この新米女神に祝福を!   作:fukayu

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この乙女ゲーに終焉を!
唐突だが、お前は死んでしまったんだ。残念だったな


「ようこそ、死後の世界へ。 天宮椿(あまみやつばき)。唐突だが、お前は死んでしまったんだ。残念だったな」

 

 突然現れた白い部屋。

 そこで私が最初に目にしたものは小さな事務机と何故かひたすらに豪華な椅子だった。

 残念ながら主の姿は無い。つい先程何か聞き捨てならない事を言われたような気がするが、気のせいだろうか。経験上、こういった見知らぬ場所で目覚めると大抵身体はどこかに縛り付けられていて目の前には監禁した張本人が恍惚とした表情でこちらを見下ろしているのだが……。

 

「手足は動く、か。縄抜け用の秘密道具もある。流石に護身用のナイフは取り上げられているみたいだけど、一体誰がこんな事を?」

 

 思い出せる範囲でここに来るまでの事を思い浮かべる。

 確か、私はいつものように高校から下校するために教室の窓に足を掛け、後ろから声を掛けてくるクラスメートを振り切り校庭へダイブ。華麗に着地すると、部活を開始しようとする運動部を避け、毎日のように校門に高級車を横付けする御曹司を回避するために裏口へと回り、先回りしていた生徒会長と顧問を交わし、何とか帰路に就けたはず。

 まぁ、最終的には学外の数人に捕まり一緒に下校する事に放ったが、これでもいつもに比べればまだマシな方だ。

 酷い時には膨大なイベントから逃げられずに家に着いた頃には毎日楽しみにしている動画サイトで時報が流れている事もある。

 

「---って、ああ! 今日はイベントの開始日だった。折角アイツら振り切ってきたのに」

 

 全体的にシミ一つ無く、真っ白なこの部屋の中では時間間隔が狂う。だが、ただでさえ足止めに遭ってギリギリだったのだ。余裕で放送時刻は過ぎてしまっているだろう。

 私はこんな場所に閉じ込めた犯人―――はいないので目の前の事務机とやたら豪華な椅子を睨む。

 

 「ああ、いま丁度九時になったところだよ。正確には死後二時間ってところか。っていうか、監禁されてるってことよりゲームの心配って、オレが言うのもなんだけど日本人ってやっぱすげえな」

 

 するとどうだろうか。期待もしていないのに目の前の椅子から返事が来た。

 それは恐らく私が今まで生きてきた中で一番綺麗で美しい声だった。今まで至近距離でキロ単位で砂糖をぶちまけたような甘い声で言い寄られたり、物理的な殺し文句を言われても少しも心が動かなかった私だが、その声を聴いただけでこの状況を条件付きで許してしまえそうだと思うほどに魅力的な声だった。

 

「まさか、私の初恋の相手が椅子だなんて……。でも、そうね。あんなちょっと悩み相談に付き合ったらホイホイ付いてくるどころか付き纏ってくる人の外見でしか判断しない奴らよりはただそこにあるだけの椅子の方が―――」

 

「おーい、何を勘違いしているかわからねえけど、こっちだぞー。その椅子を回り込んでこっちに来てくれー」

 

 前言撤回。

 あの声は椅子が発したものでは無かったらしい。私とした事が飛んだ早とちりをしてしまった。一瞬乙女フィルターで柄にも無く相手の事を褒めようとして「この手すりが素敵」とか口走るところだった。

 

「悪いなー、いま丁度手が離せなくってさー」

 

 声の言うとおりに机といすを回り込むと、そこにあったのは小さな池だった。何も無い筈の白い空間には不釣り合いなその池には一本の糸が足らされており、下を見ればどこまで続いているのかわからない糸を逆にたどっていくとちょうど子供が肩に担げそうな木の棒に繋がっていた。

 その棒を片手に先程の椅子とは違い、ただ腰を下ろせれば問題ないとでもいうかの如く恐ろしく簡易的な椅子に腰を下ろした少女が恐ろしく真剣な様子で水面を見つめていた。

 

「あ、暇だったらその椅子に座って適当に読んでていいぞ」

 

 なるほど、あのやたら目立つ椅子はこれを隠すためのものだったようだ。てっきりこの部屋の主である彼女が座る為の者だとばかり思っていたが、違うらしい。

 勧められたからには座らないのも失礼だろう。私はこの座るものに合わせて最適な形に変形でもしているのかと疑ってしまうほど座り心地のいい椅子に腰を下ろしながら、これまでの事を回想し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらが今回の資料です」

 

 部下であり、後輩でもある天使に渡された書類を見比べながら本日何度目になるかわからない溜め息を吐く。

 そこに並べられたのは全て人の名前。気になる名前を指で触れると詳細な情報まで見られる優れモノだ。しかし、付き合った人数や告白された回数まで見れるのはどうかと思う。殆どがゼロな為問題は無いが、プライバシーという言葉が彼らには無いのだろうか。いや、職業柄しょうがないのはわかっているんだけどな。

 

 オレ達の仕事は簡単に言ってしまうと仕事の斡旋だ。

 自分達の元を訪れた人間を適当な世界へ仕分けるだけの簡単なお仕事。一応、先立つものとしてちょっとした一般的にはチートともいえるようなアイテムなり能力なりを渡すが、それもあらかじめ過去にあった前例をまとめたカタログから相手に選んでもらうだけ。

 特にこの日本という国ではサブカル的にこの手の話が広まっており、それらしい奴がそれらしい格好をしてそれらしいことを言うだけで大体理解してくれるという親切設計だ。後はカタログの中から特典を選んでもらって送り出すだけという簡単なお仕事だ。

 同業者の間ではつい先日まで見た目さえ良ければだれにでも出来る窓際職と陰口を叩かれるほどだった。オレの後輩も半年ほど前までは立派にかどうかは知らないがちゃんとこなしていた。

 

「ちょっと頭が弱くて馬鹿だったけど、悪い奴じゃなかったんだよなー」

 

 そんな後輩もとある事情で今はこの場にはいない。その後任だった奴も三日と持たなかったという。その次も、その次の次の奴もだ。みんな少なくない期間でこの職場を後にした。

 何度も言うが、この日本という国はそう難易度の高い国ではない。外国人やそう言ったことに通じていないものも何割かはいるが、基本的には皆「転――」と言ったら「生!」と答えてくれるほど物分かりのいい奴らだ。確かに感動のあまり大声を出したり、気絶したりするやつはいるが、基本的に女性との接点が無いものばかりなので突然襲い掛かってきたりと言う事もまずない。

 

 ならば何故か。

 何故、こんなふうに趣味の釣りに没頭していても誰からも文句を言われない理想の職場をみんな後にするのか。

 

 その答えは半年ほど前から新しく持ち込める特典としてカタログに追加された一言で説明できた。

 

『女神』

 

 そう、現在天界は深刻な女神不足に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から私に対する対応は大きく二つに分かれていた。

 溺愛する者と反対に蛇蝎のごとく嫌う者だ。

 前者は主に両親と私に付きまとうアイツら。後者は妹を筆頭とした同性に多い。

 

 長い黒髪に整った顔立ち、いくら食べても太らないスレンダーな体系と見た目に関して私、天上椿は控えめに言っても優れているといえよう。自慢じゃないが幼い時は何度も誘拐させられそうになった。成長してからも電車に乗れば痴漢されそうになるは、道を歩けば声を掛けられることも何度もあった。その度に増えていくのがアイツらだ。私の人生にとってある意味で誘拐犯や痴漢よりも厄介な存在。

 アイツらは誘拐される直前に少し言葉を交わしたり姿を見かけたりしたという理由で単身誘拐犯の元へ乗り込んできたり、都合よく電車で私が痴漢されているところに出くわして頼んでもいないのに声を上げ、私のその年の出席日数を奪ってくれたりしてくれる。

 

 最初の一、二回なら感謝もするが、それが何度も続くとこちらとしても対策をするので彼らの行動はあまり意味の無いものになる。誘拐されるにしても手嬢くらいなら五分もあれば解除できるし、経験上廃墟や空き家などからの脱出も慣れている。そんな私が痴漢程度に怯えるかと言えば答えは否だ。私ほどの上級者ともなると相手の手を気づかれないうちに電車の手すりに縛り付けてそのまま終電まで拘束し続ける事も出来る。

 それよりも問題なのは、勝手に人のGPSを逆探知して駆けつけたり、電車や駅のホームで大立回りをして人を有名人にしてくれるアイツらの方だ。

 

 どういったわけか私はアイツらに勝てない。

 どれだけ習い事を増やしてその度に免許皆伝だと言われるほど研鑽を積んでも、度々食事に混ぜられる毒物の知識や耐性を身に付け、宿泊研修などで野生のヒグマに遭遇しても単独で撃破出来るほど実力をつけてもその度にアイツらは秘められた力だとか昔習っていた伝説の暗殺術などに覚醒して毒を無効化したり、犯罪組織を単独で壊滅させたりしてくる。

 

 最終的に私は諦めて家に籠る事にした。

 元から興味のあったネットゲームに嵌るようになり、有名ギルドでランキングにも乗る程にやり込んだ。

 最低限、溺愛してくれる両親に心配を掛けないように学校には通いつつ、帰宅直後から深夜まで。特にアイツらとの遭遇率が高い休日は部屋から一歩も出ないで一日中だ。

 特にこの半年は私の元教育係であり、ほぼ毎日どんな時間でもログインしている為半分Bot疑惑の上がっていた上位ランカーが不在と言う事もあり、彼の穴を埋めるべくより一層のめり込んでいたところでこれである。

 

「思い出した。確か最後に会ったのはあの子だっけ……」

 

 帰宅してすぐに冷蔵庫からジュースとおやつのシュークリームを持って自室に戻り、レイドボスをソロで撃退しようとしてきたところあの子が入ってきたのだ。

 生まれた時からこんな姉と比べられ、おそらくこの世で一番私を恨んでいたと思われる妹。先日初めて彼氏が出来たと喜びながら両親に報告していたのは印象的だ。その数日後、何故かその彼は私を取り巻くアイツらの一部になっていたけど。別に私が何かしたわけじゃない。話したのも家に来たときに妹をよろしくね、と一言声を掛けたくらいだし。その次の日辺りから毎日家の前に来るようになってアイツら対策の為早めに出るように心がけている私がもう少しで妹が来ると教えて立ち去るとなぜか後ろをついて来ていたが、まさかこんな事になるとは。

 

「お姉ちゃん、どうして……」

 

 ゲームの中で持っている私の武器よりも何段階か貧相なものが視界の端に移る。その切っ先は心なしか震えていた。

 あんなこと私としては日常茶飯事だったけど、妹としては彼氏を私に取られたと思ったに違いない。多分、彼が毎日家まで迎えに来ていたことすら知らなかったんじゃないだろうか。

 

「私はいつも我慢していたのに……」

 

 知ってるよ。

 そんなこと私が一番よく知っている。

 

 刃物を向けられているのに少しも動揺しない私の心臓に自分でも驚きながら体に染みついた動作でキーボードを叩く。

 

「どうしてお姉ちゃんはそうやっていつもいつも私が欲しいものばかり奪っていくの?」

 

 それはお姉ちゃんも知りたいんだよね。

 知らない内に周りにいるんだよ、アイツら。その欲しいものの中に両親からのプレゼントとかも入っているんなら一応言っておくけど私はもう何度も言ったからね、その愛情を妹に注いでくれって、もう十分だって、そしたらあの人達泣きながらそんな事を言わなくていいって去年の倍くれるだけだからね。

 

「翔君は……彼は初めて私を見てくれたの。それなのにお姉ちゃんは!」

 

 後、もう少し待ってほしい。

 もう少しでコイツ倒せるから。今あの人いなくてギルド内でも纏められる上位ランカーが私しかいないんだよ。とりあえずこれくらい一人で狩らないとあの人達言う事聞いてくれないんだ。

 

「ねえ、どうしてこっちを見てくれないの? そんなに私の事が眼中に無いの?」

 

 ち、違うよ?

 ただ流石の私も目を話したら即死しかねないからであって、別に妹の事を見て無い訳じゃないよ! ほら、モニター越しで常に確認しているし―――――あ。

 

 必殺の十三連撃が決まる。

 それと同時に、私にも必殺の一撃がクリーンヒットする。

 

「お、お姉ちゃんが悪いんだからね! お姉ちゃんが!!」

 

 彼氏が出来た時、私の前では絶対に見せない表情で両親に対し嬉しそうに語っていたあの子の顔は最後の瞬間、高速で削られていくレイドボスのHPが映されたモニター越しに酷く歪んだものとして映っていた。  

 

 

 

 

 

 

「さて、と。どうやら思い出せたようだな」

 

 全てを思い出した。

 どうやら無事にレイドボスは討伐できたようだ。流石に妹があの後私のドロップ処理をやってくれるとは思わないし、やってくれたらそれはそれで怖いので諦めるが、これでギルドの連中には面目が立っただろう。

 

「一つだけいい?」

 

 ひと段落付いたのか釣れた魚をバケツに入れながら立ち上がった少女―――恐らくは女神に私は質問する。

 

「あの子は、妹はどうなったの?」

 

「おいおい、殺した相手の心配をするのか? それともその末路を聞きたいだけか?」

 

「別に。あの子に罪は無いわ。恨みもね。ただ、私のせいでこれ以上不幸になるのは流石にかわいそうだと思っただけ。……本当にそれだけよ」

 

 そう、日頃から危険な事に遭っている私からすればあの子の攻撃などいくらでも対処できた。別に、ゲーマーとして目の前のゲームと現実を天秤に掛けていて対処が遅れたっていう訳じゃない。無いったらない。

 せめてもの救いはゲームの中のレイドボスのように十三連撃を喰らわずに済んだことだろう。そこに関しては私の教育の賜物と言っていい。何をおいても妹からアイツらを遠ざけておいてよかった。

 アイツらなら平気で殺す以上の事をやりかねない。なにせ「君が俺のモノにならないならいっそ」とかいう台詞を現実に行ってくるような奴らだ。妹の彼氏の翔君も「最初からお姉さんに近づくのが目的でした!」と軽く問い詰めたらあっさりと自供していた。やはり、ああいう連中に妹は任せられない。

 

「っぷ、あはは。お前、やっぱり面白いな。結論から言うと何の問題もねーよ。そりゃあ、確かに最初はお前が死んだことによって信者たちが暴走して、『椿レス』という社会問題になるくらい発展して焦ったけど、最終的にお前の存在をぼかしてそいつらの心の中にいる空想上の嫁と言う事にしておいたから何の心配も無いさ。お前の妹も元から一人っ子として両親に溺愛されてるよ」

 

 「問題ない」

 そう、言った女神の言葉に取り敢えず一息つく。

 

 だが、サラリといまとんでもない事を言われなかっただろうか。私の存在をぼかしたとかなんとか。それに。

 

「あの、私の信者とは一体」

 

「ああ、お前に付き纏っていたアイツらの事だよ。なんかネットとかSNSで拡散されていて全国に数千人規模でいたけど、安心してくれ。全員心の中の嫁を溺愛するだけの変人になってるだけだから」

 

 いや、それは結構問題なんじゃないだろうか。

 私の知る限り、大企業の御曹司や既にプロからスカウトの来ている有望なスポーツ選手等全員イケメンと言ってもいい容姿に加え様々な属性が付いていたと思うが、私が言うのもなんだがその全員が二次元嫁に恋をしているなど日本は大丈夫なのだろうか。

 

「大丈夫だって。ちょっとくらい変なヤツが居た方が面白いって!」

 

 そんな事を言い出す推定女神はその燃え盛るような赤髪を振りながら釣り竿とバケツを両手に持って作業机を挟み、私の座る豪華な椅子の体面にあの簡易椅子を設置して腰を下ろした。

 ん、もしかしなくてもこれは逆なのではないだろうか。普通女神がこっちの豪華な椅子に座るべきなのではないか。

 

 そんな私の疑問とこれまでの経験からくる嫌な予感を知ってか知らずか、赤髪女神は初めて見た時から付けていた麦わら帽子を取りながら満面の笑みでこういった。

 

「んじゃ、改めて雨宮椿。オレの名は女神フレア。一応役職上、日本において若くして死んだ人間を導くことになっている。ま、死後のハローワークだな。死んでまで働くのかって意見もあるだろうが、そこんところは諦めてくれ。ちょっと前までは働かない選択肢もあったんだが、今はちょっと状況が違ってな。ま、とにかくお前には二つの選択肢がある」

 

 突然女神――フレアの上から降り注いだ神々しい光に目を細めながら、私は全く別の事を考えていた。

 あぁ、妹よ。私が見たお前の最後の表情は酷く歪んでいたといったな。ごめん、あれは間違いだった。

 

「一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、新米女神として世界を救うかだ。ま、どちらにしろ最初に魔王を倒してもらう事には変わりはねえけどな!」

 

 そう言って私に笑いかけるフレアの姿は記憶より幼いが確かに妹の春香のものだった。

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