「…………ぅ……ぐ……っ」
全身に走った鈍い痛みを感知して、俺――コネクトは意識を闇から浮上させる。おぼろげな視界と、体勢から鑑みるに、今の俺はうつぶせに倒れているらしい。
鉛でも縛り付けられたかのように重たい身体を、ゆっくりと引き起こす。同時に、自分はどうしてこんなところで倒れているのだろうか――と言うことを思い出そうとして、すぐに記憶がよみがえった。
「そうだ、妙な現象に巻き込まれて……」
次々に姿がブレ、消えていく。そんな現象、研鑽の期間を含めた俺のアークス人生の中でも、聞いたことが無い。
一体何が起こったのだろうか……と言う答えは、俺の視界に飛び込んできた風景を見て、すぐさま合点が行った。
まるで樹木のように無造作に乱立する、真っ黒いナニカで構成されるねじくれた構造物。
ぶくぶくと不快な音を立てて泡を立てるのは、鮮血よりも鮮やかな赤い液体の海。
岩肌とも瓦礫ともつかない、奇妙な大地がどこまでも続くその上に横たわる、余りにも場違いな人工の道路。
天を振り仰げば、そこにはまるでできそこないの剣山のように、一点に向けてびっしりと突き立てられた高層ビル群が、逆さづりの状態で浮かんでいた。
その光景を見て、俺は確信する。
――ここは、人の居るべき場所ではない。不倶戴天の仇敵たるダーカーたち、その根城なのだと。
目の前に広がる光景は、何度か資料などで見た事がある。元々アークスシップとして使われていた移民船を乗っ取り、破壊したのちに、自分たちが巣くうにふさわしい地へと改造された結果が、この人工物と奇怪な材質で構成された世界――通称「ダーカーの巣窟」なのだ。
噂には聞いたことがある。クエストに出撃したアークスたちを拉致し、自分たちの巣窟へと誘拐。その後、時間をかけてたっぷりいたぶった後にむごたらしく殺す。そんな、狡猾なダーカーたちが居るという話を、どこかで小耳にはさんだ記憶があった。どうやら、俺たちは運悪くそこに巻き込まれてしまったようだ。
だが、そう考えると一つ疑問がある。「アブダクション」と呼称されるこの事例は、本来であれば俺たちアークスがキャンプシップでの移動中に、船ごと拉致する形で連れてこられる……と言うのが、奴らの基本的な手段だ。しかし今回は、俺のこの目で見たように、まるで見えない何かを使って強引に空間を転移させたような、そんな拉致方法を用いている。
ひょっとすると、新たなアブダクション方法をダーカーたちが編み出したのかもしれない。帰ったら仔細もらさず報告しておかないと、と思いつつ、すでに俺の意識は別の方向へと向いていた。――囲まれているのだ。
直後、ダーカーが用いるフォトンの残滓が具現した赤黒い霧と共に、無数のダーカーたちが空間を捻じ曲げてずるりと這い出てくる。その姿かたちは多種多様で、ダガンやクラーダといった虫型のダーカーもいれば、宙を泳ぐ魚と言った風情のダガッチャ、ダーガッシュと言った魚形。一見すれば天使のような風貌を持つ鳥人間ドゥエ・ソルダやグル・ソルダなどの有翼系に、ぬいぐるみと見まがうようなシルエットのポンタ・ベアッダやピクダ・ラビッタなどの玩具系。アークスとして今の時代を生きる人間ならば、一度はお目にかかったであろうダーカーたちが、俺の目の前に一斉に立ちはだかってきた。
「ちっ、手厚い歓迎だこと」
舌打ち一つを挟んでから、俺は装備したままだったリンドブルムを外して、再びブレードレボルシオを装備する。こういった大量の雑魚を相手取る際は、集中攻撃を得意とするジェットブーツよりも、フォトンブレードの乱舞で圧せるデュアルブレードの方が分がいいのだ。
じりじりとにじり寄ってくるダーカーたちを眼前に見据え、ゆっくりとレボルシオの双刃を引き抜きながら、俺は頭の片隅で他のメンバー達のことを考える。
まずもって、あの黒ずくめ二人組はこの程度の連中に後れを取ることは無い。お互い大型のダーカーを単騎で撃滅した経験もあるし、中でもシュヴァルツはダーカーの頂点たる存在にして、アークス最大最後の敵である「深遠なる闇」の討伐作戦にも参加した経験を持っている。そんな彼らが、今さら数相手に押し切られるようなことは無いはずだ。
問題は、フィルである。彼女は戦いの筋こそ良いものの、所詮戦闘経験はこれでようやく二回目だ。加えて、彼女自身は射撃による支援を念頭に置いたクラスであるガンナーとしてこの戦場に連れてこられてしまったため、俺のように単独で蹴散らして突破する、と言うのは、かなり難しいはずだ。
よしんば突破できたとしても、此処は正規の惑星などとは違い、内部構造も全く把握できていない、未知なる異形の世界。合流を図るために動いていれば、必ずダーカーと交戦する機会は増えていく。そうなれば、神経を使う射撃戦を行う彼女が早々にへばってしまうのは、想像に難くない。
「――急がなきゃ、いけないな」
決意の言葉を一つ呟いて、俺は一瞬の間を置き、ダーカーたちの群れへと走り込んでいく。
――親しい人を。親しくなった人を失うのは。
あの時の、息さえできなくなりそうな深い深い喪失感を味わうのは。
もう二度と、御免なんだ。
だから、間に合ってくれ。
そう願いながら、俺は手近なダーカーの一体めがけて、握りしめた二刀一対の飛翔剣と共に、疾風のごとく切り込んでいった。
***
切り伏せたダーカーの数は、すぐに五十を超え、百を超えた。
レボルシオと、その刃から繰り出される光の刃を頼りに、片端からダーカーを切り捨てながら、俺は前へ前へと進んでいく。
よそ見などしない。俺の意識はただひたすらに、彼女の姿を探すことだけに向けられる。
そうして、もはや数えるのをやめたダーカーたちの群れの、最後の一匹を切り捨てた、俺の耳に。
「コネクトさーん!!」
聞きたかった声が一つ、確かに響いてきた。
「っ――!」
とっさに姿を探す。しかし、彼女は存外と、すぐ近くまで迫ってきていた。先ほど斬ったダーカーに照準を向けていたらしく、手に持ったままのヤスミノコフ5000SDを肩越しに保持しつつ、空いた手をこちらに向けて振っている。
彼女の名を呼ぼうとしたが、少しだけかぶりをふって、やめる。代わりに俺は駆け寄って、彼女の顔をしっかりと確認することにした。
「よかった、無事だったんですね!」
「ああ。そっちは、随分手こずってたみたいだな」
快活な声。間違いなく、彼女の声。それを確認して、俺はひとつ息を吐く。ともかく、懸念の一つはおのずと解決してくれた。
「大丈夫ですよ。私だって、正式にアークスの一員として戦えるように、訓練は積んできました! 確かにものすごい数でしたけど、今まで戦ってきた大型ダーカーに比べれば、なんともないですよ!」
「そいつは重畳。……さて、ともかくは出口を探さないとな」
ずいぶんと威勢のいいことだ、と苦笑いをもらしながら、俺は周囲を見回して何か道しるべになりそうなものを探す。しかしさすがは悪趣味なダーカーの巣窟と言うべきか、周囲一帯に広がっているのは奇妙な色に染まった異形の大地だけで、どちらにどう行けばいいのか、そもそもここがどこなのかすら、俺には全く把握できなかった。
「なぁ、どっちから来たんだ?」
ここまで来たのならば、少なくともこの付近の地理に関しては心得ているだろう。そう考えて俺は、少し離れた位置にいる桜色の髪を持つ少女に問いかけてみた。
「えーっと、私は向こうから来ましたよ。でも、出口っぽいものはありませんでした」
「わかった。なら、適当にどっちかに向けて進むか」
「了解です。援護は任せてください」
ダーカーの群れを突破してきたぞ、という自信の表れなのか、不思議なほどに元気で、威勢のいい彼女を伴って、俺は当てもなくダーカーの巣窟をさまよい始めた。
***
歩き続けて、ダーカーを屠り続けて、すでに1時間は経過しただろうか。
一向に見えない出口らしきポイントに対して、ちょっとだけ恨みがましく思いながら、俺はもくもくと歩を進める。傍らには彼女もおり、時折俺に話しかけては来るが、此処は敵の手の中。そのことを彼女自身も理解しているらしく、あまりその口数は多くなかった。
「よし、この辺りは倒し切ったか…………くそ、流石にキリがないな」
「コネクトさん、あそこに休めそうなスペースがありますよ。一度休んだらどうでしょう?」
やがて、何度目とも知れないダーカーの群れを殲滅した俺たちは、流石に疲労の溜まった体を休めるために、道なき道をそれた場所にある小さな広場にて、小休止を取ることにした。万一敵が現れてもまだまだ戦える気力はあるし、小広場の方も暴れまわるには十分な広さがあったが、幸いと言うべきかそこまで雑魚のダーカーは追いかけてこなかったのは幸いだっただろう。
溜まった疲労を身体からはじき出すため、体力の回復と治癒もかねてトリメイトを2つ撮りだして、片方を彼女に投げ渡しながらもう片方の封を切る。口の中に流れ込む、清涼飲料材のようなさわやかな後味を感じていると、不意に桜色の髪がひょこひょこと近づいてきた。
「コネクトさん、大丈夫ですか?」
「ん……大丈夫が何を指してるのかは分からないけど、まぁ大丈夫じゃないな。さっさと全員に合流したいのが本音だよ」
「ええ。ここがどこまで続いているのかわかりませんけど、まずは残りの二人と合流するのが一番でしょうね」
周辺を見回しつつ、俺の意見に追随する彼女は、しかし次の言葉を紡ごうとして、ふと俯いて口をつぐむ。
「――でも、その前にやらなければいけないことがあります。何か、わかりますよね?」
「さぁ、何のことだ? 教えてくれよ」
再び顔を上げた少女の瞳には、怒りに似た色が宿っていた。……まぁ、正体を現すならば、この辺りが一番だろう。
「貴方はコネクトさんじゃない。アークスの隊員を模倣した、ダーカーのクローン。――だから、ここで消えてもらいます」
怒りのこもった声と共に、少女は腰のホルスターからヤスミノコフを抜き、俺めがけて発砲してきた。
クローン。それはアブダクションと言う事例が発生し始めてから同時に観測されだした、特殊なダーカー固体のことである。
最大の特徴は、「
そしてそのクローンのなによりの特徴は、ここダーカーの巣窟に踏み入った人間の情報を解析して作られている、というところにある。要するに、此処に足を付けた時点で、こうしてクローンと出くわす可能性は考慮しておくべきだったのだ。
「……随分とまぁ、遅い行動だな」
「いいえ、私は最初から気づいていましたよ? ただ、何処で追求しようか迷っていたんです」
放たれた弾丸を、撃ち放ったフォトンブレードで打ち消す俺に向けて、彼女はどこか冷たい、蔑むような目で俺の方を見やる。
当然というべきか、ここまで何時間と行動を共にしてきてなおアクションを見せなかったのだ。しびれを切らせるのも道理である。
「……もういいでしょう。元々油断させるための口車でしたけど、本当ならあなたと交わす言葉なんてありません。だから――」
再びヤスミノコフを肩越しに構え、決意と覚悟を込めた口ぶりで。
消えてもらいます。
そう、言おうとしたのだろう。
「……え?」
しかし、それよりも早く。
彼女の胴が、一条の閃光を受け、鈍い音を立てて切り裂かれた。
「……ま、道理だよな」
呟いたのは、俺。振り抜いた形で握りしめているブレードレボルシオは、紛れもない攻撃の証。
「俺のことを始末するんなら、休もうとしたここが絶好の機会。――――そうだろ? クローンさんよ」
それらが意味するのはつまり、目の前に居た少女を――――否、あの子の姿かたちと言動を真似た、出来の悪い操り人形を、真正面から切り伏せたことの、紛れもない証左だった。
「っ、く」
「動くな!」
よろけつつも、再び銃を構えようとするそいつめがけて、俺は再びフォトンブレードを放つ。風を切る音と共に飛翔した光の刃は、クローンの身体をいくらか切り裂きながら、そいつの両手足を壁へと貼り付けることに成功した。
「グッ……ぅ、どうしてこんなことを……?」
理解できない、とでも言いたげな口調と表情で、クローンが俺に嘯く。まるで俺が味方をためらいなく攻撃したかのような口ぶりは、苦し紛れの抵抗だろうか。
「どうして、どうしてか。……俺の身体情報まで取ってるんなら、わかるだろう?」
本来ならばコイツの言う通り、クローンと口をきく道理なんてない。しかし、3時間もさまよい続けたが故の寂寥感がそうさせたのか、俺の口は勝手に解説を始めてしまった。ま、此処で少し喋ったところで何が変わるわけでもないので、少しくらいはいいだろう。
「俺は人よりも自由にフォトンを行使できて、人よりも強くフォトンに感応できる、らしい。だから、一目見ればそいつがどういうフォトンを纏っているかわかるんだ。――要するに、ダーカー由来のフォトンでできたお前の身体を見れば、すぐにクローンだって気づくことができるんだよ」
人よりも強力なフォトンを扱うことができ、人よりも強くフォトンを感知することができる。たとえそれが、アークスの最先端技術で作られた解析装置でも識別しきれないクローンであっても、俺が一目見ればそれが本物か偽物か、たちどころに判別できる。それが、
俺の身体が生まれつき有している、他のアークスとは一線を画す力らしい。
だから、俺は最初にこのクローンと接触した時、すぐにクローンだということに感づいた。一度も名前を呼ばなかったのは、コイツをフィルの名で呼ぶのがはばかられたからである。
「正直さっさと倒しておきたかったけど、道案内には使えるかなって思ってな。……結局もっと迷っただけだったけど、データは拾えたんだ。差し引きゼロで勘弁してやるか」
ひとしきりの説明と、泳がせていた理由を喋り終えてから、俺は改めてレボルシオを握りしめて、その切っ先をクローンへと突きつける。
「……答えろ、フィルは、どこだ」
問うはただ一つ、彼女の所在。1時間も不毛にさまよっていたがために、最初は少しだけ楽観できた状況も、今では予断を許さない状況になっている。出口を見つけられるかもしれない、というわずかな希望を信じすぎたが故の自業自得ではあったが、それでも経過しすぎた時間に焦りを覚えているのは事実だった。
「――――フフフ、安心してくれ」
そうして聞こえてきたのは、彼女のそれと全く同じ声音のままで紡がれた、何者かの言葉。彼女の姿のまま、全く違う言葉づかいで嘯くそいつの様相は、ダーカー因子が放つ独特な威圧感と、不気味な遠景も相まって、とてつもない違和感を覚えさせた。
「アレは私が探して、待ち望んでいたモノだ。そう簡単に壊しはしない。今は、私の元へと導いているのさ」
「それはどこだ」
「さてね。――さっき話してくれた「力」とやらがあれば、探せるのではないか?」
言われ、俺は全身にフォトンを漲らせるようにして、周辺へと感覚を飛ばすイメージを思い描く。すると確かに、俺の感覚野の深いところが、とても微弱ではあるが、彼女や他の二人の反応を捉えた。かなり注意しなければわからないが、それでも3人の生命反応――正確に言えば、3人が放っているフォトンの気配は、確かに掴むことができる。
「なるほどな、良いことを教えて貰った――――じゃあ、もう消えろ」
言い切るよりも早く振るったレボルシオが、再びフォトンブレードを生成、射出。今度は拘束目的ではなく、首や眉間、心臓部付近を狙った、致命の一撃だった。
「来るがいい。どのみち、アレは――」
呪詛を吐き捨てようとしたクローンの急所部分へと、無数の光の刃が突き刺さる。衝撃に跳ねるクローンの身体は、消滅したフォトンブレードから逃れ、地へと頽れたかと思うと、四肢の端から赤黒いフォトンの霧となって消滅していった。
……クローンとはいえ、彼女と同じ姿をしたモノを攻撃するのは心中穏やかではなかったが、始末しなければ事態は進展しないのもまた事実。
言いようのない不快感を無理やりに飲み込んでから、俺は再び彼女のフォトンの気配を探りつつ、その場を後にした。
***
少し走れば、すぐに彼女の気配が色濃くなった。おびき寄せられていたという彼女がすぐ近くにいる、と言う事実を鑑みると、どうやら俺もまた、あのクローンを操っていた何者かの思惑の元で踊らされていたらしい。全く腹立たしいことではあるが、おかげさまで彼女との合流は無事に果たせそうなのを考慮すれば、怪我の功名と言ってもいいのかもしれない。
なんて益体もないことを考えつつ、ひたすらに襲い来るダーカーを切り捨てながら突き進んでいた俺の視界に、大きな広場とその中央にたむろするダーカーたち、そしてその合間から漏れ出る、断続的なマズルフラッシュが飛び込んできた。
何を口にするよりも先に、俺は握りしめたレボルシオを振るう。切っ先から放たれたフォトンは結晶化し、無数の刃となって、マズルフラッシュを遮るダーカーたちを片端から串刺しにしていった。
一瞬だけ、砲火の光が途切れる。いきなりの攻撃におののいたのか、はたまた援軍が来たことを悟ったのかは不明だが、その反応は紛れもなく、こちらのアクションに気付いたものだった。
ならば、やることはひとつ。両手の剣と足にフォトンを纏い、フォトンアーツ「ディストラクトウィング」を発動させながら、俺は叫ぶ。
「フィル、一緒に切り刻まれたくなければ伏せろ!」
Xの字に刻まれた斬撃が生み出した、ダーカーたちの群れの隙間。その奥に居た、紛れもなく友人であると断言できる少女は、言葉の意味を理解してか、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべるも、すぐにヤスミノコフ片手に身体を丸めてしゃがみ込んだ。それを確認して、俺はすぐさま次のフォトンアーツを始動させる。
中空で身体をひねり、一回転。その動作に合わせて、俺の周囲には数えるのもバカらしいほどの、大量のフォトンブレードが生成された。
「お、らあああぁぁぁぁぁッ!!!」
そして眼前で二つの刃を振り抜くと同時に、生成された結晶の刃は一斉に始動。規則性も何もない、正しく乱舞する刃たちは、俺の周囲を直線的に動き、角度を変え、再び直線的に動くことを繰り返し、周辺を見境なく切り刻んでいく。
面制圧に優れるデュアルブレードのフォトンアーツでも、特に多数の敵に対して効果的に運用ができるのが、この「ディスパースシュライク」というフォトンアーツだ。アトランダムに飛翔するフォトンブレードによって周囲を切り裂きつつ、ブレードを操る際に生じるフォトン斥力によって、フォトンアーツを発動した本人も空中を移動。飛翔しながら、自らの周囲に展開する敵の全てを切り裂いて行くという、デュアルブレードのコンセプトを最大限に生かした技として、今回のように多数のエネミーを相手取る際、バウンサーの諸兄に重宝されているらしい。
フィルを取り囲んでいたダーカーたちは、飛び交うフォトンブレードの刃にからめとられ、片端から切り裂かれ、消滅していく。ディスパースシュライクの発動を終え、斥力を失った俺はフィルのすぐ隣に着地する――が、俺の攻撃はまだ終わっていない。
身を翻した俺は、再びレボルシオを虚空めがけて振るう。すると、先ほどは不規則に展開されていたフォトンブレードが、今度は俺の周囲を取り囲む壁のように、互い違いの向きのままで展開された。
突然の俺の出現と、その攻撃によって自分たちの仲間がやられたことを受けてか、ダーカーたちの攻撃の矛先は俺に向いたらしい。残存していたダーカーたちが、360度全方向から殺到して来る。
「――あいにく、食らってやる道理はないんでな!」
確たる態度での宣言と共に、三度振るわれたレボルシオが発生させた力場により、俺の身体は天高くへと弾き飛ばされた。同時に、俺の周囲を取り囲むように展開していたフォトンブレードたちも一瞬で弾け、それぞれが超高速の刃となって、全方位へと射出。群がってきていた残りのダーカーたちのことごとくを、瞬きの間に切り裂き、地へと伏せらせた。
発動者の周囲にフォトンブレードを展開し、それを臨界ギリギリまでため込んだフォトン斥力によって超高速射出。同じくフォトン斥力によって使用者を真上へと弾き飛ばすことで、攻撃と離脱を一度に行えるように編み出されたそれは、「スターリングフォール」という名前を与えられている。今のような、周囲を囲まれた状態から脱する手段としては、きわめて有効となりえるフォトンアーツだ。
「よ、っと。……片付いたか」
弾き飛ばされた状態から体勢を立て直し、地表へと着地した俺が周囲を見回すと、そこに在ったのは赤黒いフォトンの霧に変じていくダーカーたちと、あいも変わらず不気味な様相を呈している背景だけ。どうやら、先ほどのフォトンアーツ二連撃によって、周辺の雑魚たちは一掃されたようだった。しばらく周辺に目をやって、完全に脅威の気配が去ったことを確認してから、俺は肩に担ぐ形で持っていたレボルシオを、改めて背中のホルスターへと戻す。
「あの、コネクトさん……で、合ってるんですよね?」
そのまま一息ついていると、不意に背中から少女――フィルの声。その声音は、どこか俺が俺であることを疑っているような、そんな色を持っていた。
「ああ、正真正銘、コネクトさんだ。……ひょっとして、そっちもクローンに?」
「あ、いえ、私のところには来ませんでした。……ただ、アークスになる前の勉強してい
た時に、このダーカーの巣窟のこととか、色々と知識だけは頭に詰めてましたから。もしかしたらそうなんじゃないかなって、ちょっと怖くなったんです」
「まぁ、此処に拉致られたら末路は決まっているようなもんだからな」
拉致る奴ら間違えてるだろうけどな、と心の中で付け足してから、俺は再び内なるフォトンの流れを読んで、残る二人の位置を探る。
反応は大分遠いところに離れてしまっているが、二人の反応は同時に同じ方向へ向けて移動していることから推測するに、向こう側は俺たちよりも一足先に合流し、脱出経路を捜索中と考えていいはずだ。
「ともかく、次に優先するのはシュバさんたちとの合流だ。四人になれば、何かしら脱出の手段や手がかりは得られるだろうからな」
三人寄れば文殊の知恵、というやつである。対抗策を考えるならば、頭が凝り固まってしまう一人よりも、色々と意見を出し合える複数人の方が良い。
「……フィル、すぐに移動しても大丈夫か? 疲れてるだろうし、少しくらいは休めるとは思うけど」
念のため、フィルの体調を確認する。雑兵相手だったとはいえ、彼女もまた長い時間戦い続けているはずだ。消耗も相当なものだろう。
「いえ、大丈夫ですよ。襲われたのはさまよい始めてしばらくしてからですし、断続的だったおかげでいくらか休息も取れてたんです。だから、すぐに出発できます」
「ん、そうか。……まぁ、疲れたら言ってくれよ。疲労困憊で戦えなくなって死ぬ、なんて、笑うに笑えないからな」
冗談めかして小さく笑うと、彼女の方もまた、理解したが故の苦笑で返してくれた。
もっとも、あの二人のことだ。万に一つも雑兵如きにやられることは無いだろう。大型ダーカーらしき気配も、今のところはつかんでいないため、今のところは安全と言っていいはずだ。
「はい、分かりました。さ、それじゃ行きま――――」
しょう、と続けようとしたと思しきフィルの声が、不自然なところで途切れる。何かを見つけたのか、それともつまづいて転びでもしたのだろうか、なんてのんきなことを考えつつ、振り向いた俺の視界に映ったのは。
赤いナニカを滴らせる、鋭い結晶のような物体。
それを、腹のあたりから飛び出させている、フィルの姿だった。