終末の蛇の執行者にしては良い子っぽいし」
「ななな、なに言ってんのアンタッ!? よよ、余裕かましてんじゃないわよよよ──っ!!」
だが、精神的な面では明日香の方が一枚上手のようである。 余裕の笑みで思いがけない言葉を返されたマリは益々赤面して明らかな挙動不審となり、もう我慢の限界であった。
「お、憶えてなさいよ!? 今日のところは退いてやるけど、次に会った時はこの美少女天才魔導士マリさんがアンタをケチョンケチョンにして今日着けられなかった決着を着けてやるんだからねっ!!」
「ふふっ、それはこっちも同じよ。 次の機会があったら決着を着けましょう。 その時を楽しみにしているわ」
嘗められて堪るかとヤケっぱち気味な勢いで明日香に向けて徹底抗戦の意を伝え飛び去ろうとするマリだったが、明日香が余裕の笑みを全く崩そうとせず自身の豊満な胸を張って返答してくるものだから──
「キィィーーッ! やっぱ、この女ムカつくわーーーーッ! ほんとマジで次に会ったら、そのデカパイ、極光魔法で消し飛ばしてやるぅぅーーーーっ!! おぼえてろよ、チキショォォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
追撃で自分のコンプレックスまで刺激されたのが精神的なとどめとなり、マリはテンプレな捨て台詞を絶叫しながらプルートの後を追って逃げるように飛び去って行ったのだった……。
こうしている間にも
「明日香。 出雲那を迎えに行ってあげなさい。 貴方、彼に何か言いたい事があるのでしょう?」
明日香はサクヤの言う事に従い、殺風景と化したリトルガーデンの甲板へと跳び降りて行く。 本当はサクヤにも問い質したい事柄は山程あるのだが、今は連戦で疲れ切っている出雲那を異界化が収束する前に回収するのが先決だ。 外の世界に戻される際に付近に居なければ別の場所に放り出される可能性がある為、普通ではない消耗をしている彼がもし単独で外の世界に戻されたところを都市の警備隊やギルドの遊撃士などの“表”の公務組織の人間に見つかりでもしたら、彼女達“裏”の人間にとって非常に面倒な事に成り兼ねないだろう。 故に、明日香は裏のプロとしてこちらを優先したのだ。
「ハァ、ハァ……。 ああ、マジ疲れたぁ……ハァ、ハァ、身体中が痛ぇ……死ぬぅ……」
案の定、出雲那は既に光の絨毯となり果てているリトルガーデンの甲板の上に仰向けで大の字に倒れ込んで激しく疲労困憊していた。 この異界に突入してから煉獄の瘴気の中長い距離の空中回廊を襲い掛かって来る数多のグリードを殲滅しながら駆け抜け、ハイウェイに現れた《終末の蛇》の執行者にして【伊邪那美の使徒】であるプルートと限界ギリギリの死闘を繰り広げ、人によっては最上級のグリードクラスにもなる《ドッペルゲンガー》を相手に死力を尽くして戦うという、強敵との連戦に継ぐ連戦を続け様にやったのだ、こうなるのも無理はない。
「武内君ッ!」
血相を変えて光の絨毯の上に降り立った明日香は倒れている出雲那の許へと駆け寄って行き、険しい表情で彼の顔を睥睨する。 見下ろした碧眼には心配と怒りの色が入り交じっていた。
「よう柊……お前無事だったんだな。 よかったぜ……」
「“よかったぜ”じゃないわ! 貴方、何をやっているのよっ!!」
「うおぉっ!? 何いきなりキレてんだテメe──う″っ!?」
人が身を安じた事を言ったのに叱咤罵声が返って来た為に出雲那は訳が解らずその剣幕に慄き、咄嗟に上体を起こしてその事に抗議をしようとするが、明日香の尋常ならざる威圧に気圧されて開こうとした口を黙らせてしまう。 クールな美少女優等生面をしていた筈の彼女の整った顔付きが今にも泣き出しそうな険相に染まっていたからだ。
「初めて会った時から思っていたけれど、貴方バカなの? 先日死にそうになったというのに懲りず、頼まれたからといって“裏”の事情に首を突っ込んで自分が死にかけた場所に再び足を踏み入れて来て! 人の言う事も聞かずに、勝手に単独で“裏”のプロ相手に挑み掛かって行って! 挙句に背負わなくてもいい責任を背負い、こうして死にそうになる程ボロボロになるまで無茶をする!! 貴方、いい加減にしなさいっ!!!」
「柊……お前、なにを言っt──!?」
異界を満たしていく光が一瞬にして霧散するような錯覚を見せられる程の威圧的な剣幕を彼女から浴びせられる理由が理解できず出雲那は動揺するままに理由を罵声を浴びせてくる張本人に求めようとするが、険相の表情のまま彼女が急に自分の顔にズイッと迫るように屈み込み勢いで両肩を掴み押さえつけてきた為に驚いて言葉を詰まらせてしまう。 唇同士が触れそうな至近距離で睨み訴えるような彼女の迫力が相手に一切の問答を許さないからだ。
「“裏”の世界の戦いは遊びじゃないのよ? 運に運が重なったお蔭で辛うじて異界の主に勝てたからって、ヒーローを気取って調子に乗らないで! 貴方、その間に何回死に掛けたと思っているの? 私やサクヤさんが居なかったら無事じゃ済まなかったでしょうね!!」
「──ッ!!」
言葉だけなら見下した蔑みのように聞こえるが、至近距離で視界全体に広がっている彼女の表情は真剣そのもので蔑みは一切存在していない。 激しい怒気を滲ませた視線で真っ直ぐと相手の眼を射貫いている碧眼の奥に見え隠れしているのは相手の身を安じる気持ちそのもの……要するに、明日香は“表”の人間である出雲那を非常に心配していて、そんな出雲那が死ぬ程無茶な戦いをした為に物凄く怒っているというわけだ。 全ては出雲那を気遣うが故の剣幕なのだ。
「勘違いしないで、別に私は貴方を貶める為に言っている訳じゃないわ。 サクヤさんは貴方の実力を過剰な程に認めているみたいだけど、“表”の人間を“裏”の世界に関わらせるべきではない。 この異界が収束し終えて外の世界に戻ったのなら、貴方はもう二度と
冷徹な言葉で言いたい事を言い終えた明日香は両手で押さえ込んでいた出雲那の両肩を解放して立ち上がり、拒絶と心配を入り交じらせた視線で圧倒されっぱなしの彼の顔を見下ろし、無言の圧力をもって返答を訴えてきている。 忠告を素直に受け入れて引き下がるのならばそれで良し。 もし半端な覚悟でこれからも“裏”の世界に土足で踏み入るつもりならば、容赦はしない。
──私は貴方に手荒な事はしたくないわ。 お願いだから、おとなしく忠告を聞き入れて。 貴方が裏に関わって傷つく必要はないの。 だから──
「──ざけんじゃねぇよ……テメェ!!」
最大限の威圧と慈悲を込めた彼女の氷視線に対して出雲那が返してきた応答は了解でも拒否でもない、驚く事に何かを傷付けられて憤りを覚えたような熱視線を正面衝突させてきたのだ。
「誰がヒーローを気取って調子に乗ってるだ? ふざけんな! オレは、そんなくだらねぇ自己満足の為に戦ったんじゃねぇっ!!」
「っ!?」
床を足で叩き割るような勢いで立ち上がり、数秒前のように唇同士が接触しそうな程に迫って胸の内の憤慨を機関銃の如く叩き付けてきた出雲那に、今度は逆に明日香の方が気圧された。 尤も、それは自分がした忠告に対して相手がしてきた行動が予想外過ぎた故の驚愕に他ならないが、いつの間にか攻勢が逆転してしまった事に動揺が隠せない。 何故、そこでヒーローを気取ったとの指摘に心外だと義憤を訴える? 明日香はまるで珍獣を前にしたかのように眼を見開いた。 そんな彼女に出雲那は至近距離で心の内に溜まっていたモノを吐き出すように言う。
「柊……お前、なに人に何も言わねぇで一人で勝手にこんな危険な戦いをしに行きやがってんだ? 心配……したんだぞ……っ!!」
それは、誰にも内緒で単独危険を冒しに行った明日香に対する不満による悲嘆であった。 その言葉の通り出雲那は心配に嘆いた面に表情を変化させ、困惑する明日香の碧眼を哀しみを入り混じらせた焦がれるような視線できつく見つめ、離さない。 言いたい事があって仕方がなかったのは彼女だけではないのだ。
「お前の言う事をシカトして無茶をした事は謝るよ。 “裏”の世界の戦いの厳しさは、昨日今日の戦いを通して思い知った。 確かに、オレは命知らずの未熟者だ……けどな、お前がどんなに凄腕のエージェントだろうが、
「なっ──!!? ……貴方……」
次々と相手の口から吐き出されて来る予想外でド直球な言葉の数々を受けて、思わず呆気に取られてしまう明日香。
──武内君、貴方今日学園に編入してきたばかりの私の事を“仲間だ”なんて……。
そんな風に思っていてくれたんだ……。 そう相手の気心を理解した彼女はこの状況が恥ずかしく思ったのか、頬を朱らめて内心動転している。 プロでもない君に心配される筋合いはないとも思ってはいるが、その反面知り合ったばかりである自分の存在を仲間だと認めてくれている彼に対して嬉しくも感じている。 たとえ彼女自身がそれを望んでいなくとも、真正面から好意を向けられるのは照れくさくて仕方がないだろう。 明日香はそんな浮付いた気を落ち着けようと一度呼吸を整える。
「うぅん、コホンッ! ……それは、余計なお世話よ。 心配してくれたのはありがたく思うけれど、私は“裏”の人間。 “表”の世界の人達とは表面上の付き合いはできるけれど、深く相容れる事はできないし、してはいけないものなの。 それが【“表”と“裏”の秩序】というもの。 “裏”の世界の脅威が“表”に危害を及ぼさないようにするのを仕事としている私が“表”の住人を巻き込んで危険な目に遭わせていたら、本末転倒でしょう? だから──」
「だから自分の事は気にしないで、もう係わって来るなってか? イヤだね。 見ず知らずの他人なら何所で何をしてどうなろうと知った事じゃねぇが、大切な知り合い──ましてや仲間が危険な事をしているのを知らん顔をして平和な日常を過ごすだなんて、クソ野郎みたいな真似できるもんかよ!」
「貴方! いい加減に──?」
幾ら言っても全く退く気配もない出雲那に苛立ちが頂点に達しそうになった明日香は、こうなったらハッキリと「貴方は実力不足で足手纏いだわ。 だから、もう“裏”の戦いに踏み入って来ないで!」と言う文句をぶつけてやって現実の前に黙らせてやろうかと思っていたが、異常に辛そうな雰囲気を纏って呻きだした出雲那の悲愴な顔付きを見て思いとどまった。
「イヤだ。 ……もう何にも、オレの大切な何かを奪われたくねぇ。 奪われて、堪るかよ……っ!!」
「……」
「プロじゃねぇからとか、“裏”の世界の秩序だとか、【伊邪那岐の創り手】の宿命だとか、そんなの関係あるかよ! オレは、オレが大切に思った“個”が大事だ。 非常識で騒がしく退屈しねぇスクエアでの日常が、死んだダチと約束して絶対に達成してやりたいと必死こいて目指している個人的な目標が、一緒につるんで
武内出雲那が持つ
「……ふふ、ふふふ──」
そして数秒の沈黙の後、真剣に暑苦しい訴えを孕んだ熱視線を至近距離で受け続けるのが何だか居た堪れなく感じてきたようであり、調子を狂わされたのがおかしく思ったのか、突然口を片手で押さえて笑い声を出していた。
「あははははは! ふふっ、あは、あはははははは────っ!!」
それはもう恥ずかし過ぎて、おかし過ぎて、とてもじゃないけど耐えられない。 そんな風に彼女は至近距離で見つめて来ている相手から身を捩じらせて距離を少し離し、腹を抱えて大★爆★笑! お前、クールな優等生キャラは何処に行った? それ程までに気持ちの良い笑い声が収束の光に覆われかけている異界の空に響き渡っている。 そんな彼女を見た出雲那もまた、ちょっとした羞恥心を感じて思わず頬を朱らめてしまう。
「んだよ? 確かにオレも今のはちょっとばっかクセェ事言っちまったなとは思ったけどよ。 何もそこまで爆笑する事ねぇだろぉが!」
「──はははは! ふふっ……ご、ごめんなさい。 くくっ、だって貴方。 そ、そんな真剣にまじまじと私を見つめてきて、よくあるマンガの主人公みたいな恥ずかしいセリフを本気で……ぷぷっ、あー、おかしいわ!」
こうして一通り愉快に笑い尽きると、明日香は一度深呼吸をして自分の気の荒れ模様を鎮静し、改めて出雲那と向き合った。
「貴方の気持ちは、よくわかったわ。 ヒーロー気取りだなんて言ってごめんなさい。 あなたを協力させるかどうかは少し考えさせてもらうけれど、少なくとももう何も言わずに異界探索に出て行って心配させるような事はしないわ。 約束する」
「こっちこそ、異界探索のプロであるお前の言葉をシカトして行ってすまなかった……それから、ありがとうな、二度も危ないところを助けてくれて。 お前なんだろ、柊? 昨日の夜、異界化したアーケード街でオレ(とついでにシグナム先輩)がグリード共に殺られそうになったところを助けてくれたのは」
「ふふふ……やっぱり、昨夜貴方に掛けた記憶消去の術は効いていなかったのね。 昼間、貴方が遊撃士さん達の事情聴取に曖昧ながらも昨夜の出来事の内容を述べれていたから、まさかと思って少し焦ったのよ。 組織の【技術開発局】から支給されていた最新式の機能を搭載した特殊携帯端末が故障しているかどうかを慌てて調べなおしてしまったくらいに」
「ああ~、あの時横目で見たお前の携帯いじりはそれだったのかぁ。 てっきり、話を聞かないで不真面目に携帯アプリを開いて遊んでいるのかと」
「あら、失礼ね。 端末を調べながらしっかりと聞いていたに決まっているじゃない。 貴方、生徒会長さんの怖~い眼で睨まれて視線が宙に泳いでいたわよ? ふふっ、どうやら人に何も言わないで誰かを心配させているのは、お互い様のようね」
「ぎくっ! 何で携帯見ながらそんなとこまで目が回せるんだよ、お前? べっ、別にオレは……」
「ぷっ、ふふふ!」
「あ……ふ、へへっ!」
光満ちていく世界の中で互いに至らなかったところを謝罪し合い、良い雰囲気のまま時間の許す限り他愛ない談笑に花を咲かす二人……そこには、もう先程のような重い険相は存在していない。 これで心置きなく明日の学園の教室に顔を出す事ができるだろう。 この先、如何なる困難と宿命が彼等を待ち受けているであろうが、創生神イザナギとの契約により覚醒した《
「あっ、そうだ柊。 もう一つ、お前に言うべき事があったぜ」
「ん? 何、武内君」
この長かった夜もようやく明ける。 二人が征く
「
そのあまりにも頭の悪く清々しい歓迎の言葉に呆れるように苦笑しながら明日香が差し出されたその手を取った瞬間、収束の光が煉獄の異界を完全に満たし、夜は明けるのだった……。
ふっふっふ……ここまで、いかがだったでしょうか? これで、この作品の第一章である『壊れた非常識な日常編』はTHE END……。
しかぁぁぁしっ! 出雲那達の物語はこれでようやく始まったというところです! まだまだクロス・スクエアは先が長いぜっ!!
次回より新章開幕だぁぁぁあああああーーーっ!!!
出雲那「テンション高ぇなオイ? まあ、無理もねぇか」
明日香「この作品の連載を始めてから一年と半年以上で、ようやく最初の章を完結させられたのだしね。 ライトノベルなら一巻分で纏めるべき内容を二十万文字以上も使ってしまうだなんて、あまりにも蒼空の文章表現力が低すぎる所為だと思うのだけど」
細かい事は気にするんじゃない! 終わり良ければ総て良しだっ!
一輝「内容が良かったかどうかは、読者次第だけ思うけどね」
そんじゃ次章の予告、やっちゃうぞ☆
善吉「その喋り方デビルうっぜぇ!!」
次章は、ドッペルゲンガーの異界から帰還した出雲那が【とある胡散臭い甚平姿の男が経営している商店】で目覚めるところから始まります!
そこで出雲那は明日香とサクヤが所属している《
そこで知り合う新たな仲間! 一晩経っても寮に帰って来ない出雲那を心配した一輝が青学の生徒会長で出雲那の師である刀華にこの事を伝えて相談しようと生徒会室に向かう途中で【中等生のとある美少女剣士】と決闘する事となり、その末に一輝はその美少女と親しくなるわけですが──
ステラ「イッキィ? まさか浮気じゃないでしょうねぇ?(ジロッ!)」
一輝「ご、誤解だよステラッ! 僕はあくまでも君一筋だからぁ!!」
実は、その美少女剣士は“とんでもない事情”を抱え込んでいるのです! その事が発端になって
『壊れた非常識な日常編』で出雲那達が異界を攻略している最中、外の世界で事件の捜査活動を行っていたユーリ達は何をしていたのかというのも、もちろん回収しますよ。 彼等はあの夜にいったい何をしていたのでしょうね?
次章の予告はここまで!
ここで活動報告で行っている【新規参戦原作アンケート】の途中結果発表!
・ハイスクールD×D──2票
・戦姫絶唱シンフォギア──1票
・UNDER NIGHT IN-BIRTH──0票
・ありふれた職業で世界最強──1票
現在『ハイスクールD×D』が一歩リードといったところですね。
【バルバロッサ・バグラチオン】さん、【青龍騎士】さん、【火神零次】さん、【龍頭竜尾】さん、投票ありがとうございます! 9月27日の締め切りまで、まだまだ日はありますので、ユーザーの皆様、よろしかったらぜひ投票してください!
それでは皆様、また新章でお会いしましょう!
出雲那「オレ達の戦いはこれからだぜっ!」
明日香「武内君、それじゃあまるで打ち切りのマンガみたいよ……」