PSO2外伝 絆と夢の協奏曲〈コンツェルト〉   作:矢代大介

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#2 少女の初陣

 ひっきりなしに降りそそぐ警報の下を、俺は相棒であるバイクと共に駆け抜ける。ハンドルを握ってシートにまたがる俺の後ろには、俺の背中に顔を押し付けているフィルツェーンが居た。

 

 鳴り響く警報がダーカーの襲撃を知らせてきてすぐに、俺はベルガに促されるよりも早く応接室を飛び出した。非番と言えど俺とてアークス、やらねばならないことくらいは理解している。

 だが、そうして急く俺をベルガは引き留めた。理由はもちろん、フィルツェーンのことだ。

 曰く、「不謹慎ではあるが、ほかのアークスたちも大勢参加するこの場であれば、安全に初陣を飾ることができるだろう」ということらしい。確かにアークスが多ければ、その分不慮の事故に遭遇した時に運よく助かる可能性は上がる。それを考慮して、俺もオーケーを出したのだ。

 

 ただ、フィルツェーンはバイクというものが初経験らしく、最初こそ強い関心を寄せていたが、今ではコイツの出す速度を怖がって前を見ようとしない。一応、二人乗りしても大丈夫なようにタンデムシートに付け替えているのだが、小さい身体を精一杯に広げてずっと抱き着かれているので、正直心中穏やかじゃない。この分ならいっそサイドカーでも新調しようかなぁ、なんてことを考えていると、俺の視界に黒煙が映った。どうやら、当該区画にご到着らしい。

 

「フィルツェーン、もう少しで着く。……あー、まぁ、そのままでいいから聞いとけ」

 

 ちらりと振り返ってフィルツェーンに呼びかけるが、肝心の本人は肌を切る風からいまだに疾駆中なのを察したらしく、いまだに俺の背中にぴったりとくっついたままだ。しょうがないかと思いつつ、俺はとりあえず話を聞くように促す。

 

「これから入る戦闘区域には、おそらくもうダーカーの手が伸びている。ダーカーの危険性は、もうアークス研修の時に聞いているよな?」

 

 正面を見据えながら語られる俺の言葉に、フィルツェーンは小さく「はい」とだけ答えた。

 

「いきなり戦闘に慣れろ、とは言わない。修了試験の時に、ダーカーの手で命を落としたやつを、俺は何人も見た。……だからまずは、俺の後ろについてこい。自分の安全を最優先にしろ。わかったな?」

 

 かつて俺がアークスとしての修了試験に臨んだ際、突如出没したダーカーに混乱し、殺されていったやつを、この目で嫌というほど見てきた。

 ある者は、自分の力を見せようと意気込んで。

 ある者は、初めて肉眼で見るそいつらの異様さに取り乱して。

 ある者は、聞かされた電文を真に受けて恐慌状態に陥って。

 ある者は、何の前触れもなく出現したそいつらに食われて。

 それぞれが、あっけなく命を散らしていった。

 ダーカーの異様さというものは、確かな脅威となる。だからこそ俺は、たとえ下位のダーカーだとしても油断をしてはいけないという持論を持っているのだ。

 言葉の意味は確かに伝わったらしい。が、直後に何かを疑問に思ったらしく、わずかに顔を上げたらしきフィルツェーンは疑問をぶつけてきた。

 

「……自分の命を? じゃあ、もしあなたがピンチになっても……」

「ああ。その時は迷わず俺を置いていけ。……どれだけ優秀な奴だろうと、死ぬときはあっさり死ぬもんだ。だから、もしそんな状況になっても、別にお前が責任を負う必要はないぞ。…………そろそろ戦闘が始まる。渡された武器の装備、忘れるなよ」

 

 俺の言葉に、フィルツェーンは何かを言いたげな雰囲気を見せる。しかし俺はそれを言わせることなく次の言葉をつむいで、それきり相棒の運転に集中した。

 

 ……ただ少しだけ言葉を交わしただけなのに、どうして俺はこんな気づかいめいた言葉をかけているんだろう。

 気疲れするだけなのに、どうして彼女の心のうちを考えてしまうんだろう。

 あの子と一緒に居た時もそうだ。あれやこれやと世話を焼いて、気をもんでは、一人だけやたらと疲れることもしょっちゅうだった。

 まるで彼女を思い起こす少女のことを頭の片隅で考えながら、俺は再び眼前で吹きあがる黒煙を見つめる。

 ――もう二度と、あの時のような思いはしたくない。

 だから、俺は俺に出来ることを、精一杯やるんだ。

 

 

***

 

 

 合金製の道路を滑走する音を引き連れて、俺とフィルツェーンを乗せたバイクは停車した。すでにたくさんのダーカーが目前を埋め尽くしていることを鑑みるに、市街地への被害はかなり進んでいるのだろう。だとすれば、急いで侵攻を食い止めねばならない。

 幸い、建物などに対する被害は軽微らしい。路面のそこかしこからせり出ている、防衛用のガトリング砲台が機能していることから、街そのものへの被害は皆無と言ってもいいだろう。といっても、周囲を見渡せば上下逆転して停車している車両や、破壊された街灯にあらぬ方向を向いた信号機など、無視できない被害が出ている場所もちらほらと見受けられるが。

 ようやくバイクを降りることができて、露骨に安堵するフィルツェーンをしり目に、俺はバイクを路肩に放り出したまま、袖をまくり上げて左腕の腕輪を露出させる。左の手首に巻かれたそれは、アークスであるならば誰もが使用している、ホログラムを使用したアークス用の任務補佐用端末だ。

端末を起動して、ホログラムに浮かび上がったアイコンを選択すると、ホログラムが粒子となって溶け、俺の腰あたりへと収束し始める。数秒もしないうちに粒子は既定の形に変わり、やがて実体を持った戦闘用の武器に変化した。

 腰に差す形で実体化した大ぶりな片手剣のグリップをつかんで引き抜き、振るう。その動作の中で、握りしめた剣の刀身から、空気と圧縮フォトンがこすれあう独特の音を引き連れて、オレンジ色のフォトン刃が生まれた。

 

「フィルツェーン、武器の出し方はわかるよな? ダーカーが近い、すぐに備えろ」

「は、はいっ」

 

 俺の言葉に、フィルツェーンは慌てて端末を操作して武器を呼び出す。腰に差された形で実体化したのは、交差する形でホルスターに納められた、二丁の小型銃だった。

 

「ガンナー、か」

 

 ガンナー。アークス隊員が専攻する兵科の一つであり、アサルトライフルとツインマシンガンによる銃撃戦に加え、手数の多さを活かした連撃と追撃に特化した、俺が属するハンターやファイターとは別口の戦闘職だ。銃撃職ながら遠近どちらにも対応可能で、こと超至近距離における圧倒的な殲滅力と、軽やかな身のこなしを用いた回避力の高さから、難度は高いものの一部のアークスには人気の職業らしい。もっとも、友人たちからの受け売りだが。

 頭の中でガンナーの特徴を復唱していると、不意に近くの空間が揺らぐ。不気味な赤黒いフォトンで構成された、アークスで言うテレパイプの光は、ダーカーが利用する空間跳躍の前兆だ。

 

「構えろ、来るぞ!」

 

 注意を促したのとほぼ同時に、空間跳躍の光がひときわ強く周囲をゆがめて、その中から黒い尖兵を吐き出す。昆虫のような体躯と、地面を突き刺すように動く四本の鋭い脚。いわゆる吸血を行う虫のように鋭くとがった口という特徴的な見た目は、間違いなくダーカーの雑兵「ダガン」の物。

 しかし、現出したのはそれだけではなかった。出現した無数のダガンの後方から、まるで自身がダガンたちのリーダーだと自己主張しているかのように、ゆったりと別のダーカーが降り立ったのである。

 カマキリの卵のような肥大化した何かを背負い、不快な羽音を周囲にまきちらすそれは、ダーカーを生む卵を生産する「ブリアーダ」だ。こちらの存在に気付いているのか、さっそくブリアーダがダーカーの卵を排出してくる。

 

「これが、本物のダーカー……」

 

 フィルツェーンが、ゆっくりと腰から抜いたツインマシンガンを構えながらそうつぶやく。油断はしていないのだろうが、さすがに動きのわからない相手をすぐにぶつけるわけにもいくまい。ここは、俺が手本を見せるべきだろう。

 

「少しここで見ていろ。……アークスの戦い、見せてやるよ」

 

 そう言ってから、俺は口を真一文字に引き結び、目の前に展開するダーカーたちを睥睨した。

 元々俺は、命を落とした彼女や、親しかった人々の敵を討つため――そして、俺と同じような思いをする人たちを少しでも減らすために、こうしてアークスとして戦っている。そのために鍛え続け、この身に刻んできた技術の数々は、その辺のアークスのそれとは比べ物にならないだろうと、そういう自負があった。

 

「覚悟しろよ」

 

 吐き捨てるように呟き、俺は握りしめたセイバーをぐっと持ち上げる。それと同時に、俺は全身へとフォトンを巡らせる。

 顔の横まで持ち上げたセイバーを再度強く握りしめて、俺は勢いよく地を蹴った。跳躍し、低空を飛ぶと同時に、セイバーを前に突き出す。狙うは、ダーカーたちの中心!

 一秒とかからぬうちに、俺の突き出した刃は一体のダガンに突き刺さった。そのまま深く突き刺さる前に、俺は全身を巡るフォトンで一時的に強化した腕力に物を言わせ、ダガンの体躯を抉るようにセイバーを振りぬき、少しだけ後ろに下がる。

 だが、これで攻撃が終わるわけではない。むしろこの攻撃は、ここからが本番なのだ。

 

「失せろ!」

 

 叫びながら、俺はセイバーの切っ先をダガンたちに向ける。同時に、三角形の刀身を持つセイバーがフォトンの刃を消し、まるで大口を開けるように「刀身を開いた」。

 開いた刀身の間からは、まばゆく輝くほどに凝縮されたフォトンで構成された「弾丸」が3回、火を噴く。放たれたフォトン弾は、体を切り裂かれて硬直しているダガンへと吸い込まれるように命中して、一匹のダガンを物言わぬ骸へと変じさせた。

 今回使用している武器は、「剣」と「銃」の二つの形態を持つという、アークスたちが使う武器の中でもとびぬけた特異性を持っている。

 近距離の相手には、フォトンで形成された刃による高威力の斬撃を。遠距離の相手には、威力を犠牲にして長い射程を実現した銃撃を見舞うという、二つの武器を一つに掛け合わせた、画期的な武器。それが、アークスのどの兵科でも共通して装備可能な武装「ガンスラッシュ」だ。現在使用しているのは、その中でも銃形態を偽装するような鋭角的な発振ユニットが特徴的な「アルバハチェット」である。

 そしていましがた俺が放った連続攻撃は、映像娯楽で言う「必殺技」とでも呼ぶべき代物として、アークスの人間ならば誰でも使えるものだ。ディスクと呼ばれる記録媒体に保存した専用の攻撃モーションと、それを実現するために必要なフォトンの使い方を直接脳に焼き付けて、どんなアークスであろうと同じように技を使えることを可能とする技術。それが、フォトンを用いた必殺技――通称「フォトンアーツ」である。

 強化した脚力を持って目標へと高速の刺突を見舞い、そこから身を翻して銃形態に変じたガンスラッシュから、高出力のフォトン弾を連続で叩き込むフォトンアーツ「レーゲンシュラーク」を終えて、俺は硬質な音と共に地面へと着地した。が、まだ敵の数は多い。

 

「……なら、これか」

 

 そのまま迫ってきたダガンたちの攻撃を回避しながら、俺はごそりと懐に手を突っ込む。取り出したのは、銃形態で使用するための弾丸用フォトンが切れた際に使用する、ガンスラッシュの予備弾倉だ。もっとも、空間中のフォトンを吸収、増幅して使用するというアークス用武器の仕様上、弾切れやエネルギー切れで機能不全に陥ることなどはほとんどない。せいぜい、フォトンを吸収できなくなった時の緊急手段として用意してあるくらいだ。

 なので、これを使う機会というのは、せいぜいが今から使用するフォトンアーツぐらいの物だろう。そう考えながら、俺は弾倉を放り投げるとともに、フォトンで強化した足を行使し、バク転を敢行した。突然射程範囲から消えた俺にダガンたちは困惑しているが、その一瞬が致命的な隙となる。

 再び銃形態へと移行した、掌中のアルバハチェット。その銃口を、地面に向かって落下していく弾倉へと向ける。数泊も置かないうちに放たれた弾丸は、狙いたがわず弾倉の中心を打ち抜いた。

 とたん、弾倉が赤熱し、甲高い音と共にはじける。内包されていた予備のフォトンが、放たれた攻撃用のフォトンに振れたことで特殊な反応を起こし、結果として大きな爆発を生み出したのだ。もともとは事故の原因として認知されていたその現象をあえて攻撃に転用したフォトンアーツ「スリラープロード」は、爆発により生じる攻撃範囲の広さから、多数の敵を巻き込んでの攻撃によく使用されている……と、教本には書いてあった記憶がある。

 そんなことを考えていると、不意に俺の真横から別のダーカーが接近してきた。ダガンより一回り大きく、全身に赤黒い甲殻が追加されていることを見ると、ブリアーダが生み出したダガンの上位種「エル・ダガン」に間違いないだろう。どうやら、俺に対して不意打ちを仕掛けてきたらしく、後ろで大人しく待機しているフィルツェーンから「危ない!」と警告が飛んできた。心配ご無用、と心の中で呟いて、そちらへと向き直る。

 

「ふんッ!!」

 

 飛び上がったエル・ダガンを、突き出した右足で思い切り蹴飛ばした。無防備な腹に蹴りの直撃を食らい、吹っ飛ぶエル・ダガンめがけて、俺は再三変形させたアルバハチェットから、連続で高出力フォトン弾を撃ち込んでやる。

 リズミカルに放たれたフォトン弾は、普段の非力さを感じさせない威力でエル・ダガンを貫き、浸食フォトンの霧へと変じさせた。蹴撃を食らわせて、しかる後に弾丸の連撃を叩き込むこの技は、「アディションバレット」と呼称されている。

 フォトンアーツの連続攻撃を決めて、俺は改めて周囲に展開するダーカー群を見据えた。スリラープロードの爆風で大多数を削ったにもかかわらず、ブリアーダが生成したのか、先ほどに比べて大した数が減っていない。となると、先にブリアーダを殲滅するのが有効打であるはずだ。

 

「フィルツェーン、どうだ。戦えそうか?」

 

 だとすれば、必然的に俺はダーカー群の中に飛び込むことになるため、フィルツェーンを守ることができなくなってしまう。そうなれば、彼女には自分で自分の身を守ってもらう必要があるのだ。

 ただ、さすがに新兵相当である新米にすべてを一任するのは荷が重い。ゆえに俺は、そのあとに言葉をつづける。

 

「無理にダーカーを倒す必要はない。臆病に、慎重になるんだ。警戒しすぎるに越したことはないからな。……もしその臆病が杞憂だったら、その時は無駄骨を折ったと笑えばいい。命あっての何とやら、ってやつだからな」

 

 格好つけて言ってみたが、この言葉はベルガからの受け売りだ。同時に、俺が戦いの中で心がけている鉄則でもある。

 ベルガという男もまた、ダーカーの被害で数多くの物を失っていると聞いたことがあった。ゆえに生まれたのであろうこの言葉を聞いた昔の俺は、その心構えにいたく感動した覚えがある。

 

「……わかり、ました。やってみます」

「あぁ。絶対に無理はするなよ」

 

 忠告を終えた俺は左腕の端末を操作し、握りしめていたアルバハチェットをフォトン粒子に還元。その形を変じさせ、身の程もある巨大な剣へと得物を持ちかえた。

 その巨大な刃で敵を正面から叩くことをコンセプトにした武器――「ソード」と呼ばれる武器カテゴリに属する得物の柄を握りしめ、俺は一気に刃を引き抜く。

 刀身だけでは飽き足らず、長く作られたハンドガードの先端までをも、青く輝くフォトン刃で包み込んでいるその剣の名は、施されたフォトンコートによる滑らかな切れ味をコンセプトに開発されたソード「コートエッジ」。ここ最近、戦術の幅を広げるために得物として使い込んでいるそいつは、まるで獲物を求めているかのように力強くフォトン刃を脈動させている。

 引き抜いたコートエッジを腰だめに構えて、俺は攻撃の態勢をとった。自らの体を弓に見立ててギリリと引き絞り、限界までフォトンの力を研ぎ澄まし――放つ。

 

「ぜあっ!!」

 

 横一文字に振るいぬかれたコートエッジの切っ先から、高速で回転するフォトンの衝撃波が飛び出した。ブーメランのように高速回転する衝撃波は、目の前に陣取っていたブリアーダの真下めがけて、真っ直ぐに突き進む。その進路上をふさいでいたダーカーたちは、高速回転するそれに巻き込まれたところから、紙切れのごとく切り裂かれ、その身をフォトンへと変じさせていった。

 繰り出した衝撃波は、その前の動作を含めて、纏めてフォトンアーツとして覚えたものである。「ソニックアロウ」と呼ばれるそれは、毎度のごとく突破口を開くのに役立ってくれていた。

 切り開かれたブリアーダへの道を目の前にして、俺は自らの足をフォトンで強化する。むろん目的はブリアーダであり、今行っているのはそのための前準備、という名のチャージだ。

 

「フッ!」

 

 刹那、カタパルトから射出された飛翔体のごとく、俺はブリアーダめがけて一直線に飛び出す。進路はダーカーたちがふさごうとしていたが、あいにくとそんなもので邪魔されるほど、柔な加速はかけていなかった。弾丸のごとく突き進む俺を邪魔できるものは、何一つとしていない!

 突き進んでくる俺の姿を見て、ブリアーダも何かを感じ取ったのだろう。羽音を響かせて急上昇しようとしたが、その寸前に俺が懐へと飛び込み、ショルダータックル気味の体当たりを食らわせた。重い衝撃にたまらず身をよじったブリアーダめがけて、今度は握りしめたコートエッジを一閃。振るわれた切っ先がブリアーダを捉えて、有無を言わせずその体躯を切り裂いた。

 

「らぁッ!!」

 

 しかし、その一撃――突撃用によく使用するフォトンアーツ「ギルティブレイク」の攻撃だけでそう簡単に倒れてくれる相手ではないことは、幾度も行った交戦で嫌というほど知っている。そこそこの耐久力という厄介な壁を突破するために俺は一計を講じ、突き出したコートエッジの刀身を、思い切りブリアーダにうずめてやった。

 瞬間、コートエッジがフォトンの力を感じ取り、ひときわ強く輝き始める。その光を浴びたブリアーダが、何かにおびえるように……あるいは奪われていく己の力を感じてか、びくりと痙攣し、もがき始めた。だが、深く突き刺さった刃は抜けることもなく、再度光を放ち、ブリアーダから力を奪う。

 やがて、ブリアーダから引きずり出したフォトンの力が刀身に満ちたことを確認して、俺はコートエッジを振るい、ブリアーダを開放してやった。

 ソードを使う上での補助の役目を果たす、相対する目標から奪い取ったフォトンで自信を強化するフォトンアーツ「サクリファイスバイト」を行使したコートエッジは、その身の内に溜めこんだフォトンを開放する時を、今か今かと待ち望んでいるらしい。痺れる様なフォトンのエネルギーを掌中に感じながら、俺は最後の一撃をお見舞いするべく、再三の強化を施した足で地を蹴り、空へと飛びあがった。コートエッジごと縦に回転しながら、空中でフォトンを練り上げた俺は、そのフォトンを刃へと送り込みながら、ブリアーダめがけて急降下する。

 

「だあぁぁぁッ!!」

 

 瞬間、周囲に轟く一撃の音。繰り出したフォトンアーツ「ツイスターフォール」を全身で浴びたブリアーダは今度こそ両断され、黒い霧となって消えていった。ダーカー生成装置を片付け終えた俺は、そのまま残るダーカーたちの掃討と並行し、フィルツェーンの方を確認する。

 むこうは向こうで、すでに戦闘を始めていたようだ。幾度か響く乾いた銃撃音を引き連れて、フィルツェーンがダーカーたちと向き合い、掌中の双機銃を駆って立ち回っている。。

 軽く全体を見る限り、立ち回り的には問題ない。ガンナー専用の兵装である双機銃が持つ機動力に加え、自身の小柄な体躯も活かして、群がってくるダーカーたちの隙間を縫うように軽やかな立ち回りを演じている。その様子は、さながらミュージカルの舞台でも見ているかのような流麗さだ。

 

「あっ――!?」

 

 だが、動きがきれいに均一化されすぎている。そのせいで、移動先を読んだらしきダガンの攻撃にさらされたフィルツェーンが、間一髪のところで回避するためにリズムを崩してしまった。そこに、別のダガンから追撃が迫る。

 まぁ、新米によくある恐慌状態に陥ったりもしなければ、慢心してうかつな突撃行動をしないだけ、彼女は良い腕をしていた。ここから先は、俺が教えて伸ばしてやればいいだろう。

 そう考えて、俺は再び取り出したアルバハチェットを展開し、静かに構えを取った。

 直後、アルバハチェットのフォトン弾発振口に、鮮やかな光を伴うフォトンが集束する。そのまま数泊を置いた後、銃形態で構えられたアルバハチェットの銃口からは、先ほどから放っていた弾丸とは比べ物にならない威力のフォトン弾が発射された。わずかに風を切る音を立てながら飛翔したフォトン弾は、俺の目測違わずフィルツェーンを狙っていたダガンに命中。その矮躯を四散させる。

 あくまで補助的な意味合いを持つ銃撃に主眼を置き、一時的に強化を施した弾丸を撃ち放つフォトンアーツ「エイミングショット」を行使しながら、俺はフィルツェーンに向けて言葉を投げる。

 

「そのまま、俺が指示するまで引きつけろ! あとは俺がやる!」

「っ、はい!」

 

 フィルツェーンには今回、いわゆる回避盾に徹してもらうことにした。攻撃に関することは追々教えていけばいいし、なにより今は市街地が襲われているという非常事態。今回はとりあえずさっさと終わらせる方が得策だと考えたのだ。

 持っていたアルバハチェットを腰のホルスターに差し戻し、俺は右の拳を強く握りしめる。そのままぐっと力を籠め続けると、やがて拳のみならず、俺の体を取り巻くように、まばゆく輝く真紅のフォトンが俺を包み込み始めた。そのまま、集まったフォトンをさらに凝縮していき、より力の密度を高めていく。

 数泊の間をおいて、フォトンがこれ以上圧縮できない、と悲鳴を上げた。それと同時に、俺は口を開く。

 

「今だ、後ろに飛べ!」

 

 指示通り、フィルツェーンが空中に飛び上がり、バク転の要領でその場から飛び退った。

「スタイリッシュロール」と呼ばれる特殊な回避行動にダーカーたちはついて行けず、一瞬ながらその動きを停止させる。――その隙は、致命的!

 

「――イル・フォイエ!!」

 

 叫ぶ必要性はあまりないが、発動のイメージをより明確にするために、俺はあえてその名前を口にする。放たれたのは、紅蓮のフォトンの奔流が巻き起こす――巨大なフォトンの隕石。

 刹那、着弾したフォトンの隕石は、一瞬の空白を置いた後、大爆発を引き起こし、その下に居た残るダーカーたちを、熱と炎をもって千地に引き裂き、燃やし尽くしていく。そうして炎の奔流が収まった後に残っていたのは、フォトンの力で焼けこげてしまった道路だけだった。……一気にせん滅するためとはいえ、少々やりすぎたらしい。

 

「……あの、今のって「テクニック」ですよね? コネクトさんはハンターなのに、どうして?」

 

 自分でやらかした惨状に少々引いていると、同じくその威力に目を丸くしていたフィルツェーンが、周囲の安全を確認しながらこちらに近寄り、疑問の言葉を口にする。内容は、ハンター――近接攻撃に特化した、格闘専門のアークス兵科である俺が、ハンターでは使えないはずのテクニックと呼ばれる技を行使できたのか、というものだった。

 

「あぁ、言ってなかったっけ。今の俺のメインクラスは、ハンターじゃなくてバウンサーなんだよ。テクニックが使えるのはバウンサーだからで、サブクラスにハンターを設定してるから、ソードが使えるんだ」

 

 バウンサー。とあるアークスが提唱し、正式にアークスの兵科として採用されることとなった兵科の一つだ。特殊な武器とともに法術、つまるところのテクニックを操り、支援もできる攻撃役を担える兵科として、最近アークス界隈では人気が出ているらしい。もっとも、俺の周囲ではこれをメインに据える奴が少ないので、あまり見ることは無いのだが。

 そのバウンサーで使用可能なテクニックを使用したのが、今回の戦闘だ。さすがに本職には及ばないが、いざというときに手の届かない場所へと攻撃する手段として重宝している。

 

「そんな兵科が……やっぱり、前線の人ってすごいんですね」

 

 俺個人の感想はさておき、フィルツェーンは法術も使える打撃職があることはしらなかったらしい。ちょっぴり目を輝かせながら、尊敬のまなざしでこちらを見つめてくるのを、ひらと手を振って制止する。

 

「尊敬するなら、兵科を開拓した人にしてくれ。俺はただ、そいつの技術を真似て戦ってるだけだからな。……っと、終わりかな」

 

 肩をすくめていると、非常警報が解除される際の音楽が街を包んだ。どうやら、防衛は成功したらしい。

 

《アークスシップ各船員へ連絡。全ダーカーの殲滅完了を確認しました。アークス各員は周囲の状況を報告後、各自帰投をお願いします。繰り返します……》

 

 頭上に映る仮想の空から、機械合成音によるアナウンスが降ってくる。同時に、非常事態が解除されたことを表すかのように、展開していた機銃が格納され、全面に警告が投影されていた仮想の空に、再び蒼が戻り始めた。先ほどまでの曇ったような天蓋を切り裂いていくそれは、まるで雲間が晴れていくかのようで、人工物ながら中々に幻想的な雰囲気を持っている。

 

「わぁ……!」

 

 フィルツェーンはこの光景を見るのがはじめてなようで、移り変わっていく空の色を熱心に見つめていた。そんな彼女の背を見ながら、俺は小さく問いかける。

 

「どうだ、フィルツェーン。このまま、アークスとして働いていけそうか?」

 

 返ってくる言葉は、ここへ来る前に見た彼女の顔からしてわかり切っている。だが、もしかしたら心変わりしたかもしれないと思い、念のための確認の意味を込めて、あえて聞いてみた。

 

「……フィル、です」

「え?」

 

 そうして返ってきた言葉は、俺の予想とは違う、何かの宣言のような一言。意味を図りかねて疑問の声を上げると、フィルツェーンが桜色の頭髪をフワフワとなびかせながら、笑顔でこちらを振り向いた。

 

「たぶんこれから、たくさんお世話になるんです。いつまでもフィルツェーン、なんて堅苦しい呼び方せずに、フィルって呼んでください」

 

 その口が告げた内容は、つまるところの続投宣言――俺が予想したものと、寸分たがうものではなく。

 

 

「……ああ、宜しくな、フィル」

「はいっ、先輩!」

 

「彼女」とよく似た笑みに郷愁を覚えながら、俺は差し出されたフィルの小さな手を、しっかりと握り返した。

 

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