この新米女神に祝福を!   作:fukayu

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大丈夫、こう見えても身代金の要求とかは慣れているの

 さて、ここで問題です。

 先程あなたは死に、この先冒険者と女神。そのどちらかとして生きる事が出来ます。但し、どちらにせよ魔王という敵を倒さなくてはならないことに変わりはないようです。あなたならどうしますか?

 

「答えは当然、Aの冒険者よ。女神になんてなる訳ないじゃない」

 

「いやいや、普通女神だろ。神だぜ? 前に同じ質問したら男なのに女神選んで女装までした奴がいるくらい人気なんだぜ?」

 

 妹と同じ顔をした赤髪の女神に即答した私は現在、新世界を満喫していた。

 見渡す限りの暗雲、生い茂る草木からは時々毒々しい瘴気じみた煙が出るものの、それ以外は至って良好。何より人がいない。これほど清々しい気分になったのはいつ以来だろうか。時折聞こえるこの世のモノとは思えない叫び声もこれがオンラインゲームと同じ世界に来たと思えば私が普段狩場にしていたフィールドとそう変わりは無いように思える。

 

「なかなか悪くないわね」

 

「いやいや、絶対おかしいんだよなー」

 

 そこら辺に落ちていた木の棒を片手に未開の土地をマッピング感覚で突き進む私の隣で、断ったというのに新人研修だと無理やりついてきた女神がこの世界のモノと思われる地図を片手に唸っていた。

 

「基本的に最初はいくつかある駆け出し冒険者の街ってのに行くはずなんだがなー。なあ、ここって駆け出し冒険者の街だと思うか?」

 

「少なくとも私のやっていたゲームでは街中でモンスターに遭遇したりはしなかったわね」

 

 既に何度か元の世界ではまず見ることの無い怪物に遭遇しており、その度にこの女神がボロ竿からルアーを飛ばして引っ掛けてはリリースするというよくわからない方法で撃退しているのを間近で見ている身としてはここが街中だとは思えない。

 

「だよなー。ってことは転移する際に座標がずれたと思うんだが――――どこだ、ここ?」

 

 私が知る訳が無い。

 平然と迷子宣言をかましながらもどこか気の抜けた受け答えをする目の前の女神に呆れながらも、私は当初より考えていた計画を実行に移そうとしていた。

 

 以前の世界ではどこに行ってもアイツらが現れて気の休まる暇も無かったが、この世界ではまだ同じ人間には遭遇していない。道中で遭遇した生物と言えば先程も女神が吹っ飛ばした少し大きいくらいのトカゲや歩くガイコツ位でアイツらの様に倒しても振り切っても復活して追いかけてくると言う事は今のところない。

 というか、一般的にアンデットに分類されるガイコツよりもしぶといというのはおかしくは無いだろうか。アイツらは本当に人間だったのか。

 …………。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 とにかくこれからは嘗てからの夢であった誰にも邪魔されない平穏な毎日を過ごすのだ。

 

「その為には、まず身の安全ね。武器と敵を殺しても問題ない大義名分を手に入れましょう」

 

「いやいや、まずは家だろ。出来れば釣りは出来る池が付いているのがいい」

 

「…………全く、何を言っているのかしら。三匹の子豚の話を知らないの? あの話から得るべき教訓は外敵を野放しにするべきではないということよ。三男がレンガの家なんてものを呑気に立てている間に犠牲になった長男と次男を忘れたの?」

 

「いや、長男も次男も犠牲になってねえよ! 家を壊されただけだ! 大体それを言うならヘンゼルとグレーテルはあのお菓子の家が無ければ死んでたぞ?」

 

「っふ、何を言っているの? あの二人はお菓子の家なんて無くても生きていられたわ。あの森には少なくともパンくずを食べた小鳥が居た。……それに、いざという時の非常食をいつも持ち歩いていたじゃない?」

 

「そんなのあったか?」

 

 察しの悪い女神が小首をかしげる。

 この女神、迷子になったり読解力が足りなかったりと実はあまり優秀では無いのかもしれない。

 

「ええ、隣にいつも歩いていた自らの片割れがね―――」

 

「いや、怖えよ! あれそういう話じゃねえから!」

 

「いいえ、これが真理よ。少なくとも私は誘拐先で逃げだしたとき何度も隣にグレーテルが居てくれれば、と思ったわ」

 

「いや、平然と誘拐って言葉が出てくる時点でこえーよ。お前本当に日本出身か?」

 

 何を今更。

 私をあの展開とか言う場所に釣り上げたのはここにいる妹の顔をしたグレーテル……間違えた、女神だ。私が日本出身の女子高生だと言う事はコイツ自身がよく知っているだろうに。

 

「……あら」

 

「っお。なんか出たな」

 

 二人で童話に隠されたありがたくも恐ろしい教訓について話し合っている間に私達は何やら開けた広場に出た。

 これがもしもゲームの中ならここらへんでいかにもと言った強敵が現れるところだ。

 

「おい、お前特典選ばずに来たんだから下がっていろ。さっきも思ったんだが、ここら辺の魔物のレベルが異様に高い。異世界に来たばかりでレベル1のお前じゃ多分一撃喰らっただけでアウトだ」

 

 女神が何か感じとったのかボロ竿を構えて私を庇うように前に立つ。さっきまで群れると外していた麦わら帽子まで付けて完全武装だ。

 ところで、釣り竿と麦わら帽子と言い、生前最後に見た妹よりも一回り幼い外見の彼女が動きやすいようにと短パンをはいている姿を見るとどう見ても夏休みの小学生にしか見えないのだが、どうにかならないのだろうか。

 

「来るぞ!」

 

「ッ!?」

 

 出会ってから初めて聞く女神の緊張した声に雑念を頭から放り投げる。

 感覚を集中させて敵を探す。茂みが動いた。あそこだ。

 

「女神!」

 

「釣ったら―!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一村人ならぬ、第一魔族を発見した。

 

「あ、あの、どうして人間がここに? 最前線からはだいぶ離れているし、間にはあの森だってあるのに――」

 

 女神の渾身の竿さばきで一本釣りされ、そのまま釣り糸で動けないように拘束された見た目は人間にしか見えない少女は捕らえた張本人である女神によるとこの世界に存在する魔族と言われる種族に間違いはないらしい。

 心なしか厳重に絡められたその釣り糸は女神であるフレアの神力を練り込んであり、それで抑え込んでいないと私達など簡単に全滅させられるくらいの実力があるのだそうだ。

 そんなの序盤に配置するなとか何でこんな簡単に拘束されているんだとか色々言いたいことは有るが。

 

「とりあえず、これで大義名分は手に入ったわね」

 

「まぁ、そうだな。多分コイツなら盾にすれば大抵の奴らは言う事聞くだろ」

 

 道中で聞いた話だが、私たち冒険者(場合によっては勇者というらしい)の最終目的は魔王を倒す事なのだそうだ。つまり、魔王の配下である魔族は敵。いずれ倒さなくてはならない存在である。

 そして私達は今しがたこの魔族に襲われかけた。味方によっては道に迷っていただけにも見えない事も無かったが、心情的には殺されかけてとても怖かった。いや、本当に危機一髪って感じだわ。今も足震えて動かないし。

 

「つまりはコレがあれば私達は当分の身の安全と」

 

「住むところには困らないなー」

 

「え、あの、お二人は何を言っているんですか? それに私はこれからどうなるんですか?」

 

「大丈夫。悪いようにはしない。少しお家の人とお話して服とお金と食料と武器と身分と住処をもらうだけだから」

 

「あ、あと釣り堀な」

 

「よ、要求が多すぎませんか!?」

 

 衣食住は大切だ。

 特にこの世界には着の身着のままで来てしまった為、女の子としては着替えと入浴手段をどれだけ早く確保できるかというのは死活問題になってくる。

 

 見た所、この悪魔っ子の来ている服は素人目に見ても上等であり、こんな森を彷徨っていたにしては仄かにいい香りもする。そこから推測するに彼女はいいところのお嬢様であり、ここは住んでいる屋敷からはそう離れていないと思われる。

 

「交渉は私がするわ。こう見えても身代金の要求とかは慣れているの」

 

「え、ああ。そうか。経験があるのか……」

 

 伊達に誘拐犯が大して裕福でも無い私の家に身代金の要求をする姿を何度も間近で目撃してはいない。

 何やら女神からの視線が痛いが、通話から逆探知されるまでのタイムリミットから比較的成功率の高い身代金の受け取り方までこの頭に入っている。

 

「大船に乗った気分で見ていなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この周辺では間違いなく一番立派な屋敷というか城にて。

 

「もうやめろ! わかったわかったからやめてくれ!」

 

「いいえ、やめないわ。いい? この子の命が惜しければ今すぐ道を開けなさい!」

 

 結論から言って私達の目論見は見事に頓挫した。

 よくよく考えてみれば私は誘拐にあったことは有ってもその誘拐が最後まで成功した場面を見た事は無かったのだ。

 

 それは何故か。

 

「椿さん! まさかこんなところで会えるなんて! これはまさに女神の導きだ! いや、まさか貴女が女神だったのか!?」

 

 何故なら、いつも事件のクライマックスには決まってアイツらが現れるからだ。

 

「は、早く。早くこの城の中に入れなさい」

 

「ま、待ってください。刺さってます! 刺さってます!」

 

 悪魔っ子の案内で彼女の住んでいた城までたどり着いたはいいが、交渉を始める前に私達は城の周囲に貼ってある見えないバリアのようなものに阻まれ中に入る事が出来なかった。

 しょうがなく外側から門番を呼びつけ話をしようかと思った矢先、私達とは別方向。暗雲が晴れ、微かに日差しが見える方角からある一団が現れた。

 

 それは男女比1:9の俗に言うハーレムパーティー。ラノベやゲームなどではよく見るが、現実やオンラインゲームでやるとネカマやサブ垢を駆使しなければまずお目に掛かれないような激レア構成だ。

 遠目から見るだけで美女揃いだと分かるパーティーの最前列を歩く唯一の男冒険者を見て一瞬私の思考は停止した。

 

 それは前世で幾度も無く私の前に立ちはだかった宿敵ともいえる相手だった。

 

「アレだけは駄目。アレだけは駄目よ! 何度断っても「照れているんですね」とか「周りの眼を気にする必要は有りませんよ。僕が付いています」とか言って全く人の話を聞かないのよ!」

 

 最悪だ。

 初めに話を聞いた時、もしかしたら一人くらいは居るかもしれないと思ってはいたが、まさかこいつが居たなんて。

 

「椿さん? どうしたんですかー? もしかして、僕の事がわからないんですか!? 大変だ! 俺ですよ、天上院一輝です! こんな異世界に一人で放り出されて心細かったでしょうが、もう大丈夫ですよ! これからはこの俺がどんな時も一緒にいますから!」

 

 そう言いながらアイツは他のパーティーメンバーをその場に置き去りにしながら猛スピードでこちらに駆け出してくる。その身体能力は明らかに以前とは比べ物にならない。

 

「な、なんだ!? と、取り敢えず迎え撃てぇ!!」

 

「当たらないぞ!? というか矢がひとりでに避けていくだと!?」

 

 城から大量の魔法と思われる光や高速で撃ちだされる矢が飛んでくるものの足止めにもならない。ただ一直線にこちらに向かってくる。

 

「何事だ!? あれは勇者か!? 敵襲! 直ちに戦闘準備を整えて……!」

 

 と、そこに飛び込んできた大柄な鬼が、

 

「って、あれ姫? 確か今朝家出したはずじゃあ?」

 

 私達――正確には私が盾にしている悪魔っ子を見て何やら生暖かい視線を送ってきた。

 

「ち、違うんです。違うんですよ。蟒蛇! 私は本当に家出したんです! 別に今日だって帰りたくて帰ってきたわけじゃないんですよ!」

 

「ああ、もういいですから! そう言って家出したその日の内に帰ってきたのは今日で何回目ですかい! 全く、今回は勇者まで連れてきて! あ、そこの方々もうちの姫を連れ帰ってもらってありがとうございます。ささ、中へお入りください。この城の中へはあの勇者達も入ってこれません」

 

「うーん、なあこの城ってさー」

 

「それはいい事を聞いたわ!」

 

 何か勘違いしているみたいだが、今は背に腹は代えられない。

 すぐ間近に迫る脅威に対しては誰とでも手を取り合うべきだ。私は何か言おうとしている女神を押し込むようにして城門を潜り中へ入る。途中、女神に反応してか城に貼っていたバリアがパリン、と割れる音がしたがすぐさまリフォームの匠顔負けの手際の良さで穴を塞ぎ、何とか無事に場内へ進入する。

 

「あ、椿さん!? どこへ行くんですか? おのれ、魔王軍! 貴様は踏んではいけない虎の尾を踏んだぞ! 世界に混沌をもたらすだけでは無く、よりによって椿さんを攫うとは! 待っていてください椿さん! 勇者となったこの俺が必ず助け出して見せます!」

 

 いや、いいから。本当に私はそんな事は望んでいないから。だから、お願いします。大人しくハーレムプレイに勤しんでいてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからあの勇者―――天上院は諦められないのか城に対しひとしきり攻撃を加えたもののあの鬼の言う通り、一歩も入る事が出来ないのか「必ず迎えに来ます! だから、待っていてください!」という捨て台詞と共に取り巻きの女どもを連れて名残惜しそうに帰っていった。

 

「や、やっと帰った……」

 

「まさか六時間ぶっ続けで聖剣ぶっぱなしてくるとは、な」

 

「今回のあの勇者には何か執念じみたものを感じたぜ……」

 

 勇者の襲撃に離れているのかバリスタやら大砲やらを持ち出して応戦してくれた城の兵士たちは天上院が帰ると崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。殆ど奴を守っていた補助魔法とやらで防がれたものの、彼らの奮戦が無ければどうなっていたかわからない。

 

「改めてお礼を言うわ。ありがとう、助かりました」

 

「え? あ、はい!!」

 

 その場にいた若い夢魔と思われる悪魔にお礼を言うが、なぜか顔を赤くしたのち眩しそうに視線を逸らしたまま私の握手に応じてくれた。

 

「こ、こちらこそ。あなたがデコイのスキルを使ってまで勇者の攻撃を引き付けてくれなかったらどうなっていた事か」

 

「デコイなんてつかってない」

 

 あの勇者、あろう事か私のいる方に向けてばかりビームを売って来やがった。

 結果的にそれを逆手にとって守りを固める事が出来たものの、その一撃で私が死んだらどうするつもりなのか。もしかして、敵を倒したら奇跡が起きて私が蘇るとでも思ってるのか?……いや、これについて考えるのは良そう。ここは異世界、前の世界でも何度か近い事があったのだ。この剣も魔法もある世界なら平然と起こってもおかしくは無い。

 

「なあ」

 

「あぁ、あなたも勇者の取り巻きを釣り上げて妨害したり大活躍だったじゃない。道中と言い、今回と言い、最初は釣りの女神なんて何の役に立つのかと思っていたけど、意外とやるのね。見直したわ」

 

「ああ、まあ、それはいいんだけどさー」

 

「どうしたの? ―――まさか!」

 

 あのにっくき勇者を退けたというのに今一腑に落ちない顔をしている女神。眩しそうに目を細めてはいるがどこか気を張っている様子の彼女を見て、私はもしやこの城にも奴らの一人が紛れ込んでいるのではないかと慌てて周囲を見回す。

 

 瞬間。

 私の視界に入ってきたのは無数の異形。最初に会った悪魔っ子をはじめ、大鬼に吸血鬼、夢魔にスライム。果てはドラゴンまで、ゲームでよく見るメジャーなモンスターが勢ぞろいしていた。

 

「最初見た時から思っていたんだけどさー。…………ここって、魔王城じゃね?」

 

「………………あ」

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