一年物語 其の二   作:りろぶこん

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始まりの十二月

 一雨ごとに寒くなる。

 今日もまた、空から雨粒が落ちていた。これでは明日はもっと冷え込むだろう。

 弥生は一日の仕事を終えると、皺にならないよう丁寧に和紙を折り畳んだ。

(……)

 沈んだ面持ちなのは体調が悪いからでも、仕事が億劫だからでも、天気が雨だからでもない。この一ヶ月、ただひたすらに姉である睦月が仕掛けたと思われる担当月シャッフルの事を考えているからである。

(あの時偶然を装ってまで担当月をシャッフルしたのは何故……意図が読めません……)

 だがどれだけ悩んでも時間は平等に過ぎていく。気づけば十一月も末日。一年で最後の月へ移ろうかとしていた。

(睦月姉様の事、小さな悪戯か何かかとは思いますが……それでは水無月さんの存在が謎になります)

 先月、訳あって師走と共に睦月の元を訪ねた際、月娘の仕事の関係上最も縁遠いはずの水無月がいた。

「悩んでいても仕方ありませんね。悩む前に動けは如月姉様の教えです」

 弥生はスッと立ち上がると、荷物をまとめて家を出た。

 

 普段は人気のない境内に、今日は複数の人影があった。そしてそのどれにも見覚えがある。月娘達だ。

「あ、弥生ちゃん」

 弥生に声をかけたのは、先月行動を共にした師走だった。その数歩後ろに立つ姿形は瓜二つ、だが配色の白黒が反転した少女がペコリと頭を下げた。

「弥生ちゃんも呼ばれたの?」

「呼ばれた、とは」

「あれ、招待状来てないの?私と霜月は貰ったし、他のみんなもそれで集まってるみたいだけど」

「……」

 さも当然といった風に話されても、貰っていない物は貰っていない。

「貰ってないの?うーん……」

 師走が一緒に悩み始めた瞬間、ギイッと扉が開いて巫女装束の少女と、影のように付き従う長身かつ黒づくめの女性が現れた。

「あっ、姉さん。こんな寒い中みんなを呼び出してどうしたの」

 月娘達の中、妹である如月が今日も元気にミニスカ巫女服から太ももを露出してぴょこんと前に出た。しかしやはり寒いようで膝上まで覆う白いハイソックスを履いているが。

「ありがとう、わざわざ集まって貰って。あら弥生、招待状遅れなくてごめんなさいね。来るのはわかってたから後回しにしてたら間に合わなくって……」

「いえ……お気になさらず」

 弥生の視線は睦月の傍らに立つ水無月へ。上から見下ろすような鋭い眼差しがぶつかり、弥生の方から目線を逸らした。

「今日集まって貰ったのは他でもない、ちょっとした提案があるの」

 提案。

 何か裏があるような、そんな気がしたのは弥生だけだろうか。それ以外の集められた月娘達は、やれやれ睦月がくだらない事を思い付いたのだな、程度にしか感じていないようだ。

 弥生の心配を他所に、睦月はそのぽよんと弾む胸の前でポンと手を叩き、

「私達、いつもいつも人間達の世界を管理してばかりじゃない?」

 一同が沈黙する。一体何を言い出すかと思えば唐突に仕事の事を話始めた。

「毎月毎月、担当が変わるとはいえ、全然人間達に感謝もされずひたすら……それってちょっと馬鹿馬鹿しいと思うの」

「おいおい、何を言い出すんだい。らしくない」

 作業着に上着を羽織っただけの長月が腕を組みながら言う。

「その言い方、続きがあまり面白くない事言いそうだね」

「くすくす……」

 睦月は口元に手を当てて笑う。

 そして、

 

「人間達を、私達で支配しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──は?」

 弥生は思わずといった調子でこぼれた一言が、自分の物だと認識するのに数秒かかった。

 

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