いつも通り多くは後書きにて語るとしましょう。
時は大晦日。人々はこの日をどう過ごすだろうか。慌てて新年を迎える準備をする者もいれば、家族でゆっくり炬燵を囲む者もいるだろう。
新年を数十分後に控えたそんな日、とある神社の室内には十二の人影があった。巫女装束の女性を中心に、扇状に十一人が並ぶ形だ。
「はーい、皆さん今日はお集まりいただいて、ありがとうございます」
まったりとした声で、中央の女性が全員に声をかける。名を睦月。一年十二ヶ月を司る聖なる存在の内、始まりである一月を担当する『月娘』だ。顔は穢れを知らぬ無垢な少女。衣装は清純な巫女装束だが、睦月本人は神に真っ向から喧嘩を売るかのような豊満な胸に、世の男を惑わせるような程よい肉付きのヒップラインと、一部の趣味の者にはたまらない容姿だろう。
睦月が自分の正面に並ぶ月娘たちを見回した。自身の担当する前後の月娘くらいしか交友がないためか、綺麗に左から二月~十二月担当と並んでいる。その列の中央付近に座る、金髪碧眼の少女が声を上げた。
「ねえ、あんまり夜更かししたくないんだけど?肌に悪いし」
彼女の名は葉月。八月を担当する月娘であり、夏場はその出るとこは出たナイスバディを水着を纏って惜し気もなく晒す。その体型を維持するためには努力を怠らない性格の完璧主義者ではあるものの、その熱意は残念ながら仕事には向いていないようである。
さすがに真冬とあって極力露出は少ない服装であるものの、纏うコートとレギンスには随所にセンスが光っており、葉月の美貌を引き立てていた。
「ごめんなさいね。でも一日くらいみんなの交友を深めるためにも……」
「一日サボったらそれを取り返すのに三日はかかるの。世の中にはたまに何もしなくても体型維持できる奴はいるけどさ……!」
大きな嫉妬と、ほんのちょっぴりの羨望が入り交じった視線が睦月の胸やら、二つ横にいる六月担当の水無月やらに注がれる。
「下らぬのう。お主の努力は認めるが、それは一日の息抜き程度で崩れるようなものか?」
「何ですって……?」
見下すというよりは、煽るような言い方だった。声の主は葉月から見て左に二つ横、十月担当の神無月だった。墨を流したような黒髪は一本たりとも毛羽立つことなく、紫色に兎があしらわれた着物が受け止めている。もっとも、現在は裏の人格である神有月が意識の主導権を取っているらしく、口元に閉じた扇子を添えながら葉月のことをからかうように見ていた。
「随分な言い草ね。でもあんたが口出しするようなことじゃないわ」
「ほう?神である妾を敵に回して良いことはないぞ?」
「その辺にしときな神有月」
一触即発。そんな険悪な空気を打ち破ったのは、二人の間に座る九月担当、長月だった。かかってこいとばかりに立ち上がろうとする神有月の袖を掴んで無理矢理座らせたのだ。
「悪いね葉月。でも今日一日くらいあたしたちに付き合ってよ」
「……はあ、別にいいけど」
「何故謝る!妾に非はなかろう!」
両者に顔の利く長月の言葉に、葉月は矛を納めたものの、今度は神有月の機嫌を損ねたらしい。別に一月担当だからといって、睦月は全員と面識がある訳ではない。この喧嘩をどう仲裁するか迷っていたその時だった。
「二人共!喧嘩は、やめ、よう、よ……」
仲裁に入ったのは列の一番端に座る二月担当、睦月の妹である如月だった。真冬だがいつも通り改造したミニスカ巫女服から健康的な素足を晒している。前後に姉妹がいることで、他の月娘よりも人見知りの具合が高い彼女だが、姉の困った顔を見て勇気を持って止めに入ったらしい。
当の如月は、まったくと言っていいほど二人との親交がないため、四つの瞳から視線を浴びてすっかり萎縮してしまった。
「……ふん、妾も少々大人気なかったかの。面を上げい、二月の娘よ」
折れたのは神有月だった。ひとつため息を付くと、気だるげに扇子を振った。
「へえ、大人になったじゃん」
「これ!からかうな!」
張りつめていた空気が緩んだのを、この場にいる全員が感じていた。妹の勇気ある行動に心の底から感謝しながら、睦月が次の言葉にを紡ごうとした時だった。
「まったく……この娘に感謝しなさい。みっともない」
余計な一言とはこれだ、という好例だった。ギン、と場の気温が五度程下がったような気がした。
場を凍り付かせたのは、六月担当の水無月だった。月娘の中でも群を抜く長身を漆黒のドレスで包んだ彼女は、周囲の雰囲気が変わったのに一切気付かず、むしろ沈黙が訪れたことを不思議にすら思っていた。
「水無月ちゃん……水無月ちゃん」
ささやくように声をかけたのは、隣に座っていた五月担当の皐月だった。
「今のはちょっと……不用意、だったかも」
「……どうして?」
水無月自身、ちょっと茶化したつもりだった。喧嘩を仲裁した如月を持ち上げつつ、軽い冗談を入れたはずだったのだが……。
「えっと……ちょっと偉そう、っていうか……上から目線に受け取られてもおかしくない、かな」
「……そう聞こえたの?」
「少なくとも私は」
ドッと嫌な汗が水無月の顔を覆った。雪もちらつこうかという程の寒さだが、彼女だけはサウナに長時間いたかのようだ。
「水無月ちゃん?水無月ちゃーん?」
焦燥の色がありありと浮かぶ水無月の顔を、心配そうに皐月が覗きこむ。
「え、ええと!せっかくみんなに集まって貰ったんだし、ここで私たちが作った年越し蕎麦でもどうかなー……って」
体感温度が上下する神社で、状況を打破しようと動いたのは呼び掛け人でもある睦月だった。
「そ、そうしよう!ね、みんな!」
姉に続けとばかりに、如月が立ち上がった。その影のように静かに三月担当、弥生も立ち上がる。
「じゃ、じゃあみんな待っててねー」
「どうすんのよ姉さん。すっごく空気悪いよ」
「ごめんねぇ~。みんなともっと仲良くなりたいって思って誘ったんだけど……」
「年の瀬にも関わらず全員揃いました。気を落とすことはありません」
三姉妹は台所へ向かう途中だった。如月はあの場の空気を憂慮したが、弥生の言葉で少し気が楽になった。
「二人が手伝ってくれて助かったわ~。今年の蕎麦はとっても美味しいわね」
「チョコレート入れたかった……」
「如月姉さん、それは蕎麦とは言わないかと」
軽口を言い合いながら、蕎麦の準備を進めていた最中、鍋を持ち上げようと腋が空いた睦月の懐から、大量の和紙がバサバサと散らばった。
「もう姉さん……どうしてこん、な……」
「あら、ごめんなさいね。如月?どうしたの?」
床を向いたまま固まる如月を見て、睦月は首を傾げながら問う。
「姉さん……これ……月娘の仕事の……」
「あら、そうだったかしら。来年の分ができたから保管しようと思ってたんだけど、忘れてたわ。早く集めないとね」
「どうしてそんなに呑気なの!?あたしの記憶が正しければ確か……」
「睦月姉さんが必然的に最初に管理することになる月娘の仕事の道具。それは一ヶ月ごとの順番通りに纏められているはずです。それが散乱したとなりますと……」
如月の言いたいことを弥生が代弁した。それを聞いて睦月の顔にもようやく焦りが浮かび、パパッと乱雑に集めて整えた。
「これで大丈夫かしら」
「体裁上悪くはないでしょうが、順番が滅茶苦茶のはずです。このまま年を越しますと今まで私達が管理してきた月とは違う月を担当せねばならなくなるやもしれませんが」
睦月と如月の顔から、サーッと血の気が引いた。
まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を
さて、始まりました続編です。ほとんど私の自己満足です。前作にて都合でろくに出番が与えられなかったキャラクターにも光を……ということで始まります。また一年、お付き合いいただければ幸いです。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次回お会いしましょう。